「現代の国語」と「言語文化」の問題点|第2回 PISAについて知りたい!|清田朗裕

御礼

読者の皆さん、こんにちは。清田朗裕です。アクセスしてくださりありがとうございます。おかげさまで連載第1回は、ひつじ書房さんのTwitter アカウント上で200以上のいいね! があり、約70件リツイートされたようです(2021/12/14現在)。多くの方のお目に触れたようで嬉しく思います。個人的にも、自分の授業中に紹介して、受講生と問題意識を共有する機会を設けることができましたので、ありがたく思っております。もし、まだ第1回を読んでおられない方は、ぜひ、第1回にもアクセスしてください。

ひつじ書房ウェブマガジン「未草」(「現代の国語」と「言語文化」の問題点 | 第1回 ざっくり知りたい! 新しく始まる高1国語の問題点(https://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/2021/11/17/kokugo/))

今回は、「現代の国語」を取り上げる前にぜひ知っておいてほしい知識や考え方として、PISAを取り上げたいと思います。その意味で第2回は番外編ともいえます。「現代の国語」「言語文化」の内容を楽しみにしていた方には申し訳ございません。しかし、PISAの考え方を知っておくと、「現代の国語」「言語文化」の問題点がより明らかになりますので、どうぞお付き合いください。

なお、今回も長くなってしまいましたので、結論を先に知りたい方は、まず、10節をお読みください。PISAで調査しようとしている具体的な要素がどのようなものかを知りたい方は、9節をお読みください。

1. オイシイピザって知っていますか?

皆さん、ピザを知っていますか? 一枚買ったらもう一枚サービスという広告が入っていて、宅配もしてくれる、クリスマスの季節にピッタリなオイシイ食べ物…って、たしかにそれはピザですけど、それはPIZZAですね。今回取り上げるのは、OECDのPISAです。第1回で用語だけ挙げた「PISAショック」のPISAです。

後述しますが、PISAは、2000年に始まった調査です。そして実は、2009年に改訂された現行の学習指導要領にPISAの考え方が取り上げられ、反映されています(ただし、現行の学習指導要領に沿った高等学校の教育自体は、2013年から始まっています)。そのため、2013年以前と以後で、高等学校の教育の方向性が大きく変化しているといえます。

しかし、PISAが目指す方向性がどのようなものか、専門家以外の方はよくご存じではないのではないでしょうか。

では、PISAとはどういうもので、一体何を目指しているのでしょうか。

2. PISAの読み方

まずは読み方から確認しましょう。PISAは、「Programme for International Student Assessment(生徒の学習到達度調査)」の略称です。「ピサ」とも「ピザ」とも呼ばれているのを聞いたことがありますが、国立教育政策研究所[編](2007:ⅰ)では、「ピザ」とルビが振られていますので、本連載では、「PISA(ピザ)」と呼びます。

3. OECDとは

PISAは、OECDの事業の一つです。OECDとは、「Organisation for Economic Cooperation and Development(経済協力開発機構)」の略称です。外務省HPは、OECDの設立経緯について、次のように述べています。

 1948年、米国による戦後の欧州復興支援策であるマーシャル・プランの受入れ体制を整備するため、欧州経済協力機構(OEEC)がパリに設立されました。その後、欧州経済の復興に伴い、欧州と北米が対等のパートナーとして自由主義経済の発展のために協力を行う機構としてOEECは発展的に改組され、1961年に経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)が設立されました。日本は1964年に、原加盟国以外で初めて、また、非欧米諸国として初めて加盟しました。

(外務省HP:OECD(経済協力開発機構)の概要)

もともとは、欧州において設立された機構で、その後欧州以外の国も加盟しています。原加盟国20か国で始まり、現在は日本を含めた世界38か国の加盟国で構成されています。以下、原加盟国とその後の加盟国を挙げます。

(1)原加盟国:

 オーストリア、ベルギー、デンマーク、仏、独、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、伊、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英、米、カナダ

(2)その後の加盟国:

 日本(1964年)、フィンランド(1969年)、豪(1971年)、ニュージーランド(1973年)、メキシコ(1994年)、チェコ(1995年)、ハンガリー、ポーランド、韓国(以上1996年)、スロバキア(2000年)、チリ、スロベニア、イスラエル、エストニア(以上2010年)、ラトビア(2016年)、リトアニア(2018年)、コロンビア(2020年)、コスタリカ(2021年)

(外務省HP:OECD(経済協力開発機構)の概要、下線部は私に付す。)

