これからの英語教育の話を続けよう|第3回 小学生と語る「なんで小学校で英語やるの?」|寺沢拓敬

 

太郎:あ、寺沢さん、こんにちは。

寺沢:あ、「僕の家の近所に住んでいて、一を聞いて十を知るタイプの小学4年生」、こと、太郎君だね。こんにちは。

太郎:ものすごく説明くさいセリフですね。

寺沢:キャラ設定で字数を費やす余裕が無いからね。それはそうと、太郎くんの小学校は、この春から英語をやるのかな?

太郎:はい、この4月から英語が始まるらしいです。

寺沢:学習指導要領上は2020年度からスタートするものを、移行期間として2年早く始めるってことだね。

太郎:はあ、そうなんですか。

寺沢:準備は万端かな?

太郎:それが、けっこう大変そうなんですよ。うちの小学校、それほど熱心にやってきたわけじゃなかったのに、急に英語に力を入れることになっちゃって。

寺沢:そうなんだ、先生、大変そうだね。

太郎:はい、まさにそうなんです! 今まで指導経験のなかった担任の先生にも急に英語を教える義務が発生して・・・。

寺沢:あー。

太郎:ただでさえ超過勤務の担任の先生に新たな教務負担を追わせるんじゃなくて、英語の専門の先生を新たに雇って、音楽みたいに専科として指導してもらえればスムースだと思ってるんですよね。

寺沢:君は驚くほど大人の事情に詳しいなあ。

太郎:いやいや、みんな心配してますよ。でも、なぜこんな奇妙なことになってるんですか?

寺沢:やっぱり奇妙って思う? まあ、無理もないよね。でも、小学校英語の歴史を理解すれば、少しは理解できると思うよ。同意できるかどうかはともかくとして。

太郎:歴史・・・ですか。

寺沢:ちょっと大袈裟だったかな。簡単にいえば、これまでの経緯だね。

太郎:おもしろそうですね。でも、ウェブマガジンで語るにはちょっとマニアック過ぎじゃないですか。

寺沢:だいじょうぶ!マニアックな内容でも「小学生と語る」形式にすると、わかりやすくなるらしいよ。

太郎:うわー、安易・・・。

寺沢:では、小学校英語のこれまでの経緯を見てみよう!

 

1990年代

 

寺沢:太郎君は、いつから公立小学校で英語が教え始められるようになったか知ってる? 今でこそ普通に小学校で英語が教えられているけど、ちょっと前はそうじゃなかったんだよね。

太郎:ああ、なんかそんなようなことをお母さんが言ってた気がします。

寺沢:戦後何十年もの間、「英語は中学校から始まるもの」というのが常識だった。小学校で英語を教えるなんて想像すらできない時代が続いていたわけだよ。

太郎:それが変わるのはいつごろなんですか。

寺沢:1990年前後だね。

太郎:大昔!

寺沢:僕ら大人からしたらつい最近だけどね・・・。いずれにせよ、政府は小学校に英語を入れようとまじめに考え出すのが1990年前後。結果、1992年には旧文部省指定の研究開発校で、小学校英語が実験的に開始されたんだ。

太郎:でも、90年代はまだ実験校段階なんですね。

寺沢:そう。まだ始まったばかりの段階だったからこそ、その可能性は未知数。

太郎:無限の可能性があるかもしれないでしょうが、未知の副作用があるかもしれないですしね。

寺沢:そうそう。そんなわけで、この時期、関係者の間で小学校英語の是非が大きな議論になったんだよ。早期から英語を始めることの有効性を訴える推進派。危険性を指摘する慎重派。

太郎:ディベートみたいですね。

寺沢:あとは、賛成論・反対論どちらかに与せず一歩引いた観点から様々な課題を指摘する研究者。いろんな人がいろんな思いを述べていた時代だね。

太郎:熱い時代ですね。

寺沢:そうだね。特に、賛成論が熱を帯びていたのがこの時期だと思うよ。当時、小学校英語はまったく制度化されてなかったから無理もないよね。実現のためには、早期開始の意義を声高に叫ばなくちゃいけなかったから。

太郎:たしかに。

寺沢:1995年には日本児童英語教育学会(JASTEC)が「小学校から外国語教育を!―JASTECアピール」を採択した。同学会は、異文化理解を目的とする外国語教育を小学校1年生から行うべしと宣言した。

太郎:1年生!

寺沢:今から見ると、かなり無謀──いや、野心的だよね。そんなわけで、賛成派は小学校英語の意義を訴えるため、いろんなメリットを提示した。このときの議論が、賛成論の基礎になったと言ってもいい。現在流通している推進根拠の多くがこの時期に出尽くしたと思うよ。

太郎:その論争に賛成派が勝利して、小学校に英語が入るようになったんですか?

寺沢:うーん。実はなかなかそうとも言い切れない事情があったんだよね。

太郎:そうなんですか。

寺沢:じゃあ、次に、2000年代の状況を見てみよう。

 

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