これからの英語教育の話を続けよう|第7回 リサーチ・リテラシーを高めよう:あるALT調査について(前編)|藤原康弘・仲潔

1)民間企業の委託研究であること

 

この調査、実は大手ALT派遣会社、(株)リンク・インタラックの委託研究です(「実は」なんて書きましたが、報告書の1ページ目にはっきりと書いてあります(;^_^A。「委託研究」とは、研究者が学外から委託を受けて行う研究です。委託研究費は委託者(企業等)が負担します。

つまり簡単に言えば、ALT派遣会社がスポンサーの研究です。ALT派遣を行うことで利益を上げる民間企業が費用を出して協力もしています。常識的に考えて、この研究は「中立」、バイアス・フリーとは言えないでしょう。一般論として、スポンサーが直接口を出さないにしても、研究者側が「忖度」することはやむを得ないと思われるからです。

一例を挙げましょう。2013年6月、シカゴ大学の研究チームが「アメリカの3分の1以上の結婚の出会いはネット上」と発表しました。さらに「ネット上で出会いゴールインする「オンライン結婚」は、職場や友達の紹介等でスタートする「オフライン結婚」よりも離婚率が低く、かつ結婚における満足度も高い」と報告しました。オンライン結婚の良さが前面に出た研究(Cacioppo et al, 2013)と言えます。

しかしこの研究に異議を唱える研究者は多くいました。なぜか。この研究は男女をインターネット上でマッチングする会社の「委託研究」であったためです。オンライン結婚の良さが伝わる ⇒ マッチング・サービスの利用者が増える ⇒ 企業が儲かるという構図が見えます。みなさん、これを聞いた後もこの研究結果を信じられるでしょうか。

寺沢さんが「英語教育とポスト真実・フェイクニュース」(2018.4)という記事で、下記のように指摘されています。

「注意が必要なのは、就職情報産業や英会話学校をはじめとした語学産業など営利企業が調査を実施している点である。営利企業である以上、調査目的は通常、社会の実態の正確な解明ではなく、マーケティングだからである…。」

今回取り上げている調査の主体は大学の研究チームですが、最後に名前を連ねているのは、この大手ALT派遣会社の「営業本部」と「広報・マーケティング部」の方たちです。この事実からも、この企業側には、営業、広報・マーケティングの目的あり、と感じられます。

なお私たちはこの企業を批判しているわけではありません。民間企業が営業活動、広報活動をするのは当然です。また利益を度外視して、研究調査を実施する可能性もあります。しかし情報の受け手である私たちは、「委託研究」であるという点を十分にふまえて、報告書を理解する必要があるでしょう。

 

2)データ・サンプルに偏りがあること

 

2点目はこの調査のデータ・サンプルに偏りがあることです。下に調査方法を抜粋します。

調査方法

調査は、多肢選択式と自由記述式を含む質問からなるアンケートに回答してもらう形で実施した。質問項目数は、小学校アンケートが64項目、中学校アンケートが60項目、高等学校アンケートが50項目であった。アンケートは可能な限り多くのALT から回答を得るため、オンライン回答形式を採用した。(略)

アンケート回答者は以下のような方法で募った。

全国の市町村教育委員会(1000 以上)に、所属のALTにアンケートへの回答を呼びかけてもらうよう、電子メールおよび手紙で協力を依頼した。また、学校向けALT 配置事業社の大手である株式会社インタラックの協力を得て、同社所属のALT に回答を呼びかけた。(p. 3,下線筆者たち)

その結果、1807名(小学校655名、中学校890名、高等学校262名)のALTの回答データが集まりました。平成25年度「英語教育実施状況調査」(本調査が実施されたのは2013年=平成25年)の結果をみますと、小中高のALTは約1万7千人。したがって約1割強のALTからデータを収集したことになります。題目にあるように「大規模」な本邦初の調査です。

さて、ここでみなさん、突然ですがクイズです。このオンライン・アンケート、どのようなALTの方が回答されるでしょうか? 2択でお聞きします。

① 英語教育に熱心で真面目な方                              ② そうではない方

 

