第45回 最後のパブコメと会議資料の大幅な改変|田尻英三

この記事は、2023年10月14日までの情報を基に書いています。
今回の「未草」の原稿では、現在進められている日本語教育施策についての最後のパブリックコメントと意見募集への参加要請と、意見募集で示されている資料が10日の会議資料と大きく異なっている点を問題にします。10日の会議資料では、10月17日の意見募集の締め切りの前に、意見募集で示されている資料が変えられて出ています。これでは、意見募集をする意味がないと考えます。
その他、大事な情報を列挙します。

1.第121回日本語教育小委員会の議事内容の重要性

9月26日に開かれた第121回文化庁の文化審議会国語分科会日本語教育小委員会では、大変重要な議題が扱われていましたが、議論する時間が足りませんでした。浜田座長からも多くの議題を扱うので時間の余裕が無いという発言を受けてのことでしょうか、委員の発言があまりありませんでした。田尻は、設定の時間がオーバーしても、もっと議論をしてほしいと感じました。
二つのワーキンググループで扱われた内容は、第44回の「未草」の原稿と重複しますので、省略します。

(1)ワーキンググループ①と②の審議状況の説明

ワーキンググループ①と②の説明は前回44回の「未草」に書きましたので、そちらをお読みください。そこで田尻が指摘した問題点、特に登録日本語教員養成機関のコアカリキュラムについては、この小委員会でも議論がありませんでした。この小委員会の参考資料4として実態調査研究報告書が付いているのですが、委員の方々はそこまで目を通していなかったのでしょうか。

1点だけ気になる質問がありましたので、触れておきます。
日本語教員が学校現場で教えられないかという或る委員の質問に対して浜田座長がきちんと説明をしたのですが、それを聞いた後でもその委員は何とかならないかと言っていました。これに関しては、2014年に「特別の教育課程」実施が決められた時に、日本語指導補助者は単独では教壇に立てないことが決まっていますので、現在では対応できないのです。それでもなお日本語教員が学校現場で教えるようにするというなら、正式には法律の改正が必要です。そこまで理解してあの発言をしているのかどうかは、田尻にはわかりません。法律の改正は、この小委員会で扱う範囲を超えています。

また繰り返し書きますが、ワーキンググループや小委員会では「留学」が主たるテーマになっていますが、今回の施策では「就労」・「生活」も政府の日本語教育施策として位置付けられているのです。田尻の考えでは、学校教育における日本語教育を扱う「就学」分野も施策の対象にしてほしかったと思っています。これらの点について発言するためには、外国人労働者の在留資格や労働現場の問題点、市区町村の日本語教育の体制の実態把握や空白地域への支援についての理解が必要です。田尻には、日本語教育の専門家は日本語教育の自分たちの興味の世界だけに目が向いていて、日本在住の外国人の置かれている状況をあまり理解していないように感じています。

(2)登録日本語教員資格取得と小学校等での実践研修

小委員会の資料10に「登録日本語教員資格取得のための小学校等における実践研修(教壇実習を含む)の在り方について」があります。これは大事な問題点ですが、小委員会ではほとんど議論されませんでした。委員間で問題意識が共有されていなかったのではないかと、気になりました。
この資料で「ご審議いただきたいこと」として、次の2点が挙げられています。

  1.  登録日本語教員の資格制度として教壇実習先を小学校等のみでも可能とするかについて(小学校等とは、小学校・中学校・義務教育学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校となっています)
  2. 小学校等での教壇実習を認める場合の要件について
    ここでは、「要件の検討の観点」が三つ挙げられていて、それに対する「案」も示されています。

