第73回 概算要求を外国人との共生と規制から見る|田尻英三

★この記事は、2026年9月25日までの情報を基に書いています。

ウクライナやイランの侵略戦争の人為的被害、ネパールの洪水のような自然の猛威、ドイツの州議会選挙での極右勢力の伸長など、世界規模での混乱が続く中、日本では人口減少対策であった外国人受け入れが規制の方向での国際的な交流縮小の一方、経済的な拡大施策を進めるための政府の莫大な予算が組まれようとしています。

概算要求というものが、かつてこれほどまでに注目されることがあったでしょうか。注目される理由は二つあります。一つは、これからの第2次高市改造内閣(以下、改造内閣)がどのような方向へ進んでいくかを推測される材料になっていることです。もう一つは、「『強く豊かな日本』投資枠」として要求上限(シーリング)を設けないという方針により、予算執行のための歳入の当てのないまま各省庁の概算額が大幅に膨らんだことです。

概算要求の公表の日程も一斉ではありませんでした。例えば、文部科学省(以下、文科省)は8月28日で、法務省は8月31日でした。各省庁とも、概算要求額の決定には苦労しています。

9月17日に改造内閣が発足しましたが、新しい大臣の下どのような施策が進められるかを注目する必要があります。非常に大雑把に言えば、法務省と出入国在留管理庁(以下、入管庁)は外国人規制の方向を向き、文科省は外国人との共生の方向を向いていると、田尻は考えています。ただし、入管庁の概算要求の中には、外国人との共生を進める項目も含まれています。

以下では省庁毎に概算要求の内容を検討していきます。

なお、以下で扱う内容は概算要求を基に考察していくので、事業内容は年末の財務省との折衝の結果大きく変わる可能性があることに留意してください。今回の全体の概算要求額は、あまりにも多すぎます。

世界状況の変化で、日本に来る外国人や今日本にいる外国人が減ったりしたら、日本語教育の仕事は無くなってしまいます。日本語教育関係者は、外国人を取り巻く状況に関心を持ってください。

世界が大きく動いている中、日本語教育の世界は相変わらず内向きのままです。

1. 各省庁の概算要求

(1)文部科学省

総合政策教育局の概算要求は、以下のURLで見ることができます。

https://www.mext.go.jp/content/20260825-ope_dev02-000051779-4.pdf

その中でも注目すべきは、以下の項目です。

〇「秩序ある共生社会の実現に向けた日本語教育支援総合パッケージ」(以下、パッケージ)

文科省のホームページには、パッケージ専用のサイトが開設されています。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003/1320860_00001.html

2027年度の概算要求は、昨年度の約1.5倍となっていて、その中でも事項要求として額が確定してないのが、このパッケージです。日本語教育についても、新しいこのパッケージは来年度予算の目玉とも言える項目です。このパッケージにより、政府が初めて全国の在留外国人の日本語教育の体制や、従来は地方に任せていた地域の日本語教育の体制の枠組み作りに関わることになったのです。この点についての日本語教育関係者からの反応は、概算要求公表以降現在までの1か月たっても見られません。政府の大幅な方向転換も、日本語教育関係者には届きません。

このパッケージを実施するために、「骨太の方針」に書かれている「在留許可手数料の見直し等により確保した財源も最大限活用して」とあるのには、田尻は反対します。在留外国人の規制が強まっているこの時期の在留許可手数料の値上げは、外国人規制の一環と受け取られる可能性もあります。そもそも外国人との共生施策の経費はそれ自体で計上すべきで、他の施策で増えた額を利用するのは好ましくないと考えます。入管庁の「令和8年10月1日付け在留許可手数料の額の改訂に関するQ&A」では、「外国人の出入国及び在留の公正な管理に関する施策を確実に実施しつつ、更なる強化・拡充を図っていく必要があると考えております。そのためには、これらの施策に要する費用について、在留外国人の方々に相応の負担を求める必要があると考えられたことから、在留許可手数料の上限額を引き上げることとなりました」と書かれています。

