★この記事は、2026年8月6日までの情報に基づいて書いています。
今回は、前回に引き続いて高市政権における日本語教育の変質を「骨太の方針」の記述に沿って説明し、さらにその方針に基づいて実際の外国人施策の作成を担当する部署が分散化したことを紹介します。日本語教育の変質は、今まさにこの時期に始まっています。今、関係者が意見表明をしないと、政府案で施策作成が進んでいきます。
「酷暑」と言える異常に暑い日が続いています。熊本では、また大地震とLPガスが原因ではないかと考えられる爆発が起こり、多くの犠牲者が出ています。暑さが原因の災害関連死も増えていきそうです。日本では、自然災害と環境問題が同時に襲ってきています。ロシアのウクライナ侵攻とアメリカ・イスラエルのイラン侵攻は、収まりそうにありません。ヨーロッパでは、移民排斥の動きが強まっています。世界は、大きな変動期に入っています。
しかし、日本語教育関係者は、自分たちの利益保持の方針だけに興味を持っているようです。日本語教育は、日本社会の実態や世界情勢の緊密に結びついてその内容が変わっていくことを忘れないでください。
ただ、このウェブマガジンは外国人の受け入れと日本語教員の関りを扱うのが主眼ですので、関係する政治状況にだけ言及します。
1. 考えを整理するために
(1)現在の政治情勢について
高市早苗さんを総理とする内閣の閣議決定事項などを扱う時は、高市内閣という語を使い、日本維新の会(以下、「維新」と略)と自由民主党(以下、「自民党」と略)が与党として政策を立案する時は高市政権という語を使います。ただ、「高市内閣」と言っても、高市総理の意向が強く反映する内閣と言われていますので、内閣としてのまとまりがどの程度あるのかは分かりません。高市政権では、「自民党」内部の意見よりも、「維新」の考えが強く反映していると言われています。そのためか、高市政権では、外国人受け入れに理解のあった議員の意見が表に出てきていません。外国人受け入れを支援していただいた野党の議員の方々も、国会では少数のため成果を出しにくい状態です。
(2)今こそ日本語教育関係者に必要なこと
今こそ日本語教育関係者が一つになり、日本語教育の変質に立ち向かわなければいけない時期だと、田尻は考えています。現在は、日本語教育機関や日本語教師が属する日本語教育業界、日本語教育学を研究する人が集まる日本語教育学会、全国の現場で在留外国人の日本語習得に尽力している日本語ボランティアの機関・団体などは、相互に連絡を取り合うこともなく活動をしています。せっかくこれだけの関係者がいながら、日本語教育施策に提言したり、マスコミに日本語教育関係者の考えをアピールしたりする活動をしていません。
そのマスコミも、全国紙と全国にネットワークを持つテレビの地上波(現在は、これにBSの報道番組)からの情報が日本の世論に影響を与えていた時期がありました。しかし、今の20代から30代の半数以上は新聞を購読していないし、テレビを持っていません。彼らの情報源は、SNSと動画です。このような状況を受けて、マスコミはオールドメディアと呼ばれています。いくら新聞やテレビが現在の世界情勢や日本の政治状況について発信しても、若者には届きません。マスコミが多くの国民の考え方に影響を与える時代は終わったと言っていいでしょう。
50代・60代で登録日本語教員の資格取得を目指す人の情報源は対策講座の講師の話だけで、日本語教育の世界にはマスコミに当たるものはありません。あるのは、対策講座の講師かYouTubeの説明不十分な話をする講師から出る噂話だけです。
これだけ大きく日本語教育の世界は変わろうとしても、日本語教育学会の「お知らせ」のサイにはほとんど情報が出ません。
日本語教育の世界には、信頼に足る情報を取得する方法はありません。かつては、不十分ながらアルクの『月刊日本語』がありました。今こそ、日本語教育関係者は一つになって、在留外国人の人権を守り、彼らが日本で安全・安心に暮らしていける基礎となる日本語教育の重要性を日本社会に発信していかなければいけません。今のままでは、在留外国人施策の中の日本語教育の位置は軽いままです。
2. 経済財政運営と改革の基本方針2026
「経済財政運営と改革の基本方針」は「骨太の方針」と呼ばれていて、小泉内閣以来その年の概算要求の根拠となる重要なものです。ここでは「骨太の方針」という語を使います。高市内閣では「骨太方針」としていますが、語の繋がり具合からも「骨太の方針」のほうが適当だと考えます。
