第10回 大きく変わる外国人労働者の受け入れ施策に振り回される日本語教育|田尻英三

★この記事は、2019年6月16日までの情報を基に書いています。

ウェブマガジン「未草」の第9回から第10回の間に、田尻自身が関わった会議等がありますが、現時点でそれらの会議の資料が所管府省から公表されていないものは、ここでは扱えません。公表された時点で、改めて説明します。

今までにも書いてきましたが、今回このウェブマガジンで扱う情報も日本語教育学会のホームページには出ていません。この学会は、会員に大事な情報を伝えないまま、また学会自身の意思表示もしないまま今日に至っています。それは、会員自体がこのような情報に興味を示していない状況の反映だとも言えます。

4月25日以降現在まで大変大きな動きがありましたが、このウェブマガジンではその全てをフォローする余裕はありませんので、主要な情報のみを扱うこととします。

全体的な流れ

まず全体的な流れを押さえておきます。

  • 2018年12月25日 法務省が「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」で126の施策を発表しました。
  • 2019年 3月28日 文化庁のホームページに「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」が出て、地域の日本語教育の新しい体制を作るための予算も付きました。補助の増額や必須事項緩和を盛り込んだ第二次募集(7月1日締め切り)も行なわれています。
  • 4月4日 『週刊文春』に東京福祉大学の留学生大量失踪事件が報じられ、6月11日に法務省と文部科学省から調査結果と措置方針が示されました。 
  • 4月13・14日 フィリピンで特定技能介護業種の試験が行われました。厚生労働省の発表では、介護技能評価試験と介護日本語評価試験の合格率は、それぞれ83.2%、85.8%です。国際交流基金の発表では、国際交流基金日本語基礎テストの基準点到達率は57.9%です。
  • 4月14日 日本国内7か所で宿泊業技能測定試験が行われ、申込者761人、受験者391人で、合格率は71.6%です。
  • 4月17日  文部科学省の「日本語教育機関について」というサイトに「日本語能力に係る試験の合格率の基準に関する有識者会議の報告について」が出て、4月26日には法務省のパブリックコメント「日本語教育機関の告示基準の一部改正について」が出ました。これは法務省告示を受けた日本語教育機関の抹消基準を決めようとするもので、日本語教育機関にとっては大変大事なパブリックコメントとなっています。
  • 4月22日  内閣府の規制改革推進会議で「日本で働く外国人材への『就労のための日本語教育』の枠組み整備に関する意見」が出て、「就労のための日本語教育」という考えが前面に出てきました。この会議では、「総合的対応策」で使われた「共生社会」という用語に対して「多文化共生」や、6月6日の会議では「やさしい日本語」という用語が使われていて、会議によって用語の不統一が見られます。
  • 5月7日  東京福祉大学で留学生743人が所在不明となった件で、柴山文科大臣が調査を始めると記者会見で述べました。
  • 5月8日  文部科学省の第122回初等中等教育分科会の「新しい時代の初等中等教育の在り方」の中に、「増加する外国人児童生徒等への教育の在り方」が検討されましたが、ここでは「母語の指導」は取り上げられましたが、日本語指導は取り上げられていません。
  • 5月10日  厚生労働省の「介護人材における新たな外国人材の受入れ(在留資格「特定技能」について)」で、4年経ったEPA介護福祉士候補者で国家試験に合格していない者は、特定技能1号としてさらに最長5年在留出来ることになりました。これにより、EPAと特定技能制度が結びつくことになりました。
  • 5月17日  第45回教育再生実行会議で「技術の進展に応じた教育の革新、新時代に対応した高等学校改革について」が公表されました。ここには、ICTや先端技術は「日本語指導が必要な帰国外国人児童生徒・外国人児童生徒に対して、個別のニーズに応じた教育を提供することが可能となると考えられます」、「国は、外国人児童生徒やその保護者との意思疎通化のため、多言語翻訳システムなどのICTの活用を促進する」とあることから、日本語教育ではなくICTの活用を勧めているように読めます。これは、「公明党 教育改革推進本部 提言」にある「外国につながる子どもやその保護者との円滑な意思疎通を図るために、多言語翻訳システムなどのICTの活用を促進する」と通じるものがあります。また、公明党の「提言」には、「外国につながる子どもの高等学校における受入れ体制を充実させるため、高校進学前、在学中の日本語指導や母語による支援、居場所づくり、卒業後を見据えたキャリア支援のほか、入試における配慮などに取り組む。この際、学校や教育委員会だけでなく、地域のNPO等とも連携を図ることが必要である」とあり、田尻は進学支援も盛り込んでほしかったと思っています。自由民主党 教育再生実行本部 第十二次提言」には、「多文化共生社会における外国人児童生徒への指導の充実を図るため、外国で教員免許を取得した者を活用するとともに、日本語指導に関する教師の指導能力向上に向けた資格を創設する」、「日本語指導体制の整備に当たっては、受入拠点校に日本語指導教室等を併設する等、日本語指導を受けやすい情報提供に努める」などの項目があります。