日本は、東京オリンピックが開催された1964年に加盟しています。

さて、国立教育政策研究所[編](2002)は、OECDとPISAについて、次のように説明しています。

 OECD(Organisation for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構・本部パリ、1960年発足)は、欧州諸国、アメリカ合衆国、日本など30か国(清田注:2000年現在)の先進工業国を中心に、「経済成長」「開発途上国援助」及び「自由勝多角的な貿易の拡大」を目的とする経済に関する国際協力機関である。

 教育についても、労働市場や社会、経済と密接に関連していることから、OECDが幼児教育から成人教育までの広い範囲で、将来を見据えた教育政策のあり方を提言している。その中には、絶えず変化する社会経済の中での生涯学習、また青少年が実社会で役立つ分析・判断能力を身に付けるための教育なども含まれている。近年では経済のグローバル化に平行して、世界各国の教育を共通の枠組に基づいて比較する必要性が認識されるようになり、そのような指標を開発するため、1988年から教育インディケータ事業を実施している。

(国立教育政策研究所[編]2002:2、下線部は私に付す。)

PISA調査は、OECDを中心に加盟国はもとより非加盟国の参加も得て、OECDの教育分野の中でも最優先課題として取り組まれている事業の一つである。

(国立教育政策研究所[編]2002:はしがき、下線部は私に付す。)

この記述から分かるのは、OECDは、学校教育以降の生涯教育も視野に入れているということ、そしてPISAが、OECDの中でも重要度が高い事業の一つであるということです。

それでは、PISAは、どんな目的で、何を調査・測定しているのでしょうか。

4. PISAの目的の目的

PISAでは、以下の目的が掲げられています。

【前略】各国の子どもたちが将来生活していく上で必要とされる知識や技能が、義務教育修了段階において、どの程度身に付いているかを測定することを目的としている。

 これまで国際的に学力を比較するデータとしては、国際教育到達度評価学会(IEA)の調査結果などがあったが、これらは、学校カリキュラムの内容を生徒がどの程度習得しているかを調査、分析するものであった。これに対しPISAは、学校の教科で扱われているようなある一定範囲の知識の習得を超えた部分まで評価しようとするものであり、生徒がそれぞれ持っている知識や経験をもとに、自らの将来の生活に関係する課題を積極的に考え、知識や技能を活用する能力があるかをみるものである。

(国立教育政策研究所[編]2002:2、下線部は私に付す。)

いかがでしょうか。下線部に示したように、「学校の教科で扱われているようなある一定範囲の知識の習得を超えた部分まで評価」することと、「将来の生活に関係する課題」について、知識や経験をもとにして活用できるかどうかを測定する、という点が重要です。

つまり、PISAは、学校教育内で学習した知識や技能がどれだけ習得できているか測定するというような類の調査ではありません。PISAは、将来の生活の中で、自ら主体的に考え、これまでに得た知識や技能を活用する(できる)能力を、調査対象者(義務教育修了者)がどれくらい備えているか、測定しようとしているのです。

ではなぜ、このような能力を調査・測定する必要があるのでしょうか。これについては、OECDは、以下のように考えています。

常に変化する世界にうまく適応するために必要とされる新たな知識や技能は、生涯にわたって継続的に習得していかなければならないからである。

(国立教育政策研究所[編]2002:2、下線部は私に付す。)

OECDはこのように述べていますが、さて、皆さん、「変化する世界」「適応」「生涯にわたって」という言葉で、お気づきでしょうか。下線部は、連載第1回で取り上げたSociety 5.0 や新学習指導要領の記述内容と酷似しています。つまり、2000年から始まったPISAは、学習指導要領全体が目指す方向に、総説的に影響を与えているのです。この連載では国語に焦点を当てていますが、実は国語だけの話ではない、ということです。各教科・科目にPISAの影響があるのです。

現行の学習指導要領の解説にも、PISAの話題が取り上げられています。

 他方、OECD(経済開発協力機構)のPISA調査など各種の調査からは、我が国の児童生徒については、例えば、

 ① 思考欲・判断力・表現力を問う読解力や記述式問題、知識・技能を活用する問題に課題、

 ② 読解力で成績分布の分散が拡大しており、その背景には家庭での学習時間などの学習意欲、学習習慣・生活習慣に課題、

 ③ 自分への自信の欠如や自らの将来への不安、体力の低下といった課題、

が見られるところである。

 このため、平成17年2月には、文部科学大臣から、21世紀を生きる子どもたちの教育の充実を図るため、教員の資質・能力の向上や教育条件の整備などと併せて、国の教育課程の基準全体の見直しについて検討するよう、中央教育審議会に対して要請し、同年4月から審議が開始された。この間、教育基本法改正、学校教育法改正が行われ、知・徳・体のバランス(教育基本法第2条第1号)とともに、基礎的・基本的な知識・技能、思考力・判断力・表現力等及び学習意欲を重視し(学校教育法第30条第2項)、学校教育においては、このように調和的にはぐくむことが必要である旨が法律上規定されたところである。

