第43回 現時点で見えて来た日本語教育施策の具体例|田尻英三

★この記事は、2023年8月7日までの情報を基に書いています。

現在、文化庁においては、三つのワーキンググループの会議と日本語教育小委員会で「日本語教育機関認定法」で示された方向での具体的な施策の検討が行われています。今回の記事は、現時点で決まりつつある施策と今後検討される施策の内容について説明します。今進みつつある施策についての理解を深めてもらうことを意図しています。

二つのワーキンググループの3回目の会議は、8月中に行われます。それと並行してパブリックコメントの公開と意見募集が行われるでしょう。現時点では詳細が決まっていない項目があるので、このウェブマガジン「未草」の読者の方は施策の方向性についての正確な情報収集と理解をしてください。田尻は、施策についての不十分な理解で行動し、根拠のない噂が広まることを恐れています。これまでの経験からも、日本語教育の世界では噂だけが先行することがよくあったことを知っているからです。まずは、公開された資料をじっくり読んでください。以下では、大事な点のみを書くことにします。全文の解説をすると、かなりの量になります

なお、「日本語教育機関認定法」の中では、類型を示すものとして【 】を使っていますが、従来の有識者会議では「 」を使っていますので、この「未草」でもその2種類の使い分けに従います。

1.日本語教育小委員会で扱った項目

認定日本語教育機関の認定基準等の検討に関するワーキンググループの会議が7月21日に行われ、登録実践研修機関及び登録日本語教員養成機関の登録手続き等の検討に関するワーキンググループの会議が7月24日に行われ、それらを受けて日本語教育小委員会が7月25日に行われました。以下では、二つのワーキンググループの会議で検討された内容をまとめて扱う日本語教育小委員会の検討内容について説明します。日本語教育小委員会の資料は、二つのワーキンググループの会議で検討された内容をまとめたものが提出されていますので、現時点での文化庁の施策の内容はこの小委員会で検討された内容を見ればわかると思います。

以下では、まずそれぞれのワーキンググループの会議をまとめた資料を扱います。

(1)認定日本語教育機関に関する省令等の案について

この部分は、日本語教育機関が認定されるための項目が省令として示されています。表現の形式が省令という形を取っているので、慣れない人にはわかりにくい表現となっていることをまず理解してください。ここでは資料の全てを扱えませんので、この「未草」の読者は、以下の原文を見てください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/nihongo/nihongo_120/pdf/93919401_01.pdf

ここでは、上記資料の赤字で示されている今回追加修正された箇所を重点的に見ていきます。認定基準等の重要な部分は、田尻も参加した2023年1月25日発表の文化庁の「日本語教育の質の維持向上の仕組みについて(報告)」に出ていますので、こちらも必ず読んでおいてください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/93849801_01.pdf

今回日本語教育小委員会の資料の赤字で追加された箇所のうち、法務省の告示基準と整合性を取るための箇所については、ここでは扱いません。

〇認定日本語教育機関の認定基準【留学】

ここでの日本語教育課程は、B2以上の課程を置き、修業期間は1年以上(6か月以上でも可とする課程もある)として、授業時間は380単位時間以上としています。ただし、認定機関が大学や専修学校である場合は、別な基準もあります。修了の要件は760単位時間で、試験の合否等の要件を設けます。収容定員は、新規の機関の場合当初100人以下で、以降隔年ごとに1.5倍まで増加可です。

教員の資格は登録日本語教員で、本務等(仮称)の教員数は課程の収容定員20人に1人以上(大学や専修学校は別な基準もあり)で、具体的な教員が本務教員に当たるかどうかは勤務時間数・給与・社会保険加入の有無・担当時間数・業務内容等によって総合的に判断されます。教員1人当たりの担当授業時数は週25単位時間以内です。その他、詳細な事項は元の資料を見てください。

認定にあたっては、今後公表される「コアカリキュラム」に沿っているかどうかが問われます。したがって、今後公表される「コアカリキュラム」は認定を受けようとする日本語教育機関にとっては、とても大事なものとなります。

〇認定日本語教育機関の認定基準【就労・生活】

時間的な制約(この法律は当初の予定より1年遅れで成立しています)もあることから、資料の整理上「就労」と「生活」を一緒に扱っていますが、田尻は別項目として整理したほうが良いのではなかったかと考えています。いずれにせよ、この【就労・生活】の詳細な内容は、今後の会議で検討されます。

