第68回 共生のための日本語教育から規制のための日本語教育への変貌が始まる|田尻英三

★この記事は、2026年3月2日までの情報を基に書いています。

2月9日衆議院選挙の結果が確定し、自由民主党316議席・日本維新の会36議席の圧倒的多数の与党が誕生しました。この二つの政党は、共に外国人受け入れに規制を設ける方向で一致しています。臨時国会が始まる前に、既に外国人施策の変更が進んでいます。この流れに合わせるように、日本語教育も外国人との共生を目指した相互理解の役割から、外国人受け入れを規制する選別の道具としての役割へと変わろうとしています。日本社会における日本語教育の性質が、今まさに変わろうとしています。今回は、その流れの問題点を説明します。外国人施策に関わる全ての人は、この点に注目すべきと考えます。

2月28日に、米国とイスラエルがイランに軍事攻撃を始めました。イランも報復攻撃を始めたと報じられています。世界経済に大きな影響を与えることが予想されます。日本語教育関係者は、イランから労働者や留学生が来ていないから関係ないと思わないでください。

1.「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」(以下、「総合的対応策」)の目指す方向

(1)「総合的対応策」が作成されるまでの状況

第67回で述べましたが、「総合的対応策」が作成される前には、「外国人との秩序ある共生社会の実現のための有識者会議」の「意見書」が作成され、続いて、「自由民主党外国人政策本部提言」が公開されました。

今回の解散は抜き打ちに行われたようにマスコミなどでは扱われていますが、選挙公約などの準備を見る限り、自由民主党では解散の準備はできていました。選挙中での他の政党のサイトを見ても、きちんとした選挙公約が示されたのはわずかな政党だけでした。

上に述べた流れに反応したのは、日本語教育機関団体連絡協議会(以下、「6団体」)だけでした。「6団体」の関係者によると、自由民主党の公約を見て外国人留学生のアルバイトに関するアンケートを取ったということでした。もしそれが本当なら、「6団体」すらも「総合的対応策」の重要性に気付いていないということになります。他の機関・団体は全く反応していない(例えば、日本語教育学会のサイトでは「NEWS」に出していない)ことを考えると、日本語教育関係者の情報取得能力の低さが分かります。この「6団体」のアンケート結果は、同団体のサイトにも出ていないので、ここでは扱えません。

改めて、これまでの関係会議を整理しておきます。

2021年 外国人との共生社会の実現のための有識者会議開催 出入国在留管理庁所管
2022年 上記会議が「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」作成
この「ロードマップ」は2026年度までが対象期間

2025年
6月2日 第10回日本語教育推進関係者会議で「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」を検討(「日本語教育推進法」により5年毎に改訂を予定している) 文部科学省・外務省所管

6月6日 「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」で「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を決定 出入国在留管理庁所管

9月5日 上記の「基本的な方針」を閣議決定

11月4日 第1回の「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」開催

11月14日 「外国人との秩序ある共生社会実現のための有識者会議」が「意見書」をまとめる

2026年
1月21日 「自由民主党外国人政策本部提言」が公開される

1月23日 第2回の上記関係閣僚会議で「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を決定

「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」は全62ページで、「日本語」が掲出されるのは279か所でした。自由民主党の提言は全63ページで、「日本語」が掲出されるのは186か所です。「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」は全103ページで、「日本語」が掲出されるのは446か所に増加しています。これらのサイトのURLは第67回で扱っていますので、ここでは再掲しません。

高市政権では、文部科学省・外務省共管の「日本語教育推進会議」が扱う「基本的な方針」より、小野田大臣担当の内閣官房の外国人との秩序ある共生社会推進室が扱う「総合的対応策」のほうが優先的扱われると田尻は考えています。

(2)「総合的対応策」の説明(以下引用は同資料による)