田尻は、小学校での教壇実習には要件の検討よりも基本的な問題点があると思っています。
登録日本語教員になるための実践研修先には、登録実践研修機関の登録手続きのための「審議会の確認事項」があります。このような確認事項と同じレベルの確認事項を、実践研修先である小学校等に求めるのでしょうか。田尻は、将来的にも「指導体制に関する事項」に当てはまる指導教員が小学校等に在職しているのは極めて稀であろうと思っています。もしそうであるなら、小学校等での教壇実習にあたっては、登録実践研修機関の確認事項とは別の確認事項を設ける必要があると思います。「就学」分野での日本語指導は喫緊の問題ですので、小委員会できちんとした議論が行われることを期待します。

田尻は、この教壇実習以前の問題として気になっている点があります。
最近いくつかの大学で、小学校教員免許と日本語教員免許の両方が取れるということをうたい文句に学生募集を始めた大学がありますが、このようなことは果たして可能なのでしょうか。かつていくつかの国立大学教育学部で同様の試みがありましたが、小学校の教員免許に必要な単位を取ったうえで日本語教育関係の単位を取ることは無理だとわかり、このような課程が作られることは無かったという過去の経緯がありました。ポイントは、「単位の読み替え」です。小学校教員免許のために取得したいくつかの単位を、日本語教育に必要な単位に読み替えることはできないというのが、当時の結論だったと聞いています。当初日本語教育主専攻と言っていた大学が、無茶な「読み替え」は好ましくないということになり、或る時から副専攻に変わっていたという例もありました。田尻は、安易な単位の読み替えはすべきではないと考えています。したがって、最近いくつかの私立大学で小学校の外国人児童生徒も教えられる小学校教員養成というコースを開くことについては、疑問に感じています。

「登録実践研修機関の審査における審議会の確認事項」の中では、海外教壇実習について確認事項が追加されています。この件は、小委員会では特に触れられませんでしたが、大事な変更です。この点については、事務局から説明からしてほしかったと思っています。この他にも、この小委員会の段階で追加された箇所が赤字で示されていますので、注意してください。

(3)日本語教育機関認定法の省令等案のパブリックコメントに寄せられた意見

資料12に日本語教育機関認定法の省令等案についてのパブリックコメントが、整理して書かれています。文化庁としても寄せられたパブリックコメントを受けて今後の審議の方向性に活かそうとしている点は、評価できると思っています。それだけに、この資料もこの「未草」の読者は読んで理解しておくべきだと思っています。
この資料では、パブリックコメントを「主に緩和」と「主に厳格化を求める」意見とに分けて示しています。この分け方は、今後の会議の論点を整理する文化庁の考え方を示していると考えられます。田尻としては、寄せられた意見が分かりやすく示されているものとして理解しました。田尻個人としては、今後行われる審議で安易に確認事項の適用を緩和するようなら、法律を作った意味がないと考えています。今後作られる予定の審議会での審議において、日本語教育機関や日本語教員養成課程において質の保証が十分ではないという問題点を少しでも解消するように取り組んでほしいと強く願っています。

この小委員会では、この他に以下のような資料も挙げられています。

  • 「日本語教育の参照枠」補遺版検討のワーキンググループの審議状況(田尻注:これについては、最終報告が出た時点で「未草」の原稿において扱います)
  • 日本語教員試験試行試験の協力者募集
  • 令和6年度の概算要求(田尻注:これについては、他の省庁の概算要求と一緒に後で注意事項のみ扱います)

2.第85回国語分科会

9月29日に、第85回文化審議会国語分科会が開かれました。この会議は、日本語教育小委員会の上位の会議として位置付けられているものです。
したがって、この国語分科会で配布された資料はこの時点でのワーキンググループや日本語教育小委員会の審議を経た資料ということですから、手元にプリントアウトしておくものとしては最適なものになります。
この会議で、上に述べた資料以外に追加された資料はありません。

