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オノマトペハンター おのはん!|第4回 今回のオノマトペ:「もちもち」|平田佐智子

 

1月も半分過ぎてしまいましたが、あけましておめでとうございます。本年も「おのはん!」をどうぞよろしくお願いいたします。今年も月に一度ではありますが、フレッシュな獲物(オノマトペ情報)をお届けしてゆきたいと思っております。

 

さて、みなさま年末年始はどう過ごされましたでしょうか。ゆっくり休まれた方、変わらず忙しかった方など、いろいろな方がいらっしゃると思います。時に、お正月といえばやはり「お餅」です。お餅についてのトピックとしては、地方によって丸かったり角張っていたりと、形の違いがあったり、毎年お餅による死亡事故があったり(今年は特に話題になりましたね)、話題に事欠きません。ですがここは「おのはん!」ですので、お餅を形容する代表的なオノマトペである「もちもち・モチモチ」を取りあげ、「もちもち」がどのような対象の性質を表すのに使用されるのか、その広がりを見てゆきます。同じオノマトペがさまざまな対象と同時に使用されることで、意味が変化してゆく様子を観察していきましょう。

 

もちもちのはじまり

「もちもち」と「お餅」、どちらが先か、という問題はたびたび問われるのですが、とても難しい問題なので今回はメインでは取り上げません。ともあれ、お餅の性質を表現する語として「もちもち」がふさわしいことには、ある程度コンセンサスが得られていると思います。お約束として、いつものオノマトペ辞書(小野, 2007)で「もちもち」を見てみましょう。

 

「もちもち」

1) 食べ物に快いねばりけと弾力が感じられるさま。

2) 肉づきのふくよかなさま。むちむち。

1)の意味は「食べ物」に限定されていることと、味ではなく食べたときの感触にフォーカスされていることから、食感に関する表現を指していることがわかります。また、2)の意味は、どちらかというと「むちむち」の方が使用されやすいかもしれません。

さて、このような意味をもつ「もちもち」は、「お餅」の表現としてぴったりなのですが、最近「もちもち」が食感以外の分野で出現していることを確認しましたので、ご紹介していきましょう。

 

さわる「もちもち」

オノマトペ辞書には食感の「もちもち」と肉づきの「もちもち」がありましたが、こちらは後者の用法が近いといえます。数年前くらいから流行っているマイクロビーズを封入したクッションに、「もちもち」が使用されています。特に最近はこのマイクロビーズクッションが巨大化しており、「人をだめにするシリーズ」と銘打ってさまざまなメーカーが大きなもちもちクッション・ソファを製作しています。

 

ビーズクッション「人をダメにするもちもちクッション」もちもちシリーズ

https://item.rakuten.co.jp/emoor/fx-mochicube-xl/

 

こちらの「もちもち」は、弾力はあるものの粘り気があるわけではなく、ましてや食べ物ではないので、触り心地としての「もちもち」であるといえます。では、なぜ「むちむち」の方が使用されないのか、「むちむち」には食感の方の意味合いはないので、こちらを使用した方がわかりやすいのでは、と思ってしまいますね。推測ではありますが、「むちむち」は人のふくよかな肉づきの表現に特化している部分があり、ややネガティブな印象をもつ可能性があるからだと考えます。なるべく好印象を与えたい広告・宣伝では避けられるオノマトペなのかもしれません。

 

見る「もちもち」?

さて、こちらの「もちもち」事例はかなりマニアックかもしれません。私の周りは鳥類が好きな人が多く(鳥に限らず動物が好きな人が多いような気がしますが)、鳥関係の情報が多く入ってきます。それにつられて私もいくつか鳥の名前を覚えてきました(シマエナガなど)。その中で、「もちもち」としている鳥がいることを発見しました。それは、ある特定の状態にある文鳥、特に白い文鳥です。

 

「もちもち」#文鳥 #白文鳥 #文鳥もち #もちもち (Instagramより)

https://www.pictaram.org/post/Ba8B7s1Br07

 

このきめ細やかな羽毛の表面、丸みを帯びたフォルム、真っ白な様子から、「お餅」と呼ぶにふさわしい見た目をしていらっしゃる白文鳥さんです。ただ、あくまでこの印象は見た目から推測されるもので、実際に触ればおそらく羽毛の感触がするのだろうと思います。もしかしたら重なった羽毛から弾力が感じられるのかもしれませんが、こればかりは触ってみないとわからないところです。近々実地調査(文鳥カフェ)に行ってみたいと考えております(もしくは、文鳥の飼い主さんのレポートをお待ちしております)。

 

魅惑の「もちもち」

さて、今回は食感→触感→見た目の触感へと共起対象が変化する「もちもち」についてみてきました。実は私の好きなオノマトペのかなり高ランクにも入っているのですが、なぜこんなにも「もちもち」が魅力的なのか、折に触れて考えています。

心理学では有名なハーロウの代理母実験では、母親と隔離されてしまった赤ちゃんのアカゲザルは、針金でできていて哺乳瓶を持った代理母(模型)と、柔らかい布でできているけれど哺乳瓶を持っていない代理母の中から、後者の肌触りの良いものを選んだとされています。元々我々は動物の肉体の持つ温かさ・柔らかさ・もちもちさに安らぎを感じ、それをもとめる性質があるのでしょう。そのため、それに近いもちもちさを持つ物を身近に置くことで、リラックスすることができるのかもしれません。

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