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オノマトペハンター おのはん!|第9回 今回のオノマトペ:「んっめんっめ?」|平田佐智子

少し暑くなってきたかな、と思った瞬間に梅雨入りしてしまった今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。ゴールデンウィークはすでに遠く、また夏休みまでもちょっと遠い、祝日も無い、というしんどい月ではありますが、上半期最後の月として有意義に過ごしていきたいものです。今月もオノマトペハントに勤しんでゆきましょう。

私は6月上旬に鹿児島で開催された人工知能学会で、オノマトペ関連の学会発表を行ってきました。オノマトペ自体は誰でも分かってもらえる、とてもウケのよい題材なので、初見の方も興味を持って頂きやすいのですが、「どういう言葉をオノマトペって呼ぶの?」というオノマトペの定義の話を始めると、途端にひどく難しい話になってしまうのです。今回はそんなお話をしたいと思います。

 

オノマトペのLINEスタンプ

皆さんは携帯電話の連絡ツールは何を使っていらっしゃいますか?私が大学生だった頃はまだEメールが主流でしたが、今の大学生はもっぱらLINEのようで、Eメールなんてほとんど使用しないようです。そしてLINEといえば、小さな画像を気軽にメッセージとして送れるLINEスタンプがあるのが特徴の一つです。さて、LINEスタンプにもオノマトペをモチーフとした物はあるのでしょうか。試しに、LINEスタンプのうち、企業が配信する物ではなく、個人が気軽に作れる「クリエイターズスタンプ」の中から「オノマトペ」で検索してみると、以下の通り、163件ありました。意外に多いですね。

ねこぺん日和(オノマトペ)

LINEスタンプを調べてみようと思ったきっかけは、私のお気に入りキャラクターである「ねこぺん日和」シリーズにもオノマトペバージョンができていたからです。

https://store.line.me/stickershop/product/11467/ja

 

オノマトペねこぺん、かわいいですね。オノマトペと、それを表す二匹のイラストが添えてあり、日常的にもとても使いやすそうなスタンプです。ただ、スタンプのラインナップを見てみると、気になるものがありました。それがこちらです。

「んっめんっめ」はオノマトペか

ねこぺんの二匹が「んっめんっめ」と言いながらお煎餅を食べています。これはおそらくそういう音が出ているのではなく、彼らが「うまいうまい(の訛った形)」と言いながら食べている様子を表現しているのだと考えられます。この推測が正しいのであれば、これは残念ながらオノマトペではないと言えます。オノマトペ警察を気取るつもりは全く無いのですが、どういう物をオノマトペと呼ぶのか、少し整理してみましょう。

 

オノマトペの特徴

オノマトペ、とひとくくりにして言っているけれど、オノマトペの定義はよくよく考えてみるととても難しく、いまだにこれだ!と決定的な物がありません。以前にオノマトペに関する質問紙調査をしたときも、「オノマトペ」の説明がうまく伝わらず、一部こちらの想定とは異なるものを回答された方が少なくありませんでした。オノマトペの特徴とされる事柄の中から、いくつかをご紹介します(これだけではありませんのであしからず)。

 

・オノマトペの特徴 その1

オノマトペの特徴の一つとして、「同じフレーズを繰り返す」頻度が高いことが挙げられます。「ふわふわ」「のっしのっし」などはこちらの条件を満たしていますね。これは、おそらく最もメジャーな特徴であると考えられます。というのも、この特徴に引っ張られてオノマトペ判定をされることが多いためです。先ほどの「んっめんっめ」も、元々普通の形容詞である「うまい」を繰り返すことでオノマトペのようになっています。また、「そもそも」など、たまたま繰り返しがあることでオノマトペっぽくなっている紛らわしい語が多数存在しますが、繰り返しだけではオノマトペとは言えないことが多いです。

 

・オノマトペの特徴 その2

「オノマトペに含まれる音声の特徴が、表したい事柄の特徴と一致することが多い」点です。これは、専門用語では類像性( iconicity・るいぞうせい)と呼ばれます。類像性は、視覚的特徴でも、聴覚的特徴でも適用することができます。類像性は、説明が難しい概念なのですが、例えばトイレのサインを思い浮かべてください。女性用トイレの前にある赤いスカートをはいたシルエットは、女性を表現しています。シルエットが表すサインそのものが、女性の見た目と視覚的に類似しています。つまり、トイレのサインは類像性が高い記号の例といえます。オノマトペも、太鼓の音を「ピコピコ」ではなく「ドンドン」と表現します。「ドンドン」という音が、太鼓の実際の音と類似しているので、類像性が高いといえるのです。「んっめんっめ」は、おいしい状態の特徴と一致するかというと、やや厳しいかと思われます。

ただ、この特徴をクリアする非オノマトペとして、「山々」が挙げられます。「山々」は、二つ「山」を続けることで、山が連なっている状況を類像的に表現している、という解釈ができるのです。そのため、この特徴のみを持つだけでは、オノマトペと呼ぶには不適切なのです。

 

・オノマトペの特徴 その3

「拡張性が高い」すなわち、一部を改変して使用することが比較的容易である、という点が挙げられます。例えば、「サクサク」→「サックサク」と「っ」を挿入することで、意味はほとんど同じまま、意味を強めることができます。普通の形容詞であれば「かたい」→「かったい」というように、意味を強めることができません…と書いておきながら、形容詞の場合は口語(話しことば)ならできそうですね。書き言葉では残念ながら難しそうです。「んっめんっめ」も、元の言葉はおそらく「うまいうまい」ですので、この強調の「っ」が入った状態だと考えられます。

 

・オノマトペの特徴 その4

「新しいオノマトペが自由に作れる」点です。その場で自由に作成されたオノマトペは、創作オノマトペとも呼ばれ、文学作品や漫画などで見かけることができます。たまに漫画でこれまでなかったような斬新なオノマトペが出てくることがありますね。普通の語を新しく作っても、周りの人から「?」と思われるだけで、多くの人が使うようにならない限り浸透しないのですが、オノマトペに関してはその場で即興的に作って使用しても、なんとなく了解してもらえることがあります。珍しい食感のものを食べて、「これって…もよもよしてるね」と新しいオノマトペを使ってみても、おそらく「そうだね」と返してもらえるだろうと思います。「んっめんっめ」も、お煎餅を食べる様子を表す創作オノマトペだと作者の方に言われてしまうと、なるほどそうですか、と言わざるを得ないのですが、先ほど挙げた類像性の部分がやや弱いので、「うまい」から来ているのではないか、という仮説の方を採用したくなります。

 

以上、4つほどオノマトペの特徴を紹介してみました。オノマトペ、という単語自体も日本語では「擬音語・擬態語・擬情語など」を全て指すことができますが、英語のonomatopoeiaは日本語の定義とは異なる、など、一歩踏み入れるとなかなか出られないのがオノマトペ研究沼です(私もはまってから10年くらい経過しています)。考えれば考えるほどに奥深さがわかるオノマトペ、皆さんも是非オノマトペ沼に「ずぶずぶ」とはまってみてはいかがでしょうか。

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