この「骨太の方針」は、通常6月の半ばに出されて7月の概算要求作成に反映されてきました。しかし、高市内閣で「骨太の方針」(原案)が示されたのは、6月30日でした。この原案が出された時に、内閣が日本銀行の方針に影響を与える危惧が示されて「骨太ショック」と呼ばれて騒がれたため、改めて7月21日に再提出されました。そのため、今年の概算要求の作成は遅れています。
(1)日本語教育・外国人施策関係
〇「骨太の方針」での日本語教育の記述
「骨太の方針」は、以下のURLで見てください。その理由は、あとで述べます。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/decision0721.html
日本語教育については、「第2章 日本の成長力強化と安全・安心の確保」」の「3.国民の安全・安心の確保」の「(4)外国人政策の推進」に書かれています。外国人政策は、あくまでも「国民の安全・安心の確保」のためだという立て付けです。
この本文を以下でまとめるよりは、このサイト内にある「骨太方針2026PR資料~政策ファイル~(PDF形式:2.2MB)を見たほうが、「骨太の方針」の意図がよく分かります。以前にも同じような例がありましたが、本文よりも、後にまとめられた「資料」のほうに新しい説明も加わって政府の考えがはっきり出ています。本文全体は42ページで本文の外国人政策は実質1ページの量しかありませんが、「資料」では全体が17ページなのに、外国人政策は1ページを取って説明しています。明らかに「資料」のほうの外国人政策の説明の量が多いのです。高市内閣では、それだけ外国人政策を重視しているのが分かります。以下に、「資料」の説明から抜き出します。
●出入国在留管理の一層の適正化等
- 電子渡航認証制度(JESTA)の導入を含めた入管DXの推進による審査の迅速化・高度化。
- 「不法就労ゼロプランの強力な推進。
- 育成就労制度の円滑な施行・不法就労対策。
- 外国人の受入れの基本的な在り方について、基本方針を2026年度中に取りまとめ。(田尻注:生産年齢人口の減少による従来の外国人受け入れ人数の在り方を見直す可能性があります)
●各種制度の適正な運用等
- 外国人が日本社会の一員として責任ある行動をとれるよう、日本語及び我が国の制度・ルール等の教育を強化。(田尻注:「日本社会の一員として責任ある行動」という表現により、外国人住民の日本社会への同化を推し進めようとする高市内閣の意図が見えます)
➢「日本語・生活学習プログラム(仮称)の創設に向けた取組。
➢プレクラス等の全国展開に向けた取組。地域や学校の体制整備の充実。(田尻注:現在「プレクラス等の全国展開」するようなプランで、全国の関係者が共通に理解している取り組みはないと田尻は考えています。文部科学省国際教育課でこのプランの検討が始まっているかもしれません)
- 各種民泊の適切な運営確保の徹底。
「資料」には生活学習と日本語学習をまとめた「日本語生活学習プログラム」という図が出ていて、そこには「ライフステージに合わせた学習内容」として子どもから老人までの図が出ています。「骨太の方針」の本文にこのような内容はありません。在留外国人を「ライフステージ」に合わせて一生涯規制しようとすることを意図しているのでしょうか。
生活学習にはごみ捨てと交通ルールを表すピクトグラムは分かるのですが、あと二つのピクトグラムが何を意味するか、田尻は分かりませんでした。日本語学習は、教師と学校のピクトグラムが出ています。
「ライフステージ」には、子ども・成人・妊婦・親子・老人のピクトグラムが出ています。日本語学習で子どもと成人を分けるのは理解できますが、その他のピクトグラムが具体的にどのような内容を指すのか、田尻には分かりません。これを担当するのは、出入国在留管理庁(以下、「入管庁」と略)の予定ですので、日本語学習の内容が心配です。
●国土の適切な利用及び管理
- 安全保障等の観点から、外国人の土地所有等のルールの骨格を取りまとめ。(2026年夏)
- 重要土地等調査法の執行体制強化。
- 地下水の適正な保全・利用を確保する仕組みや土地の取得・利用に関する情報把握強化と監督のための制度を整備。
(2)文系学部・大学の廃統合
日本語教育とは直接関係しませんが、「骨太の方針」には、もう一つショッキングな目標が掲げられています。「第3章 責任ある積極財政に基づく『中長期経済財政計画』」の「3.主要分野ごとの重要課題と取組方針」の「(2)公教育の再生、研究活動の活性化」33ページにある「2030年までを第1期とし、大学等の機能強化と18歳人口の減少を踏まえた規模適正化を総合的に推進し、(中略)人社系のダウンサイジング及び理数分野併修を通じた質の向上」という目標です。