・・・もちろん正解は①です。

本報告書を読む限り、謝礼等のインセンティブを与えてはいないようですので、このようなアンケートの呼びかけにボランティアで答えてくださるのは、どうしても①、「英語教育に熱心で真面目な方」に偏るでしょう。

みなさん、「オンライン・アンケートにお答えください」というメールやウェブサイトを何度か見られたことがあるでしょう。それに喜んでお答えになるのは、その事柄に相当の社会的関心があるときではないでしょうか。

ちなみに回答項目数は60程、1項目に30秒で回答しても30分かかります。さらに本調査によれば、約半数の方が自由記述欄にコメントしてくださったそうですから(後編でご紹介しますが、自由記述のコメントは本当に「熱い」です)、相当に熱心な方々が調査に参加された様子が伺えます。

さらに本研究は民間の委託研究です。「ALT 配置事業社の大手である株式会社インタラックの協力を得て、同社所属のALT に回答を呼びかけ」(p. 3)ています。同社の関連HPによれば、民間ALTのシェアNo. 1(55.3%)、在籍講師数は約3,000人です。多くのデータを集めるのはかなり大変ですので、気持ちは分かりますが、その大手が研究結果に直接の影響を与えていることも要チェックです。

実際に平成25年度「英語教育実施状況調査」の結果と比較してみると、「民間会社での契約」のALTの比率が高く出ています(小学校 56.5%(34.1%)、中学校 45.4%(39.1%) 高校 26.8%(17.1%)。先の数値は本調査、後の( )内の数値は平成25年度「英語教育実施状況調査」)。

どうしてもこの調査方法では、サンプリングが偏ります。「英語教育に熱心で真面目な方」に偏ったデータで、ALT全体を語ることはできません。クラスの中で、真面目な学生に偏ったデータで、クラス全体を把握できないのと同じです。

ここでふたたび、寺沢さんの記事をご紹介します。寺沢さんは「英語教育調査は「ゴミ」だらけ」(2017.6)という記事で、調査の信頼度について、下記の図を示しています。

 

 

そして評価基準として、「(1) がもっとも信頼できて,(2) がまあまあ。(3) になるとかなり慎重な解釈が必要。(4) は残念ながらほとんど考慮する価値がない」と述べられています。この調査のデータがどの程度信頼できるかは読者のご判断に委ねることにします。

何はともあれ、前述のように、このような大規模なデータがそもそもありません。その意味では、大変価値のある報告書です。ですので、次回の後編では「英語教育に熱心で真面目な方」の偏りのあるデータであることを十分にふまえて、見ていきたいと思います。

企業と大学の研究協力は必要です。またオンライン・アンケートは大変便利です。ですが、この研究の内容は上記2点を差し引いて、十分注意しながら、解釈する必要があります(ちなみに本研究だけが注意を要するわけではなく、すべての研究において、何らかの意味で差し引いて解釈する必要があると思います)。

そもそもJETプログラムの導入後、既に30年ほど経過しながら、「ALTが日本の英語教育にどのような形で関わってきたかについてのまとまった調査研究はほとんどない」(p. 1)、つまり何らエビデンスがない事態がおかしいのです。莫大な税金を投資してきたJETプログラムを中心としたALT。各ALTのバック・グラウンドやALT導入の英語教育上の効果も分からないままです。ALTの大規模かつ精緻なデザインの無作為抽出調査は、国が利害関係の無い第三者機関などに委託するなどして、責任をもって実施すべきではないでしょうか。

ひとまずそのような調査が出る前に、本ALT調査を次回で考察していきたいと思います。ではまた来月にお会いしましょう。

 


4. なおこの比率は、「無回答者数」を除いたものです。「現在の勤務形態を教えてください」という質問に対する選択肢は「JETプログラムでの契約」、「民間会社での契約」、「学校や教育委員会との直接契約」、「その他」の4択です。この質問の「無回答者数」は397名(全体の回答者数は1,807名)。実に22%の回答者の素性は不明です。

 

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