★この記事は、2026年5月7日までの情報を基に書いています。
5月の連休時、全国的にはつつじや藤の花が咲いている心地よい季節ですが、イラン情勢の先が見えず世界的に不安定な時期になっています。
それでも、高市政権による外国人施策は進められていて、次々と厳しい外国人規制がかけられています。政府の外国人施策は2027年度予算にどのように反映するのでしょうか。7月ごろには、来年度の概算要求が出そろいます。そこでは、「共生」のための日本語教育の施策の枠組みにどの程度の金額が振り分けられるかで、今後の日本語教育の方向性が決まります。来年度の日本語教育施策作成のために、日本語教育関係者ができることがあるはずです。それぞれの立場で、日本語教育課を応援することを考えましょう。
1. 2026年度予算と2027年度概算要求
(1)ますます進む日本語教育施策の厳格化
〇在留資格「留学」について
この施策は、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を踏まえていると書かれています。2026年10月期生から適用です。
2026年4月27日に出入国在留管理庁から「日本語教育機関に入学する者に係る運用の一部見直しについて」が公表されました。以下に、要点を説明します。
https://www.moj.go.jp/isa/10_00258.html
- 入学選考時の語学能力の確認
これまでは、入学時の日本語能力として150時間以上の日本語学習歴A1相当の日本語能力としていましたが、今後は試験の証明書又は面接による確認が必須となりました。入学に必要な語学力は日本語教育の参照枠のA1相当で、面接(「概要資料」では「オンライン可」となっています)・筆記試験ではN5の問題集から出題することになりました。これは、「日本語別科に対しても適用されます」となっています。この変更は、「概要資料」では2026年7月以降対応予定となっています。
同じサイトの「概要資料」では、「CEFR・A1相当以上」となっていて、わざわざCEFRの注も付けています。この点については、以下の「技術・人文知識・国際業務」の項でも触れます。
なお、同じ出入国在留管理庁の「日本語教育機関への入学をお考えのみなさまへ」では、現在でも「日本語教育の参照枠」A1相当以上の試験として、12種類の試験を挙げています。
- 資格外活動の実態把握や指導の開始
これは、「概要資料」では2026年4月運用開始となっています。サイトの本文と「概要資料」では、執行日が入っているという点で違っていますので注意してください。
「概要資料」では、3か月に1度、①許可の有無、②活動先、③活動内容、④活動時間を確認となっています。また、「入管庁から情報提供する、複数ワークに従事する者については、とりわけ慎重な確認をする」、「不法就労が疑われるケースについては、最寄りの出入国在留管理官署に報告すること(入管庁において内容に応じて調査し、在留審査に反映させる)」とも書かれています。
ここでも、サイトの本文と「概要資料」では、書かれていることが違いますので注意してください。
〇在留資格「技術・人文知識・国際業務」について
近年入国が増えている在留資格は、「永住者」と「技術・人文知識・国際業務」です。今回の厳格化も、この二つの在留資格が主なターゲットです。「永住許可に関するガイドライン」は、2026年2月21日に改訂されています。
「技術・人文知識・国際業務」の改正は、2026年4月15日になされています。以下、「技人国」と略称します。
https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html
ここで挙げられている資料の中では、「技人国」全体の厳格化については「【統合版】「技人国」の在留資格の明確化等について」を見てください。全体で31ページもあります。ここでは、主要な点のみ説明します。「技人国」は本来日本の大学を卒業した留学生に対して与えられた在留資格でしたが、近年非熟練労働者がこの在留資格で入国していることへの対応策と見られます。
- 許容される実務研修
ここでは、非熟練労働者採用の抜け道となっている「実務研修」の中身を明確にして、在留期間中の活動が「技人国」に該当しているかどうかをチェックすることになっています。
