第27回 日本語教育施策で成立した法案とこれから国会で扱われる法案|田尻英三

★この記事は、2121年12月27日までの情報を基に書いています。
  臨時国会で補正予算が成立しましたので、今回の記事を書くことにしました。

 ときどき「未草」の原稿の回数が飛んでいるとのご連絡をいただきますが、この原稿は飛んだことがありません。必ず、ひつじ書房のホームページにあるウェブマガジン「未草」をご覧ください。

1. 2021年12月の臨時国会で浮島議員のご尽力により日本語教育支援事業の補正予算が成立


2021年12月20日に臨時国会において、2021年度補正予算が成立しました。この補正予算の中に、「ウィズコロナにおけるオンライン日本語教育実証事業」の41億円が含まれています。これは、政府が日本語教育を行っている民間団体等へ初めて予算配分を行ったものとして画期的なものです。この事業は、公明党衆議院議員浮島とも子代議士のご尽力によって補正予算案に組み込まれました。
この事業は1件400万〜1000万円で、400件程度を予定しています。この事業そのものは、スキームとして民間団体等へ委託し、日本語教育機関等へ再委託するもので、まだその詳細は発表されていません。この事業の実施にあたっては、今後クリアーしなければならない点も残っていますが、コロナ禍で苦しんでいる日本語教育機関への財政的な支援ともなるもので、この補正予算成立に対して日本語教育関係者の反応が鈍いのが気になります。もし、日本語教育機関の人たちが、この予算をどのようにして自分たちの機関へ回してもらおうとしか考えていないのでしたら、大変残念なことです。このコロナ禍の中で、オンラインの日本語教育事業をどう進めて行けばよいかに衆知を結集してほしいと思います。

2.「外国人との共生社会の実現のための有識者会議」や日本語教育推進議員連盟について


出入国在留管理庁での「外国人との共生社会の実現の有識者会議」の「意見書〜共生社会の在り方及び中長期的な課題について〜」が、2021年11月29日に法務大臣宛に提出されました。この会議は、公明党の参議院議員石川博崇代議士をはじめとする公明党の国会議員の方々のご尽力によって設置されたものです。
この会議は、当初「外国人との共生社会の在り方、その実現に取り組むべき中長期的な課題」を取り扱うというように抽象的な目的が設定されていました。田尻は石川議員に、この会議に日本語教育の専門家が入っていないことを不満として伝えました。その効果があったのか、「意見書」では具体的に日本語教育の項目が取り上げられています。たとえば、以下のような項目です。


「意見書」の「第3 外国人との共生社会の実現に向けた取組の方向性」の「1 円滑なコミュニケーションと社会参加のための日本語教育等の取組 (2)取組の方向性」の「ウ 日本語教育の質の向上、専門人材の確保に資する取組の推進」に、「国において『公認日本語教師(仮称)』の資格を創設し、日本語教育の質を向上することで、職業として持続可能な制度とするため、長期的なキャリア形成が可能となるような仕組みを構築する。それにより、意欲のある人材の積極的な参入を促し、質・量ともに十分な専門人材を確保する。」とあります。出入国在留管理庁の有識者会議の意見として日本語教師の資格が取り上げられ、それを推進すると書き込まれたことは特筆に値すると考えられます。

この他、現時点では完全にまとまっていませんが、超党派で作った日本語教育推進議員連盟の動きにも注目しましょう。この議連では、浮島代議士を中心として、事務局のメンバーとして公明党参議院議員里見隆治代議士(石川議員が本部長の公明党外国人受け入れ対策本部にも参加)のご活躍が目立っています。

このように、日本語教育にご理解のある国会議員の方々の活動について、日本語教育関係者はもっと関心を持ってほしいと、田尻は強く願っています。

3. 日本語教師の国家資格の法案成立までの段階


日本語教師の国家資格に関する法律が成立するまでの過程がよくわからないというご質問を受けることがありますので、ここでその流れを説明します。今後、日本語教師の国家資格の法案がどのように扱われていくかを知るために必要な知識と田尻は考えます。

参考にすべきものとして、内閣法制局のホームページにある「法律ができるまで」というサイトをお薦めします。以下では、このサイトでの記述に沿って説明します。


① 法律案の原案作成 

原案作成は、所管する各省庁で行います。新たな法律の制定、または既存の法律の改正もしくは廃止の方針が決まれば、法律案の第一次案を作成します。
この第一次案を基に関係省庁との意見調整を行います。法律案提出の見通しがつくと、主管省庁は法文化の作業を行い、法律案の原案ができます。

