第66回 高市政権の外国人政策が動き出した|田尻英三

★この記事は、2025年12月9日までの情報を基に書いています。

 

京都の紅葉を楽しむ暇もなく、高市政権の外国人政策のチェックに追われています。12月9日の京都は、しぐれています。

今回は、大きく動き出した外国人政策とそれに関わる日本語教育への言及と、そのような大きな動きに関係なく研究に励む日本語教育学会や認定申請作業に追われる日本語教育機関の認定状況などについて私見を述べます。

1. 高市政権の外国人施策

(1)外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議

11月4日に、第1回の「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」(以下、「閣僚会議」と略称)が開かれました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kakuryokaigi/dai1/gijishidai.html

この「閣僚会議」は、「一定の専門性・技術を有する外国人等の受入れ並びに国民及び我が国で生活する外国人にとって安全・安心な秩序ある共生社会の実現に受けた環境整備、関係行政機関の緊密な連携の下、政府一体となって総合的な検討を行うため」に開催されるとあります。問題は、「秩序ある」がどのような内容を指しているかです。今後に注目しましょう。

この会議の冒頭、高市総理からの「外国人との秩序ある共生社会の実現について」という「内閣総理大臣指示」が出されました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kakuryokaigi/dai1/sorishiji.pdf

高市総理の所信表明演説の前日10月23日にも、各官僚への「指示書」が出されたことは、第65回の「未草」で触れています。その「指示書」と内容が重複する部分がありますが、高市総理としては目玉政策としての外国人政策をさらに検討して具体的に指示したものなので、高市政権ではこの方向で施策が検討されることになります。なお、高市総理は「外国人政策」と言っていますが、そこで指示されているものは、外国人への全体的な方針を示す「政策」と呼べるものはなく、対症療法的な措置を指示しているものとなっているので「施策」と称すべきものです。この『未草』で「外国人政策」と書かれているものは、高市総理が指示した施策を指します。

以下は「総理大臣指示」のうち、田尻が注目する箇所のみを示します。

「一」には、「排外主義とは一線を画しつつも、こうした行為(田尻注:違法行為やルールからの逸脱)

には、政府として毅然と対応します。」として、以下の取り組みを「強力に進める」ようにしてほしいと書かれています。

「二」には、①法務大臣は、不法滞在者ゼロプラン、在留資格の審査の「厳正な」運用、在留資格の在り方・帰化の「厳格化」の検討、外国人の受け入れの基本的な在り方に関する調査・検討、②厚生労働大臣・文部科学大臣などは、国保料、医療費、児童手当、就学援助、外国人留学生・外国人学校への支援などの各種制度・運用の見直し・適正化の推進、入管庁と市町村又は関係行政機関との情報連携、在留外国人(成人・子ども)への日本語教育の充実、査証手数料・在留許可手数料の見直し、③国土交通大臣は、国際観光旅客税の拡充、観光客の過度な集中の防止と地域分散の推進、マナー違反等のオーバーツーリズム対策の強化、厚生労働大臣・地方創成担当大臣と協力して民泊の適正運用に向けた具体的な対応策、④国家公安委員長は、外国人犯罪に適切に対応、具体的には国内関係機関や外国捜査機関との連携による違法行為の厳正な取締り、入管庁との連携で不法滞在者対策の増進をお願いするとあります。

「三」には、外国人による不動産保有の実態把握、①法務大臣・農林水産大臣は、不動産の移転登記時及び森林の取得届出時の国籍把握、②財務大臣は、外為法に基づき国外居住者による不動産取得の把握の仕組み検討、③国土交通大臣は、国外からの土地取得実態の早急な把握と結果の公表、④法務大臣及びデジタル大臣は、「不動産ベース・レジストリ」が機能するように検討、併せて外国人の土地取得等のルールの在り方検討のため、外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣・防衛大臣・外務大臣は、安全保障への影響や国際約束との関係を具体的に精査してくださいとしています。

「四」には、外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣は、関係閣僚と連携し、「不断に取組の強化」を進めてくださいとしています。