「人社系」とは聞きなれない語ですが、最近国立大学の学部専攻の変更で使われていますが、昔の「文系」という語にあたります。「ダウンサイジング」は機器の小型化や生活の在り方を指す語で、大学の「縮小化」を指すことはあまりありません。二つとも、あまり聞きなれない語です。関係する担当部署が本文作成に関わったのなら、もっと具体性を持った語を使うと思います。この箇所は、高市内閣の執行部が主張した表現ではないかと考えます。
大学の規模縮小化は、2026年6月26日の財務省財政制度等審議会の「人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営」https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20260626/01.pdf
の37ページ注79では、大学の縮減幅は250校から400校と想定されています。すでに大学の縮小は、政府の資料でもはっきり書かれています。
ただ、「骨太の方針」で「ダウンサイジング」されるのは、大学全般ではなく、人文社会科学系と名指しされています。高市内閣の政府方針として、2030年を第1期として人文社会科学系の大学・学部が縮小されることが決まりました。これは大変な事態だと田尻は感じていますが、マスコミで扱ったのは東京新聞の記事だけでした。自然科学系重視だけではなく、人文社会系大学・学部縮小という限特定した目標を持った施策です。この方針に対する抗議の目立った動きは、現在まだ見えていません。日本語教育学会では、このような記事の存在すら気が付いていないのではないでしょうか。
3. 外国人受け入れと日本語教育を扱う四つの組織
(1) 入管庁
〇法務大臣政務官PT報告書
「骨太の方針」にあった「日本語・生活学習プログラム」を扱った資料が、2026年7月3日に「外国人が日本語や我が国の制度・ルール等を学習するプログラムの検討に関する『法務大臣政務官PT報告書』」が入管庁のサイトで公開されました。この報告書の説明は、以下のとおりです。
令和8年1月23日に取りまとめられた「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」において「我が国に在留する外国人(帯同家族を含む。)が、日本語や我が国の制度・ルール等を学習するプログラムの創設を検討する」とされたことを受け、今後の政府全体での検討を加速することができるよう、法務大臣の指示の下、法務大臣政務官を長とする検討PT(法務大臣政務官PT)を設置し、具体的な検討を行ってきました。
本報告書は、その結果として、学習プログラムの在り方に関し、一定の方向性を示すとともに、検討課及び留意事項を整理したものです。
https://www.moj.go.jp/isa/policies/others/04_00118.html
このサイトでは【資料】として、最初に「『日本語・生活学習プログラム(仮)』の創設に向けた検討のポイント」が挙げられていますが、以下では「報告書」のほうに気になる箇所がかなりあるので、「報告書」を引用しながら、田尻のコメントを付けます。
この報告書は、「『日本語・生活学習プログラム(仮)』の創設に向けた検討課題と留意事項について」という副題が付けられています。入管庁が「骨太の方針」にあるこのプログラムを作るという強い意志が感じられます。
「1 はじめに」の「(1)法務省政務官PTの目的」に「一部の外国人によるルールを逸脱する行為や制度の不適正な利用が国民の不安や不公平感につながっていることが指摘される中にあっては(田尻注:「国民の不安や不公平感」は実態としてはなかったことはすでに指摘されていることで、それを施策の根拠としていることは問題です)、外国人が日本語や社会規範を学び、責任ある社会の一員として行動できるようにするための体系的な学習プログラムの導入は喫緊の課題であり、速やかに導入に向けた作業に着手する必要がある」とあるように、この報告書が7月3日に公表されたことを考えると、入管庁が「骨太の方針」公表以前にこのプログラム導入の必要性を強調して、入管庁がこの施策に関わっていくという姿勢を示していることが分かります。
「2 日本語及び社会規範の学習プログラムを創設する目的」の「(1)現状と課題」に「外国人の生活支援の観点のみならず、国民の安全・安心を確保する観点からも重要である」とあるように、この報告書は日本人の「安全・安心を確保する視点が強調されています。誰のためのプログラムなのでしょう。
