第40回 日本語教育を文化庁から文部科学省に移管することなどに係る法律の国会審議が始まる|田尻英三

★この記事は、2023年5月1日までの情報を基に書いています。

今回は、日本語教育の事務が文化庁から文部科学省に移管する内容を含んだ法案が衆議院文部科学委員会で審議されている状況を説明します。また、そのような動きとは関わりなくマイペースな動きを見せる日本語教育学会のシンポジウムについての田尻のコメント、技能実習制度の変更、田尻の新しい論文などについても書きます。

1. 衆議院文部科学委員会での日本語教育の法案審議が始まる

(1)日本語教育の所管が文化庁から文部科学省へ移る

4月21日の通常国会で、「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案」(以下、「日本語教育機関の認定等の法案」と略称)についての立憲民主党の柚木道義議員の質問に対する永岡桂子文部科学大臣の答弁に大変大事な情報がありました。

https://www.nisshinkyo.org/member/detail.php?id=2864&

永岡文科大臣が述べた答弁の中に、「日本語教育機関の認定等の法案」を審議するために「文部科学省設置法の改正により日本語教育の事務を文部科学省本省に移管する」とありました。これは、日本語教育の事務が文化庁国語課の一部から文部科学省の事務となることを明言したものです。つまり、日本語教育は文部科学省全体で取り組む姿勢を示したことになり、所管が「庁」から「省」に格上げされたことにより来年度以降の予算獲得にも影響があると田尻は考えています。この大事なニュースはマスコミなどでは全く扱われておらず、日本語教育学会のHPの「お知らせ」にも出ていません。マスコミで扱われていないのは日本語教育の重要性の社会的な認知度の低さを示していますが、日本語教育学会のHPに出ていないのは日本語教育の専門家と言われる人たちの意識の低さを示していると考えます。

「日本語教育機関の認定等の法案」では、第6条に「文部科学省設置法(平成11年法律第96号)の一部を次のように改正する」とあり、「第19条(田尻注:文化庁所管事務)中、『、第36号(田尻注:「外国人に対する日本語教育に関すること⦅外交政策に係るものを除く⦆』削る」という項目があります。この条文では、日本語教育が文化庁の事務から外れるということがわかりましたが、永岡文科大臣の答弁により、本来所管すべきであった日本語教育を文部科学省が所管することになるのがわかりました。実際にどの部局に位置づけられるかは、今後提出されるはずの「文部科学省設置法の一部を改正する法律」の中身を見なければわかりません。田尻は、以前法務省の会議に出席した際に、法務省の方から日本語教育はどこが所管すべきかを聞かれて文部科学省と答えたことがありました。そのことがやっと実現するようになって、嬉しく思っています。田尻は、学校教育から生活者までの日本語教育を、文部科学省内の文部行政全般を見通せる部局で担当してほしいと考えています。

(2)衆議院文部科学委員会で日本語教育の法案を審議

同じ21日に本会議に引き続いて開かれた衆議院文部科学委員会で、「日本語教育機関の認定等の法案」の趣旨説明(国会用語で「お経読み」)が行われ、採決の結果26日以降審議が行われることが決定し、26日の文部科学委員会で質疑が始まりました。以下のサイトで見ることができますので、ぜひこの審議をご自分の目で見てください。国会で、今の日本語教育の問題点が討議された貴重な資料です。日本語教師の給料を上げるような発言も見られました。

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54573&media_type=

次回は、5月10日です。

これに先立ち、立憲民主党は4月18日に「会派文部科学部門会議で「閣法『日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案』について有識者及び関係団体よりヒアリング」を行っていることが、立憲民主党のHPに出ています。このヒアリングには、齋藤ひろみさんが日本語教育学会会長として出席しています。齋藤さんが日本語教育学会の代表としてどのような意見を述べたかは、立憲民主党のHPにも日本語教育学会のHPの「お知らせ」にも出ていません。学会の代表として意見を述べたのなら、その内容を学会のHPに掲載する義務があると田尻は考えます。

国会用語については、「弁護士山中理司のブログ」の中に国土交通省大臣官房総務課連絡調整係の「(省内限り)」と書かれた「国会関係用語集」というものが公開されて、そこに書かれています。この資料(一部墨塗り)は次のサイトで見られます。

https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2019/09/国会関係用語集(国土交通省大臣官房総務課連絡調整係).pdf

