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オノマトペハンター おのはん!|第18回 今回のオノマトペ:「がぶがぶ・ふがふが」|平田佐智子

 

だんだん暖かくなってきましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。なかなか気温が落ち着かないので、心身に負担がかかりがちな時期です。あまり無理はせずに毎日過ごしていきたいものです。今回のオノマトペネタは、実はだいぶ前から目を付けておりまして、販売が開始するのを今か今かと待っておりました。発売直後に入手しましたので、早速ご紹介したいと思います。

 

オノマトペと沖縄の言葉

 

リズムで覚える島むに絵本 沖永良部島のオノマトペ(擬音語・擬態語)

「シマノトペ」

https://plr.thebase.in/items/17676345

 

こちらの絵本は、国立国語研究所の山田真寛さんが運営されているウェブサイト「言語復興の港」と連携されているウェブショップ「みなと商店」で手に入る、方言オノマトペの絵本です。

 

・言語復興の港

https://plrminato.wixsite.com/webminato

 

・みなと商店

https://plr.thebase.in

 

沖縄の方言を保存し、また広く知ってもらうための、「言語のアウトリーチ活動」の一環として作成されたウェブサイトであるようです。シマノトペ以外にも、沖縄の方言を用いたテーマソングや素敵なイラスト、読み物などがつまったとても魅力的なウェブサイトですので、ぜひ見てみてください。

 

シマノトペ

さて、シマノトペです。この絵本では「リズムで覚える」というタイトルの通り、様々な登場人物の同じ問いかけに対して、その状況を沖永良部島のオノマトペを使って答える、という、テンポの良い構成になっています。例えば、問いかけは「いきゃ し~よ?(どうしたの?)」となされ、それに対して聞かれた相手が「さきぬ がぶがぶ いーちゅんど~(酒が がぶがぶ 入っているよ)」のように、状況を説明します。

この状況説明の真ん中の部分(例の「がぶがぶ」部分)にいろいろな沖永良部島のオノマトペが入るのですが、そのどれもが初めて聞くような、あるいは聞いたことはあるけれどそのような使い方は初めて聞くような、そんな表現ばかりでした。方言オノマトペは東北地方に特徴的なものがあることは知っていたのですが、以前共同研究者の方が「沖縄にもオノマトペっぽい言葉が多い…」と言っていたこともあり、沖縄地方のオノマトペはどんなものだろうと気になっておりました。オノマトペハンターたるもの、各地方のオノマトペもハント対象にしなくてはいけないと思いつつも、方言の森は案内人なく踏み込むにはあまりに危険すぎるので、各方言の専門家とパーティーを組む必要があると常々考えています。

 

二つの「たくさん」

この本には、二種類の「たくさん」を表すオノマトペが出てきます。

 

「さきぬ がぶがぶ いーちゅんど~(酒が がぶがぶ 入っているよ)」

 

「うむぬ ふがふが でぃきたんど~(いもが ふがふが できたね)」

この「がぶがぶ」と「ふがふが」は、本の中では括弧書きで「たくさん」と書いてあります。それぞれ酒と芋のそれぞれの量が、多くある様子を表現しているようです。ただ、同じ「たくさん」ではありますが、物の種類が違うので、異なる音を用いて、異なる様子を表現しているのだと考えられます。これは、「たくさん」ではなく、標準語のオノマトペで表現するなら、どのようなオノマトペが適しているのでしょうか?

 

まず、「がぶがぶ」については、日本語オノマトペ辞典(小野(編), 2007)を引いてみると、それらしき意味が載っていました。

 

②水がいっぱいで、はげしく波立っているさま。

 

この表現のイラストでは、器になみなみとお酒が注がれており、「がぶがぶ」の意味にぴったりであると考えられます。ただ、あまり「がぶがぶに入っている」という表現はされないように思いますので、「たぷたぷに入っている」という表現のほうが聞きなじみがあるのかもしれません(やや勢いが薄れてしまいますが)。

 

次に「ふがふが」ですが、こちらはオノマトペ辞典を調べても、「たくさん」というような意味合いは見あたりませんでした。どちらかというと、お芋から「ふかふか」が連想されますね(絵本の中のお芋は収穫されたばかりで、「ふかふか」な状態ではなかったのですが)。

類似する音で「ものがたくさんある様子」を表すオノマトペに思い当たらなかったのですが、「お芋が ごろごろ/わんさか できたね」という感じでしょうか。

 

方言オノマトペの面白いところ

方言オノマトペで特に興味深いところは、「特有の音が使われる」点にあります。シマノトペ絵本の中でも、「けきゃけきゃ(笑う様子)」や「くゎんくゎん(お湯が沸いた様子)」など、あまり普通のオノマトペには出てこない音がありました。

方言オノマトペに触れ始めた頃は、「方言には日本語の音韻とはやや異なる、特有の音声カテゴリがあって、オノマトペも音を置き換えればある程度理解ができるのではないか」と考えていました。しかし、この考え方は「英語をひらがなで表記すれば日本語話者でも意味が分かる」というレベルで見当違いのお話で、方言オノマトペは方言という枠組みの中で考えなければいけない物なのだと捉えるようになりました。ただ、不思議な音の響きはそれだけで興味深く、それぞれの環境と音が結びついた経緯について、思いを馳せてしまいます。

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