中高生のための本の読み方|第10回 怪談の作られ方、楽しみ方|大橋崇行

 

暑い日が続いています

最高気温35℃を越える猛暑日が続いている地域が多くありますが、いかがお過ごしでしょうか?

夏休みに入って、暑い中で部活動をする人も多いと思います。こまめな水分補給とほどよい塩分補給を忘れずに、特に暑い日はけっして無理をしないで頂きたいと思います。

さて、日本の暑い夏の風物詩といえば、かき氷にスイカ、花火、麦茶。

夏に欠かせないものは数多くありますが、怪談とお化け屋敷が思い浮かぶ人も多いと思います。

2011年にテレビ番組『所さんの目がテン!』で、中尾睦宏さん(現・国際医療福祉大学医学部心療内科学科(山王病院)教授)が、怪談で涼しさを感じるのは、緊張や恐怖感によって手足の血液循環が少なくなるためだという実験をされていました。けれども怪談には、涼しさを感じるという以外にもいろいろな楽しみ方がありますし、そのためにたくさんの人がそうした本に触れたり、怪談を聞きに行ったりしています。

怪談そのものや怪異・怪談に関する本は数多く出版されているので、書店や図書館に行けば、すぐにそうした本はみつかるでしょう。そこで今回は少し視点を変えて、怪異・怪談にまつわる本と、その楽しみ方の一つをご紹介していきたいと思います。

 

事典でも読書になる

怪異・怪談についての最近の本の中で出色のものが、朝里樹『日本現代怪異事典』(笠間書院、2018年)です。

この本は、戦後(1945年以降)、日本を舞台として語られた怪異や超常現象、呪い、占い、それらにまつわるさまざまなモノについて1000項目以上を集め、それらの怪異・怪談がどこに書かれていたのかを示しながら解説をした事典になっています。ふだんは公務員をされている著者が地道に怪談の収集を続け、もともと同人誌即売会で売られていたものを出版したそうです。

特にこの本では、これまではあまり注目されてこなかったインターネット上で広まっている現代の怪異まで含めて集め、解説しているのが特徴です。これだけ厚みのあるものはほかに例がないように思います。

読書案内のこの連載で事典なんて!? と思われる方もいらっしゃるかもしれません。けれどもこの事典は、気になった項目を読んでいるだけでもとても面白い本ですし、その記事に書かれた書名を巻末に入っている参考文献一覧からたどっていくと、それがもう十分に読書案内になるように思います。

怪異・怪談、怖い話に興味がある方は、ぜひ手に取ってみてください。

 

百物語のやり方

さて、少しお話を、現代から過去にさかのぼってみたいと思います。

日本では江戸時代以来、こうした怪談を夏に楽しむということが行われてきました。

たとえば江戸時代のはじめに書かれた浅井了意『伽婢子(おとぎぼうこ)』(1666(寛文6)年)巻13「怪を話バ怪至(くわいをかたればくわいいたる)」(目次では「百物語の事」)には、参加者が順番に怪談を語っていくと本物の「怪」が現れるという「百物語」のやり方が書かれています。

 

百物語には法式あり。月くらき夜。行灯に火を点じ。その行灯は青き紙にてはりたて百筋の灯心を点じ。ひとつの物語に灯心一筋づつ引とりぬれば。座中漸々暗くなり。青き紙の色うつろひて。何となく物すごくなり行也。それに話つづくれば。かならずあやしき事おそろしき事あらはるるとかや。

 

ここで挙げられているやり方は、以下の3点です。

 

・百物語は「月くらき夜」、すなわち新月の日に行う。

・青い紙を張った行灯(あんどん)を百基用意して火をともす

・一つの怪談が終わるごとに、一つずつ行灯のあかりを消していく。

 

これを繰り返していくことで、やがて怪異が起こるそうです。『伽婢子』では、実際にこの百物語を行った人たちが、話が「六七十」に及んだあたりで怪奇現象に巻き込まれ、うつぶせになって倒れていたとされます。

そして、この「怪を話バ怪至」は『伽婢子』最後の話なので、「此物語百条に満ずして。筆をここにとどむ」というオチがついています。『伽婢子』は全部で六十八話でできているため、ちょうどこの話が、このまま続けると怪奇現象が起こるかもしれないからそろそろやめないといけない! 頃になるという洒落になっているわけです。

この『伽婢子』は、もともと中国で唐の時代に書かれた瞿佑『剪灯新話』(実際に読まれたのはその注釈書で、朝鮮で書かれて日本で刊行されていた垂胡子(注解)・滄洲(訂正)『剪灯新話句解』)に収められているものなど、さまざまな怪異小説を日本向けにアレンジしたものでした。この「怪を話バ怪至」も、中国の唐の時代に柳宗元が編んだ『竜城録』に収められた「夜坐談鬼而怪至」という話を下敷きに作り直しています。

しかし、「百物語」という形式はもともとの話にはなく、日本で加えられた要素です。また、この「怪を話バ怪至」の物語では、百物語が旧暦の十二月(原文では「臘月」)に行われたとされています。しかし、怪談といえば夏ということで、夏に行われるイベントとして定着していくことになりました。

『伽婢子』を原文で読むのは大変ですが、高校である程度古文を学習していれば、比較的読みやすい文章なので、古文の学習になるかもしれません。文法を気にするよりも、まずは古文をそのまま読んで理解できるかどうか試してみましょう。

また、東洋文庫というシリーズで、現代語訳したものが刊行されています。少し古い本ですが、これなら図書館に所蔵されていることも多いので、一緒に探してみてください。

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