この資料の「カンバン」という項目にある、担当部局と国会議員の間で行われる情報提供の仕組みを見てください。担当部署の方が国会議員に法案の説明をするために、レク要求・TELレク要求・資料要求・FAX資料要求・要請・持ち回り養成・会議開催通知などの方法で、そのつど議員と連絡して法案を理解してもらったうえで委員会に臨んでいます。この一つとってみても、一つの法案が成立するまでに、どれだけ多くの仕事量があるかがわかると思います。近藤彩さんの「就労を目的とした日本語教育の課題と協働のためのリソース」(『小出記念日本語教育学会論文集31』2023年3月)に「これまでの日本語教育関係者の努力が実り『日本語教育の推進に関する法律』も成立した」とあるのに、田尻は驚きました。日本語教育の研究者の間では、自分たちの努力が実ったから法律が成立したと思っているようですが、田尻の知る限りでは、努力と言えるものとしては、法案ができる最初の段階で日本語教育学会の執行部の提案を国会議員に手渡したことがあっただけでした。その後の文化庁国語課の方々や国会議員の方々のご尽力がなければ法案成立は難しかったと思っています。日本語教育の専門家という人たちには、文化庁国語課や国会議員の方々への感謝の気持ちを持ってほしいと思います。

「日本語教育機関の認定等の法案」の中身については、今回の「未草」の原稿では扱いません。法案が成立した時点で、改めて扱います。なお、法案が成立した後は、日本語教育機関の運営機関等については、関係省庁の連携による日本語教育推進会議を経たうえでの新たな政省令が作られることになっています。

2. 教育未来創造会議で留学生の受け入れ体制が検討される

2023年3月17日に、第5回の教育未来創造会議が開かれました。その席上、岸田総理から2033年までに外国人留学生の受け入れ数40万人を目指すことを始めとした具体的な指標を、教育未来創造会議第二次提言に位置づけるよう指示が出ました。この留学生40万人計画は、留学生10万人計画の30万人計画への変更に比べて規模が小さく、また実質的に達成可能な数字であるため、マスコミの反応は今一つでした。

ここでは、2023年4月4日に開かれた教育未来創造会議ワーキンググループの会合での「コロナ後のグローバル社会を見据えた人への投資について 第二次提言(素案)」(以下、「提言案」と略称)の日本語教育に関する点だけを説明します。「提言案」は、以下のサイトで見ることができます。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/sozo_mirai_wg/dai9/siryou1.pdf

ちなみに、このワーキンググループには、日本語教育関係者は一人も入っていません。入管政策に詳しい明石純一さんは入っていますが、日本人と外国人の留学生を増やすという人的投資の視点から選ばれている人が多いと感じています。このような政府全体で取り組む会議での日本語教育の取扱い方は、各省庁で扱う日本語教育施策を進めるうえで大きな影響を与えます。

「提言案」の17ページに、留学生40万人の説明があります。

「提言案」20ページ以降の「外国人受入れ方策」に、日本国内外の日本語教育の方向性が挙げられています。

「提言案」27ページに、「外国人材の活躍に向けた教育環境整備」の中の「〈具体的取組〉」に、「日本語教育機関の認定制度、認定日本語教育機関教員資格の創設や認定日本語機関等の多言語情報発信、日本語教師養成の拠点形成、現職教師研修を通じた日本語教育の質の維持向上を図る」が挙げられています。

なお、この会議の「参考資料集」や「参考データ集」には、外国人留学生・外国人労働者・在留外国人への日本語教育・海外の日本語教育・高度人材ポイント制の認定件数などの基礎資料が掲載されていて大変有益ですので、必ず見ておいてください。

3. 技能実習制度と特定技能制度の見直しと日本語能力

技能実習制度と特定技能制度の見直しが、急速に進んでいます。

この制度を所管する出入国在留管理庁(以下、「入管庁」と略称)の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」は、4月10日・19日・28日と立て続けに会議を開いています。

この動きを、マスコミでは技能実習制度の見直しとして扱っていますが、果たしてそうでしょうか。田尻は、政府の外国人労働者受け入れ拡大を目指した姿勢をマスコミがそのまま流している可能性があると考えていますので、その問題点を扱います。

