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オノマトペハンター おのはん!|第8回 今回のオノマトペ:「ギザギザ」|平田佐智子

 

5月になりました。今月もおのはん!を元気にお送りいたします。…と始めたいところなのですが、今月に入って気温や天候が安定せず、私を含めてあまり調子の出ない方が多いのではないかと思います。頼みの綱の大型連休も既に過ぎ去ってしまいました。これからだんだん暑くなってくるようですし、身体的にも精神的にも無理は禁物モードでゆきましょう。

 

オノマトペ研究データベース

というわけで、少し言い訳めいたオープニングですが、今回のオノマトペは取れたて新鮮というわけではなく、私のオノマトペ研究データベースからご紹介したいと思います。オノマトペの研究は、分野や時代を超えて様々な人が取り組んできていますが、ここ10年くらいは一つのブームが来ていて、いつになくオノマトペ研究者人口が増えているように感じます。また、人口が増えることで、何が良いかというと、研究が継続することでその分野がどんどん発展してゆくのですね。過去の研究にももちろんオノマトペを取り扱ったものは多数あるのですが、単発で終わってしまっているケースが多い印象を受けます。研究は他の研究者とのやりとりの中でふくらみ、発展してゆきます。そのため、ある程度研究者人口が増えることはそのテーマの成長・発展には不可欠なのでしょう。

なお、私のオノマトペ研究データベースは全てのオノマトペ研究を網羅しているわけではもちろんありません。そういうデータベースがどこかにあったらよいのですが…

 

オノマトペと工学

オノマトペは、言語学はもちろん、私の専門である心理学でも研究対象となっていますが、それ以外の分野にも広がっています。そのうち、ある程度大きな割合を占めるのが工学・情報工学分野です。特に、HCI (Human-Computer interaction)という分野において、「より直感に近い形でコンピュータに入力を行う」ために、直感を言語化したものであるオノマトペを利用する、という観点の研究があります。オノマトペが直感に近いのかどうかというのは一つの議論になりうると思いますが、それはひとまず置いておいて、オノマトペが情報工学研究者の皆さんにかかるとどんな形になるのか、という例を一つご紹介いたします。個人的にとても気に入っている研究です。

 

オノマトペン

「オノマトペン」(http://sappari.org/onomatopen.ja.html)は神原啓介さんと塚田浩二さんが開発された、パソコンのお絵かきソフトなどで使用可能なインタフェースです。オノマトペンは、接続されたマイクに向かってオノマトペを喋ることで、描いた線が対応する形状に変化する仕組みになっています。たとえば、「ギザギザ」とマイクに言いながら線を引いていくと、その線がギザギザの線になるのです。言葉で説明するよりも動画を見て頂いた方が早いので、こちらの動画をご覧下さい。

いかがでしょうか。とても楽しそうではないでしょうか。描ける線の種類はあまり多くないのですが、「チョキチョキ」「ペタ」でカットアンドペーストができたり、「びよーん」で一部変形ができたりするなど、線を引く以外の機能もオノマトペで指示することができます。私はこちらの研究内容を人工知能学会のオノマトペセッションで初めて見て、ワクワクしたのを覚えています。後日プログラムも送って頂いて、いろんなところでデモをしました。

 

オノマトペと音声入力

オノマトペはその形式上音声入力に適しているそうです。というのも、オノマトペの多くは繰り返す形(ギザギザ・チョキチョキ、など)を持っており、同じフレーズを繰り返し入力することで、最初に入力されたフレーズが巧く聞き取れなかったとしても、後続の同じフレーズで再度入力することで、音声認識システムが認識結果を修正することができるのだそうです。オノマトペの構造は音声認識にとって都合がいい、という視点は目からうろこでした。もしかしたら、人に対する音声入力も同様の仕組みで、子どもに対してオノマトペや類似した構造を使いがちなのは、冗長性という機能を持たせているのかもしれません。ちなみに、こういった研究は、発達心理学という心理学の一分野で活発に行われていますので、もしかしたらすでに結果が出ているのかもしれません。

 

オノマトペンの実用化

こんな素敵なオノマトペン、ぜひ実用化して欲しい!と思ったのですが、実際に使ってみると、実は結構大変なのです。線を引いている間ずっと「ギザギザ…」と言っていなければなりませんし、発話行動はヒトにとってかなり負荷が高い運動なので、ずっと使い続けることを考えると、その他の入力方法(マウスクリックで選択、など)の方がずっと楽なのです。ただ、パソコンへの入力に習熟していない子どもやお年寄りが簡単にカットアンドペーストを使うための手段としては、素晴らしいものだと思います。まさしくHCIの一つの在り方だといえるでしょう。こちらのプログラムは、Windows用・Mac用共にリンク先の紹介ページからダウンロードできますので、気になる方は是非遊んでみて下さい(別途音声入力用のマイクと、マウスなどの描画インタフェースが必要です)。

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