このパッケージにある「日本語学習プログラム」については、以下の文科省の項で説明します。

このパッケージの新規事業として、学齢期以前の教育であるプレスクールと学齢期の教育であるプレクラスの支援強化は、新しい項目です。

「自治体における日本語教育センター機能整備への支援」も、新しい項目です。これから自治体に「総合調整会議」を設置する予定のようです。

「地域日本語教育の実施に関するガイドラインの策定」も予定されています。

このように、多くの項目で新しい日本語教育の取り組みを目指しています。このパッケージについての日本語教育関係者の発言が活発に行われることを期待します。

詳しい内容は、ここではこれ以上扱いません。

〇外国人児童生徒等への教育の充実

この項目は国際教育課の担当です。額も、前年比の約6倍の89億5900万円となっています。

額が拡充した項目として、「帰国・外国人児童生徒等に対するきめ細かな支援事業」の説明にある「総合的・多面的な指導・支援体制が地域の実情に沿って構築される」という意味が、田尻にはよく分かりません。どの機関・団体によって「される」のか不明です。外国人児童生徒等の数の偏りや、国籍・年齢の多様化など、地域の外国人児童生徒等への日本語教育には多くの問題があります。「地域の実情に沿って」の教育プログラムを文科省が「構築」していくと言う意味でしょうか。

「日本語指導が必要な児童生徒等の教育支援基盤整備事業」も、10倍近くに増額されています。「本事業により達成される成果」として、「全ての地域で外国人児童生徒等が自律的に学ぶことができる環境が整備される」という目標達成には困難が伴うと考えられます。

「プレスクール・プレクラス(初期日本語指導等)支援強化事業」では、「プレクラス等の普及促進及び効果的な実施方法開発等」として、「国主導による運用マニュアルや標準教材等の開発・普及」が書かれていますが、従来は各地域で苦労して作ってきた教育内容と新しく作る「国主導による運用マニュアル」との調整はどのように行われるのでしょうか。田尻は、各地域で作られてきた教育内容も参考にしたうえでの国の運用を図ってほしいと考えています。

「帰国・外国人児童生徒等教育の推進支援事業」では、「外国人の子供の就学促進」だけではなく、「不就学等の外国人の子供に対する日本語、教科等の指導のための教室」の支援も行うことになっています。

国際教育課が扱うのは外国人児童生徒等への教育ですので、日本語教育だけの事業を行うものではないことに留意してください。

他の項目については、ここでは扱う余裕がありません。

〇外国人等に対する日本語教育の推進

この項目は、日本語教育課の担当です。

・外国人材の受入れ・共生のための地域日本語教育の拡充 12億500万円

パッケージでは、この項目は「大人」への日本語教育と位置付けられています。概算要求額は、2倍になっています。ガイドラインの策定や、地方自治体における日本語教育センター機能整備への支援など、難題山積です。このパッケージについては、8月28日に、各都道府県知事・各都道府県教育委員会教育長・認定を受けた各地方公共団体の長・各文部科学大臣所管学校法人理事長などへ宛てて「秩序ある共生社会の実現に向けた日本語教育の充実について(通知)」が文科省総合政策局長の名で出ています。

https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/2026/mext_000016.html

この通知には政府の外国人の日本語教育関連の資料が列記されていますので、ぜひ見ておいてください。

この通知は、文科省の独立したサイトにもなっています。

・日本語教育空白地域解消の推進強化 6200万円

額としては半減していますが、パッケージとの関連で実質的には進められると思われます。

・日本語教師の養成及び現職日本語教師の研修事業 2億2700万円

1500万円の増額です。日本語教師の資格取得後の研修などを行います。地域の日本語教育関係者のネットワーク構築などの事業を行う予定です。

・日本語教育機関認定法等の施行事務に必要な経費 5億4300万円

日本語教育機関の審査等となっています。日本語教育課の1名増員の募集が文科省のサイトに出ていました。

・日本語教育に関する調査及び調査研究 1600万円

昨年と同額です。

・省庁連携日本語教育基盤整備事業 800万円

項目の中に、日本語教育推進関係者会議の開催がありましたので、できるだけ早く開催してほしいと願っています。

・秩序ある共生社会に向けた日本語学習プログラム構築事業 事項要求

上述のパッケージの中の日本語教育課の担当事業です。「日本語・生活学習プログラム(仮称)」構築のためです。「入国前及び入国直後、在留中期以降の生活に必要な日本語能力を習得するための日本語学習プログラムの作成などを行うものです。日本政府が来日・在留外国人への日本語学習プログラムを初めて作成するもので、今後の日本語教育施策に大きな影響を与えるものでもあります。第72回で扱った「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」の下に設置された「日本語・生活学習プログラム(仮称)の検討のためのWG」と連動して動くと思われます。このプログラムは、2028年4月以降に試行実施されることが決まっています。

