第44回 パブコメ募集と二つのWGの重要性|田尻英三

この記事は、2023年9月14日までの情報を基に書いています。

今回の「未草」の原稿では、大変重要なパブリックコメントの募集と、ほぼ同時期に開かれた二つのワーキンググループの検討内容を扱います。

9月1日付けで異動になった圓入課長への謝辞も述べます。

1. パブリックコメントの募集

「日本語教育機関認定法」に関するパブリックコメントへの意見募集が、現在行われています。締め切りは、9月20日18時です。以下のURLを開いて、必ず意見を書き込んでください。みなさんが直接この件について意見が言える最後の機会です。

https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/public_comment/93929901.html

ここで募集されている日本語教育機関認定の法律施行規則案と認定日本語教育機関認定基準案及び告示案については、この「未草」の第43回で大事な点は説明していますので、ここでは繰り返しません。

43回の「未草」では触れていないのですが注意してほしい資料が「参考資料」に挙がっています。

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000258639

この中の「大学の非正規課程プログラムにおける認定基準の適用対象の整理」に、「専ら日本語予備教育を行う」(田尻注:従来進学型と呼ばれている留学生別科の課程のこと)留学生別科は、「認定が必要」となっています。つまり、大学の留学生別科で進学型の留学生を教える日本語教師は、経過措置の期間中に全員登録日本語教員にならなければいけないことになります。その他の課程については、今後検討されることになっています。従来日本語教育の世界であまり取り上げられてこなかった大学留学生別科についても、文部科学省高等教育局が調査をすることになりました。

2.二つのワーキンググループでの検討内容の重要性

8月29日に日本教育小委員会の「認定日本語教育機関の認定基準に関するワーキンググループ」(以下、ワーキンググループ①と略称)と、8月30日に「登録実践研修機関及び登録日本語教員養成機関の登録手続き等の検討に関するワーキンググループ(以下、ワーキンググループ②と略称)が開かれました。いずれも大変大事なワーキンググループですが、大事な点が検討されたとは田尻には思えませんでした。以下、ワーキンググループ毎に、問題点を述べます。

ワーキンググループ①

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/nihongokyoiku_kikan_nintei_wg/wg_03/93932801.html

ワーキンググループ②

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/kikan_toroku_wg/wg_03/93932701.html

(1)ワーキンググループ①について

このワーキンググループは、認定日本語教育機関の認定基準を検討する大事な会議です。しかし、残念ながら会議そのものは、委員が質問し、それに事務局が答えるという時間に多く費やされました。前にも言いましたが、ワーキンググループ開催前には必ず委員と事務局の間で質疑応答の時間が設定されています。したがって、もし質問があればその時にすればいいので、大事なワーキンググループの会議の中では問題点の検討に時間をかけるべきです。特に座長はその回で扱うテーマについて十分に理解しているはずですから、質問があればまず座長が整理し、そのうえで不明な点がある場合に事務局に回すという手順を取らなければテーマの検討が行われる時間が足らなくなってしまいます。残りの回では、大事なテーマについて十分な検討が行われることを期待します。

このワーキンググループでは、まず認定日本語教育機関の認定審査を行う審議会での確認事項を扱っています。今後審査を行う中央教育審議会での確認事項は、認定を受けようとする日本語教育機関の関係者にとっては最も関心のある点です。田尻が想定する「未草」の読者はこの点はあまり関心がないのではないかと考えていますので、ここでは大事な点のみ扱います。

資料の9ページに、日本語教育機関が生活・就労分野の課程を設置する場合は、その主任教員は「企業や自治体等と連携した日本語教育課程の編成などコーディネーターとしての知識・技能を有することを確認する」とあります。これは、今後日本語教育機関が生活・就労の課程を設置することは予想されますので、その際に生活や就労のことを理解していない人は主任教員とはなれないことを意味します。