(文部科学省2009:1、下線部は私に付す。)

このように、現行の学習指導要領、そして現行の学習指導要領を踏まえた新学習指導要領には、PISAの内容が大きく関わっていることが窺えます。とすると、当然、国語にも、PISAで取り上げられる内容が組み込まれていくことが予想されますし、実際、組み込まれています。それが話題の「実用的な文章」です。実用的な文章のテキストタイプは、9節で確認することができます。

5. PISAで調査する3分野

ここで、PISAで取り上げる3分野を紹介します。それは、「読解力(読解リテラシー)」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」です。PISAでは、調査の中心となる分野を設けつつ、3年毎にサイクルして調査しています。それぞれの中心調査年を挙げます。

  • 読解力(読解リテラシー):2000年、2009年、2018年
  • 数学的リテラシー :2003年、2012年
  • 科学的リテラシー :2006年、2015年

本来でしたら、2021年に数学的リテラシーを中心分野とした調査が行われる予定でしたが、新型コロナ禍のため、来年2022年に先送りされており、現在は、読解力が3周目に入った2018年の調査まで行われています。それでは次に、「PISAショック」を取り上げます。一体何がショックだったのでしょうか。

6. PISAショック

PISAショックは、2003年・2018年調査時に大きく話題に上りました。その理由は、以下の表の通り、日本の読解力の順位が大きく下落したからです(ここでいう「有意差有」とは、「OECD平均よりも統計的に有意に高い国・地域」であるかどうかを指します。有意に高い場合、「○」を付けます。)。読解力の順位のみ挙げます。

表 1 PISAにおける読解力の国別順位の経年変化
(国立教育政策研究所[編]2019:26を基に筆者作成)

PISAが始めて実施された2000年は8位ですが、OECD平均よりも統計的に有意に高い国・地域に含まれており、上位に位置しています。しかし、2003年は14位に下落しています。これが読解力における「(第一次)PISAショック」です。

次の2006年も15位です。しかもこの2回は、OECD平均と統計的な有意差がない国・地域の順位でした。以上の結果から、読解力低下の問題が強く叫ばれるようになりました。

その後、2009年に一桁に返り咲き、2012年には4位まで順位を上げますが、2018年に再び15位に順位を下げています。これが「(第二次)PISAショック」です。

ただし、2018年については、OECD平均よりも統計的に有意に高い国・地域の中には入っていますので、単純に順位が下がったことだけをみて学力低下だと考えるのは早計でしょう。参加国・地域も増加し続けている中では、順位よりもその実態をよくよく見極めていくことが重要だと考えます。

では、PISAが考える読解力とは、どのようなものでしょうか。

7. PISAにおける読解力の定義

PISAは、2000年から始まりました。そこでは、読解力の定義が以下のように示されています。

読解力とは、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」である。

(国立教育政策研究所[編]2002:30)

私たちは普通、与えられたテキストの内容を読み解く能力を読解力と考えていると思います。

しかし、PISAにおいては、テキスト内容を読み解く能力だけでなく、そのテキストを「利用し」、「熟考する」ことを含めたものが「読解力」だと定義づけられています。

しかもそれは、「自らの目標を達成する」「自らの知識と可能性を発達させる」「効果的に社会に参加する」という目的を達成するため、つまり「活用」する能力であることが明示されています。

以上のことからも、PISAにおける読解力とは、学校教育だけでなく、児童・生徒の将来、いわば人生を見据えた能力を指していることが明らかです。

その意味で、私たちが通常理解している読解力は、あるテキストの理解そのものに焦点が当たっており、読み解いた内容を踏まえてそれをどう活用していくか、という観点については、あまり明確に意識してこなかったことに気づくでしょう。

なお、現行、そして新学習指導要領においても、「活用」という言葉が度々登場しますが、それは子ども達が将来において、よりよい人生を歩んでいくために読解力を使いこなすことを想定しています。

8. 定義の変更

ただ、実は、この定義の日本語版は、時代の変化に合わせ、2009年、2015年、2018年に次のように変更されています。

2009年

読解力とは、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考し、これに取り組む能力」である。

(国立教育政策研究所[編]2010:ⅶ、下線部は私に付す。)

2015年

読解力とは、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考し、これに取り組むことである。

(国立教育政策研究所[編]2016:54、下線部は私に付す。)

2018年

読解力は「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、社会に参加するために、テキストを理解し、利用し、評価し、熟考し、これに取り組むこと」と定義付けられている。