・プログラム作成にあたっての留意してほしい点

文科省が作成するプログラムと「入管庁が作成する生活学習プログラムとともに、内容を理解していることが在留審査における考慮要素とすることを検討」となっています。つまり、このプログラムを修了することが在留要件となる可能性があるということです。このままでは、日本語教育が在留資格審査の判断基準に使われることになりかねません。それでは、日本語教育が外国人を規制する施策の一部を担うことになります。この点は、十分に検討をしてほしいと思います。

在留中長期の外国人の日本語能力を測る場合には、ぜひとも話す能力測定をプログラムの中に入れてほしいと考えます。中長期在留している外国人の話す能力は高いと考えれますので、在留審査の際にはこの点を考慮してほしいのです。日本人でも同様ですが、漢字を書くのは難しいので、日本社会での漢字使用は携帯電話などの漢字変換機能などを使えば困ることはあまりないと考えられます。

現在、このプログラムについてこれ以上の情報はありません。

・条約難民等に対する日本語教育 2億3600万円

昨年と同額です。最近はニュースになっていませんが、難問問題は解決されていません。

(2)法務省の概算要求

法務省の概算要求の概要・施策の概要は、以下のURLにあります。

https://www.moj.go.jp/content/001469623.pdf

法務省の概算要求で外国人関係の項目は、「Ⅱ.出入国及び外国人の在留の公正な管理を実現するための取組」の「② 外国人材の適正かつ円滑な受入れ・秩序ある共生社会実現のための取組等」にあります。要求額は、127億1600万円増の263億7100万円です。

この中には、入管審査官等の271人の増員も含まれています。

日本語教育関係では、「公正な在留管理の推進・秩序ある共生社会の実現」155億1400万円の中に「日本語・生活学習プログラム(仮称)の開発等」がありますが、このプログラムの要求額は示されていません。入管庁は、生活学習プログラムを担当すると考えられます。

「外国人材の適正かつ円滑な受入れ」とは、「ルールの遵守・各種制度の適正化に向けた取組」のことで、その目的は「国民の安全・安心を確保」や「外国人と安心して暮らす秩序ある共生社会を実現」するためとなっています。ここには、外国人の人権への言及はありません。

(3)厚生労働省の概算要求

厚生労働省の概算要求は、下記のURLにあります。

https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/27syokan/dl/01-02.pdf

項目としては、職業安定局外国人雇用対策課の「外国人労働者の適正な雇用管理等に関する体制整備等」13億円と、人材開発統括官付海外人材育成担当参事官の「外国人育成就労機構交付金」96億円(8億円増)が見られます。

また、新規事業として「規律ある国際労働市場の構築に向けた外国人労働者等送出し適正化支援事業(ILO拠出金)」4億5000万円があります。

(4)外務省の概算要求

外務省の概算要求は、下記のURLにあります。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/101079850.pdf

項目としては、「【柱4】戦略的な文化外交」の中に、「国際交流基金運営費交付金173億9000万円」(34億9000万円増)があります。

(5)総務省の概算要求

総務省の外国人関係の概算要求は、下記の「地域力創造グループ国際室」のURLにあります。

https://www.soumu.go.jp/main_content/001092556.pdf

「外国人との秩序ある共生社会の実現に向けた地域の受け皿づくりに関する調査研究」に「モデル事例の創出と横展開を推進」があります。以前は補正予算の項目でしたが、今回は概算要求の5000万円となっています。いわゆる多文化共生のための概算要求の項目は、見つかりませんでした。

2. 第2次高市改造内閣での外国人施策

2026年9月17日に、第2次高市改造内閣が発足しました。高市総理の下での組閣は3度目ですが、今回は大臣の一部が変わっただけですので、第2次改造内閣という名称になります。

外国人との秩序ある共生社会推進担当の小野田大臣は留任しましたが、第71回の「未草」の記事で詳しく説明したように、政府の方針は自民党の外国人政策本部の提言に大きく影響を受けていますし、推進室のサイトではいくつかの会議の情報を「新着情報」として公表している活動をしている以上の活動をしているようには見えません。

外国人施策の点から、今回の内閣改造で注目すべきは山下法務大臣です。山下大臣は、入管庁の設立時の大臣ですし、自民党の外国人政策本部「出入国・在留管理等の適正化・外国人受入れに関するPT」の座長でもあります。今後、山下大臣が高市内閣での外国人施策をリードする役目を果たすと、田尻は考えています。

ここで入管庁の或るサイトが気になりました。

〇外国人の受入れの基本的な在り方の検討のための論点整理(令和7年8月法務大臣勉強会)

