第47回 現在までに決まった日本語教育の形|田尻英三

この記事は、2023年12月20日までの情報を基に書いています。

今回の「未草」の原稿は、2024年度以降の新しく決まった日本語教育の形の大事な点のみを概説します。以下に示す資料が、2024年度から始まる新しい日本語教育の形を示している重要な資料です。今後決まっていく「就労」や「生活」の分野については、現時点では扱いません。

また、これに関連した論文についても、紹介するものと問題点を指摘するものを並べます。

以下の説明では、この「未草」の読者を日本語教師など日本語教育の実際の場面に関わっている人を想定していますので、機関の運営面の資料については触れません。以下に示す資料自体が大変大部なものですから、ここでは触れるのは基本的に田尻が大事だと思った点に限られます。この「未草」の読者は、自分の事としてこの資料全体を読んでください。現在進みつつある施策への理解不足は、そのまま自分の不利益につながることを自覚してください。

1.第122回の日本語教育小委員会で扱った項目

11月24日に、第122回日本語教育小委員会が開かれました。そこでの配布資料は400ページを超えるものですが、その分量に圧倒されないでください。これだけの資料の積み重ねを行い、丁寧に問題点を検討し結論を得たうえで以下に述べる施策が決まったのです。

以下では、認定日本語教育機関の認定基準と登録日本語教員養成機関・登録日本語教員実践研修機関の登録手続きの資料の説明を項目別に分けて説明します。

(1)認定日本語教育機関の認定基準について

「認定日本語教育機関 日本語教育課程のための指針」(案)については、見え消し版のほうが修正の箇所がわかりやすいので、以下では当日の配布資料2-1を使います。

  • 教育課程の編成に当たっては、「日本語教育の参照枠」や別表「言語活動ごとの目標」を参照しながら設計・実施することになりました。したがって、必ず「日本語教育の参照枠」についての理解が必要になります。田尻が見るところ、まだ日本語教育の現場では「日本語教育の参照枠」への理解が進んでいないと感じています。
    また当然のことながら、体系性を維持した教育課程にするとともに、教育の質の維持向上を目指して教育課程の改善を図ることも求められています。
  • 設定基準に定められた「留学の課程」・「就労の課程」・「生活の課程」の各教育課程の教育目標を踏まえるとともに、「日本語教育の参照枠」についての理解が必要であるとなっています。各機関においては、この三つの分野を踏まえた異なる教育課程を工夫することが求まられています。ここでは、教育機関が「留学」だけではなく、「就労」・「生活」にも関わっていくが示されています。田尻は、これは将来の日本語教育機関の在り方を示した大変大事な点だと考えます。日本語教育機関は、今後実態の把握と現場のニーズを踏まえ、責任を持った教育課程を構築して「就労」や「生活」の分野にも関わっていただきたいと考えています。
  • 以下、各分野における教育課程編成の考え方、教育課程の到達目標、修学期間・学習時間、レベル設定、学習内容(日本語能力と学習を自ら管理する能力は必須の項目)、授業科目、教材、学習成果の評価、教育課程の修了要件等が示されています。

これらの項目の中で、田尻は修学期間・学習時間の項目で「漢字を含む文字指導については、漢字圏・非漢字圏、学習者(生徒)の背景や年齢、習得の状況などを踏まえて適切な学習時間を確保する」という項目に特に注目します。日本語教育の現場がいつまでも漢字圏の学習者を前提にした分厚いテキストを使って教える授業のやり方をしていたのでは、社会の日本語教育に対するニーズに応じきれません。日本語教育機関で学ぶ学習者は、非漢字圏の学生が多くなっているという現実にも目を向けましょう。

  • レベルの到達や教育課程の修了等に求められる成績の判定には透明性が求められ、評価方法や評価基準を学習者に明確に示すことが求められるというのも注目しておきたい指摘です。

「就労」の分野では、教育課程の編成では、企業・産業界のニーズ、グローバル人材の育成の視点を取り入れることが示されています。
「就労」の分野では、在留資格「特定技能」などの非熟練労働者(「高度人材」と対になる対象ですが、いろいろな用語が使われています)への日本語教育と高度人材への日本語教育の違いは明確にすべきだと田尻は考えています。

