これからの英語教育の話を続けよう|第1回 「無資格指導」はやめよう:「ネイティブ」、イコール語学教師ではない。|藤原康弘

 

ALTの背景を理解しよう:どんな人がALTになるのか

 

まず確認しましょう。ALTになるための資格らしい資格は「大卒」のみです。学位は何でもOK。つまり経済学でも物理学でも芸術でも何でもいい。教育学や言語学を専攻し、今も関連分野を研究するものとして、これだけでも見過ごせない問題ですが、そこは前掲書の自身の原稿でふれましたので、今回は彼らの背景に迫りたいと思います。では、どのような方がALTになるのでしょう?

ALTの派遣業者の方々が『これでわかる!ALTとはたらく70のポイント』(啓林館、2017)という本を書かれています。ALTの派遣業者が書かれていますから、基本的に外国人の語学指導助手を擁護し、その必要性を主張するものです。一方、彼らの「本音」もけっこう述べてあり、ある意味、好感がもてます。この本に基づきお話ししましょう。

まず筆者は率直に、彼らの「多くはALTになるために日本に来たのではなく、日本で生活する上でALTという職業を選択」(p. 22)していると述べます。そして日本の生活をはじめる理由を挙げています。

  • 日本という国、日本の文化などへ興味があったから。
  • 外国で生活をしたいというシンプルな気持ちから。
  • 恋人や結婚相手が日本人であり、一緒に過ごしたいから。
  • 欧米諸国の近年の就職難のため、自国では仕事がなかったから。
  • アジア、アフリカ諸国の出身者は、日本で働いた方が給料がよいから。

いかがでしょうか。お気づきかと思いますが、よく聞く「グローバル化の時代、英語を広めたい」(その理由の妥当性はおくとして)とか「出身国と日本の架け橋になりたい」、または「教員として児童・生徒の成長を促したい」などの理由はまったく見当たりません。

私は今までにかなりの数のALTとお会いしてきましたが、私の体験的理解と上の話はおおむね合致します。たとえばあるALTは酒を片手に「就職が全部ダメでね。半分やけになって日本に来たんだ」と述べ、あるALTは「プロのカメラマンになりたい。夢の一歩として日本でたくさん写真を撮りたいんだ」と目を輝かせて言っていました。このような実態を知るものとして、無資格ALTはいかがなものかと思わざるを得ないのです。

 

日本はネイティブ信仰に基づくパラダイス

 

同書の次の記述も要チェックです。

「日本国内には英語を話せるというだけで英会話やALTなどを英語を教える仕事に就くことが可能で、査証の取得も比較的容易です。」(p. 22)

国際結婚などの場合に、「日本人が海外に行って生活をするよりも、外国人が日本に来て生活をするほうが仕事面においては容易です。なぜなら、日本人が海外で就職するためには語学力の面などでクリアすべきハードルが高いですが、外国人が日本で働くためには、外国語を話せるというだけで武器になり、ALTをはじめとした語学教授の仕事に就けるからです。」(p. 23)

近年のアメリカ、イギリスの若年層の失業率は10%以上と高く、「自国で就職しようとしても仕事にありつけないという人が多くいます。そんな彼らでも、日本でならば英語圏出身ということで英会話講師やALTなどの仕事に就くことができます。」(p. 23)

おわかりいただけたでしょうか。まとめますと、「ネイティブのALTはプロの語学教師」ではありません。彼らの大半は、みなさんと同じ、いわゆるごく普通の「母語話者」です。つまり専門的な言語の体系的知識もなく、言語教育のテクニックのトレーニングもなく、そもそも言語教師をしたいというモチベーションもない。ただ自分の興味や生活のために、英語を武器に、という人が大多数です。はっきりいって“teacher”にはほど遠い存在です。一方、日本は「ネイティブ」にとっては「英語圏出身」や「ネイティブ」というだけで「英語教師」に簡単になれるパラダイスなのです。

 

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