第17回 外国人労働者の受け入れに日本語教育の存在価値が問われている|田尻英三

★この記事は、2020年11月17日までの情報を基に書いています。

今回は日本語教育推進議連(「議連」と略称)での話し合いを中心に書きますが、それを扱った「にほんごぷらっと」の記事への感想も書きます。そのことに関連して、現在の日本社会における日本語教育の存在価値に言及します。

1. 第13回「議連」総会の概要

第13回の「議連」総会は、10月21日13時から14時に行われました。そこでは、16名の「議連」所属の国会議員の他に、関係省庁の担当者や日本語教育6団体、日本語教育学会なども出ています。日本語教育学会の「おしらせ」には、この総会の式次第の抜粋が出ていますが、議事録は出ていません。日本語教育振興協会の維持会員のページには、出席者による会議のメモが出ています。現在公開されている資料は、これだけです。これ以外は不確かな裏情報ですので、振り回されてはいけません。

田尻はこれまでの議論を踏まえて、具体的な日本語教師の国家資格の要件や日本語教育機関の類型の議論がなされるものだと思っていました。しかし、総会に文化庁から出された資料は違っていました。大事な点だけに触れます。

  • 日本語教師を国家資格とすることの法律による必要性は、説明することが難しい。日本語教師の要件強化であれば、既存の法務省告示日本語教育機関の教員要件を引き上げれば措置できる。
  • 日本語教師の業の範囲が曖昧である。この点でも、附則第2条の日本語教育機関の範囲((田尻注、推進法では「類型及びその範囲」となっていて、ここでは「類型」の語がなくなっている)と併せて検討した方が明確にしやすい。

つまり、実際に日本語教師の国家資格や日本語教育機関の範囲を法文化しようとすれば難しい点があるというものです。田尻はこの難しい点については、最初に法務省の委員会で名称独占の国家資格を提案した段階で意識していましたし、委員会後の委員との立ち話でも「田尻さん、大丈夫なのですか」と言われました。その危惧を突破するために、田尻は、推進法や「基本的な方針」作成のお手伝いを、関わっている国会議員と一緒にやってきました。ここでは、その内容に触れることはできません。この総会で、議連の議員は担当官庁に強い姿勢で臨んでくれました。今後も、これらの議員の活動を支援していくことが必要です。

当日は、議連に参加している議員からは、かなり厳しい注文があったと聞いています。国会議員も、がんばっているのです。田尻は、現在の文化庁の姿勢に賛成している訳ではありません。現時点では文化庁国語課にこれらの厳しい意見を受けて、日本語教師の国家資格化を推進するように強く願っています。

2.石原進さんなどの考え方の問題点

それに対して、文科省や文化庁の立場を批判するブログが出てきて、その意見が広まりつつあります。
「にほんごぷらっと」というサイトの編集長で元毎日新聞の石原進さんは、「文科省は日本語学校を『やっかいな存在』ととらえ、関与を避ける傾向が強いようにみえた、誤解を避けずに言えば、文科省は日本語学校に過度のアレルギーを持っている」と言っています。さらに、「文化庁は議連の総会での説明で『法制的に説明することは難しい』というが、そのロジックは何か、とても承服できる話ではない」と言っています(www.nihongoplat.prg/2020/10/22)。
従来石原さんは、「にほんごぷらっと」で比較的客観的な書き方をしてきました。なぜか今回は、急に強い書き方に転じています。その理由は、田尻にはわかりません。ここで言われている意見のように、石原さんが承服しないと国の施策が動かないという訳ではありませんし、実際に日本語学校を支援する動きもあります。
また、石原さんと同種の意見がYou Tubeや日本語教師養成機関のブログに出ています。そこでは、国の動きを気にする必要はないというように言われています。これらの意見を言った人たちの考え方は、基本的には現在は何ら積極的な動きをする必要はないという考え方で、この流れに任せておけばよいという姿勢は、日本語教育の業界の改善や日本語教師の社会的・経済的な自立ために動いている人たちにとっては水をさすことになります。この考え方は、一部の人たちの考えではなく、日本語教育関係者の大部分に共通する考え方だと田尻は感じています。なぜ真正面から問題解決に向き合い、状況を少しでも良い方向に向かわせる動きをしないのでしょうか。

