第38回 新しい日本語教育の仕組みができた|田尻英三

★この記事は、2023年2月20日までの情報を基に書いています。

今回は、有識者会議の報告が公開されるのが2月中旬になったため、前回の記事との間隔が空いてしまいました。

今回の前半は、有識者会議の報告の要点のみを紹介し、後半は関係省庁間で検討している「日本語教育推進会議」の内容や日本語教育推進議連の内容を紹介します。

この仕組みは、現在開かれている通常国会で来年度予算が成立し、新しい日本語教育の法案がこの通常国会で成立すれば、具体的に動き出します。それまでは、この仕組みは施策の方向性を示しているにすぎず、具体的な事柄は新たに作られる審議会で検討されることになっています。したがって、ここでの説明は、仕組みの実施段階での具体的な事例について触れることができないことをご理解ください。田尻としては、法案成立までに不確かな情報が流れることを心配しています。

この有識者会議の報告を含めた文化庁の施策について、誤解を招くような論文・著作・日本語教育学会のTVシリーズ(1回目と2回目では内容の説明が違いますので気を付けてください)などが出版・公開されています。この件については、次回の「未草」の原稿で扱います。

1.有識者会議の報告

有識者会議の報告は、1月25日の文化庁国語分科会日本語教育小委員会の配布資料で見ることができます。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/nihongo/nihongo_117/93833701.html

ここでは、46ページもある報告の詳細を説明する余裕はありませんので、大事な点のみを説明します。皆さんは、必ず本文をじっくりと読んでください。大変重要な多くの情報が、丁寧に書かれています。

(1)仕組みができるまでの経過

報告の「1.日本語教育の質の維持向上に関する仕組みの創設について」ではこの仕組みができるまでのいろいろな会議の説明と、現状の課題が述べられています。

特に、日本語教育全般に関する課題、留学生対象の日本語教育の課題、地域の日本語教育の課題、就労者に対する課題等々は、なぜ新たな日本語教育の仕組みを作らなければいけなかったかという根拠とも言うべきもので、全ての日本語教育関係者に知っておいてもらわなければいけない内容です。

(2)日本語教育機関の認定制度について

従来の法務省告示校という扱いとは違い、教育課程や教員配置等が一定の基準を満たして教育課程を適正・正確に実施する機関として保証するものとして文部科学大臣の認定を受けられることになります。したがって、認定を受けた日本語教育機関は情報発信・関連施策との協力・継続的な質の保証改善をしなければなりません。大事なことは、以下の認定の基準です。

①   「留学」・「就労」・「生活」に必要な教育課程を設ける

日本語教育機関は、従来の「留学」だけではなく、「就労」・「生活」にも対応するように書かれている点に注意してください。「就労」・「生活」の外国人を受け入れようとする場合は、必要な教育課程を設けなければいけませんが、日本語教育機関のこれからを考える時には前もって準備しておかなければいけないと田尻は考えます。習得レベルとしては、自立した言語使用者となることを目的とした日本語教育に対応できるものとしています。

②   具体的な認定基準

このウェブマガジンの読者が興味を持っていると考えられる点のみを列挙します。

「留学」類型の機関は、「日本語教育の参照枠」のB2レベル相当を到達目標とします。

就業期間等の方向性は、今後検討します。

教員の適正数や、受け入れる生徒を適正な数に制限することなども検討します。

授業を担当する教員は、全て登録日本語教員でなければなりません。登録日本語教員の資格は、後述します。

組織の質の維持向上にために、自己点検評価も行います。

大学の留学生別科も認定の対象とすることがこの報告で書き込まれましたが、留学生別科の現状調査に基づき、具体的な基準は今後検討することになりました。

③   日本語教員の資格

名称独占の国家資格としての名称は、「登録日本語教員」となりました。国は、今後登録日本語教員の研修等の環境整備を推進して、学校教育での児童生徒・難民・海外などでの日本語指導にも活用を促進することとなりました。

登録日本語教員は、筆記試験に合格し実践的な教育実習を修了した場合に、国の登録を受けることができます。年齢・国籍・母語・学歴等を資格取得要件とはしません。

国家資格ですので、全員に筆記試験(筆記試験②)が課されます。主専攻・副専攻・大学院での差はありません。

現在日本語教育機関で教えている多くの40代から60代の教員については、筆記試験免除で、講習を受けたのちに行われる試験の合格をもって登録日本語教員になれる、というコースも設置されています。これは、日本語教育機関での日本語教師の不足を回避する経過措置です。経過措置の期間は、5年程度になりそうです。

