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おのはん!|第29回 今回のオノマトペ:「ぴえん・ごりごり・きゅん」|平田佐智子

全国に何名いらっしゃるのかよくわかりませんがオノマトペファンの皆様、こんにちは。おのはん! のお時間となりました。今回は本当は2020年の終わりにお届けする予定でしたが、諸般の都合で遅れてしまいました。大変失礼いたしました。書こうと思っていたことは決まっていたので、収穫から少し旬が過ぎてしまいましたが、年も明けましたので、新鮮な気持ちで考えてみたいと思います。

「今年の新語」とは

今回扱うのは、「今回のオノマトペ」ラインナップをご覧頂くとわかるのですが、「今年の新語2020」で選ばれたオノマトペたちです。「今年の新語」に関しては詳細は省きますが、国語辞書を多数刊行している三省堂が、毎年その年に流行した・よく使われるようになった新しい語・表現を募り、「今年の新語」として取り上げるイベントです。辞書マニアが選考結果を予測したり、言葉に興味のある方々がにわかに盛り上がる、楽しいイベントとなっています。私も選考結果を授業で取り上げたりしますので、毎年この時期になると楽しみにしています。

https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/shingo/2020/index.html

特に「ぴえん」に関しては堂々の大賞受賞となり、様々な考察がなされているので、あえて語ることもないかな、と思いつつ、今回は「ぴえん」と対称的な使い方をされる「きゅん(です)」もあわせて取り上げてみようと思います。では、順序が前後しますが、「ごりごり」からいってみましょう。

「ごりごり」とは

「ごりごり」は今年の新語2020の栄えある第7位に選出されました。「ごりごり」自体は特に新しい言葉ではないのですが、どのあたりが新しいところなのでしょうか。元々、「ごりごり」は、固い物同士を擦りつける・潰すような音や、思想や考え方が硬直していることを示すのに使用されていました。しかしながら、後者の「考え方が硬直している」という表現がよりポジティブな表現としても使用されるようになったことが、選出の理由として挙げられていました。例えば「ごりごりの関西弁」「ごりごりの恋愛ドラマ」と表現された場合でも、ここにはもうネガティブな印象は無く、「根っからの」「徹底した」という意味になるのだそうです(「~の関西弁」といえば、個人的には「コテコテ」しか入らないのですが、年齢ですかね…?)。

この用法で使われる別のオノマトペとして、「バリバリ」が挙がってきそうな気がしているのですが、これは関西方言でしか有効ではないのでしょうか…?「ごりごり」は、元の音が硬い物同士をこすりつける音であるが故に、どちらか(あるいは両方)が挽き潰されるようなイメージが浮かびます。ごりごりの○○主義者に関しても、その柔軟性が欠ける主張のために周りが傷ついたり生産的な議論ができないような、ネガティブなことが起きていることが連想されます。ですので、ポジティブな表現になっているのが個人的には少し不思議なのですが、そういった元の意味を超えて得られた意味合いなのかもしれませんね。

「ぴえん」と「きゅん(です)」

「ぴえん」は、辞書によって説明が微妙に異なるのですが、概ね「悲しみや感激の際に上げる軽い鳴き声」といった、程度の軽い感情を示すのに使用されるらしいです。また、ある特定の絵文字(涙目の絵文字)とほぼ同義である点も特徴的であると言えます。「ぴえん」に関する説明は、他の記事に譲るとして、今回は新語候補には含まれませんでしたが、Instagramで多用されており気になっている別のオノマトペ「きゅんです」と一緒に取り上げさせて下さい。

「ぴえん」は、「○○だった、ぴえん」のように文末に来ることで、この「程度の軽い悲しみ」を表すことができます(実際に使ったことがないので、もし間違っていたらご指摘ください)。この点は、(笑)やその他の絵文字のように、独立して使用可能であるところが特徴ですね。そこで、こちらの歌を聴いてみてください。

「ポケットからきゅんです!」https://youtu.be/ERkSupJS7-Q

https://youtu.be/ERkSupJS7-Q

音楽配信サービスから流れていたときはすごくびっくりしたのですが、「キュン」が進化していました。Instagramでも「かわいい」という表現の代わりに「きゅんです」が使用されるようになり、「きゅんです」ポーズ(親指と人差し指を交叉してハートを作る)までできており、なんだかよくわからなくなっておりました。「キュン」「胸キュン」は知っているのですが、この「きゅんです」に関しては「きゅん」だけで独立して使用されることがあまりありません(それだと過去の用法と同じですね)。なぜ「です」が付くようになったのでしょうか?

おそらく、なのですが

  1. 「きゅん」が以前からある表現であるため、差別化するために丁寧表現である「です」を付けた
  2. 「私は今『きゅん』と感じている状態なのです」ということを周りに伝達するために「です」を付ける
  3. 「きゅん」単体だと以前の意味合いからかわいすぎるため、やや距離を取るために「です」を付けている

あたりが混ざっている考えられます。特に2)に関しては、SNSという場で使われることを考えると、妥当なのではないかと思われます。自分の中で感じるだけであれば「きゅん」で済みますが、それを外に表明する際に「きゅんです」になる、と考えます。

文章は、基本的に誰かに読まれることを前提として綴られるものですが、「知り合いを含む他者に自分の書いたものが読まれること、読まれることでどのように思われるか」をずっと先まで見越して文章を書くことが、こんなにも意識されるようになったのは、ここ十数年のことではないかと思います。これからもSNSはどのような表現を生みだしていくのか、楽しみでもあり、おそろしくもあります。

追伸:今回はInstagramを取り上げましたが、同じSNSであるTwitterはかなり以前から分析対象としての歴史があります。

⽥川 拓海 「TwitterやLINEはどれくらい⽇本語研究の対象になっているか」

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