「五」には、有識者会議の議論も踏まえ、来年一月を目途に当会議で改定予定の「総合的対応策」の基本的な考え方や取り組みの方向性を示してほしいとしています。

この「閣僚会議」の議長は内閣官房長官、副議長は外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣と法務大臣、構成員はその他の20閣僚となっています。この「閣僚会議」の下に、「特定技能制度及び育成就労制度の基本方針及び分野別運用方針に関する有識者会議」(田尻注:すでに9回開かれていますが、会議名は変わらず「閣僚会議」の下に位置付ける改正が11月4日に出ています。次の(3)で扱います)、「外国人との秩序ある共生社会の実現のための有識者会議」(田尻注:次の(2)の会議)、「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議幹事会」(田尻注:まだ開かれていない)の三つの会議があります。

この会議は高市政権の目玉政策の一つと思われますが、当日挨拶したのは議長や副議長ではなく、内閣府の鈴木隼人副大臣でした。今後は、各省庁から出てきた施策を調整することが主目的の会議のように、田尻には見えます。

以上、見て分かるように、ここまで高市総理に細かく指示されると他の会議の結論もこの指示の範囲を越えるものではないことが予想されます。次に述べる有識者会議の検討結果も、この指示の具体化したものになると田尻は考えています。

(2)外国人との秩序ある共生社会の実現のための有識者会議

11月27日に、第1回の「外国人との秩序ある共生社会の実現のための有識者会議」(以下、「有識者会議」と略称)が開かれました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/jitsugen/dai1/gijishidai.html

上に述べた「閣僚会議」へ、有識者から「意見を述べることを目的」とした会議です。

座長は、国立社会保障・人口問題研究所所長の林玲子さんで、林さんを含めて4人は2021年11月に「意見書~共生社会の在り方及び中長期的な課題について~」を出した「外国人との共生社会の実現のための有識者会議」のメンバーです。その他、緒方貞子平和開発研究所の方、都市計画の研究者、経済安全保障政策・情報保障が専門の弁護士、サイバー犯罪の研究者、労働法の研究者、民法の土地所有の研究者、教育社会学で多文化共生が専門の研究者、土地法制の研究者等々の12人です。外国人児童生徒関係の研究者は2人入っていますが、日本語教育の専門家は入っていません。必要があれば、座長は関係者の出席を求めることができます。

この会議は非公開のため、当日の資料しか見ることができません。

資料4に検討方針が示されていますが、そこには「基本的な考え方や取組の方向性を検討するに際し、留意すべき視点」としか書かれていません。つまり、外国人施策を作るにあたって、こんな点に気を付けてほしいということを言う会議のようです。会議は、次に1月上旬に開かれて、1月中には「基本的な考え方・取組の方向性を提示」となっています。日本政府として初めてまとまった外国人施策を作る時点で、日本語教育に関する意見を言う専門家がメンバーにいないことは残念です

資料3に、在留外国人の新しい資料が掲載されています。以下は、田尻が興味を持った資料を示します。詳しい内容は、ぜひ元の資料に当たってください。

  • 「就労目的で在留が認められる主な在留資格の技術水準等について」

2025年7月6日時点の数字です。

「非専門的・非技術的分野」では技能実習449,432人(2027年4月廃止、受け入れ見込み数の設定はありません)で、2027年4月からは「専門的・技術的分野」の育成就労制度施行(受け入れ見込み数の設定があります)の予定です。技能実習からの移行の特定技能1号333,123人(受け入れ見込み数の設定があります。2024年4月から5年間の受け入れ見込み数は計82万人)。

この分野で家族帯同が可能な特定技能2号は3,073人(受け入れ見込み数の設定はありません)です。同じ分野で家族帯同可の高度専門職(1号・2号)は31,644人(2024年末までに4万人の受け入れ目標が設定されていました)で、技術・人文知識・国際業務は458,109人、技能50,947人、経営・管理44,760人、介護13,949人(いずれも受け入れ見込み数の設定はありません)です。

  • 2025年6月末で、在留外国人数は、395万6,619人です。
  • 直近10年間を対比した在留資格別の変化の表が出ています。永住者や特定技能の伸びが目立ちます。
  • 国民健康保険における外国人被保険者のデータが出ています。
  • 外国人患者の未収金の状況が出ています。
  • 児童手当の外国人支給児童数が出ています。
  • 特区民泊の実績が出ています。
  • 不動産登記情報を活用した新築マンションの取引実態の調査・分析が出ています。
  • 重要施設周辺等における土地・建物の取得状況等についての実際が出ています。