3.第19回日本語教育推進議員連盟総会

9月27日に衆議院第一議員会館で、この総会は開かれました。
この総会の資料は、10月3日に日本語教育学会のホームページの「学会からのお知らせ」に出ました。ただし、当日配布された資料の「出席者一覧」や「取扱注意」の項目は掲載されていません。このような措置は、不確定な情報が流れることを防ぐために当然のことだと思います。
以前から言っているように、一番大事な資料は「日本語教育機関認定法 今後のスケジュール案(令和5年8月下旬時点)」です。
1年遅れのスケジュールのため、いかに短期にいろいろなことが決められていくかということを実感してください。後で述べる省令等パブリックコメントの募集に応じることが、関係会議の委員ではない人にとっては意見が言える最後のチャンスです。

この総会で初めて示された資料がいくつかあります。

(1)日本語教育機関認定法の施行に向けた対応について

ここでは、「1.今後の主なスケジュール」、「2.日本語教育機関認定法の省令等(案)全体像」、「3.今後の主な論点と方向性」が掲載されています。
ここで特に重要なのは、「3」です。最初の試行試験が12月10日に実施予定であることを始めとして、今後決められていく事項のポイントが示されています。わずか1ページの資料ですので、じっくり読んでください。ここに書かれていることを理解して、変な噂に振り回されないようにしてください。

(2)日本語教育機関認定法の執行体制について(イメージ)

ここで初めて、来年4月以降の日本語教育を担当する部署名と課内の構成が示されました。ただし、この体制は現在内閣人事局に要求しているものなので確定したものではありません。そのためには、日本語教育議連の国会議員の方々のご尽力が必要です。
登録日本語教員の試験・研修・要請、登録日本語教員の登録・監理やキャリア形成、認定日本語教育機関についての関係省庁との連携、地域の日本語教育は、総合教育政策局日本語教育課長(仮称)の下で取り扱います。
認定日本語教育機関の認定や指導・助言は、日本語教育機関室長の下で取り扱います。

この総会資料としては他に別な会議の資料も付いていますが、14日までに公開された会議資料についてのみ後で扱います。

4.パブリックコメントと意見募集への参加

9月27日に、日本語教育機関認定法に関するパブリックコメント(第2弾)と意見募集が始まりました。日本語教育機関認定法に関するパブリックコメントは、これが最後です。ぜひ参加してください。パブリックコメントの締め切りは10月27日15時まで、意見募集は10月17日15時までです。
パブリックコメントは行政手続法に基づき1か月後の締め切りですが、意見募集は「任意の意見募集」なので締め切りもパブリックコメントのように縛られることはありませんので、締め切り期日がずれています。
しかし、いずれも大事な内容ですので、「未草」の読者は意見やコメントを提出してください。
この件については、日本語教育学会の「学会からのお知らせ」に資料のURLが出ています。https://www.nkg.or.jp/news/2023/2023_09_29.html
「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律施行令案に関するパブリックコメント」には、日本語教員試験や実践研修などの手数料の額が示されています。
もう一つのパブリックコメントは「登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関に係る審査基準案」です。
意見募集は、「認定日本語教育機関教育課程編成のための指針案」と「登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関のコアカリキュラム案」の二つです。この意見募集の仕方については大きな問題点があることは後で詳しく述べます。

繰り返しますが、日本語教育関係者は、文化庁が勝手に決めていてわかりにくいなどと言わずに、自分から進んで積極的にこの件に取り組んでください。この施策は皆さんだけでなく、これから日本語教員を目指す人たちの将来に大きく関わっているのです。
意見募集については、後で述べるワーキンググループの会議での資料にとらわれることなく、上に示したURLの資料について意見を述べてください。