「(2)これまでの有識者会議等での検討」に「上記プログラムの受講などを在留の条件とすることも検討すべきである」とあるように、このプログラム受講を在留審査に利用する方向性が書き込まれています。
「3 一定の方向性・検討課題と留意事項」の「(1)学習プログラムの内容について」の「ア 学習内容」に「学習プログラムは、日本語学習と生活上のルール等に関する学習(以下、「生活学習」という)で構成されるものとし、日本語学習の中にも生活学習を織り交ぜるなど」とあり、日本語学習と生活学習の区別がないプログラムにしようとしていることが分かります。日本語学習が軽視されようとしています。また、「地方公共団体や受入れ機関が行う講習により、外国人が地域の事情・特性に即した内容(地方特有のルールや文化、方言等)を学習する機会を得られることが望ましいと考えられる」とあり、実態のよく分からない地方特有のルールというものや文化を外国人に押し付けようとしているように感じられます。また、地方では老人層しか話さないような方言を外国人に教えるのでしょうか。地方でかつての老人層が話していたような方言を、現在どの程度使っているかという研究はほとんどありません。アクセントの特徴なら、現在でもかなり残っています。このようなルールや方言のことを地方公共団体や受け入れ機関が知っているのは、田尻には思えません。事情をよく分かっていない有識者という人たちがこのルール作成に関わるのも好ましくありません。
また、「日本語学習については、教育・就労・生活等の場面における実践的なコミュニケーション能力の向上を目指す内容とすべきである。また、入国前・直後の学習プログラムと、中期以降の学習プログラムの中で段階的に水準を高め、『自立した言語使用者』(田尻注:脚注に、「日本語教育の参照枠」のB1レベルとあります。これは後で触れる入管庁が新しく出した永住許可要件と重なります)として日本社会で生活していく上で必要となる日本語能力の水準への到達を目指すものとすべきと考えられる」とあるように、プログラムを作る上でカリキュラムやシラバスについてのかなりの知識が必要となると考えられます。入管庁で作るのはかなり無理があるように、田尻には感じられます。
「イ 受講対象者」の箇所には、「子どもの就学を促す観点から、子どもの就学状況等を親の在留管理における考慮要素とすることについて検討してはどうか」という記述も盛られます。ここでも、在留資格の要件化にする流れが感じられます。
「(2)学習プログラムの受講等の在留審査への反映について」では、「日本語の熟達度については、今後検討する認定日本語教育機関等の教育課程を活用した学習プログラム等の修了に加え、一定の試験に合格していることをもって確認する必要があるのではないか」となっていますが、この点については、後で述べるガイドライン改定案でははっきりしていません。この点は、在留外国人にとっては、大変重要であるがゆえに大いに不安を感じる要素です。
「(4)民間団体の活用について」の〈検討課題・留意事項〉に、「地方公共団体の体制整備が難しい外国人散在地域において対面での学習機会を確保する観点から、国が民間団体に委託して、国が提供する学習コンテンツ(日本語学習・生活学習)に、地域の特性等に応じた内容を加えて、対面で講習を開催することについても検討してはどうか」とあります。「対面講習」については、8ページの注13に「オンデマンド型のプログラムは、対面型と比べると学習効果が限定的である可能性がある」とあります。
結局、実際の地域での学習プログラムを実施するのは民間団体であるということです。たぶん、もう実際にはどこかの民間団体が委託に向けて動き出している可能性があります。その場合、日本語教育の世界での有名な大学の教員などが関わっていくと考えられます。嫌な考えをすると、この委託事業のために、日本語教育学会の一部の人の考えで政府の動きを学会では意識的に報じていないのではないかと勘ぐりたくなります。
〇永住許可ガイドラインのパブリックコメント
2026年8月4日に、政務官PT報告書より一歩踏み込んだ永住許可に関するガイドライン案が出ました。この案は入管庁のサイトには出ていません。パブリックコメント募集のサイトに出ています。
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=315000140&Mode=0
