中高生のための本の読み方|第3回 部活、だけじゃない。|大橋崇行 

 

部活のいま

中高生を対象にしたYA[ヤングアダルト]小説やライトノベルに限らず、中高生を主人公にした青春ものの小説やマンガ、アニメーションでは、部活動を描いた作品にとても人気があります。

たとえば、朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』(集英社文庫版は、2012年)は、男子バレーボール部のキャプテンだった桐島が部活をやめたことをきっかけに、バスケットボールやバドミントン、吹奏楽、野球、映画といったさまざまな部活に所属する5人の同級生たちの日常に、少しずつ変化が起きていくという物語です。

また、野球部を描いた名作と言えば、あさのあつこ『バッテリー』(角川文庫版は、2003~2009年)。最近では、アニメーション作品としても人気となった武田綾乃『響け! ユーフォニアム』(宝島社文庫、2013年~)が、ライトノベルらしいキャラクターを活かしながら、学校の吹奏楽部にしばしば見られる人間模様をとてもよく描いています。

このほかにも、部活を題材にした作品は、数え切れないほどの名作がそろっています。

勉強をするためのクラスとは違って、同じ競技、同じ趣味を共有する仲間たちと、ひとつのことに熱心に打ち込む。

きっと中高生だけでなく、かつて中高生だった大人たちにとっても、部活動は学校生活の中で充実した時間であり、それを描いたストーリーに共感できるところが多いのだと思います。

そんな部活動に、中高生たちが実際にどんなふうに取り組んでいるのか。

それを1冊にまとめたのが、岩波書店編集部編『部活魂!』(岩波ジュニア新書、2009年)です。

この本は、「私の学校の部活自慢」というテーマで全国の中高生から募集した21作品、そのほかにも著名人による部活をめぐる4本のエッセイを集めたものです。

中高生によるエッセイでは、サッカー部や陸上部、吹奏楽部といった多くの学校にある部活のほか、郷土芸能部、伝統建築部、龍踊(じゃおどり)部といった一風変わったものまで、それぞれの活動が紹介されています。

たとえば埼玉県立松山女子高等学校の書道部は、書道パフォーマンス(揮毫パフォーマンス)で知られており、マンガ、テレビドラマで人気となった河合克敏『とめはねっ! 鈴里高校書道部』(ヤングサンデーコミックス(小学館)、2007~2015年)のモデルになったところです。

また、千葉県立松戸秋山高等学校の絵本研究部は、童話や絵本などをもとに紙芝居や人形劇を制作し、老人ホームや保育園への巡回活動を行っているそうです。こうした活動により、部活動を通じて学校以外の社会と中高生のみなさんがつながっていくというのは、とても意味があることだと思います。

また、この本に載せられた報告は、実際にみなさんの中学校、高校で活動をしていく上で、参考になる部分も多いのではないでしょうか。

 

ブラック部活

一方でいま、その部活動をめぐって、学校現場でさまざまな問題が起きているという現実もあります。

島沢優子『部活があぶない』(講談社現代新書、2017年)は、2012年12月に大阪市立桜宮高校のバスケットボール部で、顧問の教師による体罰によってキャプテンの男子高校生が命を絶ってしまった事件をきっかけに、全国の部活動で起こっている事件と、そうした事件が起こる「ブラック部活」の実態を調査したルポルタージュです。

部活動での人間関係から起こる不登校やいじめ、科学的な根拠のない猛練習、熱中症を見すごして練習させたことによって起きた生徒の死亡事故、顧問の教師による暴言やセクシャル・ハラスメント。

もちろん、こうした事件を起こす先生は、ごく一部の人たちです。

けれども残念ながら、同じようなことが、いまでも毎年のように繰り返されているという現実もあります。

一方で学校の先生にとっても、部活動は非常に大きな負担になっています。

中学校や高校の先生にとって、本来の仕事は教科の授業を担当し、生徒に学力を身につけさせることです。けれども、朝練、長時間におよぶ午後の部活動、土日の練習と試合で、休日さえとることができなくなって、教育現場を去っていく先生方も後を絶ちません。

ここには、部活動で子どもを活躍させたい保護者たちや、部活で好成績をあげて学校の名前を宣伝したい学校など、多くの人たちの思惑が圧力となっているそうです。

たとえば運動部にいるみなさんも、毎日練習しないと上手くならないと思っていませんか?

