第67回 書評:『現代日本語教育ハンドブック』や政府の外国人政策について|田尻英三

 

★この記事は、2026年1月23日までの情報を基に書いています。

公明党の衆議院議員が、立憲民主党の衆議院議員と中道改革連合という統一会派を作りました。自由民主党と日本維新の会による与党と対峙することになり、衆議院選挙に臨みます。この選挙結果次第では、大きな政治体制の変化が起きるかもしれません。この選挙結果については、次回の『未草』の記事で扱います。

今回は、大修館書店刊行・日本語教育学会監修の『現代日本語教育ハンドブック』(以下『ハンドブック』と略称)の書評を中心的に書きます。ただ、日本語教育学会(以下「学会」と略称)では、他の学会のように「書評」というものが存在しません。そのため、今回の記事は、「学会」関係者にはなじみのないものとなります。

「書評」とは、当該書籍への客観的な評価を述べるものです。恣意的な評価を避けるために、必要な箇所を引用した上で田尻のコメントを述べます。書評欄は、他の学会ではごく普通に学会誌にあるものです。田尻のコメントに反論があれば、ひつじ書房宛にご意見をお寄せください。正当な反論なら、次回の『未草』で扱います。

1. 書評:『現代日本語教育ハンドブック』

(1)現時点で『ハンドブック』を出版する意味と書名の整合性

この『ハンドブック』の出版がいつから企画されたかは書かれていませんが、現時点での出版はタイムリーな企画であると思います。『ハンドブック』の出版企画の段階では想像されなかったとは思いますが、2025年の参議院選挙では外国人政策が争点の一つになりました。選挙の結果、参政党が躍進し、それに対応するように外国人の受け入れや在留管理で厳しい施策が高市政権の下で検討されています。1月23日に、「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」が開かれるという記事が出ています。自民党の外国人政策本部の検討結果は、まだ出ていません。1月17日の大学入学共通テストの「公共、政治・経済」に在留外国人に関する問題が出ました。

この間、「日本語教育」という語がマスコミでも頻繁に取り上げられるようになりました。今まで日本語教育に関心の無かった人も、「日本語教育」という語に興味を持つようになっています。そのような時にこの『ハンドブック』が刊行されたことは、当初の出版の企画意図にあったかどうかは分かりませんが、結果的にタイムリーな出版となりました。

それでは、『ハンドブック』を手に取る人は、どんな内容を期待しているでしょうか。例えば、『現代日本料理ハンドブック』という本を手に取る人は、現代の日本料理の素材(魚や野菜など)、調理器具(包丁や鍋など)、調理法(焼き方や煮方など)の情報を入手したいと思うでしょう。

ところが、この『ハンドブック』には、日本語教育を受ける人たちの情報、日本語教育のテキストや教材の特色、日本語教授法の違いや有効性は書かれていません。そのことは『ハンドブック』の「はじめに」を読んで初めて分かります。

つまり、この『ハンドブック』は、日本語教育のハンドブックではなく、日本語教育学研究のためのハンドブックなのです。田尻は、書名と中身が一致していないように感じました。結果的に、この『ハンドブック』は、現在社会的に興味が持たれている事柄を扱った本とはなっていません。

(2)「日本語教育学の俯瞰図―実践と研究のダイナミクス」について

このとじ込みの図で、この『ハンドブック』が日本語教育ではなく、日本語教育学を扱っている本だということが分かります。この図は、2023年に出された日本語教育学の構造化ワーキンググループ報告書の「日本語教育の構造化」に出てくるものです。この図の真ん中にある「ことばと共生」は日本語教育学会の使命(田尻注:報告書の11ページにある「人をつなぎ、社会をつくる」を指す)を短い標語としたもの(田尻注:報告書10ページの説明)だそうです。ただ、その標語についての説明はありません。「共生」という語の使い方に注意が必要であることは、第66回に書きました。

この報告書では、「日本語教育」を「多様な社会的実践の総体」(7ページ)とし、「日本語教育学」を「『日本語教育学』と言えば、・・・『固有の学的専門性』を主張できることを目指す」(5ページ)としていて、区別しています。因みに、報告書5ページのこの文は、主語と述語が対応していない悪文です。

一番メインにある「ことばと共生」がどのようなことを指すのか、あまりに抽象的すぎて分からないという点で、この図は何を現わしているものかが、分かりにくくなっています。