これは既に決定されたものなので、政府はこれに基づいて施策を作成します。この資料の重要性に気付いてください。

〇「秩序」の意味

「日本で生活・滞在する外国人には、まずは入国前に、日本語や我が国の社会規範や制度を学び、入国後も、これを継続しつつ、我が国社会及び居住する地域コミュニティの一員として、責任ある行動をとることが求められる」、「我が国の法やルールを逸脱する行為に対しては、国籍にかかわらず公正かつ厳正に対処する」、「出入国在留管理庁が他の行政機関から保険料・税の納付状況等の情報を取得する。地方公共団体等その他の関係機関が出入国在留管理庁等から在留資格情報等を取得する」、「秩序は社会の土台、多様性は社会の力であり、その両者を両立させることが、真の秩序ある共生社会の道であると考えられる」、「今般の新たな総合的対応策においては、『秩序』という視点の重要性を打ち出している」、「我が国に在留する外国人(帯同家族を含む。)が、日本語をはじめ、日本の風土・文化を理解するよう努めていくこと、そして、日本のルールや制度を理解し、責任ある行動をとることが必要とされる」等々、「秩序」という語は明らかに外国人が日本社会に合わせて生活することを意味しています。ただ、その場合の「日本社会のルール」がどのようなものなのかは、示されていません。日本人でも、転勤等で移り住んだ地域のルールにとまどうことはよくあり、日本社会のルールという確定したものは現時点でははっきりしていないと田尻は考えます。
法務省では、2024年3月に「日本での生活を考えている外国人や日本に住んでいる外国人がより円滑に日本で生活できるよう、日本の制度やルール、日本語学習に係る情報等を紹介する生活オリエンテーション動画を17言語で作成・公表した」としています。

https://www.moj.go.jp/isa/support/coexistence/04_00078.html

そこでは、ゴミ出し・騒音・トイレの使い方・近所の人との付き合い方など、また文化庁の「つなひろ」の紹介などが挙げられています。日本語教育関係者は、ぜひ一度見てください。この動画についての田尻のコメントを今は控えます。

〇特定技能制度と育成就労制度

「今後の課題」として、育成就労制度の運用では「原則として認定日本語教育機関の『就労のための課程』において実施される育成就労外国人に対する日本語講習の適正な実施を図るための取組を進めるとともに、受入れ企業が日本語能力の向上を図るようにインセンティブ方策等を検討する。加えて、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)を着実に実施するとともに、日本語教材の開発、現地日本語教師の育成のための日本語専門家等の各国への派遣、日本語教材購入助成等の支援の実施等、来日前における日本語学習支援の実施等の取組を進める」となっています。

従来、日本語基礎テストは特定技能1号のA1レベルを測る試験でしたが、2026年8月からは育成就労制度で必要なA1レベルやA2.1(転籍の要件)も判定できるようになったという説明が日本語基礎テストのサイトに出てきました。説明によると、同一の試験で取った点数によってレベル判定をするようになっていますが、田尻はこの説明は理解できません。レベルが違えば、そのレベルに合わせた試験問題を新たに作るべきです。実際に育成就労制度では当初新しい試験を作るようになっていました。

〇在留資格「経営・管理」

改正された許可基準は、すでに2025年10月16日に施行されています。申請者が営む会社等においては、1人以上の常勤職員を雇用する必要があります。その場合、常勤職員は、日本人・特別永住者・永住者・日本人の配偶者等・定住者に限ります。申請者または常勤職員は「日本語教育の参照枠」B2相当以上の能力を持ち、日本人と特別永住者以外の方は、日本語能力試験N2以上またはBJTビジネス日本語テスト400点以上が必要です。資本金は、従来の500万円3,000万円必要となりました。

ここでは、在留資格の要件に日本語能力が加わることになりました。

〇在留資格「技術・人文知識・国際業務」

2月24日の産経新聞によると、この在留資格の外国人を派遣する際、派遣先に専門的な業務に就くことを確約する誓約書の提出を求めることになったという記事が出ています。最近、この在留資格取得者が専門外の業務に就くことが増えていると言われていることへの対応と見られます。