3. 日本語教育は外国人が日本を住みやすい国と感じるのに有効であるのか

現在のコロナ禍で、外国人労働者問題はマスコミなどで扱われることが減りました。しかし、いくつかのテレビ番組では、外国人技能実習生が雇止めに会い、生活上大きな問題を抱えていることが扱われています。
一方で、人手不足を補うことを間接的な目的とした受け入れ拡大も進んでいます。これについては、外務省ホームページにある「日本への入国/再入国/帰国の際に利用可能な枠組み」に出ています。まだ入国許可検討中の国がほとんどです。特定技能の枠で入国する外国人については、2020年10月21日の法務省ホームページにある「特定技能制度に関するQ&A」で出てきます。当初のプランとは異なり、2020年6月末で5、950名しか入国していません。これらの流れと同様に、日本語教育機関などへの留学生の受け入れも、あまり進んでいません。
11月10日の内閣官房にある新型コロナウイルス感染症対策分科会で初めてクラスターの特徴の一つに外国人コミュニティーが挙げられました。そこでは、「多言語・やさしい日本語での発信」が出てきました。ただ、16日の同分科会では、「在留外国人に対する相談体制の整備」を強化策として挙げ、やさしい日本語の普及促進にも触れています。同分科会の尾身会長は、「わかりやすい日本語」という用語を使っていました。ここでいうやさしい日本語がどういうものかは、書かれていません。
庵さんたちが言う「やさしい日本語」の問題点については、このウェブマガジン「未草」でも何度か取り上げました。現在のコロナ禍の状況では、「やさしい日本語」での書き換えはあまり効果がありません。井上徹・倉田良樹さんの「移民政策なき外国人労働者政策を擁護する知識人たち(2)」(『一橋社会科学』第12号、2020年)では、「やさしい日本語」を扱っている研究者に対する具体的な批判が書かれています。ここではそれを具体的に説明する余裕はありませんので、公開されているこの資料をぜひ読んでください。これに答えないまま、今後も「やさしい日本語」の動きが法務省の後押しで推進施策を押し進めようとするならば、それは学術研究とは言えないと田尻は考えます。
今のように、在住外国人の問題がマスコミなどで取り上げられる際に日本語教育関係者が意見を言わない状況は、日本語教育そのものの存在意義を問われかねません。

4. 日本語教育学会の日本学術会議会員任命拒否への態度


現在、臨時国会などで取り上げられている日本学術会議会員任命拒否について、11月6日に226の人文・社会系学協会連絡会が、任命されなかった理由と6名全員の任命を要請しました。日本語教育学会でも、日本教育学会の「呼びかけ」により会長名での参加表明をしたことが12日の学会ホームページに出てきます。
他の学会からの呼びかけがあったから応じたことや、学会名ではなく会長名で参加を表明したことで、日本語教育学会の消極的な態度がわかります。このような大事な問題ですから、理事の間でもどのような態度を表明するのがよいかなどの検討がなされてもよいのではないかと考えます。もっと積極的な参加の仕方があったのではないかと、田尻は考えます。

5. 今できること


日本語教育関係者が今できることは、まず日本語教育推進議連に参加している国会議員に支持のメールなどを出すことです。現場からの声が、国会議員を動かします。
どこかの日本語教育機関に属している日本語教師は、その機関の属している日本語教育団体を通じて意見を表明することも大事です。
それらの際に、自分や自分の属している機関・団体の利益を優先するような意見は避けるべきです。あくまでも、日本社会に住んでいる外国人の生活支援の一環としての立場から意見を言ってください。必要があれば、弁護士や司法書士との連携も積極的にすべきです。
今のままでは、日本社会における日本語教育の存在価値がなくなります。

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