(3)「はじめに」の問題点

日本語教育学会会長の西口光一さんの「はじめに」の文章は、「日本語教育機関認定法」(田尻注:「はじめに」に書かれている法律名は一般的に使われているものではありません)の説明から始まります。これは、日本語教育施策の流れと一致しません。最初に、基本法である「日本語教育推進法」の説明をしたのちに、個別法である「日本語教育機関認定法」を説明すべきです。また、日本語教育を扱う部署が文化庁国語課の一部から文部科学省総合教育政策局の日本語教育課として独立したことも、強調すべきです。この点は、『ハンドブック』では全く扱われていません。

ここでも分かるように、この『ハンドブック』は、現在行われている文部科学省の日本語教育施策の取り組みに沿った説明になっていません。日本語教育施策の詳しい内容は、田尻のひつじ書房刊の『外国人受け入れへの日本語教育の新しい取り組み』(以下『取り組み』と略称)を見てください。

この『ハンドブック』の読者は、「日本語教員養成課程を修了した人や、日本語教員試験に合格して登録日本語教員になった人を主な対象」だとしています。つまり、この本は既にかなり専門的知識を持っている人が対象の本だということが、「はじめに」を読んで分かります。これから日本語教育に取り組もうとしている人が対象ではないのです。この本の帯にも「日本語教師必携!」と書かれています。その点では、この『ハンドブック』は、初めて広く日本語教育を知ろうとする人には不向きであり、現在の外国人政策が社会の興味を引いている状況ではタイムリーな企画とは言えないことになります。

(4)第1部・第2部の記述の問題点

『ハンドブック』全体を扱う余裕がありませんので、第1部の記述を中心に述べます。

本文を引用する時は、( )内に本文のページ数とその項目の執筆者名を書きます。

〇間違った記述

・日系人の受け入れを決めた入管法の改正の年

「入管法改正(1990)」(13、小林ミナ)、「1990年の『出入国および(田尻注:原文は漢字)難民認定法』の改正以降(303、内山夕輝)、「1990年に入管法が改正され」(306、内山夕輝)、「1990年、出入国管理制度改正に伴い」(318、加藤早苗)などに対して、「1989年入管法改正(90年体制)」(199、福島青史)というように正しい記述もあります。同一の本の中に正誤の記述があることは問題です。監修する人はいなかったのでしょうか。

同様に、「90年体制とは、1990年に施行された『出入国管理及び難民認定法』・・・による・・・受け入れ体制のことである」(208、神吉宇一)も間違いです。入管法は、すでに1982年に施行されています。正しくは、「1989年に改正された入管法で1990年に施行された『出入国・・・」です。普通は、「改正入管法が施行された1990年は・・・」のように使われます。

『取り組み』の3~4ページに詳しく書いています。

・「上代特殊仮名遣い」の記述

「・・・発音の違いがあったのではないかということが推察される。この法則を上代特殊仮名遣いという。ただし、上代特殊仮名遣いは、平安時代には急速に廃れて消滅した」(60。森篤嗣)とありますが、上代特殊仮名遣いは法則ではありません。古事記や万葉集の時代にキ・ヒ・ミ・ケ・へ・メ・コ・ソ・ト・ノ・モ(古事記のみ)・ヨ・ロに対応する文字については2種類の母音がある説を指し、それが当時の音韻体系であったということが現在では定説となっているものを指します。この現象を初めて発見した時は、仮名文字の使い分けとして発表したので、上代特殊仮名遣いという言い方をしましたが、仮名遣いではありません。源氏物語の時代には、時代の変化として今の5母音となりました。仮名遣いは、廃れて消滅するものではありません。これは、日本語史の初歩的な知識です。

・「定住者」・「定住外国人」という語は法律用語ではない

「定住者」や「定住外国人」という語が使われています(403、長山和夫・平山智之)が、在留資格にはそのようが語はありません。在留資格で「定住」となっているのは、主に日本で生活している日系人です。「定住外国人」という語は、どれほどの期間日本に住んでいる人を指すかがあいまいで、現在は使われていません。外国人について記述する時は、正式な法律用語を使うべきです。この間違いはこの項目執筆者の間違いではなく、この項目を選んだ監修者の間違いかもしれません。