- 翻訳・通訳業務等の「言語能力を用いる対人業務に従事する場合の在留資格の明確化」
「主に言語能力を用いる対人業務に従事する場合は、申請人がCEFR・B2相当の言語能力を有していることを前提とし」となっています。下線は原文にあるものです。
「業務上使用する言語に応じ」、JLPT・N2以上かBJT400点以上が必要で、「中長期在留者として20年以上本邦に在留していること」、「本邦の大学を卒業し、又は本邦の高等専門学校若しくは専修学校の専門課程若しくは専攻科を修了していること」、「我が国の義務教育を修了し、高等学校を卒業していること」となっています(田尻注:ここでの「本邦」と「我が国」の区別は不詳)。
さらに、「日本語以外の言語能力について」では、「当該言語が申請人の母国語又は公用語であること」(田尻注:申請者の習得言語と国籍を結びつけることは問題だと考えます)、「当該言語に係る試験により、CEFR・B2以上の言語能力を有していることが証明されていること」、「申請人が業務上必要な言語能力を有していることが明らかに評価できる合理的な理由」も挙げられています。
この言語能力資料が必要な企業は、1,000万円以下の法定調書合計表(田尻注:源泉徴収票などを指す)を提出している企業(カテゴリー3)か、カテゴリー1~3に該当しない団体・個人となっています。つまり、中小企業や個人経営の場合にのみ必要となっているのです。
日本の大学卒でなく、通訳やホテルのフロント業務に携わる人がN2を取得するのは、かなり難しいと考えます。
ここでも、言語能力については、在留資格「留学」同様CEFRを使っています。日本語以外の言語を用いる職業ならCEFRでも理解できるのですが、日本語についてはJLPTかBJTなので、日本での就業についてはJLPTが大きな位置を占めることがはっきりしました。念のために言えば、田尻はCEFRと「日本語教育の参照枠」を同じものとは思っていません。したがって、現時点で、田尻は「技人国」の日本語能力評価では、「留学」で評価された12種類の試験が利用されるかどうか不明と考えています。今後の出入国在留管理庁の説明を待ちたいと思います。
他の職種については、ここで詳しく触れる余裕はありません。
〇大学等での留学生の在籍管理の徹底
2026年4月28日に、文部科学省高等教育局参事官(国際担当)から、「『外国人留学生の在籍管理が適正に行われない大学等に対する指導指針』の運用に関するガイドライン」が公表されました。大学における日本語教育について文部科学省が言及するのは、初めてだと思います。以下に、気を付けるべき点について説明します。
- 「日本語など必要な能力の基準の明確化及び適正な水準の維持」
日本語など必要な能力の基準(「日本語教育の参照枠」B2以上が目安)を募集要項で明確化することとしています。
認定日本語教育機関以外の日本語教育機関によるB2以上の証明書を提出する志願者や、告示日本語教育機関による600時間以上の授業を受けた証明書を提出する志願者には、筆記・面接試験(オンライン可)による確認を推奨しますが、客観的な証明書の確認だけでは不十分な場合は筆記・面接試験(オンライン可)による確認が必要としています。また、前籍校での出席率を確認することにも触れています。
適切な受け入れと定員管理をし、安易な受け入れの防止に留意することとなっています。
長期欠席者や成績不良者への対応や資格外活動状況の把握も必要としています。
これらに反した場合は、「改善指導対象校」と指定されます。2026年2月19日には、東京福祉大学と名古屋経営短期大学が指定されています。
(2)2026年度文部科学省日本語教育関連の予算について
2026年度予算は高市政権の外国人施策が出る前に作成されたとはいえ、基本的には外国人との「共生」の考えを基に作成されています。この予算は、削除されることなく、予算案どおりに成立しました。以下の資料での単位の表記は、元の資料のままです。そのため、合計の数字が合わない箇所があります。
〇総合教育政策局日本語教育課担当予算
以下、予算額については、昨年度の予算額との増減額も示すことにしました。
- 外国人材の受入れ・共生のための地域日本語教育の推進(拡充) 615百万円(65百万円増)
地域の日本語教育の総合的な体制作りの補助などを含みます。 - 日本語教室空白地域解消の推進強化 131百万円(16百万円減)
