第21回 議連総会と文化庁の会議で何が決まったのか|田尻英三

★この記事は、2021年5月13日までの情報を基に書いています。

今回は、4月22日に開かれた第14回日本語教育推進議員連盟総会(「議連」と略称」)で話されたことと、4月27日に開かれた「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」(「資格会議」と略称)で検討された事項を説明し、今回の会議で何が決まり、これからの会議で何が決まろうとしているのかを書きます。

この時点でまだ公開されていない資料もあり、検討された議事についての議事録も公開されていませんので、その部分は田尻のメモで説明します。

1. 第14回「議連」の重要性


日本語教育を取り巻く情勢が大きく変わったのは、2016年11月8日に第1回が開かれた「議連」総会からであることは、明らかです。その「議連」に属する国会議員の方々のご努力で、2019年6月28日に「日本語教育に関する法律」が成立し、2020年6月23日からは「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」(「基本方針」と略称)にそって施策が進められています。ちなみに、この「基本方針」では、日本国内の日本語教育は、幼児・児童・生徒等、留学生、被用者等、難民、地域の五つに分けられています。現在、「資格会議」で扱われている留学・就労・生活の3分類は、これを受けているのだと田尻は考えています。ただ、この3分類の中身は、これから検討されていくはずです。

このように、「議連」の動きは、日本語教育の将来像に基本的に関わってきました。そして、現在、日本語教育の国家資格や、日本語教育の対象が検討されている時点で開かれた「議連」の総会は、大きな意味を持っていることは言うまでもありません。

この第14回では、文化庁国語課長の「資格会議」の進行状況の説明のほかに、関係団体ヒアリングとして日本語教育機関6団体(「6団体」と略称)からの現状説明・意見・要望と日本語教育学会(「学会」と略称)の発表がありました。
「6団体」とは、以下の六つの団体です。
・一般財団法人 日本語教育振興協会
・一般社団法人 全国日本語学校連合会
・一般社団法人 日本語学校ネットワーク
・全国専門学校日本語教育協会
・一般社団法人 全国各種学校日本語教育協会
・一般社団法人 全日本学校法人日本語教育協議会
第14回の会議資料は、「学会」のホームページに出ています。

「6団体」は、まさにこれから検討される補正予算に日本語教育機関への支援を盛り込むように要望しました。「6団体」は、そのために「コロナ禍における日本語教育機関の窮状と支援のお願い」と題して12枚の資料と、「意見書」・「要望書」を用意し、インパクトのあるプレゼンテーションを行い、議員の方々に強い印象を与えたと聞いています。
それに対して、「学会」副会長の神吉宇一さんは配布資料がありませんでした。「学会」のホームページでも、神吉副会長がどのような発表をしたのかは、わかりません。第14回の総会を扱った「にほんごぷらっと」にも何の言及もなく。その総会に同席した山本弘子さんのコメントも「学会」のホームページにはありません。これでは、神吉副会長の発表の内容を知る方法はありません(公的に公表されたものではなく私的に書かれたものは客観性がありませんので、ここでは扱いません)。参加した議員や関係団体の方によると、神吉副会長は「副会長はもうすぐ終わるので、ここで発表するのも最後になります」と発言したそうです。もしこのとおりの発言内容でしたら、この発表は神吉副会長の私的な事情をふまえたものになり、その発言は「学会」を代表するものではなく、また発言内容も今後の「学会」の考えに継続されるものではない、ということになります。

「にほんごぷらっと」によると、各省庁からの回答は6団体の要望に対するものだけで、「学会」に対しては反応がありませんでした。当日参加した人によると、馳議員が6団体に対して「しっかりとこの要望を政府に届ける」と言っていただいたと聞いています。
「6団体」はこの会議の重要性を十分に理解し、そのための準備を入念に行い、要望内容をしっかりと伝える努力をしてきたのです。残念ながら、「学会」からの発表にはそのような努力の跡はうかがえません。このような場合、「議連」の議員へのアピールが評価されることが大事です。その点では、「学会」は大きなチャンスを失ったことになります。これからしばらく「議連」は、日本語教育機関の支援に重点を置く動きをすると田尻は考えています。
新聞でこの話し合いを記事にしたのは、公明新聞だけでした。

「にほんごぷらっと」では、この議連の会議の状況を近日公開するとあります。公開された場合には、上に書いた点についても注意してください。

5月10日の参議院予算委員会で公明党の里見隆治議員が、コロナ禍の中での日本語教育機関への支援を萩生田文部科学大臣に質問し、大臣からは各種支援策を最大限に利用してほしいという回答がありました。また、大臣は他の省庁と連携して支援を検討するという発言もしました。これは、今後の日本語教育機関支援の動きへの一つの成果と言えるでしょう。日本語教育機関のことが予算委員会で取り上げられたのは、初めてのことだと思います。
5月12日、「議連」の議員の方々が官房長官へ日本語教育機関への支援を訴えました。そこでも、官房長官からは従来の支援策を利用してほしいという発言がありましたが、「議連」の議員の強い要望で、今後は各省庁とも連携して検討することになりました。
田尻としては、従来の支援策では不十分だということを具体例で示したほうが大臣や官房長官に与えるインパクトがあったのではないかと考えています。