〇誤解を招く記述

・大学で日本語教育を担当する教員の資格

「これからは、留学生を対象に専ら日本語教育を行なう場合には、大学として認定日本語教育機関の審査に通る必要があると同時に、すべての日本語教師に登録日本語教員であることが求められる」(20~21、小林ミナ)とありますが、この「専ら」という語が意味するものが分かりますか。この場合は、留学生別科や聴講生・科目等履修生のクラスを担当する日本語教師は登録日本語教員でなければいけない、という意味です。大学の卒業単位として日本語のクラスを担当する教員は、登録日本語教員である必要はありません。

・説明が足りないために誤解を招く記述

「年少者は適応性が高く、東アジア系など外見の差が少ない場合は、『日本人』と見分けがつかなくなる」(192、福島青史)とありますが、指導上見分けがつかないと困る、と言っているように見えます。教師は児童生徒を外見上の差によって見分けて指導しているのでしょうか。逆に、見分けがつく場合には、日本語力が十分ではないという前提で指導をするのでしょうか。もう少し丁寧に説明してほしいと思います。

同様に、同じ執筆者の「日本語だけでなく外国人が用いる母語や民族語も『日本のことば』であり、共生社会の言語資源である」(206)も、次のページに余白があるので、もっと詳しく説明すべき項目であると考えます。

〇執筆者の個人的な意見が強調されている記述

・「日本語教育に携わる私たちに求められることは、制度に盲目的に従う(田尻注:これはひどい差別的な表現です。)のではなく、批判的視点を持ち、日本語学習者にとって、そしてこの社会にとって、その制度は本当に良いものなのか、共生社会の実現と人々の幸福につながる制度なのかを、常に問い直し続けることである」(222、神吉宇一)は、一般論を述べているようにみえますが、実際には現在の外国人受け入れの新しい制度について問題があると言っています。神吉さん自身が、かつてこの制度を作る委員をしていましたが、そのこととの整合性はつくのでしょうか。

入門的な書籍であるハンドブックにこのような個人的な意見を書くことを、監修した人たちは許すのでしょうか。そうすると、この『ハンドブック』は、現状の制度の批判的な視点を持って企画されたものということになります。日本語教育学会全体がそのような考えを持っているとは考えられませんが、いかがでしょう。

(5)「参考文献・推薦図書」の選び方

この『ハンドブック』は、以前大修館書店から出版された『新版 日本語教育事典』では参考文献だけであったものが、参考論文と推薦図書を挙げたものとなっています。この新しい形式では、従来以上に論文や書籍の客観的評価が問われるはずです。ところが、日本語教育学会は他の学会誌で見られるような書評欄がありません。書評がないということは、学会内での評価が決まっていないということです。評価するためには、当該研究での先行研究の位置づけが必要です。ある研究をするためには、その研究に関する先行文献の調査が当然必要です。ところが、日本語教育学会の学会誌では、先行研究を調査していない論文がよく投稿されます。田尻が学会誌委員会に属していた時に感じたのは、先行文献への目配りが足りないということでした。投稿者が属している研究グループの論文は引用するが、それ以外の論文については、見落としが多いと感じました。学会誌委員のご努力にもかかわらず、この傾向は今でも続いていると思っています。この『未草』の以前の記事でも、その点は具体的に指摘してきました。つまり、日本語教育学会では、ある研究をするために必ず参考にすべき論文や著作が確定していないということになっています。

この『ハンドブック』でも、項目担当執筆者の論文が多く引用されています。今回の『ハンドブック』では「推薦図書」となっていますので、一層その書籍への高い評価が示されることになりました。そうなると、誰にその項目を執筆させるかを決める段階で、バランスの取れた客観性のある選定であったかが問われることになります。『新版 日本語教育事典』では、各章の担当者が明示されていましたが、今回はありません。田尻は、『言語学大辞典』(三省堂)や『日本語学大辞典』(東京堂出版)が挙げられていない推薦図書の選び方には疑問を感じます。

2.政府・自由民主党の外国人政策

政府と自由民主党は、衆議院選挙の投開票の前に外国人政策を決めようとしているように見えます。その結果が閣議決定されれば、選挙の結果に関わらず今後の外国人政策に一定の拘束力を持つものになります。当然、自民党の公約の中にも書き込まれると思います。将来の日本における在留外国人施策の方向性が、この短期間のうちに決められようとしているのです。ただ、この施策についての選挙期間中の田尻のコメントは、控えることにします。