在留外国人に関するいろいろな噂を確かめる大事な資料が出ていますので、各自で必ず見ておいてください。日本語教育関係者なら知っておくべきデータです。

(3)特定技能制度及び育成就労制度の基本方針及び分野別運用方針に関する有識者会議

この会議は、「閣僚会議」が作られる前からある会議です。第9回は、「閣僚会議」のすぐ前の10月30日に開かれています。「閣僚会議」以降では、11月14日に第10回が開かれています。座長・構成員は全く同じです。新しい体制での会議は、第10回以降のものです。

https://www.moj.go.jp/isa/03_00162.html

第10回の資料は、内閣官房の「閣僚会議」のサイトではなく、出入国在留管理庁のサイトに出ています。バス・タクシー運転手の日本語能力の要件を扱った第10回の資料は、「閣僚会議」のサイトには出ていませんので、注意してください。

資料2-1「第9回有識者会議における主なご意見」の中に、「運転手本人の日本語能力を継続的に高めるために教育環境の実現のための国による支援体制が不可欠である」、「多様な外国人への日本語教育は誰が担うのか明確ではない。日本語教育環境整備にかかる法の整備、財源確保に尽力してほしい」などの意見が出ました。

資料2-3「転籍制限期間の設定について」では、1年で転籍できるとした育成就労制度でも、1年を超える期間とする具体例が出ています。育成就労制度での1年転籍を変更しようとしています。

資料2-4「バス・タクシー運転手に係る日本語能力要件(案)について」では、「自治体における日本語教育環境の強化」として、文部科学省は「バスドライバーに限らず、地域に暮らす外国人が生活に必要な日本語能力を身に付けられるよう」「地域の日本語教育の体制整備を推進」することとしています。

「制度の見直し」では、「日本語試験の受験機会の拡大」を上げています。

「外国人の採用見込みについて」では、特定技能評価試験の累計合格者数はバス・タクシーを合わせて500人(2025年8月末時点)」としています。バス事業者においては、8月に10名程度「特定活動の在留資格を得た外国人が誕生。一方、特定技能の資格を有する者は未だ誕生していない(2025年8月時点)」となっています。

「安全性の水準について(N3、N4)」では、B1(N3)外国人とA2.2(N4)外国人については、「運転技能と語学力は無関係」としています。果たして言えるでしょうか。また、田尻は「語学力」という語の使い方にも違和感があります。

資料2-4「バス・タクシー運転手に係る日本語能力要件(案)について」の中の「専門家による意見①」では、「1.日本語教育の専門家による意見」として以下のようなものが列挙されています。下線と太字は、元の資料のままです。

  • A2.2(N4)レベルでも十分日本の交通ルールや法律を理解することができる
  • 離島・半島地域における、A2.2(N4)での単独運航は可能
  • 安全面の教育・日本語教育がともに十分なレベルで実施されるのであれば、A2.2N4)レベルの外国人運転手でも単独運航は可能
  • JLPTでは「話す能力」を測ることはできない。また、バス運転手の業務に必要な日本語とB1(N3)では乖離があると思われることから、特定の試験を基準とすべきではない。
  • 特に、「話すこと」「聞くこと」のB1については入国後の相当日本語講習受講及びサポートが前提であれば、入国時はその他の特定技能同様のA2でいいのではないか。
  • 方言については、介護分野でも同じ課題があるが、地域に根ざした言葉の習得は必要不可欠。来日後に一定程度方言に慣れるための研修が必要である。しかし、テストをするような類いのものではなく、一定の知識があれば、地域で生活を送る中で時間とともに慣れていくものと思う。