5.2024年度概算要求の内容

いくつかの会議の資料では、省庁ごとに概算要求の内容が示されていますが、ここでは視点を変えて整理された資料の重要性について触れます。
それは、日本語教育議連総会で示された「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針(令和2年6月23日閣議決定)関係予算一覧」です。
https://www.nkg.or.jp/news/.assets/giren_20230927.pdfの資料の中の「資料2-1」です。
ここでは、事業ごとに各省庁の予算がまとまられています。
たとえば、「ウ 外国人等である被用者等に対する日本語教育」の項では、外務省・経済産業省・厚生労働省・文部科学省からの概算要求の事業概要と要求額が示されています。今まで私がこのような資料をまとめようとすれば全ての省庁の概算要求のサイトをチェックして必要な情報を抜き出さなければなりませんでした。この議連総会の資料があれば、情報に漏れがなくなり、簡単に各省庁の取り組み具合をつかむことができます。「未草」の読者の皆さんは、日本語教育関係の予算がいかに多くの省庁で取り組まれているかを見てください。日本語教育の内側の世界(学会や研究会の発表など)だけを見ていたのでは、日本国内外の日本語教育の置かれている状況が理解できません。その点で、特にこの資料は貴重です。
概算要求の中身については、ここでは触れません。

6.介養協の資料の重要性

9月28日に介養協(公益社団法人 日本介護福祉士養成施設協会の略称)のサイトに、「令和5年度介護福祉士養成施設の入学定員充足状況等に関する調査の結果について」が公表されました。
介養協とは、大学・短期大学・介護福祉士を養成する専門学校が加入する介護福祉士養成施設協会のことで、会員施設は2020年現在347施設で、この教会の資料により全国の養成施設の状況を知ることができます。
この施設の入学者数と外国人留学生数は、以下のサイトで知ることができます。
https://kaiyokyo.net/news/r5_nyuugakusha_ryuugakusei.pdf
養成施設数は296で、入学定員は12,089人ですが2023年度の入学者は6,197人と定員充足率は51.3%です。入学した外国人留学生は1,802人で全入学者の29.1%です。
養成施設の外国人留学生受け入れ数の推移は、以下のサイトで知ることができます。
https://kaiyokyo.net/news/r5_ryugakusei.pdf
この資料でわかるように、養成施設の定員充足率は過去5年ほぼ50%であり、入学者数のほぼ30%が外国人留学生となっています。日本国内の介護福祉士養成施設は、その存続自体が危ぶまれている状況です。以下のような国家試験の合格率を見れば、むやみに外国人留学生を入学させれば養成施設が生き延びるとは言えない状況です。
2023年度で多い国籍として、はベトナム人、ネパール人、ミャンマー人、中国人、インドネシア人などの順となっています。
国家試験合格率では、卒業生全体は82.1%なのに、外国人留学生では50.2%となっています。外国人留学生を入学させても国家試験に合格できるのは半分程度ですので、とても介護福祉士不足に対応できていません。外国人留学生の就職率は98.9%で、日本人を含めた卒業生の多くは介護老人福祉施設や介護老人保健施設に就職しています。

7.理解できない第4回の登録実践研修機関と登録日本語教員養成機関のワーキンググループの資料

10月10日に上記のワーキンググループ(第44回の「未草」ではワーキンググループ②としているもの)が開かれました。この会議で出された資料2は、以下に述べるような大きな二つの問題点があります。10日の会議では結果的にこの資料を認めるような会議になってしまったので、以下にはその二つの問題点を説明し、この資料2の内容が今後継続的に上部の会議で承認される際のぜひ参考にしていただきたいと考えています。今回のこの部分の「未草」の原稿は従来の書き方とは異なり、田尻の意見を書くことにします。誤解のないように言っておきますが、田尻は締め切り前の意見募集の資料についての私見は述べません。以下では、この会議の資料2について、意見を述べます。