このガイドラインは、入管庁の今後の方針を考える時に極めて重要な資料です。(概要)や当日の法務大臣記者会見でも、「『活動・期間の制限が無く、生涯を本邦で過ごすことが想定される最も安定した法的地位』なので、『特に慎重な審査を行う必要』と初めて明記」されたものです。ここには、極めて厳しい独立生計要件や国益要件としての日本語能力の規定があります。
つまり、入管庁が永住許可要件を使い、他の省庁に先駆けて在留外国人への厳しい規制例を実行しようとしていることを示していると田尻は考えます。「骨太の方針」では、まだここまで踏み込んではいませんでした。ただ、「骨太の方針」の「資料」にあった「日本語生活学習プログラム」にあった子どもから老人までのピクトグラムが永住要件に関わっていると考えると、入管庁の「骨太の方針」を先取りしていることが分かります。
独立生計要件としては、日本人と同等水準の経済条件や世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準の額の継続的達成、さらには年金受給見込額が上記の年収水準で30年間厚生年金を加入していた水準に達しているかなどが必要とされています。
国益要件としては、考え方が、積極的かつ具体的に当該外国人の永住が日本国に利益をもたらす必要があるとなっています。これに関係して、日本語能力に関しては、「申請時点において一定水準以上の日本語能力を有していることを考慮要件とします。具体的には、「日本語教育の参照枠」(中略)における日本語能力の熟達度のうち、B1相当レベル以上の日本語能力を有しているかを考慮要件とします」となっています。ここでは、B1レベル以上をどのように測るかは示していません。
その他、この永住許可要件は、現在日本に在留している多くの外国人にとっては厳しい要件となっています。このガイドライン改定案はパブリックコメントを募集したのち実施されます。
〇育成就労の日本語講習への登録日本語教員の関わり方
入管庁のサイトに、2026年7月27日に「日本語教育機関の講習提供状況一覧表(令和8年6月時点)について」という、表題からは意味がよく分からないお知らせが出ています。これは、育成就労制度で育成就労の終了までにA2相当の日本語能力に到達するための講習での登録日本語教員の関わり方を示したものです。ここでの説明は以下のとおりです。
これらの講習について、育成就労法施行後5年間を目途とする当面の間の経過措置として、認定日本語教育機関による「就労のための課程」でなくとも、登録日本語教員による講習で、教師1人に対して生徒が20人以下であることなどの一定の要件を満たしたものでも認めることとしています。そのため認定日本語教育機関以外の日本語教育機関においても、当該機関に在籍している登録日本語教員が育成就労外国人への日本語講習を行っていただくことが可能です。
「就労」分野での日本語教育は、「就労」で認定を受けた日本語教育機関で行うことが新制度での基本です。確かに登録日本語教員は「就労」分野で日本語教育を行なうことは可能ですが、その場合は、登録日本語教員は「就労」の講習を受ける必要があります。また、「就労」の認定を受けていない日本語教育機関で登録日本語教員が在籍している日本語教育機関(このサイトで調査結果一覧として出ている日本語教育機関)での日本語講習は、当初の制度設計では想定していなかったものと、田尻は考えます。
たぶん、育成就労制度が始まろうとしているのに、「就労」分野で認定を受けている日本語教育機関が増えないので、入管庁はこのような手を考え出したのではないかと田尻は考えました。入管庁の真意は、田尻には分かりません。いずれにせよ、注目すべき入管庁の動きだと考えています。
〇入管庁が考えている日本語能力
2026年4月に入管庁のサイトに「日本語教育機関に入学する者に係る運用の一部見直しについて」という、このままでは何を意味しているか分からない資料が公表されました。
https://www.moj.go.jp/isa/10_00258.html
この中の「2 各種確認書について」の(「□面接」欄の記載例に「A1相当であるところ、面接においてN5の問題集から日本語で出題し」とあり、(「□その他」欄の記載例)でも「A1相当であるところ、筆記試験としてN5の問題集から問題を出題し」とあります。