(3)日本語教師養成課程の指定制度について

国は、必須の教育内容50項目を備えた教育課程を持つ日本語教師養成機関を指定します。この指定を受けた日本語教師養成機関の卒業生は、筆記試験の一部(筆記試験①)を受けなくてすみます。逆に、この指定を受けていない機関の卒業生は、二つの筆記試験を受けなくてはいけません。指定された日本語教師養成機関の情報は、公開されます。これから日本語教員を目指そうとする人は、自分が受ける養成機関が指定されているかどうかをチェックしてください。筆記試験準備の負担は、全く異なります。

日本語教師養成機関で教える教員の資格も、当然チェックされます。大学等で日本語教育に関する課程を持っている大学は179あり、民間教育機関で日本語教師研修をしている機関は80あります。田尻の感じでは、大学・大学院で日本語教師養成講座を担当している教員の中に担当不適格者が出てきそうです。以前の文化庁の調査で、日本語教師養成課程担当の専任教員のうち3割は外国人に日本語を教えた経験がないという結果が出ているからです。この点に関して、大学で日本語教師養成を担当している人たちは、現在進められている施策にあまり興味がないように田尻は感じています。たとえば、大学日本語教員養成課程研究協議会のシンポジウムの企画内容は、現在文化庁で進められている施策の方向性について触れているものはわずかです。大学等の養成課程卒業生で教師になるのは1割以下という現実を、養成課程担当者はどう考えているのでしょう。一部に言われているように、日本語教師養成課程は国際的な視野を身に付けることができるから今のままでかまわないという意見がありますが、それなら養成課程を開く意味はないと田尻は考えます。

この施策では、教育実習の扱いは重くなります。実習担当教員の資格や教育内容も、問われることになります。実習は養成機関付設の日本語教育機関で済ませればいいと、簡単に考えてはいけません。日本語教員の資格としての実習を認められるためには、実習を行う機関も指定を受けなければいけません。当然、実習受講生の経済的負担も増えます。ここでは、実習機関の具体的な指定要件には触れる余裕はありません。報告を読んでください。

(4)「就労」・「生活」類型について

今回の報告では、「就労」・「生活」類型については、詳しく触れてはいません。それは、そのテーマを避けたのではなく、他の省庁との施行にあたっての調整が必要な事項が多いため、現時点では方向性を示すしかできないからでした。しかし、田尻はこの報告で「就労」や「生活」の類型に日本語教育の関わり方の方向性を示せたのは、日本語教育の将来性に大きな意味を持つものだと考えています。

今後は、いろいろな在留資格を持つ日本在留外国人に日本語教師が積極的に関わっていくことを期待しています。

「日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議」は、今回で終了です。来年度以降は、来年度予算が通り、日本語教育の法案が成立すれば新しい審議会などが立ち上がり、より具体的な動きが始まります。注目し続けてください。また、報告に対する意見募集が903件1597項目あったことは、多くの日本語教育関係者がこの施策に関心を持っていることを示しています。この資料の整理に当たった方々は、短期間に大量の意見を読み整理して有識者会議に提出していただき報告にご意見を活かすことができました。ご提出いただいた意見は、報告の方向性に間違いなく影響力を与えたことを委員の一人として言っておきたいと思います。

2. 第3回日本語教育推進会議について

時間的には前回扱うべき会議でしたが、内容面では共通する事項の多いので、「未草」では今回有識者会議の報告と併せて扱うことにしました。この会議のURLは次のとおりです。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_suishin_r01/03/93826601.html

この会議は、2019年に「日本語教育の推進に関する法律」の規定に基づき、関係行政機関が日本語教育の総合的、一体的かつ効果的な推進を図るための調整を行う会議であるという9月13日に出た「申し合わせ」によってできました。この会議は、内閣府・総務省・出入国在留管理庁・外務省・文部科学省・文化庁・厚生労働省・経済産業省の日本語教育に関わる担当者によって構成され、文化庁次長と外務省大臣官房国際交流審議官の共同議長で運営されます。幹事会も設けられていて、実際に施策を実施するメンバーによって構成されています。つまり、この会議は日本語教育に関わる各省庁の担当者の会議で、第3回の資料「日本語教育の更なる充実のための新たな日本語教育法案における関係省庁との連携促進について(案)」(以下、「促進案」と略称)のような具体的な取り組みがわかる会議です。この会議には、直接有識者は関わることができません。

この「促進案」には文化庁も関わっていますので、有識者会議の報告も間接的には反映されていますが、実際の各省庁の担当者がどのような方針で動いているのかを見るためには、大変重要な資料です。以下では、全ての施策について扱う余裕がありませんので、田尻が注目する点だけを列挙します。文化庁の有識者会議の報告と同じ内容の事項は扱いません。