日本語教室がない市区町村への支援です。最近外国人居住者が増えている地域に日本語教室を立ち上げるのには、まだまだ必要な事業です。 - 日本語教育ニーズの多様化を踏まえた教育カリキュラム編成・質向上支援事業(新規)
232百万円(これは、2025年度補正予算で対応しています)
「就労」分野における企業と日本語教育機関の連携による教育カリキュラムのとりまとめを目指しています。 - 日本語教師の養成及び現職日本語教師の研修事業 212百万円(17百万円減)
ただし、この事業には2025年度補正予算で30百万円も付いています。
日本語教師の養成に必要な研修、日本語教師養成機関の拠点事業などがあります。 - 省庁連携日本語教育基盤整備事業等 8百万円(1百万円減)
日本語教育大会や日本語教育コンテンツ共有システムの運用などです。 - 日本語教育機関認定法等の施行事務に必要な経費 369百万円(23百万円減)
ただし、この事業には2025年度補正予算で88百万円が付いています。
日本語教育機関の審査、日本語教員試験の実施、日本語教育機関認定法ポータルの運営などです。 - 条約難民等に対する日本語教育 236百万円(増減なし)
〇総合教育政策局国際教育課担当予算
- 外国人児童生徒等への教育の充実 15億円(2億円増)、2025年度補正予算 0.2億円
外国人の子供の就学促進事業 95百万円(増減なし)
帰国・外国人児童生徒等に対するきめ細かな支援事業(拡充) 1,396百万円(242百万円増)
日本語指導が必要な児童生徒等の教育支援基盤整備事業 12百万円(6百万円減)
帰国・外国人児童生徒教育等に係る研究協議会等 0.7百万円減(増減なし)
外国人児童生徒教育等に対する指導及び支援体制の充実に関する調査研究事業(新規)2025年度補正予算で22百万円が付いています。
〇初等中等教育局初等中等教育企画室担当予算
- 夜間中学の設置促進・充実 1億円(増減なし)
夜間中学のさらなる設置促進 100百万円
夜間中学の教育活動の充実 12百万円
なお、夜間中学に関しては、「令和7年度『夜間中学の設置促進・充実事業』(調査研究)が公表されています。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/yakan/1416266_00017.htm
全国の夜間中学の取り組みが紹介されていて、大変なご苦労をなさっている様子が分かります。
ただ、そこに「夜間中学における日本語指導ガイドライン 夜間中学に着任された先生方へー日本語指導の『はじめの一歩』―」が付されていますが、それは10ページしかなく、全国の取り組みでの課題解決にはほど遠いものだと思いました。日本語力の把握のためには「ことばの力のものさし」の紹介しか示されていません。もっと詳しいガイドラインを作ってほしいと思いました。
イノベーション・デザイン・テクノロジーズ株式会社の「令和7年度 夜間中学における日本語指導に関する実態調査研究 報告書」(2026年3月)も公開されています。
ここでは、文部科学省以外の省庁の予算を扱う余裕はありませんので、皆さんで法務省・厚生労働省・総務省・外務省(海外の日本語教育を扱う国際交流基金の予算)の予算を調べてみてください。
(3)2027年度概算要求の重要性
2026年度概算要求の段階では、まだ高市政権による厳しい外国人規制を示した「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」が示されていませんでした。ところが、現在では「未草」の第66回や第68回の記事に書いたような施策がすでに決定・実施されています。このままでは、これまで行ってきた文部科学省の共生のための日本語教育が規制のための日本語教育に変えさせられる可能性が出てきます。つまり、2027年度概算要求では、概算額削減の圧力がかかるかもしれないと危惧しています。
だからこそ、日本語教育課には、2027年度予算獲得にためにがんばってほしいと強く願っています。まさに、何のために在留外国人への日本語教育施策を行うのか、という意味が問われているのです。