(1)「中間報告書(案)」の問題点と日本語能力

まず、この第7回の会議資料「中間報告書(案)」(以下、「報告書案」と略称)の内容を検討します。この資料は、次のサイトで見られます。

https://www.moj.go.jp/isa/content/001395221.pdf

「報告書案」の2ページに「委員の意見」として、制度の見直しに際しては「受け入れた際のデメリットが顕在化しないよう」とありますが、このまま読むと、受け入れのメリットを強調するような報告書にまとめることを意図しているように見えます。

「報告書案」の21ページの「外国人の日本語能力向上に向けた取組」には、「少なくとも外国人材が日本に来た際には、自分で病院や役所に行けるように、日本語をしっかり学ぶことは求めていくべき」とありますが、病院で自分の病状を説明し、医者の説明を理解することや、面倒な役所の手続きを済ますためには、かなりの日本語能力が必要です。すぐその後にも、「入国前に、一定の会話が通じ、自分自身で要求ができる程度の日本語能力があることは必須。技能実習制度については、入国時には、日本語能力試験のN5以上、技能実習2号終了時には、技能検定とともに日本語能力試験のN4以上の試験合格を必須とするべき。」と言っておきながら、「入ってくる段階でN5レベルの合格を条件とすると、ハードルが高くなってしまい、有用な外国人材に日本が選ばれなくなるというもろ刃の剣の面がある」と言っていて、矛盾して内容としか思えない文章が出ています。つまり、入国前の日本語能力を担保する件は、方向性すら書かれていないと田尻は考えています。22ページの「来日後に日本語能力を向上させる方策」には、「監理団体が入国後の日本語教育については、(中略)一定の基準を設け、講習の質の担保をすることが必要である」としか書かれていません。これまで田尻が問題にしてきた技能実習制度における日本語能力の担保(入国後の日本語学習時間の確保など)は、依然として書かれていません。出入国在留管理庁の有識者会議には日本語教育の専門家が一人も入っていないことから推測されるように、外国人労働者受け入れについては、日本語能力の担保は問題にされていないのです。この点は、日本語教育関係者は、マスコミにも注意を促すような活動をすべきです。

「報告書案」の24ページの「検討の方向性」には、現行の技能実習制度を廃止して新たな制度を検討すべきと言った後に、「技能実習制度が人材育成に加え、事実上、人材確保の点において機能していることを直視し、このような実態に即した制度に抜本的に見直す必要がある」とも言っているので、田尻には現在の技能実習制度の人材確保の枠組みは残すと言っているようにしか見えません。そして「技能実習制度が有する人材育成機能は」、「新たな制度にも目的として位置付けることを検討すべきである」とあることから、現在の技能実習制度で問題として指摘されている人材育成機能は残すことになるのです。これでは、現在の技能実習制度の問題点は残ったままです。26ページの「受入れ見込み数の設定等の在り方」には、新たな制度は「人材確保をも目的とする」と書かれていて、この「報告書案」は人材確保を目的としているとはっきり書いています。

第5回の有識者会議の資料には、NAGOMi(会長は元農林水産大臣武部勤さん、副会長は元厚生労働大臣塩崎恭久さん)の資料(外国人材受けれを奨励する内容)も付されています。

(2)特定技能制度の日本能語力の問題点

「報告書案」の24ページには「特定技能制度については、深刻な人手不足に対応するため、制度を見直して適正化を図った上、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度との調和を図りつつ、引き続き活用していく方向で検討すべきである」となっています。この「報告書案」では、特定技能制度の日本語能力については書かれていません。田尻は、以前から特定技能制度での入国可否判定の多くの場合に使われる国際交流基金の日本語基礎テストでは、特定技能1号に必要な日本語能力は測られていないと考えています。特定技能1号の日本語能力を測るものとして、建前としては日本語能力試験N4と日本語基礎テストがありますが、出入国在留管理庁の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第4回)の「資料2-2」には、日本語基礎テストの結果だけが示されていることから、実質的には入国の可否判定は日本語基礎テストが使われていることがわかります。その資料では、2022年12月末の試験の海外受験者の合格率は39.9%です(国によって合格率にばらつきがかなりあります)。田尻は、以下に述べたように日本語基礎テストのように合格可否のレベルを下げた試験でも合格者が4割を切っているという実態のほうが気になります。