このような意見をいった日本語教育の専門家は、誰なのか、このような意見のもとになる研究が行われたということを知りません。

この有識者会議のメンバーに、日本語教育の専門家はいません。研究もないのに誰の意見を聞いて、このようなことが決まったのでしょうか。田尻の考えでは、上記の下線部の意見には同意できません。特に、A2.2のような日本語教育の世界でまだ十分な検討ができていないレベル(CEFRには、A1・A2・B1・B2というレベルがあることは承知していますが、「日本語教育の参照枠」にはありません)を使って運転の可否を決めることにも反対です。実際に、「バス・タクシー運転手に係る日本語能力要件(案)」のA2.2の注では「日本語教育の参照枠のA2相当のレベル」というはっきりしない説明が付けられています。

しかし、仮にこの会議に日本語教育の専門家が臨時に呼ばれたとしても、専門家としての見識を持った意見を言える人がいるのでしょうか。少なくとも、田尻はバスの運転に関する日本語能力のレベルについて研究している人を知りません。この方面の研究をしている方をご存じの方がいらっしゃれば、ひつじ書房の編集部(toiawase@hituzi.co.jp)までお知らせください。日本語教育の世界で「就労」分野を研究している人は少ないのが現状です。

以上の結果、現行の特定活動入国時と特定技能1号はN3以上(B1以上)という現行の基準を、特定活動入国時、乗合バス・タクシーはA2.2(N4)以上、貸切バスはB1(N3)以上、特定技能1号はB1(N3)以上、乗合バス・タクシーに日本語サポーターを常務させる場合はA2.2(N4)であること、離島・半島の乗合バスは営業所との連絡体制が整備されていることを前提に、A2.2(N4)単独乗務も可とする、となりました。

この日本語レベルの外国人運転手が乗務するバスやタクシーでのトラブルが起きることを、田尻は心配します。

(4)外国人との秩序ある共生社会推進室

これは会議体ではありませんが、「閣僚会議」の方針で動く内閣官房内の「外国人施策の司令塔」となる事務局組織です。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/symbiotic_society/index.html

この組織は、7月15日に石破内閣の時に設置されていますが、高市内閣でもそのまま継続して活動しています。

この中の「外国人施策に関する各種制度・取組」のサイトに、早速高市政権になってから変更された外国人施策が以下のように列挙されています(施策名の表記は原文のまま)。

在留資格「経営・管理」許可基準の見直し
外免切替制度の手続き・運用の見直し(PDF)
外国人の国保保険料収納状態の把握等・入管庁との連携(PDF)
外国人受診者医療費未払情報の入管庁の連携
重要土地等調査法関係の取組(重要施設周辺等における土地等の取得の状況等)
農地関係の取組(外国人法等による農地取得に関する調査の結果等)
森林関係の取組(外国人法等による森林取得に関する調査の結果等)

上記の項目のうち、PDFと書かれているもの以外は、まだ具体的な報告は出ていません。あらかじめこのような項目に問題が生じるであろうことを予測して、項目を設定しているように見えます。

12月9日現在、新しい情報は更新されていません。

2. 自由民主党の外国人施策作成の動き

第61回の「未草」の記事で触れましたが、すでに6月5日に自由民主党政務調査会が「国民の安心と安全のための外国人政策 第一次提言」を出しています。

自由民主党のHPでは、高市政権になってから11月11日に高市総裁直属の機関として、外国人政策本部が自由民主党内にできました。本部長は新藤義孝議員です。この本部は、「閣僚会議」の「アジェンダ等を踏まえ、3つのプロジェクトチーム(PT)を設け、同時並行で議論を進めて」いくことになりました。高市政権での外国人施策は実質的にこの外国人政策本部が作っていくと、田尻は考えます。

ここには、以下の三つのPTができました。

  • 出入国・在留管理等の適正化・外国人受け入れに関するPT
  • 外国人制度の適正化等に関するPT
  • 安全保障と土地法制に関するPT

政権与党になってから、日本維新の会からの外国人施策の提言はまだ出ていないので、高市政権での外国人施策作成は、この自由民主党のPTが担うことになると考えます。ここには、日本語教育は入っていません。

3. 2025年度補正予算について

12月10日時点では、まだ臨時国会で補正予算が成立するかどうか、どの程度修正されるかは分かりませんので、ここでは簡単に各省庁の日本語教育関係の項目だけを挙げておきます。URLは示しません。