自由民主党の外国人政策本部のとりまとめは、1月20日ごろに発表される予定です。

政府の「外国人の受入れ・秩序ある共生社会の実現に関する関係閣僚会議は、総合策を1月23日に公表する予定です。

(1)「外国人との秩序ある共生社会の実現のための有識者会議 意見書」

2025年11月4日に設置された「外国人の受入れ・秩序共生社会の実現に関する関係閣僚会議」に意見書を述べるために、この有識者会議が設置されました。

この有識者会議は、2025年11月27日に第1回、2026年1月8日に第2回が開かれ、1月14日に意見書がまとめられました。この会議には、日本語教育の専門家は入っていません。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/pdf/ikensho.pdf

この意見書の「1.はじめに」には、「目指すべき共生社会の実現に当たっては」、「公正かつ明確なルールの設定とその厳正な運用を行うとともに、そうしたルール等を言語化・可視化し、在留する外国人の理解を得られるように取り組むべきである」と書かれています。

この意見書は、「既存のルールの厳守・各種制度の適正化」と土地取得についての二つのテーマについてまとめられています。日本語教育に関する事柄は、前者に属していますので、以下では前者についてのみ説明します。なお、この意見書は、本文以外に「委員の一部から下記の意見が示された」として、脚注の形で多くの意見が列挙されています。この委員の意見は意見書をまとめるにあたっては反映されなかったが、大事な意見として記録に残しておこうとしたもので、短期間に意見書をまとめるための工夫であったと田尻は思っています。「現状と課題」については、重要な指摘が多くなされているので、読んでおいてください。

〇「現状と課題」の重要な点を列挙します。

  • 国が責任をもって、日本社会で生活を送る上での必要な知識(日本語や社会規範等)を習得するプログラムを提供する。
  • 日本人が当然と考える慣習や前提は、長年にわたり暗黙知として共有されてきたものも多く、言語的・文化的背景が異なる人々にとって自明なものではなく、認識も理解も困難な場合がある。このため、これらの慣例や前提を可視化する必要がある(田尻注:この「可視化」は相当難しいと考えれる)。また、外国人の納得が得られるよう、相手方の文化的背景や心情を理解した上での説明が重要であると考えられる。そして、単なる命令や規則の押し付けではなく、その理由や背景を丁寧に伝える必要がある。同時に、日本社会自体も多様な背景を持つ人々との対話を通じて、多様性を社会の活力と競争力の源泉に変えていく姿勢が不可欠である。

〇「地域・企業格差」の重要な点を示します。

  • 「登録日本語教員(国家資格)と認定日本語教育機関制度、外国人支援コーディネーターの活用を含め、地域・企業間の受入れ環境整備等の格差を解消することが必要である。

〇「今後の検討の方向性」の重要な点を列挙します。

  • 政府においては、日本に在留する外国人が、日本語や日本の社会規範等を学習するプログラムの創設を速やかに検討する必要がある。
  • 上記プログラム創設に係る検討の際には、中長期的に在留する外国人に対しては、上記プログラムへの参加などを在留の条件とすることも検討することも期待する。

(2)「秩序」と「共生社会」の意味

2025年10月27日、れいわ新選組の衆議院議員櫛渕万里さんの「外国人との秩序ある共生社会推進室に関する質問主意書」が出ていて、政府の答弁書が11月7日に出ています。

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/219027.htm

そこでは、「秩序」や「共生社会」についての政府の正式な見解が述べられています。

「秩序」については、広辞苑での説明を引用しただけです。しかし、実際の用例では「厳格なルール」の意味に使われており、この答弁書の内容では不十分だと考えます。

また、「共生社会」は、2024年5月24日の参議院本会議での当時の岸田首相の「外国人との共生の在り方は世界各国で様々でありますが、私は、日本の現実に合った共生社会を考えていくことが重要であると考えており、日本人と外国人がお互い尊重し、安全・安心に暮らせる社会を実現していく、こうしたことを目指していく必要があると考えています」と述べたとおりとしています。

質問主意書は、政府の公式の見解を示すもので閣議決定される重要なものです。この説明は一般的なもので、質問に正面から答えたものではないと考えます。今回の共生社会推進室の役目については、田尻は在留外国人への具体的かつ厳格な施策を検討するものだと思っています。