  • 「在外教育施設における登録日本語教員の活用」の項目の意図するものはよくわかりませんが、対象が「在外教育施設に通う日本人児童生徒」とあることから、継承語教育にも登録日本語教員を活用するということかと田尻は考えています。
  • 各省庁全体に関わる事項として、登録日本語教員が「留学生」・「生活者」・「児童生徒」・「就労者」・「難民・避難民」・「海外」での指導にも、研修を受講したのちに活用されるようなキャリア形成の仕組みを検討するとなっています。
  • 法務省と厚生労働省との連携で、技能実習・特定技能制度で、認定日本語教育機関の活用を優秀な団体の基準としての加点要素とするとあります。
  • 法務省が、高度外国人材受け入れにも認定日本語教育機関の活用を検討するとなっています。

ただ、2023年2月17日に開かれた「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」では、わずか5分の検討で新たな制度の創設を閣議決定しています。そこでは、海外大学卒業生の受け入れにあたっての日本語教育への活用という項目はありません。

田尻は、高度人材という語は使うべきではないと考えています。この語は、外国人を日本社会に都合の良い資格等を持っているかどうかでランク付けする意味を持っています。反対語として「低度人材」という語を想定すれば、その語は差別的な意味を持つということがわかるはずです。

このように、実際の施策の施行にあたっては、整合性のとれない記述があることにも気を付けてください。新聞記事に出たからといって鵜呑みにせず、情報のフォローが必要です。

  • 関係省庁が関わる「ICT教育の促進」では、「つながるひろがるにほんでのくらし」に関し、「日本語教育の参照枠に基づく生活Can doを踏まえた日本語学習教材の充実を図る」とあります。

なお、この会議の資料2「日本語教育関係施策等の推進状況について」には、文化庁・文部科学省・法務省・外務省・厚生労働省・経済産業省等の多くの大事な資料が挙がられていますので、ぜひ参考にしてください。

3.日本語教育推進議員連盟第17回総会について

第17回日本語教育議連総会が、2023年1月31日に開催されました。この総会の資料は、日本語教育機関団体連絡協議会事務局のnewsに出ています。そのURLは、次のとおりです。

https://jls6dantai.wixsite.com/website/post/日本語教育推進議員連盟第17回総会に出席しました。

この総会の資料は、日本語教育学会の「お知らせ」には出ていません。日本語教育学会が、このように大事な資料を会員に情報として提供していないことを残念に思います。

この総会は、司会が事務局長である公明党参議院議員里見隆治さんで、開会の挨拶は会長の自由民主党衆議院議員柴山昌彦さんが行い、途中退席する立憲民主党衆議院議員中川正春さんも挨拶をしたそうです。閉会の挨拶は、公明党衆議院議員浮島智子さんでした。

この総会で注目すべき点は、この通常国会に提出予定の日本語教育の法案の検討状況が文化庁から示されたことです。具体的な法文は現在も検討中ですので、公開できません。このように、超党派の国会議員が協力して法案成立にご尽力いただいていることは、日本語教育関係者としては大変ありがたいことです。

4.その他の大事な会議など

(1)第3回技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議

この会議の資料のURLは、以下のとおりです。

https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/03_00060.html

この会議の資料は大部なものなのですが、ほとんどは受け入れ機関側の説明の資料です。「ヒアリング結果について」の「外国人の日本語能力の向上に向けた取組について」の中には、送り出し側の負担が増えることを心配して「日本語のハードルは上げすぎない方が良い」という意見が紹介されていて、受け入れ機関は労働力確保に興味があり、日本語教育の重要性には触れていいない点が不満です。

(2)2022年度日本語教育能力検定試験の結果

公益財団法人日本国際教育支援協会が、2022年度の日本語教育能力検定試験の結果の概要を公表しています。

http://www.jees.or.jp/jltct/result.htm

応募者1431人減、受験者1225人減に比べて、合格者は283人減に留まっています。コロナ禍で日本語教育機関への入学者が減ったというニュースなどでの情報が影響したのでしょうか。ただ、現在の日本語教育機関では、退職者も出ていたため人手不足になっていると聞いています。

※何度も繰り返しになりますが、有識者会議の報告をふまえた施策の具体的な実施過程は決まっていません。今後、日本語教育関係の予算が通り、日本語教育の法案が成立して始めて施策が実施されます。予算が成立すれば一部の実施可能な施策は施行されるかもしれませんが、法案成立の過程で具体的な施策の修正が行われる可能性があります。ほとんどの施策は、現段階ではどう運用するかは決まっていません。怪しげな噂や事情通だと言われる人の話には、十分注意をしてください。

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