この資料のサイトは、以下のURLにあります。

https://www.moj.go.jp/isa/policies/others/05_001390_00001.html

この法務大臣の私的勉強会は、2025年2月に始まったと書かれていますが、何回開かれて、メンバーはだれだったのかなどのデータは示されていません。この論点整理がいつ入管庁のサイトに公表されたのも記されていません。田尻が気が付いたのは、2026年8月になってからです。したがって、この資料が入管庁の施策形成に関わったのかは分かりません。しかし、その内容は、入管庁の施策に関係していることは明らかなので、ここで紹介しておきます。

この資料の副題は、「活力ある強い日本の実現/国民の安全・安心の死守」となっています。つまり、外国人の受け入れの在り方を検討しなければ、日本国民の安全・安心が脅かされるという事態が起こり得るということを前提に検討するという意味していると思われます。「死守」というのは、大変強い表現です。現状分析や「治安の観点」など気になる記述がありますが、ここでは触れる余裕がありません。

「検討事項」として、以下の点が挙げられています。これまでの外国人施策に関わると考えられる項目のみを列挙します。

・電子渡航認証制度(JESTA)の早期導入と、システム利用時に外国人から徴収する手数料を外国人政策のための財源としても活用することを検討する。

・計画的かつ確実な護送官付き国費送還

・被仮放免者の動静監視

以上により、不法滞在者ゼロを目指す。

また、在留資格等における悪用の指摘により以下の対応を検討する。

・「経営・管理」の在留資格の資本要件等の見直し

・「留学」の在留資格の資格外活動許可による就労許可の在り方の見直し

・「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の在り方の見直し

・永住許可制度及び帰化制度の適正化

以上の項目は、自民党の外国人政策部会や法務大臣政務官PT、さらには高市内閣の施策と明らかに連想していると考えられますので、ここに紹介しておきます。

ただ、この論点整理の内容がいつ決められたのかは明確ではありませんので、上記の施策と時間軸での統合はできません。

3. 二つのワーキンググループの動き

外国人の受入れ・秩序ある共生社会の実現に関する関係閣僚会議の下に、二つのワーキンググループができたことは、第72回の『未草』の記事で述べました。その二つのワーキンググループが、すでに動き出しています。現在は、資料のみ公表されていて、議事概要は第1回で資料6の説明のみが公表されているので、どのような議論があったのかは分からない。第2回の議事概要は、現時点では公表されていない。資料も、当初公開されたものが、或る時期に更新されていますので、最新の資料を確かめてください。

〇日本語・生活学習プログラム(仮称)の検討のためのワーキンググループ

構成員は、日本語教育関係では、戸田佐和さんと浜田麻里さんで、田村太郎さん・結城恵さん・四方光さんも入っています。座長は、日本総合研究所の高橋進さんです。

・第1回 8月18日 

https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/programwg/dai1/gijishidai.html

このワーキンググループの目的は、「日本語・生活学習プログラム(仮称)を試行・導入するに当たっての必要な視点、方向性及び留意事項を調査し、有識者会議に調査結果を報告する」としていますが、「日本語・生活学習プログラム(仮称)」のたたき台を検討するのでしょうから、このワーキンググループは大変大事な責任を担っているのは間違いありません。

資料1の「日本語・生活学習プログラム(仮称)の検討をめぐる経緯等」は、必ず読んでおいてください。ここでは、資料6の「日本語・生活学習プログラム(仮称)に係る主な論点」を扱います。

この資料では、「御議論いただきたい事項」と並んで、「法務大臣政務官PT報告書の記載(抜粋)」が掲げられています。つまり、「日本語・生活学習プログラム(仮称)」は、政務官PT報告書を前提にして作られたということを示しているように見せています。

「プログラムの基本的な構成」では、コースを二つに分けています。

Aコース(仮称、入国前・入国直後)は、eラーニングを中心にする。

Bコース(仮称、永住許可や帰化)は、認定日本語教育機関等を活用した対面講座(同時双方型オンラインを中心にする。

その他、学習内容、受入れ機関の役割、地方公共団体の取組との関係、在留審査への反映(受講状況等の確認)などが挙げられています。

議事要領に、「共生」について以下のように出ています。出席した政府側のどなたかの発言です。

  共生とは、既存の秩序を全て外国人に覚えてもらうことや全てを相対化することではなく、日本人・外国人を問わず、何を「守るべき秩序」として共通基盤とし、何を「作り変えることのできる秩序」として対話によって調整していくのかを社会全体で明確にすることだと考えている。