    内閣官房の難民対策連絡調整会議の中の「第三国定住による難民の受入れ事業の対象拡大等に係る検討会」の「取りまとめ」が公表されました。これにより、年30人程度の受け入れを来年度には倍増させ、5年後をめどに年間100人以上の受け入れを行うことや、難民の居住国をタイやマレーシアに限定せずアジア全域に拡大し、難民の出身国もミャンマーに限定した要件を撤廃し、家族世帯の受け入れだけではなく単身者も受け入れることになりました。田尻は、そのための資金的・人的支援も拡充してほしいと願っています。
    文化庁の文化審議会国語分科会日本語教育小委員会が開かれ、「日本語教育能力の判定に関するワーキンググループ」と「日本語教育の標準に関するワーキンググループ」を設置することが決まりました。また、この委員会の資料に「令和元年度日本語教育総合調査概要(案)」が示され、調査テーマは「大学における日本語教師養成課程の調査・研究」となっています。全国の大学における日本語教師養成課程の調査は久しぶりですが、これに関係する学会等の動きはありません。
  • 5月20日 規制改革推進会議の「規制改革推進に関する第5次答申骨子案」の「保育・雇用分野」が公表され、ここには「日本で働く外国人材への『就労のための日本語教育』の枠組み整備」という項目があります。この会議は、外国人労働者の就労に重点を置いていると考えられます。
  • 5月21日 農林水産省所管の外食業の特定技能測定試験の結果が、一般社団法人外国人食品産業技能評価機構から発表されました。申込者631人、受験者460人で、合格者は347人で合格率は75.4%でした。毎日新聞によると、国・地域別では、ベトナム203人、中国37人、ネパール30人、韓国15人、ミャンマー14人、台湾10人、スリランカ 9人、フィリピン8人などで、「合格者は飲食店などでアルバイトをする留学生が多いとみられる」とありました。
  • 5月22日 衆議院文部科学委員会で、「日本語教育の推進に関する法律案」が可決されました。
  • 5月25日 一般社団団法人宿泊業技能試験センターが、4月4日に行われた宿泊業技能測定試験の結果を発表しました。応募者は761人で、受験者391人、合格者280人、合格率71.6%でした。他の試験同様、応募者に比べて受験者の少なさが目立ちます。
  • 5月28日 衆議院本会議で、「日本語教育の推進に関する法律案」が全会一致で可決されました。
  • 5月29日 出入国在留管理庁が、「留学生の就職支援のための法務省告示の改正について」を発表しました。「改正の概要」には「日本語能力を生かした業務に従事する場合に当たっては、その事業内容を広く認めることとし、在留資格『特定活動』により」就労できることとなりました。またしても、「特定活動」の枠が広がりました。「留学生の就職支援に係る『特定活動』(本邦大学卒業者)についてのガイドライン」では、日本の学部・大学院を卒業・修了した者で、日本語能力試験N1又はBJTビジネス日本語能力テスト480点以上が対象で、飲食店での接客業・技能実習生などへの外国語での指導も兼ねた工場でのライン活動・小売店での接客販売業務・ホテルや旅館での接客業務・通訳を兼ねたタクシードライバー・技能実習生への指導を兼ねた介護業務などに従事できます。また、家族帯同も許可されました。
    文部科学省は、「国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する取組状況について~グッドプラクティスの共有と発信に向けた事例集~Vol.2」で、愛知教育大学の「外国人児童生徒への日本語指導等の多面的な支援」を例の一つとして挙げました。
  • 5月30日 文化庁が、「2019年度日本語教育人材養成・研修カリキュラム(第二次募集)について」が発表され、提出期限は7月3日となっています。
  • 5月31日  第2回経済財政諮問会議が開かれ、「『経済財政運営と改革の基本方針2019(仮称)』骨子(案)」が示されました。この中に「新たな外国人材の受入れ」として、①外国人材の円滑かつ適正な受入れの促進、②共生社会実現のための受入れの促進、③在留管理体制の構築が挙げられていて、管理体制の強化が伺えます。厚生労働省は、「6月は『外国人労働者問題啓発月間』です」を発表しました。この中の「資料1」の「令和元年度外国人労働者問題啓発月間実施要領」は、従来の外国人労働者の受け入れ経過・現在の取り組み・課題・今年度の取組方針などが書き込まれていて、今後の受け入れ方針が伺える有益な資料です。
    農林水産省は、「外国法人等による農地取得に関する調査の結果について」と「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」を発表しました。一時期マスコミで問題となった外国人による日本の土地買収の調査結果が示されたもので、農地の買収はあまりありませんが、森林の買収はかなり進んでいるのがわかります。なぜかマスコミは、この調査結果を取り上げていません。