① 資料2は、政府の意見募集の締め切りの前に、募集内容を書き換えられてワーキンググループの資料として提出されている

政府の公的なサイトに載っているコアカリキュラム案への意見募集の締め切りは、10月17日14時までです。それまでは、このカリキュラム案が政府の公的な案なのです。ところが、10日のワーキンググループの会議では、その内容が書き換えられたものが出されています。このやり方は、ルール違反です。これでは、期限までに意見を出す意味がありません。意見募集の結果を待たずに書き換えられた案が、10日のワーキンググループの会議で検討されたのです。
ワーキンググループの会議では、「大筋では変わっていないので、意見募集はこのままにする」という事務局の説明で議論が進んでいます。田尻はこの会議を直接視聴していないので、視聴した方の情報によって書いています。もし間違っていたら、ひつじ書房までご連絡ください。ご異見があれば、次の「未草」の原稿で扱います。個人的なメールでのやり取りはいたしません。
なお、資料2の内容は意見募集の資料の内容とは大きく変わっていますので、「大筋で変わっていない」という事務局の説明にも田尻は承服しません。

② 意見募集のコアカリキュラム案とワーキンググループのコアカリキュラム案では目指す方向が正反対となっている

意見募集のコアカリキュラム案では、コアカリキュラムとは「登録日本語教員として求められる資質・能力を養うために共通的に学習・習得が必要と考えられる内容を「登録日本語教員養成コアカリキュラム」とし、このコアカリキュラムを中心に据えた実践研修・養成課程を実施することで、日本語教師の質の向上を目指す」となっています。その後に、必須の教育内容以外にも各自の教育機関が独自に内容を設定できると書かれていますが、内容を独自に設定できるのは、あくまでも必須の教育内容に追加するものだけで、必須の教育内容の部分は変更できないという設定です。
ところが、ワーキンググループの資料では必須の教育内容は必要最低限の項目を示したものであり、「これら以外にも各教育機関が独自に学習内容を設定することができる。各教育機関がコアカリキュラムを土台として発展的に教育内容を計画・実施することが望ましい」となっています。つまり、望ましいのは、各教育機関が独自にコアカリキュラムを作ることであるということにもなり、必須の教育内容を前提としたコアカリキュラムそのものを各教育機関が独自に変えてもいいと言っているように受け取れます。これでは、実際に教育機関を審査する際には、実質的には基準がはっきりしないことになります。この方向性は、今まで有識者会議や日本語教育小委員会で認められてきた方向性とは大いに違ってくると田尻は考えます。決して「大筋では変わっていない」とは言えません。
さらに、資料2ではコアカリキュラムを考えるために2019年の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版」を挙げていますが、この報告自体は「質の高い日本語教育の人材の養成が行われる」ことを目的として、基本的な教育内容を3領域・5区分に分けて示したものです。つまり、2019年以前はそれまでの日本語教師養成のシステムが十分でないことから、この報告が作られたと言っています。この報告の中に、「日本語教師【養成】における教育内容」も挙げられています。日本語教師養成で重要な内容を示した点で、この報告が大事であるということは田尻も認めます。
問題は、資料2が2020年に文化庁文化審議会国語分科会で求められた「日本語教師の資格の在り方について(報告)」以降の流れを無視しているということです。この2020年の報告では、日本語教師資格取得要件」として「必須の教育内容」を挙げています。以後、この報告を受けて最近の2023年に田尻も加わった「日本語教育の質の維持向上の仕組みについて(報告)」や、特に直近の「令和4年度大学等日本語教師養成課程及び文化庁届出受理日本語教師養成研修実施機関実態調査研究報告書」では必須の教育内容の大項目だけではなく中項目まで挙げています。2020年から2023年までの間の検討事項は必須の教育内容の中身を検討することであり、2023年度現在必須の教育内容の重要性が一層増していったという流れになっています。

ここで、現在までの主な日本語教師養成関係施策に触れておきます。
今までの日本語教育施策については、以下の文部科学省のサイトに列挙されています。
今後の日本語教育施策の推進に関する調査研究
ただ、このサイトでは全ての日本語教育施策が扱われていないので、以下に田尻が項目を補充して要点だけを列挙することにします。

1965年 文部省の日本語教育施策の推進に関する調査研究報告書「日本語教員の養成について」が出て、「日本語教員養成のための標準的な教育内容」が示される。以後、この教育内容が日本語教師養成で使われていくことになった。教育内容がまとめられた最初の資料である。