「就労」では厚生労働省や法務省との調整が、「生活」では総務省との調整が必要ですので、詳細は今後決まっていきます。技能実習制度と特定技能制度については、後で扱います。

「就労」で認定日本語教育機関が関われるのは、「就労」の枠の中で日本語教育の時間をどのように位置づけられるかが決まってからです。

「生活」もここで挙げられている基準をクリアーできるのは、かなりしっかりとした体制を準備できている地方公共団体に限られるでしょうから、現在多くの地域で行われている日本語ボランティアの日本語教育にこの施策が関わることはないと田尻は考えています。むしろ、各地域で日本語教育に関わっている方は、この施策で示された体制を各地域で取れるように各市町村に話してみてはいかがでしょう。各地域で日本語教育の体制作りが行われることを期待しています。

〇その他の主な論点への対応

認定日本語教育機関が決まれば、国やその機関自身が機関の情報を公表することになりました。

今後は、認定日本語教育機関の自己点検評価も行われて、その結果も公表されます。

現在日本語教育機関で働いている日本語教師が、今後認定日本語教育機関で引き続き働くためには登録日本語教員になる必要がありますが、それまでの間の経過措置についても示されています。詳しくは、後で扱う省令の説明の時に述べます。

(2)登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関に関する省令等の案について

以下に述べる説明は、現時点では全て「案」です。

登録実践研修機関と登録日本語教員養成機関の省令については、分けて扱います。

最近、日本語教育の実習(この施策の用語では、実践研修)を実施したい日本語教育機関と、登録日本語教員資格取得のため実習が必須となった大学の日本語教員養成課程が話し合う会があるという知らせがありました。私はその会と同じ日に名古屋で「日本語教育機関認定法と登録日本語教員について 報告説明会」があったため、それがどのような会であったかは知りません。ただ、現時点ではまだどの日本語教育機関が実践研修機関になるかは決まっておらず、またどこの大学が登録日本語教員養成機関になるかもはっきりしていない段階で、集まって話をすること自体効果的な企画とは思えません。ここでも繰り返しますが、どうか施策の正確な理解のもとに行動してください。予定では、2024年夏頃に実践研修機関と教員養成機関の申請が始まり、秋頃に登録することになっています。そのための周知・説明会は、2024年1月以降に開かれることになっています。以下は、今後のスケジュール案です。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/pdf/93901401_03.pdf

〇登録実践研修機関の登録について

大学・専修学校・各種学校その他の教育機関が登録実践研修機関の申請を文部科学省にすると、文部科学省の審議会で登録要件の確認と研修事務規定の認可の審査があります。審査に合格し登録実践研修機関の登録研修事務規定が認可されれば、登録実践研修機関として実践研修が実施できます。

実践研修では、オリエンテーション・授業見学・授業準備・教壇実習・実践研修全体総括を行うことになっています。実践研修を指導する者は、日本語教育に係る学位を持っていて研究業績がある者、同学位を持っていて登録日本語教員志望者の授業を1年以上担当した者、登録日本語教員で登録日本語教員志望者の授業を1年以上担当した者、登録日本語教員で認定日本語教育機関に3年以上従事した者のいずれかでなければいけません。

登録事務規定の認可の審査の確認事項もあります。

教壇実習は1人につき45分以上の授業の補助を単独で2回以上行うこととしています。なお、授業の補助とは、指導者の指導の下、受講者が教壇に立つ実施形態を指します。

小学校等を教壇実習機関とする場合については、現時点ではまだ審査の確認事項は決定していません。

〇登録日本語教員養成課程の登録要件について

養成課程では、社会・文化・地域基礎、言語と社会基礎、言語と心理基礎、言語と教育基礎、言語基礎の五つを扱うことになっています。ここでは、授業科目の設定方法をしばるものではないとなっていますが、田尻はある一つの科目にいろいろな分野を扱ったとするいわゆる「読み替え」を多用することは避けてほしいと思っています。かつて、いくつかの国立大学の教育系の学部で小学校教員免許の課程に日本語教育の単位を加えて、日本語教育ができる小学校教員養成を目指したことがありましたが、多くの「読み替え」の科目を作ることが許可されずに、結果的に多くの単位を取得しなければいけなくなり、この構想を断念した過去がありました。きちんとした日本語教師養成を行うつもりなら、多くの「読み替え」科目を作るべきではないと田尻は考えています。「日本語教師の養成における教育内容」は、以下の資料の4ページを見てください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/93782901_02.pdf