気になる記事を見つけました。2026年4月29日の時事通信の記事で、見出しは「日本語学習課程、28年度試行 在留者の考慮要素に 政府検討」というものです。本文では、「政府が外国人の在留審査を巡り、日本語や日本の文化、ルールに関する学習プログラムの受講を『考慮要素』と位置付け、2028年度からプログラムを試行する方向で検討していることが分かった」、「27年度中にプログラムの要領を作成し、受講履歴を把握するシステムの開発などを行う」となっています。この方向性は、すでに自由民主党のサイト「国民の安全と安心を守る外国人政策」の中に「日本語や文化、制度、生活ルールなどの包括的な学習プログラムを創設します。(中略)プロジェクトチームが作業を始めています(2026年3月)」とあります。4月28日に公表した「チラシ」にも出てきます。他の高市政権の外国人施策は自由民主党の「外国人政策」を基礎に作られていますので、今回の記事は、実現性があるものと田尻は感じています。
ただ、日本人の生活ルールは都市部や農村部でも異なり、居住地域や年齢層でも異なっていることは、日本人自身も感じているはずです。それを全国一律に決めてそれを外国人に理解させ守らせることには、問題が多いと感じています。
外国人が日本に入国する際に、一定の時間をかけ、日本語を使い、日本人との摩擦を避けられるようになるための研修プログラムのイメージを、田尻は現在持っていません。そのようなプログラムを作るためには、かなりの作業量とそのための時間が必要だと考えます。
2026年5月6日の朝日新聞の記事には、「入管庁は想定される(田尻注:在留手数料の値上げ額)使途として、(中略)外国人が日本語や日本の制度・ルールを学ぶプログラムの創設(後略)などを挙げている」とあります。この記事での想定額は間違いで、実際には衆議院法務委員会で出入国在留管理庁次長は、690億から920億と答えています。この取材記事によれば、出入国在留管理庁が日本語や日本の制度・ルールを学ぶプログラムを作るとなっています。田尻は、日本語教育に詳しくない出入国在留管理庁が日本語教育のプログラムを作ってはいけないと考えています。ここでも、日本語教育課にがんばってもらいたいと強く願っています。
このようなことを考える際に参考になるのは、韓国の外国人受け入れ施策です。田尻は、春木育美さんと吉田美智子さんの『移民大国化する韓国 労働・家族・ジェンダーの視点から』(2022年、明石書店)から情報を得ています。以下、同著の「外国人労働者と韓国語教育」(54ページ~)の内容を分かりやすくするために、田尻が大事な点を列挙します。
韓国入国前に「雇用許可制韓国語能力試験」に合格する必要があります。この試験は政府公認の試験で、国立国際l教育院で問題を作成します。「読む」・「聞く」の2技能のみの試験で、約150時間の学習で合格と設定されています。得点の有効期間は2年間で、その間に就労先と雇用契約が結ばれなければ再度受験となります。
韓国の雇用労働省は「韓国語標準教材」を各国に配布し、試験問題集や7言語での自習用の韓国語入門テキストを公開しています。問題は、類似の問題が繰り返し出題されるため、標準教材の反復学習により、ある程度の点数が得られてしまうことです。
就労先との契約が済んだ者は、入国前に自国で45時間の事前就業教育を受けますが、韓国語学習は20時間しかなく、あまりに短くてお粗末との指摘が絶えません。
入国後は「入国後就業教育」を受けます。韓国政府の委託を受けた機関や団体が2泊3日の教育をしますが、韓国語の学習時間は1時間程度の基本会話が全てです。受け入れ企業では、韓国語運用能力が低いため生産性が維持できないと不満が大きいということです。ただ、入国後は、雇用労働省が全国に設置した「外国人労働者支援センター」において無償で韓国語を学べる制度があります。
地方政府でも、独自に予算を付けて、外国人労働者のための韓国語講座を開講しています。
質の高い韓国語教育のために、韓国政府公認の1級から3級までの「韓国語教員資格」制度があり、取得要件や難易度は高いということです。
つまり、韓国では、国が作成した韓国語テキストがあり、体系的な訓練を受けた韓国語教師がいて、国家予算で全国各地に外国人支援センターがあり、無料の韓国語講座が開設されているのです。
これでも韓国では問題が起こっていることを考えると、日本での外国人労働者への日本語教育施策は、韓国の制度の問題点を克服したものにならなければなりません。今後、日本では、しかるべき組織で、十分な時間をかけた、共生社会実現を目指した制度構築が必要だと考えます。