この表現どおりだと、確認書を書くときに市販の問題集から問題をそのまま使って判定をすることを薦めていると読めます。これでは、入管庁が著作権法違反を薦めていることになります。これはまずいのではないでしょうか。従来の考えでは、「A1のCan doの達成状況を評価方法を含めて言語活動別に示す」とか「A1の言語活動をCan do達成による熟達度を判定した旨の証明書を発行する」とすべきと考えます。入管庁には、至急の対応を求めます。
(2) 外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議
2026年7月24日に上記の会議が開かれました。当日の資料は、下記のURLにあります。
https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/index.html
ここでは、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」の進捗状況を一覧表にしてあるので、情報の整理には有用です。
なお、この会議の「資料4」に「今後の検討体制について」として、以下の図が示されています。

https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/kakuryokaigi/dai3/shiryo4.pdf
この図にある二つの新設のWGについては、以下のサイトに説明があります。
〇外国人の受入れの基本的な在り方の検討のためのWG
https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/arikatawg/index.html
このWGでは、外国人受け入れ数が検討されると思われます。
〇日本語・生活学習プログラム(仮称)の検討のためのWG
https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/programwg/index.html
このWGには、日本語教育の専門家として国際日本語普及協会の戸田佐和さんと京都教育大学の浜田麻里さんが入っています。
この二つのWG、特に「日本語・生活学習プログラム」は、入管庁の会議とどのように関わっていくのかは、公開された資料からは分かりません。
なお、内閣官房外国人との秩序ある共生社会推進室(小野田大臣担当)は、現在特に情報発信はしていません。
(3) 文部科学省総合教育政策局国際教育課
2026年6月30日に、「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議(令和7・8年度)報告書が公開されています。https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/196/mext_00001.html
「骨太の方針」にある「プレクラス」という語がこの報告書にあるところから、外国人児童生徒等の日本語教育はこの課の担当と考えられますが、特に国際教育課から情報発信はしていません。しかし、他の部署の動きを考えると、国際教育課内でも「骨太の方針」に合わせた何らかの動きはしていると考えるのが自然です。
(4) 文部科学省総合教育政策局日本語教育課
ここでは現在の日本語教育課の動きは触れませんが、概算要求案作成にがんばっているはずです。また、日本語教育機関の認定作業も申請数が多いだけに大変だと思います。
4. 気になった本
〇『国際人流』2026年7月号(入管協会)
この号は、「外国人受入れの『基本』とは何か」の特集です。「育成就労制度と日本語教育の課題」という論文も掲載されています。ここでは、その内容にコメントする余裕はありません。紹介だけしておきます。皆さんで内容をチェックしてみてください。
※以上述べたように、在留外国人が生活に必要な、またそれぞれのライフプランに必要な日本語能力を身につけるために、日本語教育は存在価値がありました。それには、当然在留外国人の安心・安全な生活環境構築が前提です。しかし、これからの日本語教育は、在留外国人の在留資格取得時や在留資格更新時の審査のために使われようとしています。これは、明らかに日本語教育の変質を意味します。また、在留許可手数料の高額化をはじめ、在留外国人への規制が強まっています。
日本語教育関係者は、この事態に沈黙を守るのでしょうか。それとも、この事態を利用して対策本を出版したり、委託事業に名前を貸して利益をあげようとしたりしているのでしょうか。日本語教育学会は、何らかの意見表明をしないのでしょうか。もう時間は、あまりありません。悔いの残らないような行動をとってほしいと思っています。