「生活」の分野では、外国人児童生徒に対する日本語教育が問題となります。これは、本来「就学」として独立した分野として立てられるべき項目でした。2019年の『日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版』では、「児童生徒等」となっている項目)がそれです。この分野は、今後小中高校の「特別の教育課程」との関連で具体的な対応が決まってくると思われるので、ここでは扱いません。

全ての分野での到達レベルと想定学習時間が示されている点も注意しましょう。

学習時間の目安
 ~ A1   100~150時間程度
A1~A2   100~150時間程度
A2~B1   150~220時間程度
B1~B2   350~550時間程度
B2~C1   350~550時間程度

各分野における「聞くこと」・「読むこと」・「話すこと」(「会話」)と「話すこと」(「発表」)・「書くこと」の言語活動ごとの目標も示されています。

認定日本語教育機関認定基準(参考資料2-4)、必要な事項(参考資料2-5)、確認すべき事項(参考資料3-1)、審査事項(参考資料3-2)、実地視察規定(参考資料3-3)なども、関心のある方は必ず読んでおいてください。

これらの資料が分かりにくいという人のために、参考資料6に「認定日本語教育機関の認定について」が示されています。上に示したような読みにくい資料をポンチ絵などを使って書き換えた国語課の方々のご努力に感謝します。

(2)登録実践研修機関と登録日本語教員養成機関の登録手続きについて

〇登録日本語教員養成機関のコアカリキュラムについて

ここでは、日本語教員の資格に大きく関わるコアカリキュラム(資料3-1)について述べます。

ここでは、基本的な資料として2019年に国語分科会がとりまとめた「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改定版」(この資料では「平成31年報告」と略称するとしています)が掲げられています。

この資料の2ページに「登録実践研修機関及び登録日本語教員養成機関(以下、「登録機関」という。)でそれぞれ実施される実践研修や養成課程において共通的に学習・習得が必要と考えられる内容を「登録日本語教員養成コアカリキュラム」(以下、「コアカリキュラム」)としています。また、「平成31年報告」では、38ページに「日本語教師の養成における教育内容を表12に示し、必ず実施すべき内容を『必須の教育内容』として」挙げるとしています。コアカリキュラムについては、第44回の「未草」で扱っていますので必ず読んでください。

この「資料3-1」では扱われていませんが、この「必須の教育内容」をより詳しく扱った国語分科会の報告が、2020年の「日本語教師の資格の在り方について(報告)」としてまとめられています。

3月10日の会議では「(案)」が付いていますが、持ち回りの会議の結果了承されて上記の報告となっています。この報告で、現在「必須の50項目」(「実習」が実践研修のほうで扱われることになったので、厳密には49項目。この「未草」では、誤解を招かないためにも「必須の教育内容」という用語を使います)として扱われている内容が決められました。

「資料3-1」の3ページに「『必須の教育内容』は、登録日本語教員の養成で取り扱うべき必要最低限の項目を示したものであり、必ず授業で取り扱うことが求められる。なお、必須の教育内容を取り扱った上であれば、登録教育機関が独自に学習内容を追加することができる。」という重要な説明があります。この点については、第46回の「未草」で扱いました。つまり、日本語教員養成機関の登録を受ける場合には、必ず必須の教育内容を授業で扱わなければ登録を受けられないということになります。

また、この「資料3-1」には、養成課程修了見込み者が実践研修を受けるためには、10の一般目標に含まれる必須の教育内容37項目の学習がなされていることが登録の要件となっています。37項目は、「資料3-1」の5ページに示されています。

この必須の教育内容と実践研修前の教育内容37項目をカリキュラムに落とし込むのには、かなりの準備が必要と考えられます。さらに、念のために言えば、現在日本語教員養成機関を持っている機関(日本語教育機関や大学等)が経過措置を受けるための「確認」の届け出は、2023年11月6日から2024年1月15日までです。このことも、第46回で触れています。今まで日本語教員養成をしてきた420時間の機関や26単位以上の大学等の課程では、この確認の届け出への対応ができているのでしょうか。確認の結果は、2024年3月末までには公表されると予想されます。関係機関には、もう残された時間はわずかです。

〇実践研修機関のコアカリキュラムについて

実践研修で身に付ける技能と態度については、その内容が決められています。

実践研修自体も、オリエンテーション、授業見学、授業準備、模擬授業、教壇実習、振り返りなどが具体的に示されていますので、今まで一部の機関や課程で行われていたように、日本語教員養成機関の付属機関で実習のまねごとで済ますことはできません。