(4)日本社会における日本語教育学会の役割を考える
上に述べたような状況を前提に、2026年3月31日に公表された日本語教育学会の「第3次中期計画(2026-2030年度)を読んだコメントを書きます。
「はじめに」に最初の段落で、日本語教育推進法と日本語教育機関認定法に触れていますが、そこにはこれらの法律を実際に国会での成立に尽力した国会議員への感謝の言葉がありません。また、日本語教育推進法の成立に「本学会もその策定に貢献した」と書いていますが、果たしてそうでしょうか。具体的に学会が何をしたのかを示してほしいと思います。
この段落で絶対に触れなければいけないのは、日本語教育の担当部署が文化庁の国語課の中にあったものが、現在は文部科学省総合教育政策局の中に日本語教育課として独立した部署になっているという大きな変革です。第3段落では「必要な施策を立案・実施し、支援を展開することも急務です」と、いかにも学会が施策を立案・実施できるように書いているのは事実に反します。
この「はじめに」を書いた西口さんの考えは、2026年度春季大会の大会プログラムの「開催のご挨拶」にも表れています。関係閣僚会議の有識者会議の意見書の「『秩序は社会の土台、多様性社会の力であり、この両者を両立させることが、真の秩序ある共生社会への道である』と高らかに宣言しています」という文です。「高らかに」とは、全面的な称賛を現わす語です。「秩序ある社会」という表現がどれほど外国人への規制に使われているかが、多くの人に問題にされているかをご存じないのでしょうか。田尻の現状認識と違いすぎる点には、驚かされます。
このような、行政を嫌う点や社会的に広く共有されている認識と異なる点は、「3.事業の対象地域・対象者」に国会議員や政府の担当部署がないことにも通じます。どうして日本語教育学会は、これほどまでに行政との接触を嫌うのでしょうか。日本語教育の過去の歴史は、その時々の政治情勢に振り回されてきたことを忘れたのでしょうか。批判するだけではなく、積極的に提案し、より良い施策を作り上げるように協力すべきと、田尻は考えます。
学会としては、体制面での問題点を明らかにしています。「骨子Ⅱ 管理体制の整備と財政の健全化」に「特に、事業担当者である理事・委員会が、監理業務の現状や課題を事業ほど十分に(田尻注:この箇所は文意不明)把握していなかったことも判明した。さらに、財政逼迫の影響が大きくなるとともに管理面の課題が大きくなり、これを解決するには、事務局のみならず理事・委員会もともに管理体制を検討する必要があることがわかった」と書いています。要するに、学会の中心である理事や委員会の委員の現状に対する問題意識が低く、学会運営も財政的に逼迫しているということが分かったと他人事のように書いていますが、学会としてはかなり行き詰っているということでしょう。このことを、学会員一人一人がどれほど自分事として捉えるかが喫緊の課題となっていると考えます。
このような学会では、日本語教育課の支援をするのは望むべくもないかもしれませんが、心ある学会の研究者の中には、黙々と日本語教育施策の実行を手伝っている方も多くいます。この声を挙げない研究者や日本語教師に、田尻は満腔の敬意を表します。
田尻は、日本語教育学会が日本社会の課題解決に積極的に関わるべきだと考えています。そのためには、日本語教育の世界以外の外国人の人権に関わっている行政書士・弁護士・関係する他の学会との連携を模索すべきです。在留外国人の人権保護のための日本語学習の必要性を訴えていくべきだと考えます。
2. 日本語能力試験(JLPT)の締め切り前倒しについて
日本国際教育支援協会(JEES)は、2026年第1回日本語能力試験について3月16日の「試験実施案内」では、「会場の都合により、申込受付期間内でも受付を締め切る場合があります」と書いていました。実際には、4月7日の締め切りが、N4では3月25日、N3では3月27日になりました。これは、JLPTのような公的な性格を持つ試験ではありえないことです。これにより、多くの受験者が受験の機会を奪われ、在留資格更新の面でも影響が広がっていると思われます。この点についてのJEESからの説明は、ホームページに出ていません。