  • 6月6日  規制改革推進会議が「規制改革推進に関する第5次答申~平成から令和へ~多様性が切り拓く未来~」を公表しました。この中の「日本で働く外国人材への『就労のための日本語教育』の枠組み整備」で、「外国人就労・定着支援研修事業」や「多文化共生相談ワンストップセンター」(この会議では、この用語を使う)の利用、「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」の改善、文部科学省の就労者に対する日本語教師のための研修カリキュラムの普及や、日本版CEFRの共通参照レベルと能力記述の策定、厚生労働省の求職者支援制度による定年退職者や子育てを終えた者等が就労のための日本語教育者(田尻注:定義が不明)になる育成プログラムの活用や、日本国内で働くことに特化したコミュニケーション能力の作成などを実施する要諦ということです。
  • 6月10日 杉田和博内閣官房副長官を議長とする「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議幹事会」が開かれました。ここでは、以前了承された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(田尻注:126の施策)に24の新規の施策を加えた「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策の充実について」が了承されました。ここには「特定技能制度全体の運用状況」が示されています。登録支援機関は5月31日現在で418件(田尻注:法務省の6月13日の資料では658)、特定技能試験等の結果の実数などが出ています。新規の施策については、後でまとめて扱います。
  • 6月11日 国家戦略特別区域諮問会議が、「『国家戦略特別区域農業支援外国人受入事業に関する指針』の変更(案)について」を公表しました。これで、国家戦略特区での農業支援の外国人は特定技能の在留資格へ移行することになりました。また、この会議の資料に「『未来投資戦略2019(仮称)』国家戦略特区関係(案)」があり、クールジャパン分野の外国人留学生・外国人起業家・外国人ダイビングインストラクターなどの就労促進案が示されました。
    経済財政諮問会議で「経済財政運営と改革の基本方針2019(仮称)(原案)」が示されました。この中に、「外国人材の円滑かつ適正な受入れの促進」、「共生社会実現のための受入れ環境整備(一元的相談窓口の整備、外国人共生センター(仮称)の設置など)」、「在留管理体制の構築(在留状況・就労状況の把握、留学生・技能実習生の在留管理)」、「留学生の国内就職促進」が挙げられています。
    東京福祉大学の留学生大量失踪事件を受けて、文部科学省は「外国人留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応方針について」を公表しました。ここでは、東京福祉大学の在籍管理・入学者選考などを問題とし、「当面、学部研究生の新規受入れを見合わせるように指導し(文部科学省)、申請があった場合にも在留資格『留学』の付与を認めない(出入国在留管理庁)」こととしました。また、「留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応方針」では、正規・非正規・別科の留学生に対して「在籍管理の徹底・所在不明者等の定期報告の実施方法の見直し・改善指導をし、改善が見られない場合は「在籍管理非適正校」として法務省に通告、出入国在留管理庁では『在留管理非適正大学』及び3年連続『慎重審査対象校』とされた大学等については、改善が認められるまでの間、留学生への在留資格『留学』の付与を停止し、大学等名を文部科学省と同時に公表」、「慎重審査対象校」の判断基準の見直しを行い、経費支弁能力の資料に加え、日本語能力について試験による証明を求めることを検討するとしています。今後は、大学入学のための日本語能力を証明する試験として何が使われるかが問題となります。文部科学省はこの他に、該当大学への私立大学等経常費補助金の減額・不交付、奨学金枠の削減、該当大学名の公表なども行います。文部科学省は、「非正規・別科・専門学校への追加的対応方針」では、「非正規や別科(専ら日本語教育を行うもの以外)」にはN2相当の日本語能力を入学時に確認し法務省に通告し、専門学校でも同様の情報把握を行うこととしています。出入国在留管理庁では、大学学部進学のための予備教育を受ける場合は、研究生・聴講生による在留資格「留学」の対象外とし、専ら日本語教育を行う留学生別科への受け入れに移行するとしています。専ら日本語教育を行う別科にたいしては、文部科学省は日本語教育機関に関する法務省告示基準に準じた上陸基準省令に基づく基準(田尻注:抹消基準を含む)を策定し適合しているかどうかを法務省に通告し、出入国在留管理庁では留学生別科で受け入れる留学生の在留審査において文部科学省の基準適合性の確認を行うとしています。
    大学・専門学校だけでなく、法規上は何も規定されていない留学生別科にも、法務省の告示基準に準じる基準が適合されることとなり、留学生担当の教員にとっては大問題です。
  • 6月12日 国際交流基金が「2019年度海外派遣 生活日本語コーディネーター公募のお知らせ」を公表しました。この「生活日本語コーディネーター」は、特定技能で来日する外国人の支援や「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」の普及・広報活動を行うとなっています。この体制は、国際交流基金が特定技能に直接的に関わることを意味します。