〇在留資格「留学」

「資格外活動許可及びその管理の在り方(日本語教育機関による在籍者の資格外活動の適切な把握及び指導の在り方を含む。)について検討する」となっていて、日本語教育機関では留学生の資格外活動の制限について神経質になっています。

〇在留資格「永住者」

2024年の入管法改正により、「永住許可の要件の明確化」と「永住者の在留資格に関する取消事由の追加」が2027年4月から施行されることになりました。
「今後の課題」の中に、永住許可基準について「日本語や我が国の制度・ルール等を学習するプログラムを受講することを要件とすることを含めて検討する」とあります。
永住許可の要件に日本語が入る可能性があります。

※この「総合的対応策」に書かれていませんが、2月22日の朝日新聞の記事によると、出入国在留管理庁は入国の可否を事前審査する「電子渡航認証制度(JESTA)」導入や、在留審査手数料の大幅値上げを計画しているようです。

「日本語教育の充実」の項には、以下のようなものが挙がっています。

〇来日前の日本語教育

「来日後に遭遇する生活場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力の測定(田尻注:どのような測定をするかは書かれていない)、日本で生活や仕事をする際に必要な日本語を身につけるための教材等の開発、来日前に日本語能力を向上させるための海外における日本語教育基盤の充実等が必要」、「JFT-Basicは令和8年8月を目途に、育成就労制度に対応する 外務省所管」(田尻注:ここで上に述べた日本語基礎テストの育成就労制度のための利用がすでに書き込まれています

〇労働者に対する日本語教育

「令和9年度から開始する育成就労制度では外国人労働者に対する認定日本語教育機関による日本語講習が制度化される」、「総研修時間100時間 厚生労働省所管」、「『日本語教育の参照枠』によって、各試験団体が実施する日本語試験について共通の指標による評価が可能になったことを踏まえ、必要に応じて、分野所管省庁において、新たな日本語試験の活用(田尻注:どのような試験を想定しているのか不明)を検討する 法務省・外務省・厚生労働省・国土交通省・農林水産省・文部科学省所管」、「監理支援機関や育成就労実施者による日本語講習が円滑に行われ、育成就労外国人が効果的に日本語を習得できるようモデルカリキュラムの開発・普及促進を実施する厚生労働省・法務省所管」、「育成就労制度の施行後に、監理支援機関や育成就労実施者において認定日本語教育機関や登録日本語教員による日本語講習が円滑に行われるよう運用する 厚生労働省・法務省所管」

〇生活者に対する日本語教育

【国の直接実施】では、「就労分野における外国人の目的や受入れ先のニーズ等を踏まえた出口志向の教育高度化に向けて、日本語教育機関と企業等が連携した教育カリキュラムの編成・改善等に関する支援を実施し、教育カリキュラムの質向上に向けたプロセス・具体的方策・教育モデルを取りまとめ、広く日本語教育機関等に普及・展開する 文部科学省所管」(田尻注:なぜか「生活者」の項で「就労分野」が取り上げられている)

【地方公共団体】では、「都道府県及び指定都市が行う、総合調整会議の設置や総括コーディネーターの配置、日本語教育の実施数や受入れ人数の増加等の日本語学習機会の拡充、域内の日本語学習支援者等の人材育成支援、『日本語教育の参照枠』の活用促進等、地域日本語教育の総合的な体制づくりへの財政支援を拡充する 文部科学省所管」、「各地域で実施する地域の日本語教育の質を確保する観点から、地方公共団体などの参考となる地域日本語教育に関するガイドラインの作成について検討する 文部科学省所管」

※茨城県の2026年度予算の中に「外国人材適正雇用促進事業」(3700万円)というものがありますが、その中に「不法就労情報提供員制度の創設」と「不法就労情報提供システムの導入」があります。以下のURLの資料の21ページを見てください。

https://www.pref.ibaraki.jp/gikai/outline/r8/r08_tousyo_yosankankeisiryou.pdf

これは、茨城県が不法就労者全国1位であるので「不法就労者ゼロ」を目指したために、地域に住んでいる不法就労者の情報を茨城県に知らせた場合は報奨金がもらえるという制度です。運用は4月からですが、この制度は地域に住んでいる外国人を委縮させ、日本人との間に溝を作る可能性があります。田尻は、この制度に反対です。