大学等の日本語教員養成課程がどこで実践研修を行うのかは、これから決まっていくと思います。田尻としては、大学側が実践研修機関に実習費用を払うだけで実践研修の内容を実践研修機関に丸投げするようなことは、決してしてあってはならないと考えます。言うまでもありませんが、学生の実践研修を通して大学と実践研修機関が共に学ぶ会うことが、これからの日本語教員養成にとても大事なことです。

「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律に関する説明会について」の2024年以降の日程が、文化庁のサイトに出ました。

「3.対象者」に書かれていますが。この悦明会は「個人の教員の登録についての説明会ではありません」ということに注意してください。

(3)「日本語教育の参照枠」補遺版について

2023年末時点では補遺版の翻訳が出版されていないため最終的な訳語の決定などができないので、2024年1月12日に第5回ワーキンググループの開かれた結果を見てから、この「未草」の原稿で扱うことにします。

ただ、11月24日の日本語教育小委員会の「資料6」の「Ⅱ外国人の受入れに関する方針とCEFR/CV2020の概要について」は、田尻のように補遺版の原文を読む余裕のない者にとっては大変ありがたい資料です。「未草」の読者も、ぜひ読んでください。このワーキンググループの結論が出てから説明を読むのでは間に合いません。

1点だけ、田尻が興味を持っていることに触れておきます。

「コラム1:CEFR/CV2020における手話能力について」は、大事な項目だと思っています。CEFR/CV2020で更新・追加された内容に、手話能力についての言及があると書かれています。この部分で、「生まれつき聴覚障害のある人は、親や周りの人々から適切なインプットを受けることで、第一言語として手話を習得することができる」ということが原文にあるようですが、親や周りの人が体系的な手話を使える人ならいいのですが、そうでない場合もあると聞いているので、この記述が気になります。この記述については、専門家のご意見を聞きたいと考えています。最低限知っておいてほしいのは、手話は一つの言語だということです。つまり、日本語と手話(ここでは日本手話を指す)を使えるということは、その人がバイリンガルだということです。この点で、次の本に田尻は感銘を受けました。

佐野愛子・佐々木倫子・田中瑞穂編『日本手話で学びたい!』(ひつじ書房、2023年)

現在、学校現場で日本手話と日本語対応手話のどちらを採用するかのせめぎあいが行われています。日本語教育関係者も、手話のことを勉強してほしいと願っています。

NHKテレビで「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」というドラマが放送されています。このドラマには、ろう者・難聴者・コーダの人たちが出演しています。田尻は右耳が全く聞こえないので他人事とは思えず、字幕の出ている画面を食い入るように見ています。

日本語教育の関係者は、裁判所での法廷通訳の問題の重要性は知っていると思いますので、ここでは扱いません。

(4) ICTを活用した日本語教育の在り方に関する検討について

ここではICTを使った日本語教育全般について書かれていますが、当然国内の日本語教育空白地帯等への対応と、国外での来日前の日本語教育は区別して扱われなくてはならないと考えています。

2019年に出された国内の日本語教育空白地域解消推進事業の報告書も参考にしてください。

また、「令和3年度補正予算『ウイズコロナにおけるオンライン日本語教育実証事業』の報告」も「参考資料13」として挙げられていますので、ぜひ参考にしてください。

国外のオンライン日本語事業は、今後外国人労働者受け入れでの日本語能力のチェックとの関連で重要視されていくと考えています。

2.文部科学省生涯学習分科会について

11月24日の日本語教育小委員会の「参考資料14」に、「中央教育審議会生涯学習分科会委員名簿」が付けられていますが、これは重要な資料です。

2024年4月から、日本語教育は文部科学省で担当することになります。文化庁では日本語教育小委員会での検討結果は国語分科会で扱っていましたが、文部科学省では生涯学習分科会で扱われるようになります。すでに浜田麻里さんが臨時委員として12月4日の生涯学習分科会に参加しています。この会議の「資料3」・「資料4」・「参考資料3」は、今後重要な意味を持ちます。

