外国人労働者の受け入れに日本語教育は何ができるか|第4回 2019年度の概算要求と決まりつつある日本語教育の将来像|田尻英三

2019年度の概算要求が、各府省のホームページに出ています。これらは概算要求ですから、財務省との折衝で削減されるものが出てきます。ただ、骨太の方針との関連がある項目によっては「推進枠」として予算上も優遇されるものがあります。

今回の概算要求を私の視点で見ると、はっきりとした傾向があります。つまり、外国人労働者の受け入れに関わる項目は額が伸びていますが、あれだけ受け入れに当たって重視された日本語教育に関わる項目は、額が現状維持か減額になっています。今こそ、日本語教育の側からしっかりとしたデータに基づいた全国規模での日本語教育の必要性を訴える資料を提出し、政府に働きかける時だと考えています。来年度から外国人労働者のための施策を実施することは決まっていますので、大筋は年内に決まります。

それでは、各府省の日本語教育関連の項目と金額を見ていきます。( )内は増減額で、新たな在留資格に関わる項目には☆を付けます。

〇内閣府
・健康・医療戦略室 2億9200万円(+1億4200万円)

ここには、「アジア健康推進会議」があり、介護分野における技能実習生の受け入れ・優良な日本語学校の認証・コミュニケーションに重点をおいた日本語テストの新設などが含まれます。

〇法務省
☆外国人材の円滑な受け入れのための体制整備 30億2000万円(+28億8900万円)

ここには、入国審査官増員(319人)・在留申請オンラインシステム導入なども含まれます。

・外国人・障がい者の理解促進のための啓発活動 2億8000万円(+1億5500万円)

ここには、骨太の方針にある外国籍の人たちへのヘイトスピーチ対応も含まれます。

☆入国在留管理庁(仮称)の新設 5519万円

名称からわかるように、主たる役割は「管理」です。

☆頼りがいのある司法の確保のための総合法律支援等の充実・強化 334億6500万円(+23億8500万円)

ここには、訪日・在留外国人の増加対応のための法テラスの周知・広報が含まれます。

〇外務省
☆日本の国益と国際社会の平和と繁栄を実現すべく、外交力を強化 5401億円(+647億円)

ここには、高度外国人材の育成・受け入れの項目があり、日本語教育の充実化も含まれます。

・「正しい姿」を含む政策・取り組みや日本の多様な魅力を戦略的に発信し、親日派・知日派の育成を図る 906億円(+238億円)

ここには、日本語教育事業の強化拡充が含まれます。

〇厚生労働省
☆外国人材受け入れの環境整備等 100億円(+43億円)

ここには、新たな在留資格で受け入れる外国人材の雇用管理体制・基盤の強化(新規・推薦枠の10億円)・外国人留学生の就職支援なども含まれます。ただ、「定住外国人」の就職支援では、日本語能力も含めたスキルアップ事業は8000万円増ですが、日系人等の職業相談は2000万円減です。外国人技能実習生への援助・体制の強化は31億円増です。

☆福祉・介護人材確保対策等の推進 366億円(+52億円)

ここには、EPAに基づく介護福祉士候補者・介護職種の技能実習生・在留資格「介護」の外国人留学生支援の19億円があり、+15億円となっています。

〇農林水産省
☆農業支援外国人適正受け入れサポート事業 4億円(+2億円)
〇国土交通省
☆建設分野における外国人受け入れの円滑化・適正化 2億4000万円(+1億5900万円)
船員の確保・育成体制の強化 1億7000万円(+4600万円)

ここには、優秀なアジア人船員の養成・確保が含まれます。

☆造船業における人材の確保・育成 1億円(+1800万円)

以下は、文部科学省・文化庁の概算要求ですので、詳しく示します。

〇文部科学省・文化庁
☆外国人受け入れ拡大に対応した日本語教育・外国人児童生徒等への教育の充実

12億1500万円(+7億2900万円)、外国人受け入れ拡大に伴う全体としての日本語教育の要求額増は、ここだけです。
以下、細かな項目ごとに見ていきます。

地域日本語教育の総合的な体制作り 3億0400万円(新規)(新たな在留資格の創設を踏まえたものです
「生活者としての外国人」のための日本語教育事業 4600万円(-3900万円
「生活者としての外国人」のための日本語教室空白地域解消の推進等6700万円(+1700万円)
日本語教育の先進的取組に対する支援等 8900万円(-3900万円)
日本語教育人材の質の向上 4100万円(+1300万円)
日本語教育に関する調査及び調査研究等 1300万円(-200万円)
日本語指導を含むきめ細かな支援の充実 3億2100万円(+1億5300万円)
多言語翻訳システム等ICTを活用した支援の充実 2000万円(新規)
教員等の資質能力の向上 1200万円(同額)
外国人高校生等に対するキャリア教育等の充実 2億円(新規)

関連施策として、高校の定時制・通信制課程における外国人生徒指導方法の確立・普 及もありますが、「キャリア教育」という点から考えると就労を主眼としていると思います。

定住外国人の子どもの就学促進事業 8000万円(+3700万円)
夜間中学における就学機会の提供推進 6600万円(+3000万円)
優秀な外国人留学生の戦略的な受け入れ 276億4600万円(+12億8700万円)

この中には、日本留学海外拠点連携推進事業 6億円(拡大)や、留学生就職促進プログラム 4億円が含まれています。

※全体としては増えているように見えますが、新たな在留資格や外国人高校生の就労支援を除けば、肝心の日本語教育についてはそれほど伸びているとは言えず、むしろ減額も目立っています。

今、まさに注目すべきは法務省に設けられた「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策検討会」の動きです。そこで配布された資料5の「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策に係る取組の現状・課題・対応策」を基に、11月中までに4回の検討会を開き、各府省からの対応をまとめて、12月中に「最終取りまとめ」を行い、同月中に「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」に諮るというスケジュールです。「『国民の声』を聴く会議」は法務省内部の会議体ですので、この検討会のほうが重要です。つまり、2019年4月から始まる外国人受け入れ施策は、2018年中に決まってしまうのです。これ以降は、施行時の細かな修正はあるでしょうが、大きな方針転換はありません。

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