茨城県は、一方では「外国人児童生徒日本語教育支援事業」(574百万円)と「高等学校外国人生徒支援事業」(144百万円)も計画しています。

〇子供(田尻注:外国人児童生徒等の意味)に対する日本語教育

【国の直接実施】では、「公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律の改正法の規定に基づき、令和8年度には日本語指導が必要な児童生徒18人に対して1人の教員が基礎定数として措置されるよう、教員定数の改善を着実に実施している 文部科学省所管」、「今後の課題」としては、「プレスクールや学校におけるプレクラス(初期指導)の地域の実情に応じた全国展開や、登録日本語教員の配置、多文化多言語の子供に応じた学習・指導計画を立てる生成AIの活用促進 文部科学省所管」

〇日本語教師の養成・研修及び社会的地位の向上

「速やかに実施する施策」としては、「今後大幅な増加が必要とされる、登録日本語教員など専門性を有する日本語教育人材の確保を図るため、日本語教師の養成を行う大学等を中心としたネットワークの構築により日本語教師養成・研修の地域的な拠点を整備するとともに、登録日本語教員の学校現場での活用などを見据えた教員免許と登録日本語教員の資格の両方の取得を目指す課程等、特色ある養成課程の展開を図る 文部科学省所管」

〇外国人留学生に対する支援に係る運用の適正化

「速やかに実施する施策」では、「留学生の在籍管理状況の迅速・的確な把握と指導の強化を実施し、指導の結果、在籍管理の適正を欠く大学等を指定・公表する 法務省・文部科学省所管」
実際に文部科学省は、2026年2月19日に「外国人留学生の在籍管理の適正を欠く『改善指導対象校』指定について」を公表しています。そこで「改善指導校」となったのは、東京福祉大学と名古屋経営短期大学です。その場合「帰責性」が問われていますが、日本語能力では「入学者選抜において」日本語など必要な能力(日本語で授業を行う場合、日本語能力試験N2レベル相当以上が目安)の確認が不十分で、入学後の日本語などのサポートも不十分な場合」という例が挙がっています。

〇公営住宅・UR賃貸住宅等への外国人の入居

「今後の課題」として、「日本語による円滑なやり取りが可能な緊急連絡先等の登録を求めることを検討 国土交通省所管」が挙がっています。

〇「青壮年期」初期(田尻注:ここで書かれている年齢の分け方には問題がある)を中心とした外国人に対する支援等
ここで夜間中学が扱われていますが、夜間中学での日本語教育には言及がありません。

※夜間中学については、基礎教育保障学会が「夜間中学の条件改善に向けた要請書」を文部科学大臣と夜間中学等義務教育拡充議員連盟宛に出しています。https://jasbel.org/statement

  • 三つの自治体の夜間中学で「在留資格のある外国籍の人」となっているのは好ましくない(田尻注:児童生徒等は国籍によらず教育を受ける権利があるという考え方)。
  • 日本語を母語としない生徒に対して基礎日本語(「日本語教育の参照枠」B1レベル程度)の保障。
  • 中学校で教科を学ぶための学習言語の保障。
  • 日本語を母語としない生徒の多様な背景と入学目的への対応。
  • 日本語教育の専門家の登用(田尻注:日本語教育の専門家の資格は書かれていない)。
  • 日本語を母語としない生徒を受け入れている教職員研修の充実。
  • 夜間中学らしさを失わない日本語教育の在り方の検討。
    「夜間中学らしさ」とは、「人権や社会的公正、多様性や主体性の尊重、生徒と教員の学び合い、生徒一人ひとりの実情(生活環境、母語や日本語の力、言語・文化背景等)に配慮した教育、識字教育の理念等)」を指す。