(国立教育政策研究所[編]2019:70、下線部は私に付す。)

2009年の定義の変更について、国立教育政策研究所[編](2010)は、次のように説明しています。

読解力の定義が、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考し、これに取り組む能力」(下線:新たに加えられた部分)となった。読解力はただ単に読む知識や技能があるというだけでなく、様々な目的のために読みを価値付けたり、用いたりする能力によっても構成されるという考え方から、「読みへの取り組み」(engaging with written texts)という要素が加えられた。つまり、読むことに対してモチベーション(動機付け)があり、読書に対する興味・関心があり、読書を楽しみと感じており、読む内容を精査したり、読書の社会的な側面に関わったり、読書を多面的にまた頻繁に行っているなどの情緒的、行動的特性を指す。

(国立教育政策研究所[編]2010:ⅵ、下線部は私に付す。)

つまり、PISAにおける読解力の定義には、「どのように」また「どのような態度で」取り組むか、という動機付けも含まれているのです。これは、通常の国語の定期試験等で測定しようとする読解力からすると、範囲外の内容でしょう(もちろん、授業内で観察することができるものですので、現場教員の方は「関心・意欲・態度」の評価において観察なさっていることと思います)。2015年も、「能力」を「こと」に変えていますが、これは軽微な変更です。

このように定義変更されていく中で重要な年は、2018年です。ここでは、「書かれたテキスト」を「テキスト」に変えたり、「評価」という語を加えたりしています。まず、「評価」については、国立教育政策研究所[編](2019)は、次のように述べています。

また、読むことは目標指向であることが多く、読み手はテキストの中の議論の信ぴょう性、著者の視点、テキストと読み手の目標との関連性などの要素を検討しなければならない。こうした概念を組み入れるために「評価」が追加されている。

(国立教育政策研究所[編]2019:70、下線部は私に付す。)

「信ぴょう性」「視点」「関連性」を「検討」するということは、すなわち、疑って読む、批判的に読むということです。このことは、新学習指導要領における〔思考力・判断力・表現力等〕の「判断力」という能力と重なるものと考えられます。

「書かれたテキスト」については、この連載のように、現在ではWebサイトのような紙以外の媒体における読解力も必要となることから、紙媒体以外を含めるという意味で変更されています。PISAの調査形式もWeb形式に変更されています。

なお、国立教育政策研究所[編](2016;2019)は、2012年まで記述されていた「効果的に」という表現を削除したことについては説明しておらず、2012年と2015年とは同様の定義である旨、述べています。これについては、実は2000年のPISAの英語における定義にも、「効果的に」を表す‘effectively’といった語は用いられていませんので、その削除は自然なものです。以下、英語版の定義を挙げます。

20002006年におけるPISA読解力の定義

Reading literacy is understanding, using and reflecting on written texts, in order to achieve one’s goals, to develop one’s knowledge and potential, and to participate in society.

(OECD 2019:27)

20092015年のPISA読解力の定義(「engaging」の追加)

Reading literacy is understanding, using, reflecting on and engaging with written texts, in order to achieve one’s goals, to develop one’s knowledge and potential, and to participate in society.

(OECD 2019:27、下線部は私に付す。)

2018年のPISA読解力の定義(「evaluating」の追加、「written」の削除)

Reading literacy is understanding, using, evaluating, reflecting on and engaging with texts in order to achieve one’s goals, to develop one’s knowledge and potential and to participate in society.

(OECD 2019:28、下線部は私に付す。)

2000年から2018年まで、「to participate in society」と一貫していることが分かると思います。

なお、定義の変更が行われていることは、読解力だけでなく、数学的リテラシー、科学的リテラシーも同様です。

9. 読解力の要素

さて、以上に挙げた定義に従い、以下の5つの要素を調査しています。

(1)読解プロセス

(2)情報源

(3)テキスト形式

(4)状況

(5)テキストのタイプ

それぞれの定義と例を、表 2~表 6にまとめています。ご覧ください。

表2 読解プロセス

表 2の読解プロセスでは、5つの項目を設定しています。特に、「情報を探し出す」「理解する」という、テキスト内にある適切な情報を探したり、その内容を理解したりすることの正答率は6割程度だったのですが、「テキストの文字どおりの意味を超えて判断する」という「評価し、熟考する」の正答率は5割程度しかありませんでした。そのため、この点が、日本の調査対象者にとって難しい内容だったことが指摘されています(国立教育政策研究所[編]2019:13参照)。