けれどもこの本には、練習日数や時間を短くしたことで、生徒たちが主体的に自分たちで考えてさまざまな工夫を行うことで、むしろ成績を向上させたという例も多く書かれています。休みを十分にとることは、怪我の防止にもつながります。

もちろんこの本は、「ブラック部活」を告発することで、部活動をただ批判するために書かれているものではありません。

どうしたら部活動をより楽しく意味のあるものにしていくことができるのか、部活動以外に生徒たちが活動する場を作ることはできないのかなど、いろいろなことを考えることができる本だと思います。

このように『部活魂!』と『部活があぶない』は、熱心に部活に打ち込む生徒たちと、その一方にあるさまざまな問題という、部活動をめぐるふたつの側面をそれぞれ見せています。このように、ふたつ以上の視点から部活動というひとつのテーマについて書かれているものに触れると、いろいろなことが考えられるのではないかと思います。

 

地域と子どもたちとのつながり

そうした部活動の現状を解決する方法のひとつとして期待されているのが、地域のコミュニティセンターなどを使って、子どもたちが活動することを支援するというものです。

濱野京子『バンドガール!』(ノベルフリーク(偕成社)、2016年)は、小学5年生の女の子・森岡沙良(もりおか さら)が、6年生の新城莉桜(しんじょう りお)たちと一緒に地域の児童センターにバンドのグループとして登録し、ドラムを担当することになるストーリーです。

児童センターで音楽系サークルの指導員をしている池上さんや、沙良の両親をはじめとした大人たちも、いつも周りにいます。けれども、助言はするものの、沙良たちがいろいろなことを自分たちで考えながら活動していくことを見守っています。

もちろん現実ではなかなかこういう活動の進め方は難しいかもしれませんが、この作品は部活ではない別のかたちを示していると言えます。

一方でこの小説は、こうした子どものたちが活動する姿だけを描いたものではありません。

舞台は、日本海西部で起きた大地震によって、西日本に人が住めなくなってしまった近未来。首都が北海道に移転してしまい、東京にはほとんど人がいなくなってしまいました。誰もが首都がある北海道に移り住みたいと願っていますが、いまでは抽選で当選した数人しか移住できなくなっているという世界です。

それでも東京の人口は減り続け、子どもたちも少なくなったために、学校ごとの部活動が成り立たなくなっていきます。そのため、別の学校に通っている子どもたちと一緒に活動しなければならないという状況なのです。

そんな中、沙良たちは『忘れられた歌』をみつけます。

それはとても良い曲でしたが、ある理由で歌うことが禁じられていたもので、沙良たちも池上さんから、歌わないように止められてしまいます。

こうした大人たちの考え方に対して、沙良たちがどう考えていくのか。

いいかえればこの作品は、学校から外の世界に出たことによって、その世界にいる地域の大人たちに触れ、その人たちと子どもたちがどのように関わっていくのかを描いた小説だと言えるでしょう。とても面白いテーマを持った作品だと思います。

また、人口が減ってひとつの学校では部活動が成り立たないという状況は、すでに都市部以外では現実に起こり始めています。その意味でもこの小説は、リアリティを持っているかもしれません。

 

部活ができなくても

一方で先ほど挙げた『部活があぶない』では、練習のしすぎによるオーバートレーニング症候群によって怪我をしてしまい、競技ができなくなってしまう生徒が多くいるという現状が指摘されていました。

このテーマを扱ったマンガ作品に、相田裕『イチゴーイチハチ!』(ビックコミック(小学館)、2015年~)があります。

高校に入学した丸山幸(まるやま さち)は、知り合いの3年生で生徒会長をしている女性を頼って、部活ではなく生徒会に入会します。

その高校で出会ったのが、中学時代に県内の強豪野球クラブチームでエースとして投げていた烏谷公志郎(からすや こうしろう)。彼は甲子園に出場できる可能性があるということで、幸と同じ松武高校に入学していました。

幸は野球をしていた公志郎をヒーローのように見ていましたが、実際に会った彼にその面影はなく、すでに野球もやめてしまっていました。オーバートレーニング症候群のひとつである離脱性骨軟骨炎のために、競技に戻ることはできないと医師から告げられていたのです。

第2話「18番の彼女」は、そんな公志郎に野球への未練を断ち切らせようと、会長が一肌を脱ぐというストーリーです。

もともと会長は、中学3年まで男子と交じってアンダースローの投手として活躍していましたが、当時中学1年だった公志郎に打たれて野球をやめたという因縁がありました。

勝負の条件は、彼女が投げるボールを打てなかったら、生徒会に入ること。

その結果は……。

結局、公志郎は生徒会に入ることになり、幸と二人で自動販売機の設置や生徒総会の運営、応援団の支援など、学校の裏方としていろいろな活動に取り組んでいくことになります。

その意味でこの作品は、野球部という部活で活躍するという夢を一度諦めてしまった公志郎が、部活とは別の新しい目標をみつけていく姿を描いたものだと言えます。また、幸や会長、そのほかの生徒会メンバーたちも、それぞれに学校生活の中でやるべきことをみつけていきます。

学校生活ではどうしても、運動部で活躍している生徒や、好成績をあげている吹奏楽部などの部活動に光があたりがちです。学校生活を描いたマンガや小説などもそういった作品が多いので、あるいは地味な作品に見えるかもしれません。

けれども、それぞれの生徒が何を目指して、いま、何をやればいいのかを探していく姿を丁寧に描いていくというストーリーは好感が持てますし、ほとんどの中高生、そしてかつて中高生だった大人たちにとっても、より身近に感じられるのではないかと思います。

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