その他に、設置機関の施設・設備、設置者の要件などがありますが、省略します。

今後設置される審議会は、認定日本語教育機関への実地視察も行います。委員2名と文部科学省担当官が視察を行うことは、もっと注目されてもいい点だと考えます。

次に、認定日本語教育機関教育課程編成のための指針(案)が示されています。

留学分野の課程到達目標は「日本語教育の参照枠(報告)」を参照し、具体的な言語能力記述文(Can do)で設置することになっています。B2レベルを目指す課程の時間数も示されています。その他、授業科目、学習成果の評価、課程の修了要件などが書かれています。

教材は著作権を侵害しないようにすることも書かれています。

就労分野でも留学分野と共通する事項は多くありますが、学習時間はA1~B1の課程は最低350時間以上とすることや、学習内容として日本語能力と学習を自ら管理する能力の二つが必須となっている点が注目されます。

生活分野についてはここでは詳しく触れる余裕はありませんので、興味のある方は資料をお読みください。

「3分野ごとの言語活動の目標」も示されています。

認定日本語教育機関に関する省令等の案についても書かれていますが、ここでは省略します。情報公開、自己点検評価、定期報告、経過措置、申請書などにも言及しています。

(2)ワーキンググループ②について

このワーキンググループは、登録実践研修機関と登録日本語教員養成機関の登録手続きを扱った大変大事なワーキンググループです。そのため、多くの重要なテーマを扱わなければいけないために時間的な余裕がありません。座長はそれなりに問題点を整理しながら進めていますが、大事な点を扱う時間がなくなってしまいました。田尻が最も重要なテーマと考えるコアカリキュラムについては、「(3)コアカリキュラムについて」で扱います。

このワーキンググループでも、登録実践研修機関と登録日本語教員養成機関の審査を行う審議会の確認事項を扱っています。ワーキンググループ①と同様、審査を行う審議会は中央教育審議会を想定しています。

登録実践研修機関の審査を行う審議会は、科目の指導者、教材、時間配分、体系等の適正性については、コアカリキュラムにより確認することになっています。指導者の要件もあります。だれでも指導者になれる訳ではありません。教壇実習に関する科目も評価・実施方法・体制について決められています。

登録実践研修機関と登録日本語教員養成機関への実地視察も行われます。委員の構成は、認定日本語教育機関と同じです(同じ人が行うという意味ではありません)。

次に、現職日本語教師が登録日本語教員になるための経験者講習について書かれています。現職とはどの程度の就職期間を指すか、何時間担当すれば現職と言えるかなどの詳細な点は、今後検討されるはずです。「経過措置(案)」には、2019年4月1日より2029年3月31日の間に法務省告示機関、大学、認定日本語教育機関、文部科学大臣が指定する機関で日本語教員として1年以上勤務した者と書かれています。

講習はオンラインで行い、講習修了確認試験があります。講習1は90分5コマで修了試験は50問程度、講習Ⅱは90分10コマで修了試験は100問程度、各コマで単元確認を行います。要するに、ただ受けさえすれば修了となる講習ではないということです。

今まで何らかの日本語教師の資格を持っていた人で、登録日本語教員の資格を取得したい人への経過措置も書かれています。この点が、多くの現職日本語教師の最も知りたい点ではないかと思います。この経過措置は以前のものとは違いますので、必ずこのワーキンググループ②の資料を見てください。経過措置講習1とⅡのイメージは、資料4の5・6ページに示されています。

資料4の2ページを見てください。「登録日本語教員の資格取得に係る経過措置(案)」です。ここでは有識者会議の報告などで示されていたA~Fコースではなく、四つのコースが示されています。かなりわかりにくいと思われるので、詳しく説明します。がまんして、最後まできちんと読んでください。すでにかなり怪しげな情報が流れています。