以上述べてきたように、6月中旬になっても、各府省で新たに施策が出されており、それらの施策間の方向性の統一も行なわれていないように、田尻は感じています。

日本語教育に関係する新規の施策

「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策の充実について(案)」の日本語教育に関係する新規の施策のみを挙げます。

  • ここでは、「多文化共生社会の実現」や「やさしい日本語の活用」(田尻注:「やさしい日本語」の内容は示されていない)という文言が使われています。
  • 全国調査による外国人の子どもの就学状況の把握
  • 母子健康手帳の多言語化
  • 保育所等における外国籍等の子ども・保護者への対応に係る事例の把握・共有
  • 日本語初期指導・中期・後期指導、JSLカリキュラムによる系統的な日本語指導実践の体制整備と中核的教師の養成
  • 障害のある外国人の子どもに係る支援の充実(多言語化に対応した翻訳システムの活用)
  • 夜間中学における日本語指導を含む教育活動の充実
  • 専ら日本語教育を行う大学の留学生別科については、日本語教育機関と同様の基準を作成し、当該基準適合の留学生別科のみ受け入れを認める仕組みの構築
  • 在留管理が不適切な専門学校には留学生の受け入れを認めない仕組みの構築
  • 各種民間試験団体が実施する日本語試験について、各試験団体と連携し、地方出入国在留管理庁提出専用の証明書を作成する仕組みの構築

2019年3月に、二つの重要な調査報告が出ています。

  • 文化庁委託のイノベーション・デザイン&テクノロジーズ株式会社作成の「『平成30年度日本語教育総合調査』~日本語の能力評価の仕組みについて報告書」(5月17日の日本語教育小委員会の資料として出てます)

国内外で実施している第二言語及び外国語としての日本語の能力評価の仕組みの評価と、外国で実施している第二言語としての自国語の能力評価の仕組みの調査結果が示されていて。大変有用な資料です。

  • 平成30年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金による三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成の「外国人介護人材の介護技能及び日本語能力の評価方法に関する調査研究事業【報告書】」

外国人労働者の介護職種の特定技能に係る「介護日本語評価試験(仮称)」の作成に関わった日本語教育の専門家による調査報告書です。Google検索でダウンロードできます。田尻は、この報告書26ページの「今後いかに多くの人材を受け入れ、定着を図るかという観点からは、入国時点での日本語のレベルを過度に求めるのではなく」という文言が大いに気になります。これは、この試験のレベルが高いものではなくても良いという理由を言っているのではないでしょうか。この件については、2015年4月6日に日本語教育学会が厚生労働大臣等に出した要望書にある要望事項「(1)日本語能力試験の『N4程度』とある。受け入れ時の日本語要件は、抜本的に見直す」と矛盾しているように田尻には感じられます。この点で、『日本語教育172号』の西郡仁朗氏の「介護福祉の日本語教育の現状と支援者の育成」も取り上げたいのですが、紙幅の関係で今回は扱わないことにします。

現時点では、新たな外国人労働者の受け入れ施策はまだ最終決定をしているとは言えませんので、将来の見通しを含めた全体像について言及すべきではないと考えます。日本語教育関係者は、どうか最新で正確な情報に基づいて判断を行ってほしいと願っています。

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