2. 第5回「資格会議」で何が検討されたのか


第5回の「資格会議」が、4月27日に開かれました。今回は大事なテーマについて多くの意見が出されましたが、それをまとめるという方向で議論したのではないので、「何が検討されたのか」と題して述べます。
第5回では、「類型『留学』の審査項目について」と「現職日本語教師の資格取得について」が扱われました。ただ、当日の机上配布資料として「大学学部進学のための予備教育を行う留学生別科等の基準等の在り方」と「日本語教育機関の告示基準解釈指針」も委員には前日までに配布されていました。この二つの資料は非公開です。ここでは、前者の留学生別科について、すでに公開されている他の資料を基に「資格会議」の検討内容を説明します。

(1) 留学生別科について


留学生別科については、田尻がかつて教えていた経験もあり、第4回の「資格会議」では現在の留学生別科について詳しくない方も発言していましたので、田尻が以下のような説明をこのテーマを扱う最初に説明しました。

留学生別科は、2018年8月までは日本私立大学団体連合会が運営していましたが、東京福祉大学で多数の所在不明の留学生が出たことから、2019年6月11日に文部科学省と出入国在留管理庁が「留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対処方針」を出しました。この資料は、文部科学省の「外国人留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応方針等について」のサイトにあります。このため、2019年9月から「日本語予備教育を行う留学生別科等の基準に関する協力者会議」(「別科基準会議」と略称)が5回開かれました。この「別科基準会議」の資料は、文部科学省高等教育局学生・留学生交流室留学交流支援係の「留学生別科について」というサイトで見ることができます。

確かに、当初から文部科学省は留学生別科を進学目的と位置付けていますが、実際の留学生別科はそれ以外の目的も持ったコースとなっていきました。私が龍谷大学在職中に参加していた日本私立大学団体連合会の全国の会議では、予備教育型・スタディアブロード型・融合型の三つに分かれて会議をしていました。「別科基準会議」のまとめにあたる第5回の資料の「新たな基準に係る論点と方向性(案)」では、各大学からの報告で「回答内容が読み取れない場合は集計の対象としていない」という記述からもわかるように、「別科基準会議」の最終段階になっても留学生別科の全体像は捉えきっていません。「新たな基準の運用対象の判断基準表(案)」でも「学部・専門学校進学目的」と「学部・専門学校への進学目的でない」ものの二つに分かれています。かつての日本私立大学団体連合会のように留学生別科のデータを持っているはずの日本学生支援機構での留学生別科が属している「日本語教育機関」のサイトでは、データは非公開となっています。つまり、留学生別科の全体像は、現在に至っても不明のままです。

したがって、現段階で全体像が不明な留学生別科の教員に、どの程度の数の公認日本語教師を配置すべきかについては検討できないので、この件は今の段階では扱えないと田尻は考えている、という意見を述べました。この田尻の意見に対してどなたからも異見はでなかったと記憶しています。
大学の留学生別科については、文部科学省の現状に対する調査がまとまらない限り、公認日本語教師の配置については扱わないだろう、と田尻は考えています。

(2)「留学」の審査項目と現職日本語教師の資格取得


この二つの事項は関連していますので、一緒に扱います。

まず、「留学」の審査項目として出された資料には、「法務省告示基準」・「その他の基準(ISO、大学認証評価等)」・「留学」が並んで掲げられていますが、田尻には法務省告示基準にその他の基準を参考にして新しい「留学」の審査項目が出てきたように見えます。今後日本語教育の3類型のうち「留学」で審査を受ける進学目的の日本語教育機関については、最も大事な資料です。
この「留学」の審査項目は、追加の項目を除けば「告示基準の適用」となっています。つまり、資料の赤字で印刷されている項目が、審査項目として新しく加わったものです。「点検評価」の項目では「第三者機関による定期的な審査の実施」が、「教員要件」では「公認日本語教師の配置」が、「教育成果、情報公表等」では「その他の基準」で掲げられた項目が「新たに審査項目として追加」されています。「第三者機関」の内容は、決まっていません。「公認日本語教師の配置」も。具体的な数字は出ていません。「教育成果、情報公表等」で掲げられた「審査項目案」をどのように記述するのかは、今後の課題です。