現在のJLPTは、日本語を勉強している世界中の学習者が自分の日本語力を測るための試験ではなくなっていて、来日予定または現在在留している外国人の在留資格の審査に使われるようになっています。だからこそ、この試験の締め切り前倒しは社会的な問題となるのです。
受験者の増加が見込まれているにも関わらず、余裕を持った体制を取ってこなかったのは、明らかにJEESの準備不足です。
なぜN3とN4の受験生が増えたのかについては、いくつかの意見がSNS上に出ていますが、田尻が納得する意見は書かれていません。
現在、在留資格の点では、JLPTのN3は特定技能2号への移行やトラック運転手の免許取得の際に必要なもので、N4は特定技能1号への移行に必要なものです。
なぜこの二つの試験の受験者は増えたのかについて、田尻の推測を述べてみます。この推測の根拠となるデータはありませんし、今後もこのようなデータは出るとは思えませんので、あくまでも田尻個人の推測です。
- N4受験者が増えたのは、技能実習2号の修了者でN4合格が必要な者(移行分野が異なる場合や、転籍などで技能実習2号が「良好に修了していない者など」)や、「技人国」での更新に必要な日本語力が足りない者などが特定技能1号への移行を目指したためではないでしょうか。
- N3受験者が増えたのは、「永住者」の資格審査が厳しくなり、特定技能2号での永住資格を取るように、方針を変えた人がかなりいたためではないでしょうか。
いずれにせよ、N3とN4の受験者にとっては、この試験の合格は在留資格更新に関わる大事な意味を持っています。それだけに、受験資格を失うことは、その人にとっては在留資格更新・変更の機会を失うことを意味します。
上に述べたように、最近の出入国在留管理庁は、在留資格更新や変更の際に「日本語教育の参照枠」ではなく、CEFRのレベルを使おうとしているようにみえます。CEFRのレベルを使う限り、JLPTの合否が重い意味を持ってきます。今後、JEESがどのような対応をとっていくのかを注視しましょう。
また、JLPTは主として理解力を測る試験ですので、表現力は測れません。今後、外国人受け入れにあたって、外国人の理解力だけで入国の可否を決めるという日本政府の姿勢が妥当なものかどうかも検討する必要があると田尻は考えます。
外国人の入国・在留審査に関わるもう一つの試験に、国際交流基金日本語基礎テストがあります。この試験については、実態がよく分かっていませんでしたが、次の論文に初めて詳しい実態が示されています。
黒田亮子・熊野七絵・戸田淑子「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)受験者の特徴―特定技能制度開始から6年間の実施結果とアンケートをもとにー」(2026年、『国際交流基金日本語教育論集』22号)
このテストは、海外11か国24都市と日本国内11都道府県で実施されています。受験者の多い順では、インドネシア(168,077人、45.1%)、ミャンマー(55,564人、14.9%)、ネパール(42,833人、11.5%)となっています。また、この試験未実施のベトナム国籍の受験者はカンボジアやタイで受験していて、カンボジア・タイの総受験者の3割を占めているということです。
受験者数と「基準点」到達率は以下のとおりです。
| 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 合計 | |
| 受験者合計 | 7,971 | 17,582 | 30,596 | 46,632 | 103,183 | 166,953 | 372,917 |
| 「基準点」到達率 | 34.3% | 43.7% | 41.5% | 42.0% | 42.7% | 46.6% | 44.1% |
分野別では、介護 31.8%、農業 18.2%、飲食料品製造業 14.6%、外食業 10.7%、予定なし 8.9%となっています。
技能実習・研修を経験して、特定技能1号で再入国を目指して受験するパターンが多いとも書かれています。
その他、興味深いデータが多く掲載されていますが、田尻としては、特定技能1号で入国した人の何%がJFT-Basicを受けているかの実数を知りたいと思っています。国際交流基金と出入国在留管理庁が協力して示してほしいと願っています。
3. 育成就労制度運用要領の改正について