養成課程の授業時間は、375時間(1単位時間は45分以上、大学の単位に換算すると25単位)以上とすることになっています。

養成課程の教授者の要件は、養成課程の科目に係る学位(修士・博士・外国のこれに相当する学位)を有する者か、登録日本語教員の登録を受けた者で養成課程の科目に係る学士の学位を有する者となっています。前回までの資料では、養成課程の科目に係る学位ではなく、日本語教育の科目に係る学位となっていました。田尻は、日本語教員養成に関わる教員は日本語教育についての専門的な知識を持っている者(例えば、少なくとも日本語教育の現場経験を持つ者)にしてほしかったのですが、今回の案は今の大学における日本語教師養成担当教員の現状に合わせたものだと理解しました。

〇研修事務規定の認可の審査に関する確認事項

これについては、「未草」の読者には関わらないと考えて、触れないことにします。興味のある方は、元の資料を読んでください。

〇日本語教員試験・実践研修に関する主な規定

日本語教員試験は筆記試験ですが、記述試験は当面ありません。

基礎試験に合格した者及び基礎試験の免除を受けた者のみが、応用試験の合否の判定を受けられます。

試験科目の範囲は、社会・文化・地域、言語と社会、言語と心理、言語と教育、言語から出題されます。「登録日本語教員の筆記試験・実践研修と求められる資質・能力の対応関係(イメージ)」は、以下の資料の別紙7を見てください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/93849801_01.pdf

〇登録日本語教員の資格取得ルート(経過措置)

現在日本語教師をしていて、これから登録日本語教員の資格を取ろうとしている人のために、経過措置がとられています。以下の資料の13ページを見てください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/nihongo/nihongo_120/pdf/93919401_03.pdf

この案も前回の資料とは細部で異なっていますが、ここでは触れません。

この表を見ただけでは、自分がどのルートに当たるのかわかりにくいと思います。無責任なようですが、文化庁国語課の方がお話をする機会を見つけて直接説明を受けてください。国語課としても、できるだけ多くの説明の機会を今後設ける予定だと聞いています。

今までの日本語教育能力検定試験の合格者については、今回の小委員会で新たに決まった大事なことがあります。小委員会の資料6の「登録日本語教員に係る経過措置の検討のための民間試験の選定結果について」を見てください。今回の登録日本語教員の経過措置の対象となる民間試験を公募しましたが、日本国際教育支援協会(JEES)の日本語教育能力検定試験しか応募がありませんでした。この試験の1987年から2023年までのものを対象にして、有識者による選定作業を行いました。その結果、1987年から2002年までの試験には上記別紙7の出題範囲と比較すると三つの区分が含まれていないと思われるものがあるので、この期間の合格者には講習などを受けてもらうことになりました。現時点では、どのような講習が行われるのかは不明です。

2.「令和4年度日本語教育実態調査」

今回の小委員会では、大変大事な資料が示されました。それが、「令和4年度日本語教育実態調査報告書 国内の日本語教育の概要」です。この資料は、2022年11月1日現在の日本語教育の現状が示されていますので、必ず全文をプリントアウトして手許に置いておいてください。

最新のデータから分かる日本語教育の現状について、重要な点を指摘しておきます。

  • 2021年にコロナ禍のために落ち込んだ留学生数が、2022年ではかなり回復していますが、教師数はそれほど変わりません。つまり、日本語教師が不足していることがはっきりわかります。
  • 日本語教育機関数は、増えています。
  • 年代別日本語教師の割合の多い順では、60代21.9%、50代19.5%、40代15.3%、70代13.3%となっており、30代8.3%と20代5.4%のように若い層が極端に少ないことがわかります。若い層が日本語教育に従事していない意味を深く考えてください。
  • 属性別日本語学習者数では、留学生68.1%、研修生・技能実習生5.2%となっており、日本語教育の対象は大人が圧倒的に多く、この調査では外国人児童生徒はビジネス関係者及びその家族6.1%、日本人の配偶者等2.8%、日系人及びその家族2.8%、中国帰国者及びその家族0.6%の中に含まれて実数は示されていません。2021年の文部科学省の日本語指導が必要な児童生徒数(外国籍・日本国籍を含む)は58,307人となっていますが、学校教育では日本語教育は「特別の教育課程」としてしか対応できないため、対象児童数は増えていますが、全国的に組織的な日本語教育は行われていないのが現状です。「日本語教育の参照枠」も大人が対象のため、今後は日本語指導が必要な児童生徒に対する指導体制(研究体制も含む)の確立が望まれます。
  • 国・地域別日本語学習者数では、中国が30.5%と最も多いことには変わりはありませんが、ベトナム14.4%、ネパール11.7%、フィリピン3.7%、インドネシア3.4%のように非漢字圏の学習者も、中国・韓国・台湾のような漢字圏の学習者数と拮抗する数になっています。このことからわかるように、従来の漢字圏の学習者を対象にした多くの日本語教育用テキストから、非漢字圏学習者用のテキストや教授法の開発も必要となっていると田尻は考えます。
  • その他、日本語教師の国籍や日本語教育コーディネーターの現状も示されています。

