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オノマトペハンター おのはん!|第5回 今回のオノマトペ:「サクサク」|平田佐智子

 

チョコの季節

寒い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。周りがバタバタとインフルエンザで倒れているので、全く気を抜けない日々を過ごしております。よく寝て温かくしてお過ごし下さい。

この時期はイベントらしいイベントは入試くらいしかないかなぁ…と思っていたら、一番大きなイベントを見逃しておりました。バレンタインデーですね。ハロウィンやイースターと比べると、やや古典的な感じがしたり、社会的にいろいろと負担になっている側面もありますが、個人的にチョコレートは大好きなので、様々なチョコが見られるうれしい季節ではあります。

 

チョコレートのカタログ

この時期は様々な店舗で特設のチョコレート売り場ができるのですが、中でも圧巻はやはり百貨店のチョコレート売り場と言えると思います。また、最近注目されているのが、各百貨店が発行しているチョコレートのカタログ(ガイドブック)です。会場で取り扱うチョコレートの情報はもちろん、チョコレートそのものや原料のカカオのこと、さらにチョコレートに関わる人々のインタビューなども載っていて、チョコ特集の雑誌のようになっています。こちらのカタログは無料で配布されているため、すぐになくなってしまうようです(欲しかったのですが、1月の時点でもう無くなってしまったようです…)。

今回のオノマトペはこちらのチョコレートカタログから探してみることにします。食べ物であるチョコレートとオノマトペ、結構相性が良さそうなのですが、心配なのは「バレンタインにふさわしい高級チョコレート」とオノマトペがあまりふさわしくなさそうな点でしょうか…ともかく、カタログを開いてオノマトペをハントしてみましょう。

 

チョコと値段とオノマトペ

先ほど「カタログが手に入らなかった」と言っていたのに、なぜカタログが見られるのか?と不思議に思われるかもしれませんが、このWebコラムと同じように、カタログもデジタル版が公開されているのです。数あるカタログの中から、今回は大丸松坂屋東京店のチョコレートカタログを選択しました。分析するにあたり、以下の情報をカタログ内から収集しました。なお、対象としたのはチョコレート(であることがわかるもの・お酒が掲載されていましたが対象外とする)であり、バージョン違いでも別の物とカウントしました。また、内容は同じだけど量が異なるだけのパターン(6個入りと9個入りがある場合)は、最大量の方を1件としてカウントしました。

 

・チョコレートの説明にオノマトペが含まれているかどうか(含まれていれば、具体的なオノマトペの内容)

・チョコレートがいくつ入っているか

・チョコレートのお値段

 

オノマトペ以外の2つの情報(内容量と価格)は、チョコレートの価格帯を捉えるための情報です。もしかすると「高いチョコレートには、オノマトペが使われにくい」などの仮説を検証するのに役立つかも知れないと思い、記録することにしました。記録を始めてからこれがかなり難しいことに気づくのですが…

 

データの分析

それでは、みつかったオノマトペを見てみましょう。なお、全体で106件のチョコレートがあり、そのなかで説明にオノマトペが含まれていたのは18件(16.98%)でした。

 

・サクサク (3件)

・キラキラ (2件)

・ザクザク、ザクッ

とろとろ、とろり、とろっ

フワリ、ふんわり、ふっくら

しっとり、すっきり、じっくり、ぴったり、もちもち、ゆっくり、カリッ (各1件)

 

結果的に「サクサク」が一番多く見つかりました。チョコレートはサクサクという音を出すはずがないので、チョコレート味のサクサク音がするもの、あるいはそういったものにチョコレートがかかっているものであることがわかります。次点の「キラキラ」は、「ジュエリーのようにキラキラした」チョコレートという、チョコレートの見た目に注目した表現に含まれていました(ちなみに、どちらもGODIVAです)。チョコレートそのものの食感を表現しているのは「とろとろ」系のみで、その他はお酒などの香りの表現や、使用されている生地や混合されているナッツなどの食感、調理工程の説明にオノマトペが使われる、という結果になりました。

また、オノマトペが含まれるチョコレートと、そうでないチョコレートの価格帯に比較することも考えていたのですが、チョコレートの内容量が「個数」と「重量(g)」の2種類あり、どちらかしか書いてなかったため、比較が難しくなってしまいました。そのため、重量表記しかないチョコレートは比較対象から除外しました。また、個数に関しても、大きなチョコレートバーが「1本」換算であったりするなど、1個あたりのばらつきが大きいので、本来比較できないものになりますが、データを取ってみたので一応参考までに集計してみました。

 

・オノマトペが含まれるチョコレートの1個あたりの平均価格:563.5円

・オノマトペが含まれないチョコレートの1個あたりの平均価格:415.1円

 

先述の通り、比較には特に意味が無いのですが、オノマトペが含まれる方が平均価格が高い、という結果になりました(統計的な分析は無意味なのでしていません)。おそらく、ですが、キラキラのGODIVAが含まれているのが大きな要因であるように思います。

高いチョコレートにだってオノマトペは使われる!のですが、その使われ方は、チョコレートのそのものの食感を表現するのではなく、見た目や混合物の特徴を表現する方に効果的に使用される傾向があるということがわかりました。

 

目grepの思わぬお邪魔物

ちなみに、今回のような「テキストの集合からオノマトペを検索する」類の分析をする場合、著者はひたすらテキストに目を通してオノマトペがヒットすればそれを書き留める、という、いわゆる「オノマトペ目grep」をしています(目grepについては情報系の定義をご参照下さい)。オノマトペの数はそこそこあり、また文脈によって「文字列としてはオノマトペだけど、文脈的に明らかに同音異義語である」という場合が結構あるので、目grepするのが手っ取り早いことが多いのです。もちろん、きちんとテキスト化されたデータが大量にある場合は、検索していった方がおそらく効率はいいですし、確実です。

今回のデータにおいても、「お探しのオノマトペだと思った?残念!同音異義語でした!」パターンがいくつかあり、検索のお邪魔者となっていました。具体例を挙げると、「パリ」や「ボンボン」がややこしかったです。言うまでもありませんが「パリ」は何かが割れているわけではなく都市名ですし、「ボンボン」は何かが跳ねている音ではなく、リキュールボンボンなどの、飴のようなお菓子を指す言葉です。お菓子文脈では頻出するこれらの同音異義語は、機械的に検索する場合でも必ず抽出されるので、これらをうまく除去できるシステムができれば、というのはオノマトペ研究者の悲願の一つであるのかもしれません。

そして、チョコカタログを凝視し続けたおかげで、食べていないのにお腹いっぱいになってしまい、しばらくチョコはいいや…とうんざりしている著者なのでした。

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