「秩序」について、外国人と日本人が「対話によって調整」できるかを注目することにしますとのことです。それにしても、この「秩序」と「共生」の定義は一般に考えられているものとは大きく異なっていると思いました。丁寧な議論が必要ではないでしょうか。

「各国における中核的な社会統合プログラム」の対照表が出ていて、有益です。

・第2回 9月18日

https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/programwg/dai2/gijishidai.html

愛知県・山梨県・神戸市・今治市の資料が出ています。どんな話し合いがもたれたのかは、現時点では不明です。

〇外国人の受入れの基本的な在り方の検討のためのワーキンググループ

・第1回 8月7日

https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/arikatawg/dai1/gijishidai.html

このワーキンググループの目的は、「外国人の受入れの基本的な在り方を検討するに当たっての留意事項や必要な視点等を調査し、有識者会議に調査結果を報告すること」となっています。

そして、扱う主要議題は、「将来の在留外国人数を推計するにあたっての手法・考慮すべき事項」、「外国人が社会経済の様々な面(例:経済・社会保障・教育等)に与える影響」、「推計・影響分析を踏まえた外国人の受入れの基本的な在り方を検討するにあたっての留意事項・視点等」となっていて、何を検討するのかよく分からない表現になっています。

推計の対象時点はおおむね2040年までで、推計の前提となる将来の状況(シナリオ)を扱うことが「推計の手法等のイメージ」です。このワーキンググループはデータを提出するだけで、何か具体的な数字を決めるのは上位にある有識者会議のようです。

・第2回 9月15日

https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/arikatawg/dai2/gijishidai.html

外国人の就労状況・来日外国人犯罪情勢と、島根県・伊勢崎市の資料が提出されています。議事の中身は、現時点では不明です。

4. 第2次出入国在留管理基本計画

5年毎に改正されている「出入国在留基本計画」の第2次基本計画が、パブコメ募集を経て公開されました。サイトでは、細かな公表日は書かれずに、2026年7月とのみ書かれています。

https://www.moj.go.jp/isa/content/001467575.pdf

在留資格の変更許可の手数料の値上げ、永住許可要件の厳正化、在留資格「経営・管理」の基準の見直し、日本語や我が国の制度・ルール等を学習するプログラムについての試行的な導入の検討などが書かれています。

5. 認定日本語教育機関の申請機関数

文科省の「認定日本語教育機関の申請機関数」というサイトに、2026年度第1回の申請機関数が確定したお知らせが出ています。詳しい公表日は書かれていません。

申請機関数は230機関で、留学課程は226機関、就労課程は4機関、生活課程は2機関となっています。そのうち、法務省告示機関は161機関、大学留学生別科は7機関、その他が62機関となっています。継続審査の13機関も、この数字に含まれています。

申請機関数が大幅に伸びました。申請できる最終リミットを考えて、やっと日本語教育機関が本気になったようです。

ここで気になったのは、日本語教育振興協会(日振協)が8月10・11日に開いた日本語学校教育研究大会です。田尻も理事をしている日振協は、日本語教育機関の団体の中でも公正で透明性のある団体であると考えていますが、その日振協がこの変動期に企画した分科会は期待外れでした。田尻は、てっきりこの時期に参照枠や評価を扱うのなら認定申請に関わる内容を扱うと思っていました。しかし、田尻がアーカイブ配信で視聴した限りでは、直接関係する内容はなかったと思います。神吉宇一さんや嶋田和子さんの講演では申請のための参照枠の使い方は分からず、二子石優さんは相変わらず先行研究を引かずに過去の経緯の説明が無く、山本弘子さんは評価の話になっていました。もしかすると、日振協は申請のやり方を知りたいなら有料の講習を受ければよくて、この大会では評価研究を勉強するための大会だと考えているのかもしれません。田尻としては、この時期だからこそ認定申請制度を真正面から扱ってほしかったと思っています。

6. その他の気になった情報

〇入管庁の日本語能力に関するサイトの記述が変更

第72回に書いた「入管庁が考えている日本語能力」で扱ったもので、確認書を書く時に「N5の問題集から日本語で出題し」という記述は削除されました。この『未草』の記事も、多少はお役に立ったのかもしれません。

〇『国際人流』8月号の特集「育成就労制度における日本語教育の準備」について

この特集は育成就労制度ではどんな準備をすればいいのかを扱っているので、日本語教育と就労制度のあり方などは扱っていません。入管協会の出版物だから仕方がないとは思います。