  • 「50項目に対応した課程を修了した者」というのは、「必須50項目を実施していることが文科省において確認できたもの」である現行課程を修了した者となります。つまり、文部科学省において50項目を実施していないとされた課程の修了生は、このコースには該当しないことになります。自分が修了した課程が、今後文部科学省において公表される登録日本語教員養成機関に該当しているかどうかを各自が確認する必要があります。「現職者に限らない」という注は、すでに課程を修了して資格を持っているが、現在は日本語教師をしていない人を指すと田尻は考えています。なお、このコースには、「学士、修士又は博士の学位を保有」という要件が付いています(3ページ)。
  • 現職者のうち、50項目に非対応の課程を修了した者は、講習を受け講習修了認定試験に合格した場合に基礎試験を免除されます。この場合でも、「文科省において一定の質の確認ができた」養成課程を修了した者という条件が付きます。ここにも、「学士、修士又は博士の学位を保有」という要件が付いています。
  • 1987年から2024年までのJEESの日本語教育能力検定試験に合格した現職者は、講習を受け講習修了認定試験に合格した場合に、基礎試験・応用試験・実践研修を免除されます。2002年以前と2003年以降では、講習の受け方が違います。該当者は、資料に当たって確かめてください。田尻は、この措置を行ったのは従来の資格を持っている人に日本語教師を続けてもらうためだと理解しています。ここでも人手不足の影響が出ています。
  • 現職者なので、実践研修は免除されます。国家試験なので、必ず試験は受けなければなりません。また、国家試験なので、学士等の学位保有の要件はありません。

3ページに、「大学等の日本語教師養成課程(田尻注:3ページでは「日本語教育養成課程」とあるのは間違いです。会議では、だれも指摘をしていません)は26単位以上」となっていますので、主専攻と言っている大学でもここでは副専攻と同じ資格となっています。この点については、主専攻の科目を揃えている広島大学などからの不満は公式には出ていません。

資料5に、登録日本語教員資格取得の際に小学校等での実践研修を認めるかどうかという大変大事なテーマが項目として挙げられていますが、会議ではまとまった議論があったような記憶がありません。

(3) コアカリキュラムについて

田尻は、今回のワーキンググループの会議の中では、このテーマが最も重要だと考えていましたが、会議ではほとんど扱われなかったと思います。大変残念です。

登録実践研修機関のコアカリキュラムについては、今後実践研修を引き受ける機関がどれだけ本気を出して取り組むのかによりますので、ここでは取り扱いません。

ここでは、すでに大学や日本語教師養成機関が行っている課程が、日本語教員の質の向上にどれだけ関わっているかを審査される登録日本語教員養成機関のコアカリキュラムについて扱うことにします。

まず、会議の前提となるはずの資料について述べます。それは、参考資料5の「令和4年度大学等日本語教師養成課程及び文化庁届出受理日本語教師養成研修実施機関実態調査研究報告書」(以下、「実態報告書」と略称)です。

この「実態報告書」は、今まで全く報告されてこなかった事項の全国調査の結果が掲載されています。なぜこの「実態報告書」が話題にならないのかが、田尻には理解できません。

調査期間は、2022年12月26日から2023年1月20日の最新の資料です。調査対象は、大学短大210校、養成実施機関173校です。回収数は、大学・短大185校で回収率88.1%、届出受理機関は70校で回収率は40.5%です。日本語教育施策が進められているこの時期に回答しない大学・短大が25校あるのも驚きますが、回答しない届出受理機関が103校もあるのはもっと驚きます。これらの届出受理機関は、状況が切迫していることの危機感がないのか、公表したくない項目があったのかわかりませんが、届出受理機関の多くが回答しなかったことの意味は大きいと考えます。いずれにせよ、これらの調査結果を基に、今後の日本語教育施策が作られていきます。