当然のことながら、「資格会議」では日本語教育機関の方々から多くの質問が出ましたが、それらの質疑応答で一定の方向性が出たわけではないと田尻は感じましたので、ここでは詳しく扱いません。
ここで言う「公認日本語教師の配置」が、次の「現職日本語教師の資格取得について」と関わってきます。

「現職日本語教師の資格取得について」では、「課題点等」として「資格を有していない者であっても引き続き日本語教育を行う機関において勤務することが可能である」としながらも、「法務省告示校に配置されるべき、資格を取得している者の割合については、今後」慎重に検討が必要としていて、公認日本語教師を一定の割合で採用することを前提にしていることに注目すべきです。この「告示基準の教員要件を満たす者」とは、「原則として筆記試験及び教育実習を経て日本語教師の資格を取得することとする」となっていて、これは公認日本語教師を指すものです。つまり、しばらくは従来の資格で日本語教育機関において働くことは可能だが、将来的には公認日本語教師の資格を持つことが必要となるということを書いているのです。これは、これから安定的に日本語教師で働こうとしている人にとっては大変大事なポイントです。

(3) 日本語教育研究者と現場の日本語教師との考え方の大きな違い


第4回と第5回の「資格会議」での議論を聞いていると、日本語教育研究者と現場の日本語教師の考え方が、以前より乖離してきたように田尻は感じました。

日本語教育機関では、今のコロナ禍での留学生入国不可の状況は機関の存続が危ぶまれています。そのために、「議連」などへの行動を起こしています。もう「学会」は、あてにしていないように見えます。
それに対して「学会」は,3月31日発行の「第二次中期計画2021-2024」でも、相変わらず従来どおりの姿勢です。「学会の使命」として「日本語教育の学術研究を牽引し、研究者を育成する」などというように、日本語教育の現場への理解や連携は書かれていません(「実施計画」の「対象」の3番目に「日本語教育関連の機関・団体」となっていて、それが何を指すのかはっきりしません)。
このような状態は、好ましくありません。日本語教育外の団体などとの連携をはかる場合は、その動きを弱める可能性が高いと心配されます。「オールジャパン」の体制とは、とても言える状況ではありません。

田尻は、研究者と現場の乖離は、「学会」の側に大きな問題があると考えています。たとえば、2021年度の春季大会の一般公開用のプログラムのテーマは、「根を深くはり梢を見上げる 日本語教育の樹よ 育て」というもので、今の状況に対して切実感の全くないテーマです。「第二次中期計画」で会費徴収の難しさが書かれていますが、それも当然だと思います。「学会」は、日本語教育の世界において大変大事な組織と田尻は考えています。「学会」内部からの改革が始まることを期待しています。

3. EPA看護師に関する必読の書籍


最近マスコミだけではなく、日本語教育関係者の間でもあまり取り上げられることがなくなったEPAの外国人看護師の問題を扱った書籍が出ました。平野裕子・米野みちよ編の『外国人看護師 EPAに基づく受入れは何をもたらしたか』(2021年3月、東京大学出版会)が、それです。これは、インドネシア・フィリピンの看護師の送り出し・受け入れ時・就業後の状況などを詳しく扱っています。また、その中に、平野さんによる「文化によって異なる『正解』 国家試験の模擬試験分析から」や、米野さんによる「EPAプログラムと日本語教育の諸相」という日本語教育関係者が直接関わっているテーマについての論文もあります。日本語教育関係者でEPAによる外国人受け入れに関心を持つ人の必読書と言えます。

4. その他の重要な情報


前にお知らせした出入国管理局庁の「外国人との共生社会実現のための有識者会議」の配布資料に重要なものがあります。
3月24日の第2回の会議では、「新型コロナウイルス感染症の影響により困難を抱えている在留外国人の状況等」として、雇用維持支援として特定活動へ変更許可した数、「新型コロナウイルス感染症の影響下での在留資格の取扱いの変遷について」、「円滑なコミュニケーションのための日本語教育等の取組について」(これは特に日本語教育関係者が読んでおくべき資料)などが扱われています。
4月28日の第3回の会議では、「ライフサイクルに応じた支援について」として、国籍別・年代別在留外国人数の推移や内訳、中国・韓国・ベトナム・フィリピン・ブラジルの年齢別在留外国人の内訳などの資料が扱われています。
これらは、「資格会議」で次に扱う予定の3類型のうち「就労」を考える時の基礎資料と言えます。

「日本語ジャーナル」の4月4日と5月6日の記事に、「日本語教師の国家資格化の議論の整理1・2」があります。ともすれば、不確かな情報で国家資格化が扱われていますが、この記事はその点でお勧めできる資料です。

柿原・仲・布尾・山下編著の『対抗する言語』(2021年1月、三元社)に、布尾勝一郎さんの「日本における日本語教育政策とその課題」が掲載されています。

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