(3)自由民主党の外国人政策本部の報告書

自由民主党外国人政策本部提言が、1月21日のHPで公開されました。全63ページの大部なものです。「日本語」が、186か所出てきます。

https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/212290_1.pdf

政府は、有識者会議の意見書と、この自由民主党の提言を基にして、23日に関係閣僚会議を開き方針を決定する予定です。したがって、ここでは、主要な点のみを取り扱うことにします。ただ、衆議院選挙の結果次第では、この提言が政府の方針を考える際に有力な資料となる可能性があります。

この提言は、三つに分かれたPTでとりまとめられた内容ごとに書かれています。

・出入国・在留管理等の適正化・外国人受入れについて

現行の在留資格や外国人犯罪についての対応の「適正化」(田尻注:実質的には厳格化)を述べています。すでに実施されている査証手数料の見直し(田尻注:在留関係の手数料は、6,000円から40,000円に変更)も書き込まれています。

・外国人制度の適正化等について

日本語教育については、多くこの箇所で扱われています。日本語教育関係者は各自の処遇に関するところなので、必ず目を通しておいてください。

大事な点は、省庁横断的に日本語や日本の制度・ルール等を学習する包括的なプログラムを創設し、その内容を理解していることを在留審査に利用(田尻注:提言の本文では「活用」)するという点です。

田尻は、在留審査に利用する日本語のプログラムというもののイメージが湧きません。まさか、日本語能力試験の点数で在留資格を判断するということではないでしょうね。

「ルール」という語もあいまいです。ゴミ出しなら守ってもらわなければいけないルールでしょうが、例えば、あいさつなどはどうでしょう。大都市の駅などで会う人毎に挨拶するほうが変ですが、人口の少ない地方では、ご近所の方とのあいさつは必要です。また、日本の職場では、あいさつがかなり重要な意味を持ちます。中国人の留学生が中国に帰った時に、近所の人ごとにあいさつをしたら変な顔をされたと言っていたのを思い出します。これらの「ルール」を一律にプログラムにまとめるのは、至難の業です。

日本語教育の強化・拡充も書かれていますが、一つ間違えば日本人への同化を強要する可能性を秘めています。

・安全保障と土地法制について

自由民主党の提言としては、この点が相当大きな比重を占めています。日本語教育と直接関わりませんので、ここでは割愛します。

(4)自由民主党の選挙公約

選挙公約には「外国人政策」となっていて、在留管理等について「国民の不安と不公平感に正面から応えます」とあり、「外国人が社会の一員として日本の文化・ルールを理解し活動できる環境を整備します」ともあります。

「自民党政策BANK」には、「外国人政策」の中に「外国人の日本語教育支援等の拡充を進めます」として、いくつかの項目が挙げられています。「多様性・共生社会」は、「外国人政策」とは別項目になっています。

(5)外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議

1月23日に第2回の「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」が開かれ、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」が決定しました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kakuryokaigi/dai2/gijishidai.html

これは、103ページもあるものなので、今回はその内容を扱う余裕はありません。大変重要な資料ですので、必ず読んでおいてください。次の『未草』の記事で扱います。

3. 他の政党の選挙公約

1月23日の時点では、他の全ての政党の選挙公約がまだ公表されていませんので、ここでは扱わないことにします。

4. 経団連・全国知事会議の提言

(1)日本経済団体連合会の提言

2025年12月16日に、経団連が「『転換期における外国人政策のあり方』~秩序ある戦略的誘致・受入れ環境整備に向けて~」を公表しました。

https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/086.html

「ビジョン実現に向けた外国人政策の3原則」として、以下の三つを挙げています。

原則1 「受入」から「戦略的誘致」へ発想転換

原則2 包摂社会の実現

原則3 ライフコースを考えた政策形成

過去10年間の在留外国人の構成比の変化などを参考にして、「ライフコースに沿った日本語教育・学習支援・社会理解の推進」と提言しています。その中に、「日本語能力を測る試験の改善」を挙げています。そこには、以下のような提言があります。

 国は、「日本語教育の参照枠」に基づき、日本語レベルの見える化を推進することで、国内外で共通に評価される試験・評価体系を構築することが求められる。

経団連は、日本語能力試験の拡大利用を提言しているが、田尻は反対です。日本語能力試験はそのような目的で作られた試験ではありません。能力判定のための新たな項目の選定をすべきと考えます。田尻の考えは、次回の『未草』の記事で詳しく述べます。

(2)全国知事会の宣言

2025年11月26日に、全国知事会議が開かれ、「多文化共生社会の実現を目指す全国知事の共同宣言(国民へのメッセージ)」を採択しました。そこでは、以下の三つの立場を宣言しています。