3.技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議

法務省の第10回の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が、7月31日に開かれました。

ちょうど同じ時期に、国連の「ビジネスと人権」に関するワーキンググループが7月24日から8月4日の12日間、技能実習生や福島第一原発の除染者などへの聞き取りを行いました。マスコミはジャニーズ問題だけを取り上げていましたが、かねてより国連人権理事会の下にある作業部会からは技能実習生や移住労働者に対する人権侵害を防止するように勧告している点に注目してください。

上記の有識者会議では、人材育成の視点から議論が行われています。

この会議での「最終報告書の取りまとめに向けた論点」に、「9.日本語能力の向上方策」が挙げられています。この点は、従来の法務省の会議では扱われて来ず、今回の有識者会議で扱われるようになったものです。

https://www.moj.go.jp/isa/content/001400504.pdf

ここでは、以下の3点が検討対象となっています。

(1)就労開始前の日本語能力担保方策(目的・具体的方策・(試験、講習会等))

(2)就労開始前の日本語能力向上の仕組み(目的、具体的方策(インセンティブ付与等)、日本語教育環境の整備

(3)関係者の役割分担の在り方

検討事項に日本語教育が入ったのは、公明党の「外国人材受入れ対策本部」(本部長石川博崇議員、事務局長国重徹議員)」のご尽力がありました。

この記事に載っている「提言」は公開されていませんので、石川議員にお願いして入手しました。日本語教育に関する箇所は、以下のとおりです。

■日本語教育の充実

日本で働くためには、日常生活や就業生活に必要な日本語の習得が不可欠となることから、新しい制度では、入国前に海外での日本語能力試験(N5以上)合格など、入国時の日本語要件化を含めて就労開始前の日本語能力の担保方策について検討すること。その際、外国人にとって入国のハードルが高くならないように配慮しつつ、外国人労働者の円滑な就労という観点に加え、地域における共生社会実現の観点から日本語教育を充実すること。また、入国後の日本語教育に掛かる費用等については、特定技能制度との整合性を鑑みながら、受け入れ企業の負担を原則としつつ、自治体・国の支援も検討すること。

自由民主党の「外国人労働者特別委員会」では、以下のような日本語教育に関する提言があります。

7 多文化共生社会推進のためにも自治体・監理団体・受け入れ機関・在留管理が特に適正な日本語学校などの団体との密接な連携が大事であり、新たな協議会設置や統一的窓口設置を求める。

https://storage.jimin.jp/pdf/news/policy/206039_1.pdf

なお、この有識者会議の資料2-6に「論点9関連」として、技能実習制度や特定技能制度関連の多くの資料が出されています。従来、田尻はこれらの資料を集めるのに苦労しましたが、ここには必要な資料がまとめて挙げられていますので、外国人労働者と日本語教育に興味のある方はプリントアウトしておいてください。

https://www.moj.go.jp/isa/content/001400510.pdf

この会議については、最終報告書が出た段階で改めて扱います。

4.「日本語教育の参照枠」補遺版の検討に関するワーキンググループ

第2回のワーキンググループの会議は、7月31日に開かれました。この会議を視聴した感想は、CEFR補遺版についての意見交換が主であり、「日本語教育の参照枠」の日本語教育への広がりまでには議論が進んでいなかったと思いました。この会議については、検討が終わった段階で扱います。

5.指定都市会議の外国人政策に係る要請

全国20の政令指定都市で構成されている「指定都市会議」が、8月3日文部科学省の伊藤孝江政務官に「外国人政策に係る指定都市市長会要請」を手渡しました。ここには、以下のような日本語教育に関する大胆な要請が書かれています。

https://www.siteitosi.jp/conference/img/18eed144d196a9dcb885d3544e6e25451aa6eace.pdf