※当初、「総合的対応策」ではもっと厳しい外国人規制の施策が盛り込まれるのではないかと考えられましたが、全体としては以前から指摘されていた点についての修正となっています。ただ、上に指摘したように、既に日本語能力により取得する在留資格が異なってくる施策が実施されています。これまで日本語教育は日本人と外国人との相互理解のために意味があると考えられてきましたが、一部では外国人の受け入れ時や在留時の資格の差別化に使われるようになっています。外国人の日本語を学習する意味付けが違ってきています。もちろん、外国人留学生が日本の高等教育機関に入学する際には、日本語能力の基準が示されていましたが、それは高等教育機関での修学に必要な能力の保証のためです。在留資格更新時に日本語能力のチェックを受けるということは、在留外国人に一定程度の日本語能力を要求することですから、「共生」という語の持つ意味が変わってくると、田尻は考えます。

田尻がもう一つ気にしている点があります。日本語教師は、むしろこの動きを喜ぶ人もいるのではないかと考えている点です。現実の日本での言語生活にそれほど役に立つとは思われないような細かな日本語の違いを、日本語教師は好んで教えているように見えます。つまり、日本語教師は共生のための日本語教育が規制のための日本語教育に変わっても、問題はないと考えるのではないかという点です。全ての日本語教育関係者は、この違いに気付くべきです。

念のために言いますが、政府の施策が全て外国人への規制に動いているのではありません。文部科学省は、在留外国人との共生のための施策に予算を組んでいます。今のところ、外国人の受け入れ規制に動いているのは、法務省・出入国在留管理庁です。3月2日の衆議院予算委員会では、日本維新の会が外国人受け入れの総数を決めるように政府に要望していました。

2.「外国人雇用実態調査」について

2026年2月19日に、厚生労働省の「外国人雇用対策の在り方に関する検討会」で公表されました。担当は、職業安定局外国人雇用対策課です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/projectteam_20210222_02_00022.html

この検討会では、他に文部科学省の「日本語教育を取り巻く状況等について」や、「今後の外国人雇用対策について」の併せて公表されています。

以下、要点だけを示しておきます。

  • 外国人労働者数
    産業別・・・製造業 30.7%、サービス業 17.6%、卸売・小売業 10.6%
    在留資格別・・・専門的・技術的分野 38.9%、身分に基づくもの 27.6%、技能実習 20.2%
    国籍・・・ベトナム 32.4%。中国 14.7%、フィリピン 10.5%
  • 外国人労働者の{きまって支給される給与額}は、平均27.5万円
  • 雇用に関する課題・・・日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい 43.9%、在留資格申請の事務手続き面倒 24.7%、在留期間の上限 21.5%、生活上のトラブル 20.9%

3.2025年における外国人入国者数(速報値)

2026年1月30日に、出入国在留管理庁から公表されました。

外国人入国者数は約4,243万人で、前年に比べ約565万人増加し、過去最高でした。

詳しくは、下記の資料を見てください。

https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00060.html

4.外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議

2026年1月16日に、第10回「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」が開かれ

ました。

そこでは、大阪府立大阪わかば高校より「大阪府立高欧における外国につながりのある生徒支援の取組み」が発表されました。「枠」入試など、参考になる先進的な取り組みが紹介されています。事務局からは、「現状・課題」として以下の報告がありました。

  • 初めて受け入れる学校や日本語指導の経験が乏しい教員が指導に当たる状況が増加している。
  • 「特別の教育課程」のための指導体制の整備が追い付かない。
  • 特別な配慮に基づく指導を受けていない者が約1割いる。
  • 外国人幼児のためのプレスクールや来日直後の外国人の子供を対象とした初期集中指導・支援等の取組については、一部の自治体において実施されている。

「さらなる対応策の検討の必要性」は、以下の二つを掲げている。

  • 学校生活への円滑な適応支援の充実。
  • 来日直後の初期段階においては、外部人材や関係機関等と積極的に連携した初期集中指導・支援等の学びの場の充実が必要ではないか。

2026年2月20日に、第11回の同有識者会議が開かれました。そこでは、「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議報告書骨子案」が検討されました。この骨子案については、確定後に扱います。