ただ、永山順一さんの「外国人社員『日本語アップ』の取組み」に「試験に通らなければ継続雇用ができない恐怖」にある「企業にとって大変な恐怖であり」(17ページ)とあるように、日本語教育が外国人規制の道具になっています。田尻が上記で危惧したとおりになっているのが分かりました。

〇育成就労制度の講習への登録日本語教員の参加

これも第72回の『未草』の記事で扱った「育成就労の日本語講習への登録日本語教員の関わり方」の続きです。

7月31日の「留学生新聞」の記事で、この育成就労の日本語講習に参加する意向があるのは239機関もあることが分かりました。内訳は、就労課程が3機関、留学その他の機関が39機関、法務省告示日本語教員機関が197機関ということです。ずいぶん多くの機関が手を挙げたことが分かります。今後日本語教員機関が生き残りを図るのなら、就労分野に関わる必要があることを示していると言えるでしょう。

〇外国人規制施策が盛んに行われるようになった理由

第71回の『未草』の記事では、厳しい外国人施策が増えた理由として選挙戦略の面を強調しましたが、実際に日本に住む外国人が増えていることにも触れておかなければ不公平だと気付きました。

欧米ほど(欧米では移民)多くはありませんが、日本でもこの4年間は毎年30万人程度の在留外国人が増えています。産経新聞にも、2026年の外国人比率が10%を超える市区町村を挙げていました。確実に身の回りに外国人住民が増えているのです。今だからこそ、在留外国人との共生の流れを広範囲で進めなければいけないのです。そのためには、日本語教師の果たす役割は大きいと考えています。

〇名古屋大学が学部の私費留学生入試を停止

9月9日に、名古屋大学が「2028年度以降の『私費留学生入試』(学部4月入学)の変更について(予告)」を公表しました。理由は、「志願者数の減少等の実施状況等を踏まえ、整理・見直しを行い決定した」ということです。志願者数が増えている「国際プリグラム群入試」(10月入試・英語による教育プログラム)による私費外国人留学生や、国費外国人留学生、大学院生、非正規生(研究生等)は引き続き実施です。

これには驚きました。トップレベルの国立大学が志願者が減ったからといって入試を止めるというのは理解できません。日本人学生の志願者数が減ったからといって入試を止めたら、どうなるでしょう。ひと騒ぎ起こることは間違いありません。志願者が減った理由を名古屋大学は分析したのでしょうか。こんなに簡単に私費外国人入試を止めるのなら、学内では留学生教育を軽視しているとしか思えません。

かつて名古屋大学は日本語教育研究の中心地の一つでしたが、ずいぶん変わってしまったと感じました。

※例のごとく、触れなければいけない情報がたくさんあります。今年中に外国人施策の方向性が決まってしまいます。多くの人の意見表出や行動実施を期待しています。

 

関連記事

  1. 田尻英三

    第57回 日本語教育の新しい取り組みの結果|田尻英三

    ★この記事は、2025年1月27日までの情報に基づいて書いています。…

  2. 英語とともに日本語を考える

    英語とともに日本語を考える| 第3回 不思議な世界―オノマトペの話|武内道子

    「蕎麦をするするとすする」といえばおいしそうに響きますが、「ポタージ…

  3. 連載別

    日本語表記のアーキテクチャ:第8回:振仮名(2)明治期の振仮名 /The Architecture …

    今野真二 前回の末尾において「振仮名について考えるためは、振…

  4. 田尻英三

    第44回 パブコメ募集と二つのWGの重要性|田尻英三

    この記事は、2023年9月14日までの情報を基に書いています。…

  5. 田尻英三

    第37回 日本語教育施策の枠組みが変わる(2)|田尻英三

    ★この記事は、2022年12月20日までの記事を基に書いています。…

ひつじ書房ウェブマガジン「未草」(ひつじぐさ)

連載中

ひつじ書房ウェブサイト

https://www.hituzi.co.jp/

  1. 古代エジプト語のヒエログリフ入門:ロゼッタストーン読解|第7回 ヒエログリフの表…
  2. 自分を変えるためのエッセイ作成術|第2回 タイトルのつけ方は4通りある~その1|…
  3. 古代エジプト語のヒエログリフ入門:ロゼッタストーン読解|第16回 ヒエログリフの…
  4. 第72回 日本語教育の変質と外国人施策担当部署の分散化|田尻英三
  5. ことばのフィールドワーク 薩摩弁| 第12回 薩摩弁の日本語み|黒木邦彦
PAGE TOP