1 日本語教育の充実について、地域における日本語教育の適切かつ確実な実施を図るにあたり、教育の質を確保するとともに、必要とする外国人への日本語教育の提供体制を構築するため、国の責任において、必要な経費を全額国費で措置すること。また、学校においては、日本語指導が必要な児童生徒の指導・支援体制充実のため、日本語指導担当教員の定数加配措置の充実及び基礎定数化、並びに配当基準の改善を行うこと。

この件は、日本語教育学会の「お知らせ」に出してもよいのではないかと思います。

6.NHKドラマ「やさしい猫」と映画「マイスモールランド」について

7月29日に名古屋で行われた「日本語教育機関認定法と登録日本語教員 報告説明会」で、参加者にNHKドラマ「やさしい猫」を見ている方を訊ねたところ、1割もいませんでした。同様に、ウェブマガジン「未草」の田尻の原稿を読んでいる方もほぼ同数でした。残念です。

SNSなどではこのドラマに対して激しい批判の投稿もあり、改めてこのドラマを制作したNHKのスタッフに対して敬意を表します。

中島京子さんの原作『やさしい猫』では、主人公マヤちゃんが間もなく生まれてくる赤ちゃんに話しかける形式で書かれています。ドラマ化するにあたっては、時間の流れに合わせてドラマが展開するため、原作の主人公が語る形式はとっていません。また、最後に赤ちゃんが生まれる場面もドラマで追加されています。田尻としては、もっと社会的に反響を呼ぶドラマかと思っていましたが、マスコミの扱いも少ないものでした。原作の中で、裁判所で弁護士からクマさんがどうして結婚するはずのミユキさんに相談しなかったのかと問われた時に、クマさんが「日本人は、入管のこと、在留資格のことを、何にも知らない。それらをすべて説明するのは困難だと思ったのです」と答える場面があります。田尻はこの箇所を読んだ時、日本語教師は外国人に関する日本の法律をほとんど知らないという現実を想起しました。

この原作やドラマに出て来るハヤトさんは、クルド人です。彼のお父さんは不法滞在者として収容されていて、彼自身も日本での立場も大変弱いものです。同じように、弱い立場にいるクルド人の女性の日本での在留資格を扱った映画「マイスモールランド」も、この「未草」の原稿を読んでいる方にはぜひ見てほしい作品です。8月15日早朝と31日午後9時から、WOWWOWシネマで放送されます。

この問題に関わりますが、8月4日に斎藤法務大臣が、日本に生まれながら強制退去処分になり在留資格がない外国籍の子どもに対して、「在留特別許可」を出すというニュースが流れました。田尻は大いに期待して朝日新聞の記事を読んだのですが、残念ながら子どもや親の条件が厳しくて、昨年末時点で法務省が把握している201人の7割程度の子どもしか「在留特別許可」を与えられないというものでした。しかも、「今回限りの対応」というものです。この子どもたちが日本語を話せるからといって、日本語教師はこの問題に関係ないと言えるのでしょうか。

※今回は、文化庁の施策について一向に理解の進まない日本語教育関係者に対して、最低限必要な事柄を列挙しました。

田尻が最低限必要と思ったことしか触れていませんので、このウェブマガジン「未草」の読者は必ず原文に当たってください。

次の「未草」の原稿は、9月始めにアップする予定です。それまでにパブリックコメントの募集などがあると思いますので、夏休みだから気付かなかったとは言わないでください。

他に触れなければいけない情報もかなりありますが、ここでは触れる余裕がありません。

★以下は新しく追加した情報です。

7.日本語教育推進議連の動き

8月2日に超党派の日本語教育推進議員連盟の会長の柴山昌彦議員(自由民主党)と副会長の浮島とも子議員(公明党)が、河野太郎大臣に「日本語教育機関認定法の確実かつ効果的な施行に向けた提言」の申し入れをしました。この件は、8月4日の公明新聞や浮島とも子議員のFacebookで見ることができます。なぜ河野大臣への申し入れかということを、名古屋での講演会の席上で里見隆治政務官(公明党)に教えていただきました。
河野大臣は内閣府特命担当大臣(デジタル改革、消費者及び食品安全)であるとともに、国家公務員制度担当でもあります。つまり、今後文部科学省内で日本語教育の課ができる時に、課員の定員を決める件にも関わっているということです。
8月8日現在、まだ新しい日本語教育の課の文部科学省での構成は公表されていません。このような大事な時期に議連の国会議員が動いてくれていることを知っておいてください。

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