11月24日に決定された「中央教育審議会運営規則」には、「生涯学習分科会」の「事項」に「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律(令和5年法律第四十一号)第十五条の規定に基づき審議会の権限に付された事項」が加えられています。それは、第128回の配布資料の中の「参考資料3」です。つまり、来年4月以降の文部科学省内での日本語教育関係の施策は、この分科会で決定されることになるということです。今までの「生涯学習分科会」での検討内容と日本語教育の検討内容とはかなり異なっているので、今後何らかの手立てが行われることを期待したいと思っています。

3.技能実習制度と特定技能制度の変更について

11月30日に「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の「最終報告書」が公表されました。

今までに技能実習制度には、外国人労働者の人権が守られていないとの多くの指摘がなされてきました。そのような意味で、今回の有識者会議の結論は社会的にも注目を浴びて来ました。以下では、二つの変更点と、日本語教育の関係について述べます。

第一は、技能実習制度の変更ですが、新たな制度は「育成就労制度」と名付けられましたが、具体的にどのような機構になるのかは示されていません。看板の付け替えだけに終わることの無いように、今後も注目していきます。

次に、「転籍」の問題に触れます。「最終報告書」では、転籍要件として、最初に「同一の受入れ機関における就労期間が1年超」となっていて、従来の3年間は転籍できないとしてきたことが大きく変更されたという印象を持ちました。ところが、12月12日の日本経済新聞によると、自由民主党政務調査会の外国人労働者等特別委員会では元の3年間に戻るという意見が強く、一部の委員からは2年が適当という意見も出たと報じています。そして、12月14日の同特別委員会の「技能実習制度・特定技能制度見直しに向けた提言」では、「少なくとも2年とすることを可能とする」というように実質的に後退ともとれる内容になっています。

この点は、今後変更が行われる可能性があり、注目し続けていきます。

新たな制度での日本語能力について、以下のような説明があります。

 新たな制度での就労開始前にA1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)
 特定技能1号移行時にA2相当(日本語能力試験N4等)
 特定技能2号移行時にB1相当(日本語能力試験N3党)

以前にも述べたように、「日本語教育の参照枠」と日本語能力試験では評価の仕方が全く異なります。このように簡単に対応できるように書くことには問題があると考えています。この点では、いずれ文化庁国語課で何らかの方向性が示されると考えています。

9月中旬ごろから主要メディアは、バス・タクシーの運転手に特定技能の枠で外国人を雇用するという情報を流しました。関係省庁のサイトには、この情報は出て来ません。所管は警察庁になりますが、この問題は出入国在留管理庁だけではなく、内閣府の技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する検討室や国土交通省も関わってきます。2種試験を受ける試験問題の言語を20言語に増やすという情報も出ています。田尻は、特定技能の日本語の試験である日本語基礎テストのレベルの日本語力で、試験問題が受験生の希望する言語で受験できるような体制では、自動車運送業の現場で問題が起こるのではないかと危惧しています。

4.『2023年版出入国在留管理』について

在留外国人についての基礎的な資料である『2023年版 出入国在留管理』が、12月11日に公表されました。

今回の「未草」の原稿ではその内容について触れる余裕はありませんので、「未草」の読者のみなさんは、せめて冒頭の「2023年版『出入国在留管理』のポイント」だけは、読んでおいてください。

巻末付録の「2009年4月1日以降の主な出来事」は、役に立つ資料です。

5.「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」について

厚生労働省社会・援護局福祉基盤課福祉人材確保対策室が庶務をしている「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」が、2023年7月24日・10月4日・12月4日の3回開かれています。

外国人介護人材の基礎的な資料が掲載された配布資料は大事な資料ですので、興味のある人は必ず見てください。

外国人介護人材に関わる日本語教育関係者は、国家試験の合格のために尽力しているように田尻は感じています。田尻は、外国人介護人材の受け入れ体制全体にも問題意識を持ってほしいと思っています。日本語教育関係者は、介護現場の要請に外国人介護人材を合わせるような手伝いをしているのではないかと田尻は感じています。

6.読んでおいてほしい論文と問題を感じている論文や雑誌

〇読んでおいてほしい論文

参議院事務局企画調整室で出している「立法と調査」459号(2023年8月2日刊行)にある鈴木健太さんの「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案の概要と国会論議」は、日本語教育関係者にはほとんど知られていませんが有用な論文です。