  1. 多文化共生の推進
  2. ルールに基づく共生と安心の確保
  3. 正確で積極的な情報発信

5.重要な情報

(1)日本語教員試験の結果

2025年11月2日に行われた「令和7年度日本語教員試験」の結果が、12月12日に公表されました。

受験者は17,591人、合格者は11,876人で、合格率は67.5%でした。

なお、2025年12月19日に公表された2025年度の日本語教育能力検定試験は、応募者2,132人、受験者は1,958人、合格者は579人でした。

(2)「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」の開催

第9回は、2025年12月18日に開かれています。

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/196/siryo/1418919_00009.html

第10回は、2026年1月16日に開かれました。

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/196/siryo/1418919_00010.html

詳しく扱う余裕はありませんので、各自で資料を見てください。

なお、教員免許制度についての会議も開かれています。

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/121/siryo/mext_00003.html

6.参考にしてほしい書籍

〇『地域日本語教育を行政と共に創るー岡山県総社市「総社モデル」の構築と展開』中東靖恵、ひつじ書房、2025年

現在、地域で在留外国人への支援体制は様々な形で作られていますが、その一つのうまくいった例としての総社モデルについて詳しく書いた本です。

この本は、中東さんと総社市長を始めとした行政が総社市に住んでいる外国人の日本語支援のために汗を流した記録です。

第3章以下は、今後全国各地でこれから在留外国人への支援を考えている人や地方公共団体の人たちにとって大変参考になる資料がたくさん出ています。

ただ、ここで使われた方法をそのまま別の地域で使うことはできません。それぞれの地域の特性に合わせて修正する必要があります。調査票のサンプルを利用してください。総社モデルは、中東さんと総社市のみなさんの汗の結晶であることを忘れてはいけません。

 

 

※2025年の参議院選挙から、日本人の在留外国人への見方が変わりました。これからの日本の在留外国人施策の方向性は問われる衆議院選挙が行われます。

そこでは、これまで伏流水のようにあった在留外国人への偏見も表面化してきました。今まで日本社会で外国人と共に過ごしてきた日本語教師は、現状に何の反応もしないまま一日一日を過ごすのでしょうか。日本語教師は日本語を教えることだけに興味を持って、学習者である在留外国人がこれから日本社会でどのような殊遇を受けるのかを考えないのでしょうか。

今、日本語教師が何のためにあるのかが問われていると、田尻は考えます。

関連記事

  1. 田尻英三

    外国人労働者の受け入れに日本語教育は何ができるか|第8回 年度末に向けての動き|田尻英三

    前回にも触れていた動きについて、最初に述べます。超党派の日本語教育…

  2. 田尻英三

    第66回 高市政権の外国人政策が動き出した|田尻英三

    ★この記事は、2025年12月9日までの情報を基に書いています。 …

  3. 田尻英三

    第19回  見えてきた日本語教育の将来像と関係者のそれに対する理解の無さ|田尻英三

    ★この記事は、2021年3月5日までの情報を基に書いています。…

  4. 田尻英三

    第22回 「資格会議」はどこへ向かうのか|田尻英三

    ★この記事は、2021年6月13日までの情報を基に書いています。ただ…

  5. 田尻英三

    外国人労働者の受け入れに日本語教育は何ができるか|第7回 骨組みは大略決まってしまいました|田尻英三…

    前回のウェブマガジンで予告していた超党派の日本語教育推進議員連盟の法案…

  6. 田尻英三

    第62回 国政選挙で外国人政策が争点になった理由を考える|田尻英三

    ★この記事は、2025年7月28日までの情報を基に書いています。7…

ひつじ書房ウェブマガジン「未草」(ひつじぐさ)

連載中

ひつじ書房ウェブサイト

https://www.hituzi.co.jp/

  1. 統計で転ばぬ先の杖|第4回 t検定にまつわるDon’ts|島田めぐ…
  2. 平成文学総括対談|第6回 物語は死なない|重里徹也・助川幸逸郎
  3. onohan おのはん!|第26回 今回のオノマトペ:「こねこね」|平田佐智子
  4. 村上春樹をさがして|第9回 五木寛之に本音を語る若い書き手|重里徹也
  5. 〈社会システム〉として言語教育を観察していく| 第四回:ルーマンに依拠しながら言…
PAGE TOP