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オノマトペハンター おのはん!|第6回 今回のオノマトペ:「ピタッ」|平田佐智子

 

デビュー戦

今月もおのはん!をお送りいたします。月1回の連載コラムであるおのはん!ですが、早いもので第6回を迎えました。半年が経過したことになりますね。コラムをお受けした時期から自分を取り巻く環境が大きく変化しているのですが、ここにきて身体的にも変化が見られ始めました。この時期に特有で、かつ多くの方々がすでに苦しんでいらっしゃるあの症状、花粉症です。昨年までも「この時期はなんとなく調子が悪いな」と感じてはおりましたが、ごまかしつつ過ごしておりました。ただ、目のかゆみというごまかしようのない症状が出てきたこともあり、きちんと対策を打つことにしました。花粉症ビギナーとしてなんとか乗り切っていきたいと思っております。

 

ハクション、グズグズ…?

さて、それでは今回のオノマトペは花粉症のオノマトペかな?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。あまり愉快なものではありませんのでそれはやめておきましょう。今回は花粉症になるとよくお世話になるアレのオノマトペに今回は注目します。この時期や冬になると急激に増えるアレのCM、皆様もよく見かけることと思います。ご自身でもお気に入りのものがあったり、人によってはとても大切なものであったりします。誤用をすると大変なアレ、お薬です。

 

薬とオノマトペ

「痛みとオノマトペの話はよく聞くけど、薬とオノマトペ?」と疑問に思う方もいらっしゃるかと思います。薬とオノマトペは結構つながりがあったりします。

例えば、銭湯の黄色い桶で有名な「ケロリン」は鎮痛剤ですが、この名前(製剤商品名)に含まれている「ケロリ」というオノマトペから、なんとなく「傷みがケロリと無くなってしまうのかな…」と推測してしまいます(なお、これは個人的な推測で、公式の語源は定かではありません)。元々薬剤には、成分の名前をそのまま冠した「一般薬剤名」というものがあります。例えば、解熱鎮痛作用のあるアスピリンという成分を薬剤にした場合、一般薬剤名は「アスピリン」となります。そして、これらの薬剤を様々なメーカーが商品化する際に独自の名前を付けることになります。これは「製剤商品名」と呼ばれます。先ほどのアスピリンは、ケロリンにも含まれていますし、メーカーが変わればバファリンという別の名称で販売されています。

一般薬剤名は成分の名前から来ていますので、「セチリジン塩酸塩」や「フェキソフェナジン塩酸塩」など、大抵長くややこしいことになり、しかもぱっと見て何の効果があるのかわかりにくいものばかりです。薬学の専門用語ですので、仕方ないのでしょう。ただ、一般の方々がドラッグストアで薬を選ぶときや、薬剤師の方々が薬を調剤する際には、選び間違いが少なくなった方が良いと考えられます。そのために、オノマトペや音象徴(音声がもつイメージ)の力を借りて、「名前で薬の効能を説明する」ようになった、ということはなんとなく想像がつきますね。ただし、名前で薬の効能を説明できるのはオノマトペや音象徴に限らず、普通語彙を用いることも可能です。むしろそちらの方が大多数かもしれません。それでは、花粉症によく用いられる薬の製剤商品名から、「効能を説明しようとしている」薬をピックアップして観察してみましょう。

 

花粉症の薬を観察

病院で処方される処方薬は一般製剤名から来ている物が多いので、市販薬から探してみましょう。市販薬検索で「花粉」と入力して、ずらずら出てきた薬剤を観察してみます。

 

「ダン鼻炎薬」

http://medical.itp.ne.jp/kusuri/shihan-4987115880146/

こちらのお薬には「ダン」と付いていますが、これはオノマトペではなくメーカー名が「ダンヘルスケア」なので、そこが作っている鼻炎薬ですよ、ということをシンプルに表現しています。惜しいですね(?)。

 

出てきた薬の中から気になった物の詳細を見ているのですが、意外に語源が推測できない物が多いです。一般薬剤名あるいはメーカー名称から類推できない名前に限定して見ていますが、全くもって語源がわかりません。「宇津の薬は小さいときによくお世話になったな…甘いんだよな…」など脱線しながら、もう少し探していきます。

 

「クールワン鼻炎ソフトカプセルS 20カプセル」

http://medical.itp.ne.jp/kusuri/shihan-4987060006141/

やっと少し意味がわかる物が出てきました。こちらは「クール」という語が含まれていますので、なんとなく「飲んだら涼しくスッキリするのかな」と推測できます。このように、日本語で説明するのではなく、ワンクッション置いて英語を入れるパターンも多いです。英語をはじめとした外国語をネーミングに取り入れるとカッコイイ感じがするのは、なぜなんでしょうか?(別の疑問が発生してしまいました)

 

「キュアレアa 8g」

http://medical.itp.ne.jp/kusuri/shihan-4987072038048/

こちらはいろんな語の複合型です。英語の「キュア(治す)」と日本語の「アレ(肌荒れ)」が混ざっていると推測されます。アレルギー性の肌荒れを治すために塗り薬なのですが、ちょっとわかりにくい例でしょうか。

 

「アレギサール鼻炎 30錠」

http://medical.itp.ne.jp/kusuri/shihan-4987128069491/

こちらもキュアレアと同じく複合型だと考えられます。「アレギ(アレルギー)」が「サール(去る)」ようなお薬、ということで、ドイツ語と日本語の混ぜ物、ということになるのではないかと思います。こちらの例で思い出しましたが、「~ール」のような形で終わる薬品がなんとなく多いのは何か意味があるのでしょうか。薬品っぽい名称鋳型というものがあるのかもしれません。

 

「アルガード目すっきり洗眼薬α 500ml」

http://medical.itp.ne.jp/kusuri/shihan-4987241100262/

やっとオノマトペが来ました!と思ったら、サブタイトル的な配置でした。こちらは薬品ではなく目を洗浄するための液剤です。目がすっきりするんですね(わかりやすい)。

 

「マイティアアイテクトアルピタット 15ml」

http://medical.itp.ne.jp/kusuri/shihan-4987123700191/

やっと本丸の「商品名にオノマトペが使われている花粉症関連の薬」が見つかりました(と言っても飲み薬ではなく、点眼薬ですが…)!わかりやすく「ピタッ」が含まれています。その直前に「アイテクト(アイ+プロテクト)」とアレルギーの「アル」が付いているので、「アレルギー」による目のかゆみなどを「ピタッ」と止めてくれる目薬なのだ、ということがこの商品名だけでまるっとわかる仕組みになっています。

 

捜索の果てに

最後の最後でオノマトペが見つかってよかったです。意外に「ブロック」「プロテクト」「アタック」「カット」などの英語と複合する形式が多く見受けられました。これらの単語は「防御する、やっつける」といった意味としても適切なのですが、含まれる音もちょっと似たり寄ったりなので、音象徴的な観点から少し気にならないこともありません(k音が多いですかね)。

また、メーカーさんが一生懸命考えたであろう商品名の語源を推測して記述していくのは、なんとなく、渾身のギャグを逐一説明していく行為に似ていて、大阪出身の者としてはかなり罪の意識を感じながら今回は書いておりました。ごめんなさい。なお、今回取り上げた商品は宣伝などの意図は全くなく、名称の構造に着目しただけですので、これらの薬品をおすすめしたりしなかったりするわけではございません、あしからず。

 

 

【参考サイト】

・メディカルiタウン お薬検索(市販薬検索)

http://medical.itp.ne.jp/kusuri/shihan/

 

 

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