② 内閣法制局における審査

内閣が提出する法律案は、閣議に付される前に全て内閣法制局で審査が行われます。これは、一種の予備審査です。
予備審査が終了すると、主任の国務大臣から内閣総理大臣に対し国会提出についての閣議請議の手続きを行い、これを受け付けた内閣官房から内閣法制局に対して同請議案が送付されます。内閣法制局では最終的な審査を行い、内閣官房へ回付します。

③ 国会における審議

法律案の提出を受けた議院の議長は、その議案を扱うのが適切だと考える委員会に付託します。
委員会での審議は、国務大臣の提案理由説明から始まり、審議に入ります。
委員会での質疑・討論が終局したときは、委員長が問題を宣告して表決に付して終了したうえで本会議に移行します。
内閣提出の法律案が衆議院か参議院のいずれか先に提出された議院で委員会および本会議で可決されると、他の議院に送付されます。送付を受けた議院でも同様の手続きが取られます。

④ 法律の成立

衆議院および参議院の両議院で可決されたときに、法律となります。
法律が成立したときは、後議院の議長から内閣を経由して奏上されます。

⑤ 法律の公布

法律の成立後、後議院の議長から内閣を経由して奏上された日から30日以内に公布されなければなりません。
公布は、公布のための閣議決定を経たうえで官報に掲載されることで行われます。
法律の効力が一般的・現実的に発動することを「施行」と言います。公布された法律がいつから施行されるかについては、その法律の附則で定められます。
法律の公布にあたっては、法律番号が付され、主任の国務大臣および内閣総理大臣の連署がされます。

田尻は担当者ではないので、日本語教師の国家資格の法案が具体的に今どの段階で扱われているかは知りません。たぶん、②の段階あたりで検討されているのはないかと個人的には思っています。
法案を検討する段階では、法律の表現や意味付けが変更されることはあり得ます。ただ、間違ってほしくないのは、基本的に日本語教師の国家資格化の方向で法案の検討が行われているということへの理解です。
一つの法案が成立するまでには、これだけの手続きを踏むのです。これらの事情を知らない人が、不確かな情報で、「国家資格はだめになった」とか言わないでほしいと思っています。現在も、担当部局の職員や理解のある国会議員の方々や、及ばずながら田尻も、毎日尽力していることをご理解ください。

4. 今すべき行動と控えてほしい行動


2021年11月29日に、岸田首相がオミクロン株への水際対策強化のために、全世界からの外国人新規入国を原則停止すると発表しました。26日現在でも空港検疫で多くのオミクロン株の患者が見つかっており、この入国停止がいつまで続けられるか、全く不透明な状況です。
一時期は、入国者数の上限も変更され、やっと外国人留学生や外国人労働者が入国できるようになりそうだったので、日本語学校もそれまでは持ちこたえようと気持ちをふるいだたせたようとした矢先の発表でした。
この発表についての重要な点は、オミクロン株は日本に入るかもしれないという点ではなく、オミクロン株を外国から持ち込ませないという岸田首相の強い意思表示だという点です。
この発表により、外国からの外国人入国の可能性は基本的にはなくなり、また、現在詳細はわかりませんが、日本語教師の海外派遣の道も閉ざされたと田尻は思っています。

それでは、今、岸田首相の方針に異を唱える行動を起こすべきなのでしょうか。
田尻は、そのようには考えません。一方で日本語教育に理解のある国会議員の活動も進んできており、その活動の足を引っ張るような動きはすべきではないと考えます。
田尻は、個人的な意見の表明を止めようとする気持ちは全くありません。ただ、この時期に起こした行動が、今後の日本語教育施策を進める際にどのような影響を与えるかを考えたうえで行動してほしいと考えています。

ここでは、田尻がどのような行動を起こすべきと考えているかは、述べません。現時点で田尻の考えを表明した場合、田尻の意見が田尻の意図どおりに伝わらない可能性が大きいと考えているからです。
オミクロン株の感染具合を見たうえで、次回の「未草」の原稿には田尻の考えを書きます。
中途半端な書き方をして申し訳ありませんが、今は、日本語教育関係の法案が次の通常国会にかかるかどうかを第一に見届けなければならない時だと考えています。

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