〇文部科学省 外国人等に対する日本語教育の推進・外国人児童生徒等への教育の充実 4億円

  • 日本語教育ニーズの多様化を踏まえた教育カリキュラム編成・質向上支援事業 2億円
    就労分野における、日本語教育機関と企業等とが連携した教育カリキュラム作成や、留学生対象の教育カリキュラムの質向上に向けた教育モデルの取りまとめを行う。日本語教育課担当。
    委託先は民間事業者で、9件程度、1件16百万円(再委託)。
  • 日本語教師の養成及び現職日本語教師の研修事業 0.3億円
    「日本語教育の参照枠」を踏まえた現職日本語教員等研修プログラム開発・実施事業 1機関
    日本語教育課担当。
  • 日本語教員試験のCBT化に向けた試行試験の実施 1億円
    日本語教員試験が全国の拠点においてCBT方式により実施が可能かの試行試験の実施と検証
    日本語教育課担当。
  • 外国人児童生徒等に対する指導および支援体制の充実に関する調査研究事業 0.2億円
    日本語指導の総合的・体系的なカリキュラムを検討するなどして、「子供たちの『長所・強み』を活かし伸ばす教育を目指す」。 国際教育課担当。
  • 多様で優秀な外国人留学生獲得のための緊急対策 1億円
    日本留学試験と「日本語教育の参照枠」の対照表を作成。高等教育局参事官(国際担当)担当。

〇厚生労働省

  • 介護福祉士養成施設における教育の充実モデル支援事業 2.1億円
    「日本語教育支援」として、留学生の多い地域の養成施設を対象に、日本語学校等との連携強化のモデル事業。社会・援護局福祉基盤課福祉人材確保対策室担当。
  • 介護の日本語学習支援等事業 93百万円
    「特定技能」による外国人介護人材施策取得支援や「特定技能」や「技能実習」の外国人介護人材の訪問系サービス支援。社会・援護局福祉基盤課福祉人材確保対策室担当。
  • 外国人介護人材獲得強化事業 2.3億円
    現地で人材確保の取り組みを行う事業所・介護福祉士養成施設・日本語学校等への支援。社会・援護局福祉基盤課福祉人材確保対策室担当。
  • 外国人介護人材定着促進事業 1.2億円
    外国人職員と日本人職員の意思疎通の円滑化や外国人の日本語学習の支援等。
    実施主体は都道府県。補助率は国1/2、都道府県1/4、受け入れ事業所1/4。

補正予算ではありませんが、厚生労働省は2026年1月から委託事業として、300人定員の「外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修」を始めます。受講料は無料です。この研修の講義内容の中に医療通訳の話も入っています。今後の外国人の受け入れでは、医療通訳と法廷通訳が重要な役割を占めることを覚えておいてください。

〇法務省(日本語教育に関わる予算はありませんが、外国人受け入れ関係予算を紹介します)

  • 出入国・在留管理等の強化 10,713百万円
  • 公正な在留管理の推進、共生社会の実現に向けた取組の推進等 8,895百万円
    公正な在留管理、外国人による土地所得への対応、国民の安心・安全のための不法滞在者ゼロプラン、外国人との共生社会の実現に向けた受入環境整備の推進。

このうち、多文化共生に係る情報発信・相談体制の推進の予算は、552百万円だけです。

4. 認定日本語教育機関の認定結果と登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関の登録結果等について