5.日本経済団体連合会の「提言」について

第67回で、この「提言」について次回に詳しく扱うとしましたが、上述の「総合的対応策」のコメントと重複する部分がかなりあるので、ここでは扱いません。

6.その他の大事な情報

〇現職日本語教員研修プログラム開発・実施事業(旧:現職日本語教師研修プログラム普及事業

2026年2月20日に、以下の事業の公募要領が公表されました。

https://www.mext.go.jp/a_menu/nihongo_kyoiku/mext_03055.html

「日本語教育人材の資質・能力の向上を図るとともに、研修プログラムの普及を目的」とした事業です。この事業の対象は、初任・中堅日本語教師・日本語教育コーディネーターの他に、「生活指導者向けの研修プログラム」も入っています。

公募期間は、2月20日から3月16日までです。日本語教育機関による教師研修プログラムの開発事業への助成です。積極的な応募が期待されています。

〇「育成就労制度 運用要領」

2月20日に、出入国在留管理庁と厚生労働省編で公開されています。

https://www.moj.go.jp/isa/content/001457363.pdf

全452ページで、「日本語」が170か所掲載されています。

7.気になる著作

〇『オートポイエティックな言語学習による変容 学びが楽しくなる日本語教育をめざして』(2025年、新井克之著、ひつじ書房)

田尻が注目したのは、青年海外協力隊隊員による日本語教育の研究書という点です。田尻は、かねがね協力隊の経験者に対する日本社会での処遇について気にしていました。彼らをもっと日本社会で利用すべきではないかと思っていました。その点で、以下にあるようなグアテマラでの環境で、どのような日本語教育が行われうるのか興味を持ちました。

  • 習っても日本語を使う機会が少なく、“実益”に結びつきにくい。
  • 学習環境が十分ではなく、高い学習意欲を長く維持することが難しい。
  • たとえ、能力と資格があっても日本語教師が職業として成立しにくい。

これは、日本語教師にとってかなり厳しい環境です。その環境での日本語教育を「オートポイエティックな言語学習」や「PAC分析」を使って検討している本です。新井さんには申し訳ありませんが、田尻はこの方法論についてコメントする能力がありませんのでコメントできません。ただ、青年海外協力隊の経験がこのような研究書を生んだことを評価しているのです。個人的には、新井さんの生(なま)の悪戦苦闘の日々を書いた章があってもよかったのではないかと思っています。この著作には、CEFRとJFスタンダードのCan-doの問題点を扱った章があります。この章は、次の著作につながっています。

〇『あらためて「日本語教育の参照枠」を読みなおす』(2026年、名嶋義直編、新井克之・神吉宇一・名嶋義直著、ひつじ書房)

今回も既定の分量を過ぎていますので、気になった点だけを述べます。なぜ「日本語教育の参照枠」を批判するのに、「報告」だけを扱ったのでしょうか。当時の文化庁国語分科会日本語教育小委員会では、他に「『日本語教育の参照枠』の活用のための手引き」と「日本語教育の参照枠」補遺版の検討に関するワーキンググループ」による「『日本語教育の参照枠』見直しのために検討すべき課題についてーヨーロッパ言語共通参照枠補遺版を踏まえてー」もありますので、これらを併せて検討すべきと考えました。

また、「日本語教育の参照枠」そのものの方法的な問題点と、制度として使われている場合の問題点は区別すべきと考えています。

※高市政権による「総合的対応策」に基づく日本語教育施策は、従来の日本語教育施策とは大きくその性質を変えていると田尻は考えています。繰り返し言いますが、政府の施策が全て外国人の規制に動いているのではありません。政府の施策は何でも批判するという姿勢は、評価できません。批判するなら、対案を出すべきです。日本語教師は日本語教員試験の合格だけを、日本語教員機関は認定されることだけを、大学の日本語教師養成講座担当者は講座を維持することだけを考えていると、この大きな変化に気付きません。

今、日本語教育は、その存在の意味が問われています。

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