国際交流基金の日本語基礎テストは、次のURLで見ることができます。

https://www.jpf.go.jp/jft-basic/

この日本語基礎テストは、CEFRやJF日本語教育スタンダードのA2レベルを測るテストとされていますが、問題文は受験者の希望する言語に替えて受験でき、選択肢だけが日本語というテスト形式は他の日本語能力を測る試験とは大きく異なっていて、A2レベルを測る試験として適当かどうかの評価には日本語教育の評価法の専門家の判定が必要だと考えています。田尻個人の意見では、この形式の試験では日本語能力の評価はできるのか疑問に思っています。特定技能制度についても、日本語能力を担保する方策は取られていないと田尻は考えます。

その他、この「報告書案」で新たに追加された注目すべき箇所のみを列記します。

  • 23ページ「検討の方向性」に「我が国の産業及び経済」に「外国人の適正な受入れを図ることにより(中略)我が国の深刻な人手不足の緩和にも寄与するものとする必要がある」として、この制度が人手不足対策であることを述べています。
  • 24ページ「企業単独型の技能実習」を団体監理型と区別して扱うようにしていることは評価できると田尻は考えます。
  • 25ページ「現行の両制度(田尻注:技能実習制度と特定技能制度)の全ての職種や分野を含め、人材確保の面から特定技能制度の対象分野に関する考え方を基本としつつも、業界からの要望及び受入れの必要性を前提として生産性向上や国内人材確保のための取組状況を検証した上で検討する」となっていて、ここでも業界からの要望による人材確保の必要性が述べられています。
  • 29ページ「外国人の日本語能力の向上に向けた取組」の中に「来日前の日本語学習に掛かる負担の程度」や人材確保に与える影響を考慮し「入国時の試験や入国後講習など」の方策は「検討すべき」と言っていますが、具体的な方向性には触れていません。同様に、「受入れ企業等と国や自治体の役割分担や負担の在り方については(中略)、最終報告書の取りまとめに向けて具体的に議論していくこととする」としていて、現時点ではどうなっていくかは不明です。

外国人労働者問題については、労働政策研究・研修機構研究員山口豊さんの「日本の外国人労働者と労働市場構造:これまでの整理とこれからの論点」(JILPT Discussion Paper 22-07)も参考にしてください。

https://www.jil.go.jp/institute/discussion/2022/22-07.html

4. 日本語教育学会のシンポジウムについて

4月22日に日本語教育学会(以下、「学会」と略称)のシンポジウム「日本語教育学会の社会的使命を再考する―学術的貢献と社会的役割―」がオンライン形式で開かれ、テーマに興味を惹かれて参加しました。

第1部は「日本語教育学の領域の構造化」で、「学会」が2023年3月31日に公表した「日本語教育学の構造化―日本語教育と日本語教育研究の相互活性的なダイナミクスー」を踏まえてものでした。これは、2017年に公表した理念体系を前提にしていますが、この理念体系自体がすでに5年以上経ったもので、社会的な状況が大きく変化してしまっていますので、ここでは今回公表されたものを対象として田尻の考えを述べます。「学会」の理念体系構築に関わった人たちは、この5年間の社会変化をどう考えているのか、田尻にはわかりません。

「全体目標」の最初に「日本語教育の学術研究を牽引し、研究者を育成する」とあることから、「学会」が研究をすることを目標とする団体だということはわかります。なお、この3番目に「人生を豊かにする」とあり、誰の人生を豊かにするのか、「人生を豊かにする」とはどんなことを指すのか全くわからない表現もありました。以下、「事業目標」の「1」は「日本語教育学の学術研究を促進する」であり、「日本語教育学の三つの層」の「A1」は「大学等における日本語教育」となっていることから、「学会」のイメージは大学等での研究に重点が置かれていて、社会的な貢献は二の次のように田尻には見えます。田尻は、「学会」の目標は研究と社会的貢献の二本柱とすべきだと考えています。「日本語教育学」というものがあるとすれば、それは基礎科学とは別の構想を持つものだと考えています。