2025年10月31日に、上記のそれぞれの結果が公表されました。

https://www.mext.go.jp/a_menu/nihongo_kyoiku/1420729_00022.htm

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/attach/1420729_00020.htm

(1)認定日本語教育機関の認定結果

複数の課程分野を設置する機関があるため、総数は一致しません。

申請機関数 74機関 課程分野内訳 留学 73機関、就労 1機関、生活 0機関

          機関種別内訳 法務省告示機関 34機関、大学別科等 1機関、

                 その他 39機関

認定された機関 23機関 課程分野内訳 留学 22機関、就労 1機関、生活 0機関

            機関種別内訳 法務省告示機関 7機関、大学別科等 0機関

                   その他 16機関
不認定 0機関
取り下げ 51機関

過去の認定結果と比較します。

  申請機関数 認定機関数 不認定 取り下げ
2024年1回目 72 22 3 36
2024年2回目 48 19 0 29
2025年1回目 74 23 0 51

今回の取り下げ機関の多さが目立ちます。いまだに申請要件への理解が足らないことが原因だと思われます。

なお、2025年度2回目の申請機関の数が、11月14日に公表されました。

https://www.mext.go.jp/a_menu/nihongo_kyoiku/1420729_00019.htm

申請機関数 100機関
課程分野内訳 留学 99機関、就労 2機関、生活 0機関
機関種別内訳 法務省告示機関 58起案、大学別科等 1機関、その他 41機関

(2)登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関の登録結果

〇登録実践研修機関の登録結果

申請機関数 28機関  内訳 新規 24機関、課程の新設 3機関、収容定員数の変更 1機関
登録された機関 23機関  内訳 新規 20機関、課程の新設 2機関、収容定員数の変更 1機関
継続審査とした機関 1機関
取り下げた機関 4機関  内訳 新規 3機関、課程の新設 1機関

〇登録日本語教員養成機関

申請機関数 33機関  内訳 新規 29機関、課程の新設 3機関、収容定員数の変更 1機関
登録された機関 25機関  内訳 新規 22機関、課程の新設 2機関、収容定員数の変更 1機関
継続審査とした機関 3機関  内訳 新規 3機関
取り下げた機関 5機関  内訳 新規4機関、課程の新設1機関

(3)2025年度日本語教員試験出願状況

10月31日に公表され、18,313人でした。2024年度は18,387人で、ほぼ同数です。

試験は、11月2日に行われました。

5. 2024年度日本語教育実態調査について

「日本語教育実態調査 令和6年度報告  国内の日本語教育の概要」が、文部科学省総合教育政策局日本語教育課から10月31日に公表されました。

https://www.mext.go.jp/content/20251114-mxt_nihongo01-000045594_2.pdf

新聞等では、日本語学習者数が最多の29万人、空白地域が38%、環境整備が急務などの見出しが出ていました。

田尻が個人的に興味を引いたのは、27・28ページの「日本語教育の参照枠」関係の数字でした。

法務省告示機関に限ると、「日本語教育の参照枠」を活用したプログラム編成中36.9%、編成を検討29.9%、検討していない3.9%で、実施しているのはわずかに29.0%です。

日本語教師や日本語学習支援者に情報提供の取り組みを行っているのは、法務省告示機関では70.7%ですが、地方公共団体・教育委員会や国際交流協会では20%台と少ないのが現状です。

日本語教育の世界では、まだまだ初級・中級・上級やN1~N5の評価を基準としたカリキュラムが行われているのはよく分かります。

この資料は国内の日本語教育の基礎資料ですので、関係者は各自プリントして常に参照してほしい内容となっています。詳しい内容は、ここでは触れる余裕がありません。

6. 日本語教育学会秋季大会プログラム「共生社会と日本語教育~何のために日本語教育はあるべきか~」について

2025年11月22日に富山国際会議場で、上記の一般公開プログラムが行われました。オンラインでの公開はなかったので、知人から当日の資料をいただきました。ここでは、その資料に基づいてコメントします。

参加の呼びかけ文では、「外国人住民が増加している現在、これからの『共生社会』における日本語教育はどのような方向に進むべきでしょうか。(中略)日本語教育は何ができるか一緒に考えます」となっています。

このテーマは、大会委員会でいつごろ決まったのでしょうか。「1」で述べた現状を考えると、あまりに現実離れしたテーマではないでしょうか。全国的に外国人排斥の雰囲気が醸成され、厳しい外国人受け入れ施策が実現されようとしている現在、日本語教育学会では何ができるかをこれから考えると言うのです。しなければいけないことが分かっていないのでしょうか。

当日の是川夕さんの資料は、大変有益です。特に、「5.今後の課題 ―広がる日本語教育の役割」は、学会員だけではなく一般の方にも読んで共有してほしい内容です。学会としては、この資料を学会のサイトに掲載できないでしょうか。ぜひ検討してみてください。学会がこの資料を公開していない以上、田尻もここではその内容を紹介できません。