調査結果を詳しく触れる余裕はありませんが、主要な調査項目だけを挙げておきます。

  • 大学学部で45単位以上は24.3%、25単位以上が71.7%
  • 大学学部で最も多いのが講座を開いているだけのものが44.0%で、次いで副専攻の39.3%ですが、大学院では副専攻が52.4%と最も多くなっています。
  • 設置年度は、全体では5割が2011年度以降で、特に届出受理機関では77.4%がこの時期に集中的に設置されています。
  • 定員は、大学・大学院とも「定めない」が圧倒的に多いです。学生数も、20人以内が最も多くなっています。大学や大学院では、受講する学生も少なく、日本語教師になる学生はもっと少ないのが現状です。
  • 日本語教師を進路先としているのは、全体で18.3%で、学部卒で国内の日本語教師になったのはわずか1.7%です。大学の日本語教師養成課程は、日本語教師を生み出す課程としては機能していません。
  • 届出受理機関の受講者の年齢は、50代24.4%、40代20.8%、30代と60代が18.4%となっていて、中高年が多いことがわかります。
  • 厚生労働省の求職者支援訓練制度を利用しているのは、わずか6.3%です。受講者の多くは、この制度を知らないのでしょう。
  • 届出受理機関の常勤講師の年収は、300万~400万と400万~500万が28.6%と最も多くなっていますが、非常勤講師は届出受理機関では73.7%が100万円以下です。日本語教育機関での非常勤講師の多さを考えると、日本語教師の待遇の悪さが目立ちます。

有識者会議の報告事項として、登録日本語教員養成機関のコアカリキュラム作成について以下の3項目が挙げられています。

  • 登録機関の審査事項・確認事項を作成する。
  • 必須の教育内容の50項目と「日本語教育の参照枠」を明確に対応付ける。
  • 必須の教育内容50項目の下位項目の詳細を示す。

このことを前提として、「日本語教員養成コアカリキュラムの必須の教育内容の目標及び学習項目(案)」が18ページにわたり提出されています。

それぞれについて、「目標」と詳細な「学習項目」が列挙されていて、巻末には「日本語教員養成コアカリキュラム(大・中項目)(案)」が示されています。

このワーキンググループでは、当然この「実態報告書」を前提に議論が進むと思っていましたが、資料6の「養成課程コア・カリキュラム:学習項目と到達目標」では、「実態報告書」の大項目しか掲げられていません。資料6の「コア・カリキュラムとは基本的な考え方と留意点―」には「文部科学省の審査を受ける際の審査において活用することとする」となっていて、大変重要な資料です。田尻としては、当然「実態報告書」を踏まえて、「コア・カリキュラムとは」の項で中項目に言及すべきと考えていましたし、会議でもその点が議論されると思っていましたが、全く議論がなされませんでした。せっかく有識者が苦労して「実態報告書」を作成したのに、それが活かされなかったことは理解できません。最終案が作成される際には、必ずこの点にふれていただきたいと強く願っています。

今後、大学や日本語教員養成機関の登録を審議する際の最も重要な要素が、このコアカリキュラムなのです。この点を曖昧にすると、「日本語教師の質の確保」(「実態報告書」の「1.目的・背景」にある表現)ができません。

ワーキンググループ②の会議の進め方に問題を感じたので、あえて詳しく書きました。

3.「令和6年度予算概算要求」について

2024年度の概算要求で、日本語教育に関するものが文部科学省総合教育政策局から提出されました。いよいよ日本語教育関係の事項は、文部科学省の所管事項となります。

厚生労働省を始めとする他の省庁からも、在留外国人に関わる概算要求が出ていますが、今回の「未草」の原稿をパブリックコメントの募集締め切り前にアップしたかったので、今回は扱いません。

4.圓入由美課長への謝辞

日本語教育施策がここまで来られたのは、ひとえに圓入課長の1年11か月のご尽力の賜物です。以前の高橋課長が下地を作り、圓入課長がそれを形にしていただきました。そのパワーに押されたように睡眠時間を削って走り回っていただいた国語課の職員や日本語教育専門職の方々へもお礼を申し上げます。与えられた「お仕事」なら手抜きをすることも考えられますが、現代の日本における在留外国人への日本語教育の必要性・重要性を何よりも大事だと考えていただいたことは、一日本語教師として感謝に堪えません。

この間、日本語教育の研究者・専門家と呼ばれる人たちが、どれだけ協力して来たでしょうか。今後は、日本語教育学会を始めとして、他の日本語教育関係団体・機関の協力を期待します。もちろん、法案が国会を通るためには永岡桂子文部科学大臣のご尽力がありました。国会審議などを見ていて、永岡大臣の的確なご答弁を聞いていると、日本語教育について随分ご勉強なさったことがうかがえました。9月の第二次岸田内閣では文部大臣の役職を離れられたことは残念です。

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