表3 情報源

表 3の情報源のうち、「複数情報源テキスト」は、小論文課題等ではみられるものの、あまり馴染みのないテキストです。

表4 テキスト形式

表 4のテキスト形式のうち、特に「②非連続型テキスト」及び「③混成型テキスト」が、「現代の国語」や「論理国語」、「国語表現」で取り上げられる実用的な文章で取り上げられるものに近いテキストです。

表5 状況

表 5について、「教育的状況」はもとより、「公的状況」及び「職業的状況」が、特に「現代の国語」や「論理国語」、「国語表現」の学習において取り上げられる状況です。「社会の活動」と「何らかの課題」が、いわゆる実社会にかかわるものと考えられます。

表6 テキストのタイプ

表 6の「②叙述」には、「小説、短編小説、演劇、伝記など」とあり、従来の国語でよく扱うテキストのタイプが示されています。しかし、それ以外の項目には、実用的な文章を含むテキストのタイプが多く含まれていることが分かると思います。

以上のように、PISAは、ここに挙げた多様な要素・項目を組み合わせつつ、調査対象者の読解力を測定しようとしています。

皆さん、もうお分かりの通り、PISAは、知識理解の能力だけでは高得点は望めません。思考力が必要です。だからこそPISAは、各国における学習とは独立したものとして、国際的に比較することが可能なのです。その意味で、PISAが、ある程度の信頼が置ける調査であることは分かっていただけるかと思います。

なお、今回は具体的な問題例を挙げておりません。そのため、曖昧な部分も残ったと思います。また、PISAで出題される問題は、もともと日本語で作成されたものではありませんので、翻訳の質や、正答か否かの採点基準の適正であるかといった問題があろうと思います(編集者からのご指摘)。この点は、次回関連事項を取り上げていきたいと思います。

10. まとめ

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。まとめます。

① PISAとは、OECDによる調査の一つである。(1~3節)

② OECDは、学校教育だけでなく生涯教育も視野に入れた調査を行う。(4節)

③ PISAでは読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野を、中心分野を設定し3年毎にサイクルして調査している。(5節)

④ 2003・2006年と2018年の調査結果において、読解力の順位が下落した(PISAショック)。(6節)

⑤ 社会の変化・動向により、生きていくために必要な読解力も変化するため、調査年により定義も変化しており、また、知識理解だけでなく、それ以外の多様な要素を調査している(7~8節)。

⑥ PISAで取り上げられているテキストには、実用的な文章が多く含まれている(9節)。

以上、今回は、PISAとは何かについて述べました。

この内容をもとに、次回以降、「現代の国語」及び「言語文化」の問題点について取り上げていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

私は(も)、年末年始、ゼミ生の卒論指導や諸々のことを頑張ります。

最後になりましたが、年内にお読みくださった方、よいお年をお迎えください。

年明けにお読みくださった方、新年明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

参考文献

文部科学省(2009)『高等学校学習指導要領解説 総則編〔平成21年7月〕』東山書房

文部科学省(2018a)『小学校学習指導要領(平成29年告示)』東洋館出版社

文部科学省(2018b)『中学校学習指導要領(平成29年告示)』東洋館出版社

文部科学省(2019a)『高等学校学習指導要領(平成30年告示)』東山書房

文部科学省(2019b)『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説【国語編】』東洋館出版社

国立教育政策研究所[編](2002)『生きるための知識と技能 OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2000年調査国際結果報告書』ぎょうせい

国立教育政策研究所[編](2004)『生きるための知識と技能② OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2000年調査国際結果報告書』ぎょうせい

国立教育政策研究所[編](2007)『生きるための知識と技能③ OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2006年調査国際結果報告書』ぎょうせい

国立教育政策研究所[編](2010)『生きるための知識と技能④ OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2009年調査国際結果報告書』明石書店

国立教育政策研究所[編](2013)『生きるための知識と技能⑤ OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2012年調査国際結果報告書』明石書店

国立教育政策研究所[編](2016)『生きるための知識と技能⑥ OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2015年調査国際結果報告書』明石書店

国立教育政策研究所[編](2019)『生きるための知識と技能⑦ OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2018年調査国際結果報告書』明石書店

【参考HP】

外務省HP「OECD(経済協力開発機構)の概要」(OECD(経済協力開発機構)の概要|外務省 (mofa.go.jp),最終閲覧日2021年12月15日)

内閣府HP「Society 5.0」(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/ 最終閲覧日2021年11月05日)

文部科学省HP「平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説)」(https://www.mext.go.jp/content/1384661_6_1_3.pdf,最終閲覧日2021年12月22日)

OECD (2019), “PISA 2018 Reading Framework”, in PISA 2018 Assessment and Analytical Framework, OECD Publishing, Paris.

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