2026年4月6日に、出入国在留管理庁から「育成就労制度運用要領の一部改正について」が公表されました。認定申請の手数料や役員が外国人の場合などについての改正事項があります。
ここでは、「育成就労制度運用要領~関係者の皆さまへ~」という全体版にある日本語能力に関する項目を示します。この項目は、すでに決まっているものです。
https://www.moj.go.jp/isa/content/001460272.pdf
以下、スペースの関係で、日本語教育の参照枠A1相当の日本語能力に関する件のみ扱います(4-41ページ以降)。育成就労制度では、日本語学習が義務付けられています。
- 育成就労計画の認定の申請時点でA1相当の試験に合格していない場合は、320時間の講習の内、認定日本語教育機関の「就労」課程の日本語科目100時間を受講する必要があります。
経過措置として、登録日本語教員の講習でも可とされます。この場合、「令和7年度育成就労制度における日本語講習モデルカリキュラム」を参照して実施することとなっています。対面以外で実施する場合は、インターネット環境を整えて、オンラインで同時かつ双方向で行うこととなっています。
大事な情報ですので、各自熟読してください。
4. その他の大事な情報
〇認定日本語教育機関の認定結果
2026年4月30日に、認定日本語教育機関の認定結果が公表されました。
申請機関総数は100機関で、認定とされた機関は32機関です。「留学」分野で法務省告示校が「その他」の新規校を上回ったのは初めてです。従来から留学生を受け入れている日本語教育機関が、やっと認定に本腰を入れ始めたということでしょう。
同日に、登録日本語教員養成機関の登録結果も公表されています。19機関申請して、13機関が登録されました。
ただ、大学は厳しい状況になっています。
財務省の2026年4月23日に開かれた財政制度審議会財務制度分科会の資料34ページの「高等教育の質の向上と規模の適正化③」では、「定員割れ私立大学における授業の例」を挙げて、2040年までに「少なくとも学校数は250校程度、学部定員は18万人程度の縮減が必要と推計される」としています。
また、2026年4月27日の日本成長戦略会議人材育成分科会の資料2ページでは、2040年には、「大卒・院卒 文系」は、76万人余るという試算が出ています。
https://www.mext.go.jp/content/20260427-mext-kanseisk01-000049530_2.pdf
コストパフォーマンスや成果主義という考えを教育の世界にそのまま持ち込むと、このような発想になります。教育に携わる人は、このような考え方に逆らわずに受け入れるのでしょうか。
日本語教員養成課程を持つ大学も、この流れに逆らえません。大学教員一人一人がどうすれば生き残れるかを考える時です。
〇移住連連続講座の鈴木さんの資料
2026年4月27日に、移住連連続講座で国士舘大学の鈴木江理子さんの「『国民の安心・安全』の名のもとに強化される外国人管理と排除」というオンライン講座が開かれました。全64枚のスライドの資料は田尻には大変有益なものでしたが、この資料は参加者以外には公開されていません。
〇国会での日本語教育関連の審議
- 2026年4月27日の参議院予算委員会で、公明党の里見隆治議員が日本語教育の重要性について高市総理に質問し、重視している旨の回答を得ました。
- 2026年4月21日の衆議院法務委員会で、移住連理事で弁護士の鈴木雅子さんが参考人質疑で意見を述べました。移住連のサイトに全文が出ています。
- 2026年4月17日の衆議院法務委員会で、在留手数料値上げの件が討議され、日本語教育についても検討されました。
- 入管協会の『国際人流』2026年4月号は、「新・総合的対応策を読む!」の特集が掲載されています。その中で、カイ日本語スクールの山本弘子さんが、「『日本語教育の参照枠』として発表されてから、まだ3年しか経っていません」というのは間違いです。すでに5年経っています。山本さんは、一貫して政府の方針に批判的です。
※今回も予定の枚数を大幅に超過しました。それでも、扱えなかった大事な情報がたくさんあります。日本語教育に関わる情勢は、日々大きく変わっています。SNS上では、不確かな情報が多く流れています。どうか自分で情報を確かめてください。そうしないと、日本語教育を巡る動きがおかしな方向に向かいかねません。