10ページに出ている「日本語教育学の俯瞰図」でも、図の中では「A.日本語教育の諸分野」・「B.日本語教育の諸側面」・「C.日本語教育の研究的関心」となっていて、この図をまとめた人は「日本語教育」と「日本語教育学」の区別をどのように考えているのか、田尻には理解できません。したがって、ここでは、第一部の内容には触れません。

第2部のテーマは、「外国人の受入れをめぐる施策と日本語教育」となっています。報告者の庵功雄さんと岩田一成さんは「やさしい日本語」を中心に活動している人で、外国人の受け入れ施策に大きく関わっているのは浜田麻里さんだと、田尻は理解しています。テーマに外国人の受け入れを掲げているのなら、実際に施策を作っている文化庁国語課の人がなぜ登壇していないのでしょうか。このようなテーマで「学会」がシンポジウムを開くのなら、当然「学会」の会員も文化庁の施策と比較して「学会」の立場はどうなのかを知りたいと思ったのではないでしょうか。

報告者の3人は、自分のやってきた施策の説明に時間を使い、それぞれの作業が政府の施策とどのように関わっているのかにはほとんど触れなかったというのが田尻の感想です。

シンポジウムの最後に齋藤会長が、他の分野との連携が必要だという趣旨の発言をしていたのを聞いて、がっかりしました。田尻は、すでに2003年3月の「学会」のシンポジウムで日本語教育以外の方々の参加を得て、「外国人の定住と日本語教育」というテーマのコーディネーターをしました。そして、その成果を『外国人の定住と日本語教育』を2004年に出版し、2007年に増補版を共にひつじ書房から出版しました。現在はどちらの本も絶版ですので、古本屋で探してください。2017年にも、同じひつじ書房から『外国人労働者受け入れと日本語教育』を出版しています。こちらは、Kindle版で購入できます。他の人たちも、日本語教育以外の分野の人たちとの共著を出版しています。齋藤会長は、このような動きをご存じなかったのでしょうか。

上に述べたように、今まさに日本語教育の施策が成立しようとしています。そして、この施策は日本語教育の世界を大きく変える可能性があるものです。この時期に「学会」がシンポジウムを開くのなら、文化庁の施策を「学会」の会員に詳しく知ってもらい、その上で「学会」の立場を表明するようなものでならなければならないと、田尻は考えます。庵さんが言っていた「学会が行政の『下請け』にならないように」という発言は「学会」執行部のかなりの人も共有している考えだと、田尻は感じています。政府の会議の委員を引き受けたのなら、そこで「下請け」にならずに積極的に発言し、一緒により良い方向に持って行こうという姿勢を日本語教育の専門家は持っていただきたいと思っています。

5.田尻の在留資格と日本語能力担保に関する論文

2023年3月に小出記念日本語教育学会の『小出記念日本語教育学会論文集31』が出ました。

購入方法は、https://koidekinen.org/backnumberをご覧ください。

論文名は、「外国人の受け入れと日本語教育の関わり」です。この論文のメインテーマは、現在の日本における在留資格とそれに対応する日本語学習環境を述べたものです。読んでいただけるとわかりますが、外国人の受け入れに対応した日本語学習環境が整っていないことがわかります。ただ、論文なので現状の受け入れ体制の評価に関わる言及は避けました。そのため、105ページの「31号特集 はじめに」では、田尻の論文は外国人受け入れの枠組みを「説明」したもののように書かれていますが、それは極力批評の表現を避けたために持たれた印象のようだと感じました。読者の方は、この枠組みの理不尽さを読み取っていただければと考えています。

在留資格とそれに対応する日本語学習環境を整理したものは、今までになかったと自負しています。ここに引用されているような信頼できる情報を探すのには、大変苦労しました。現在までの政府の態度は、外国人労働者は受け入れるがその人たちに対する日本語教育は形だけの対応で済ましているということがわかると思います。そのような状況に対して、新たに具体的な枠組みを示したうえで批判できるのは日本語教育の関係者だけだと考えます。

※今回は、もっと取り上げたいことがたくさんありましたが、いつもの「未草」の原稿の分量を超えていますので、ふれないことにします。生成系AI、特に翻訳AIの日本語教育に与える影響は大きいものがあると考えますので、今懸命に勉強しています。

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