1999年 文化庁の「今後の日本語教育施策の推進について—日本語教育の新たな展開を目指して—(調査研究報告書)」が出る。
これには「国内外の日本語学習者数の増加や多様な日本語学習者の新たな学習ニーズ」に対応するために「大学の創意工夫により、より多様なコース設定を行っていくことが望まれる」と書かれていて、上述の資料2とほぼ同じ方向性が書かれている。
この時の日本語教師養成講座・コースは、大学67校、大学院16校、短大6校、一般養成施設は134機関で、現在とは全く養成課程・コースの規模や設定趣旨が違うことに注目してほしい。この時期は、教育体制のグローバル化に対応するため日本語教育の知識を日本語教師志望者以外にも広げる意図があった。

2000年 文化庁の「日本語教育のための教員養成について」が出される。
これには、各課程・コースでの教育内容の例が示されている。
日本語教師養成において教育内容を自由にできたのは、1999年と2000年の報告だけです。これ以降、各大学や養成施設が自由なカリキュラムを組むようになりました。その結果、いくつかの大学や養成施設では養成を担当する講師の資格や担当者数の関係で偏った教育内容を組んだ機関が出始めました。田尻は、この状況を改善する流れの中で「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版」が2019年にできたと理解しています。

2018年 第18期の文化庁文化審議会国語分科会日本語教育小委員会から日本語教育人材の養成・研修の在り方について検討が始まる。

2019年 第91回日本語教育小委員会の「日本語教育能力の判定に関する意見の整理と主な観点(案)」に、「日本語教師を目指す者が減っているという指摘がある」、大学の日本語教師養成課程について「大学間で教育内容に差がある」、「日本語教育の分野ではない科目にかなりの単位が置き換えられる」などの問題点がすでに指摘されている。また、養成修了段階の日本語教育能力を判定する試験 合格」というイメージ図も検討されている。「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版」が出される。この改訂版によって、1999年の考えが方向転換されたと田尻は考える。

念のために言っておきますが、日本語教育関連法案成立の流れとこの日本語教育小委員会の審議内容とが関わっていたかについては、田尻は知りません。田尻はこの小委員会には属しておらず、全く別の視点から日本語教育推進議連の勉強会で日本語教師の国家資格化を提案しています。

これでわかるように、2023年10月10日のワーキンググループの会議の資料2は、この1999年当時の考えを現在に持ち込んでいるように田尻は感じます。現在の大学の日本語教師養成課程は大学161、大学院17短大1、文化庁届出受理養成実施機関は77(文化庁調査による)で、規模・内容・日本語教育の社会的なニーズなどが2000年当時とは大きく異なっています。
2000年の教員養成のシステムが大学や養成機関のカリキュラムの自由化をもたらし、結果的に教員の質の面で問題が起こってくるようになってきたので、日本語教師の質の向上のために2019年以降の報告では「必須の教育内容」を決めて、あるべき日本語教師養成のシステム構築を目指してきたのです。
この流れを踏まえると、10月10日のワーキンググループの会議での資料2がいかにこの流れと違っているかが分かってもらえると思います。
この資料2を作った国語課員やそれを積極的に支持する意見を何度も言った委員は、ぜひこの田尻の考えをどう思っているかを示してほしいと思います。また、この会議に参加している他の委員も、どうして会議でこの点について検討をしなかったのでしょうか。
文化庁としては、この田尻の考えを参照して次の会議でのコアカリキュラムの取り扱い方を決めてほしいと強く思っています。田尻としては、今後の国語課の動きを注目しています。

※この期には、日本語教育推進関係者会議など扱わなければならない情報もありますが、意見募集の締め切り前にこの原稿をアップすることを最優先にしました。ここで扱わなかった情報は、次の「未草」の原稿で扱います。

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