「主な検討の経過」や「国会における主な論議」は、特に重要です。

「子供に対する日本語教育の質向上」・「聴覚障碍者に対する日本語教育の質向上」・「日本語教育機関の外国人留学生に対する人権侵害行為」・「日本語教師の処遇改善」などの問題が国会でどのように議論されたかがわかるようになっています。

〇問題を感じている論文・雑誌

  • 上村圭介「日本語教師の資格創設における更新講習導入の『迷走』―政策形成の検証―」(『社会言語学』ⅩⅩⅢ号(2023)

田尻は、この論文に二つの点で問題を感じています。

一つは、先行論文を読んでいないことです。日本語教育施策については、同じ『社会言語学』ⅩⅨ号に田尻が「外国人労働者の受け入れに係る日本語教育施策―「日本語教育推進に関する法律」成立までの経過―」(2019)があり、上村さんが引用している本廣・島田・杉田・藤光・保坂・増田・谷部さんたちの「日本語教師の国家資格化への諸課題」が田尻の論文を使っていない点で問題を含んでいることは第39回の「未草」で触れています。上村論文では本廣さんたちの論文に触れているだけで、問題点は指摘していません。また、上村論文は、「未草」については全く触れていません。この「未草」は、日本語教育施策の時間的な推移について書いている唯一の情報だと自負をしていますが、いまだに日本語教育の研究者と言われている人たちからは無視され続けている現状に無力感を覚えています。Google検索でも、「日本語教師 国家資格」と打ち込めば「未草」の項が出てきます。

二つ目は、日本語教師の国家資格化について主に日本語教育小委員会の資料を検討していますが、日本語教育小委員会では日本語教師の国家資格化については大事な点の検討がなされていません。例えば、国家資格についての学歴の要件です。小委員会では学士を要件としていますが、国家資格で学歴を要件としているものは一つもありません。その点は、小委員会での検討が不十分なのです。田尻は有識者会議でその点を指摘し、「日本語教育の質の維持向上の仕組みについて(報告)」では「受験に当たっては要件は特段設けないこととする」となりました。日本語教師の国家資格化は、上村論文にも出て来る二つの有識者会議で詳細が検討されたのです。まずは日本語教師の国家資格化の具体化を検討することがその時の目標で、国家資格が決まっていない段階で更新講習を検討することはありえません。したがって、小委員会で検討事項とされた更新講習が検討されなかったからと言って、それを「迷走」と言えるのかという点に問題を感じています。

上村さんから何らかのご意見があれば、この「未草」で扱います。

  • 朝山洋樹「日本語教育と日本語学校のこれまで—法務省に告示された日本語学校に注目して—」(『立命館産業社会論集』59巻1号、2023年6月)

朝山さんは日本語学校についてサイト検索で論文を書いていますが、どうかこのようなテーマの論文を書く場合にはどこかの日本語学校に見学に行ってから書いてください。日本語教師については丸山敬介さんの「日本語教師は食べていけない」という二つの同志社女子大学大学院文学研究科紀要を引用しています。田尻は、この論文だけでは日本語学校の現状はわからないと考えています。

現在日本語学校全般について現状を書いているものは、丸山茂樹さんの「日本語教育における日本語学校の位置づけ」(田尻編『外国人労働者受け入れと日本語教育』所収、2017年)だけだと思っていますが、この論文は引用されていません。朝山さんによると続稿も予定されているとされていますので、今後は日本語学校の現状が反映された論文が書かれることを願っています。

  • 『週刊 東洋経済』12月2日号の特集「外国人材が来ない! 選ばれる企業・捨てられる企業」

この特集は、「産業別の都道府県『依存度』ランキング」などの興味深い記事が多く掲載されていますが、肝心の外国人労働者が日本に来ないというデータが出ていません。そのため、この特集は危機をあおることが主であるような印象を持ちました。ここでは詳しく触れませんが、人口統計での是川さんの論文(例えば、「日本の外国人労働者受け入れをどう捉えるのか?」『日本労働研究雑誌』No.744.2022など)を引用したうえで、記事を書いてほしかったと思っています。

※日本語教育関係者や日本語教育の外の世界の関係者にとって、現在進みつつある文化庁の日本語教育関係施策への理解が進んでいないので、田尻は文化庁の施策に理解のある方たちと2024年夏を目指して1冊の本を出そうと思っています。出版はひつじ書房からで、書名は『外国人受け入れへの日本語教育の新しい関わり方(仮題)』です。ご期待ください。

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