このプログラムのまとめ役は、最後の発表者の神吉宇一さんのはずです。学会当日は、事前に用意した資料とは別の資料を使って話をしています(当日の資料は、神吉さんのnoteに出ています)。つまり、「1」で述べた状況を分かった上で資料を作成したと思われますが、神吉さんの資料には全く現状に対する切実感はありません。

もう一つ、大事な点に触れます。学会では「共生」は「外国人との共生」であることを無前提で扱っていますが、これは問題です。まず、「共生」という語の定義が必要です。日本社会での「共生」は「障がいを持った人との共生」が第一義のはずです。先天性ミオパチーである芥川賞作家の市川紗央さんの朝日新聞の「寄稿」が大きなうねりを起こしたことを大会委員会のメンバーは誰も知らなかったのでしょう。この「寄稿」は、現在でも読めます。

https://www.asahi.com/articles/DA3S16300625.html

おりしも日本ではデフリンピックが行われました。聴覚障がい者の活躍が連日報道されました。このことも、日本語教育研究者は興味を持たなかったのでしょうか。そういう状況では、「共生社会と日本語教育」というテーマは、外国人との共生を意味しているのは当たり前ということでしょう。

「障がい者との共生」という場合の「共生」は、障がい者のありのままを受け入れ、その人の考えを尊重し、社会的に隔離するのではなく、一緒に生活を営むことを指すと考えられています。「在留外国人との共生」という場合に、今の日本各地で広まっている外国人排斥の動きを見る時に、「障がい者との共生」で見られるような対応が期待できるでしょうか。むしろ、外国人に日本の習慣や考え方を理解させ、日本語も話せるように仕向けているのが実態だと、田尻は考えています。かつて、アジア・太平洋戦争の時、占領したアジア各地で日本軍が行った同化教育と、今日本国内で外国人に行われている同調圧力(田尻は、実際的には同化圧力になっていると感じています)が感じられる状況と、どこが違うのかを真剣に考えるべきです。

「共生」という語を使うことには慎重でなければなりませんが、現在田尻はこのような場合には「包摂」という語を使っています。ただ、それで良いかどうかの検討は今後必要でしょう。ここで強調しておきたいのは、「共生」という語を簡単に使ってはいけないということです。

7. その他の大事な情報

〇外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議

11月10日、第8回の会議が開かれました。視聴者は、約70人程度でした。

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/196/siryo/1418919_00008.html

この会議では、浜田麻里さんの「日本語指導担当教師等の指導力の向上について」や「参考資料4 外国人児童生徒等教育の現状と課題」などの大事な資料が出ています。

〇外国人集住都市会議 そうじゃ2025

11月19日に、総社市民会館で開かれました。

基調講演は、岡山大学の中東靖恵さんの「外国人住民とともに育む多文化共生社会へ」でした。この基調講演の詳しい内容は、中東さんの『地域日本語教育を行政と共に創る―岡山県総社市「総社モデル」の構築と展開―』(2025.ひつじ書房)にまとめられています。

外国人集住都市会議のメンバーが、地域における外国人受け入れに対して積極的な発言をしています。

〇「令和6年 労働災害発生状況について」

当該資料を、2025年5月30日に厚生労働省労働基準局安全衛生部安全部が公表していましたが、以前扱えなかったのでここで扱います。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58198.html

外国人労働者の労働災害が急増していることに注目してください。

 

※高市政権が動き出して、一気に外国人施策の厳格化が進んでいます。ここでは書ききれない多くの事象が起こっています。

11月16日には、高市総理の台湾有事に関する発言の影響で、中国教育局が日本留学を考えている中国人に対して慎重に検討するように呼びかけを行いました。中国からの観光客も減少しています。日本の海産物の事実上の輸入停止も19日に分かりました。中国人留学生を多く受け入れている日本語教育機関への影響が現れるのはこれからでしょう。

大修館書店から『現代日本語教育ハンドブック』が出版されましたが、田尻がここで強調しているようなこととは無縁の内容が書かれているように感じています。次の「未草」の記事で扱います。

2025年度の「未草」の記事は、これで終わりです。来年1月は、高市内閣の外国人政策が公表されます。公表時からできるだけ早い時期に「未草」の記事で扱います。

では、良いお年を!

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