中高生のための本の読み方|第0回 予告編:興味を持つのはむずかしい|大橋崇行

最近、本を読んでいますか?

こんな質問をしておいてたいへん申し訳ないのですが、私はおそらくぜんぜん読めていません。
もちろん、まったく読んでいないわけではないのです。

私は大学の人文学部というところに勤めているので、授業で使う本や参考書、論文を読んでいます。大学の授業は、教科書を1冊指定して、それだけで進めるわけにはいきません。1回の授業のために、何冊もの本や、何本もの論文をひっくり返すことになります。授業は次々にせまってくるし、仕事はどんどん降ってきます。だから、授業の準備は時間との戦いです。

大学の授業は音楽のライヴのようなもので、同じ内容を何度も話すことはありません。いつも研究や教育についての最新の情報に触れて自分の知識を新しくしながら、それを踏まえて学生に話し、授業を作っていきます。授業のときに学生を指導するやり方についての勉強も必要です。もちろん授業内容に使う情報は、インターネット上で誰でも手軽に手に入るようなものでは、ほとんどのばあい内容が浅すぎて授業が成り立ちません。だから、いつも本を読み続けていることになります。

大学の教員は、授業とは別に仕事として論文を書かなくてはいけません。そのために参考文献や資料を読んでいます。それから、私はライトノベル、小説などについての評論のお仕事も頂いているので、そのために作品を読んでいかないといけないことになります。

そして、私は小説を書いて出版する作家としてもお仕事を頂いています。
頭の中で好き勝手に描いた妄想を文字にしていくだけでは、小説として成立しません。ストーリーを作り上げるために取材をする。そのための下調べをする。そのときに何冊もの本を読みます。

研究論文を書く仕事よりも、小説を1冊仕上げるほうが本を読んで調べる量がずっと多くなってしまう。ときどき私と同じように、研究や評論の仕事をしながら小説も書かれている方とお話をする機会があるのですが、これは私と同じようなタイプの作家さんたちに共通して起こることのようです。

このように考えると、私はけっこう本を読んでいるように思います。

けれども、「読んでいない」。

このように感じるのはおそらく、仕事としての読書はしているのだけれど、趣味として自分の好きな本を読む時間がまったく取れていない。だから、まったく本を読んでいるという気がしない。おそらく、そういうことなのだろうと思います。

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