第12回 「日本語教育の推進に関する法律」成立後の動き|田尻英三

★この記事は、2019年11月27日までの情報を基に書いています。

前回からかなり時間が経ちましたが、予定していた大事な会議がようやく開かれましたので、それをふまえて原稿を書くことにしました。

前回のウェブマガジンでは具体的に執筆者のお名前を出して、論文作成上の問題点を指摘しました。しかし、ひつじ書房宛には、何の反応もありませんでした。間もなく発売される「社会言語学」刊行会の『社会言語学』ⅩⅨ号にはましこ・ひでのりさんの『日本語教育はどこへ向かうのか』の書評が出ていて、さらに、ましこさんの書評に対する有田さん・庵さん・牲川さんのレプライが出ています。ましこさんは、その書評の中でわざわざこのウェブマガジンの記事にも言及していただいています。しかし、日本語教育関係者以外の方が書いた『社会言語学』には反応しても、田尻の指摘には反応しないという日本語教育関係者の方々の対応が続いています。
なお、『社会言語学』ⅩⅨ号には、ひつじ書房刊行の『外国人労働者受け入れと日本語教育』以降、推進法成立までの詳しい情報を載せていますので、ぜひともご参照ください。

「日本語教育の推進に関する法律」(以下「推進法」と略称)に関しては、公開されているものでは4つの関係の集会がありました。

一つ目は、7月27日名古屋で開かれた櫻文化サロン主催の「これまでの日本語教育とこれからの日本語教育」です。これには、私の講演と、日本語教育推進議連の事務局次長である里見隆治参議院議員・櫻文化サロン店主の丸山茂樹さんと私の鼎談がありました。悪天候の中、92人の方が参加してくれました。私の講演は、「推進法」成立までの過程と、「推進法」の大事なポイントの説明でした。鼎談の後の質疑応答では、活発な意見交換がありました。多くの方がこの法律に関心を持っていることを感じました。

二つ目は、10月19日京都で開かれた日本語教育学会主催の「日本語教育推進法を知ろう!~あなたならどうする?~」です。これは龍谷大学で開かれましたので、私も参加しました。第1部は、日本語教育プラットフォーム代表世話人の石原進さんを講師とした「日本語教育推進法を知ろう~いろはのい~」でしたが、最初に石原さんが「私は日本語教育のことは知らない。私は防衛問題が専門で、先日も防衛省の会議で意見を述べてきた」と発言しました。私は、石原さんが「にほんごぷらっと」というメルマガで日本語教育の情報を発信していることを知っているので、この発言には驚きました。日本語教育学会は、どうして日本語教育に詳しくない方を講師に選んだのでしょうか。第2部は、日本語教育推進議連会長代行の中川正春衆議院議員の講演でした。第3部の「質疑」では、私が石原さんに質問した時に進行係の方が「そんな深い質問はしないでください。ここでは一般的なことを扱います。そんなことは二人でやってください。」という旨の発言をしたのも驚きました。深い質問をしてはいけないこの会はいったい何の集会なのだろうかと思いました。

三つ目は、東京で日本語教育機関の方々が開催した「日本語教育推進法に期待する関係者の集い」です。この集会の動画は、「日本語教育いどばた」のサイト(http://www.idobata.online/?p=1949)で公開されています。登壇者は、中川正春衆議院議員・馳浩衆議院議員・里見隆治参議院議員・石橋通宏参議院議員でした。参加費は、シンポジウム・交流会を含めて1万円でした。この集会の内容は、公開されている動画でご覧ください。興味深い発言もありましたので、どうぞご覧になってください。

四つ目は、二つ目とほぼ同じ内容で、武蔵野大学有明キャンパスで開かれました。こちらの第1部の講師は、神吉宇一さんでした。私はこちらの集会には参加していませんので、ご紹介はできません。当日会場へ行かない限りは、資料などは入手できないことになっています。
なお、これに先立って「推進法」が成立した6月21日に、日本語教育学会は文部科学省記者クラブで記者会見を開いています。この記者会見の報告は、7月17日に日本語教育学会のホームページに出ました。私個人は、この「報告」にある質問について、会見をした神吉宇一さんと衣川隆生さんがどのような答えをしたのかに興味がありますが、それは書かれていません。当日プレスリリースで配られた資料にある「今回の法律は理念法です。」というのは、里見議員に確かめましたが、「基本法」と言うのが正しいということです。

最近出版された書籍で、参考とすべきものを列挙してコメントします。いずれも、2019年8月から11月に刊行されたものです。

・『日本語』(アルク)
以前アルクから出版されていた『月刊日本語』が、アルク創立50周年の記念として1号限りで復刊しました。全編日本語教育施策に関する文章で埋められました。私の「田尻英三のオピニオン」も見開き2ページで掲載されています。最新の情報が入っていますので、ぜひ参照してみてください。店頭にない場合は、アマゾンなどで申し込めば購入できるということです。

・宮島喬・鈴木江里子『新版 外国人労働者受け入れを問う』(岩波ブックレットNo.1010)
2014年の初版に最新の情報を反映させているもので、日本語教育関係者全員が1冊持っておくべき本だと思います。『日本語教育はどこへ向かうのか』で見られたような間違いを無くすためにも大事な本です。現在の外国人労働者問題を簡便にまとめています。

・NHK取材班『データでよみとく外国人“依存”ニッポン』(光文社新書)
現在の日本各地における外国人労働者の状況と、関連する諸外国の状況を具体的にわかりやすく書いています。ただ、この本は現在の状況の説明に多くの部分を割いていますので、問題点の指摘や解決の方向性にはあまり触れていません。

・『ことばと社会』編集委員会・編『ことばと社会』21号「オリンピックと言語」(三元社)
巻頭の田尻の「推進法」成立に関わる短文の「巻頭コラム」がありますが、それ以外にオリンピックと多言語対応の問題など、有益な論文が多く扱われています。また、「小特集 多言語状況研究の20年を振り返る」は、社会言語学に関心のある方には必読の内容です。

・是川夕『移民受け入れと社会的統合のリアリティ』(勁草書房)
本書は、「日本における個々の移民の移住過程において緩やかな社会的統合が見られる」(247ページ)ことを検証しようとしたもので、国勢調査の個票データを用いて、従来の臨床的なアプローチでの研究の問題点を超えようとしている研究書です。ただ、本書は、いわゆる「専門書」ですので、専門外の人には必ずしも読みやすいものではありません。特に、統計処理については、レベルの高い記述となっています。

第1回「日本語教育推進関係者会議」(以下「関係者会議」と略称)開催

本稿の最初に触れた大事な会議とは、この会議のことです。関係省庁の会議である「日本語教育推進会議」は、すでに9月13日に開かれていますが、その後「関係者会議」は、なかなか開かれませんでした。この会議は、「推進法」第27条2項に書かれているもので、唯一日本語教育関係者が日本語教育施策創設に関われる会議です。ただし、その立場は、あくまでも「前項の調整(田尻注:日本語教育推進会議での関係行政機関相互の調整)を行うに際しては、その意見を聴くものとする」という立場に過ぎません。それでも、今まで日本語育関係者が関われないままでの日本語教育施策創設という状況に比べれば、大きな前進と言えます。
せっかくこのような会議が創設されたにも拘らず、心配は、委員が積極的に意見を言わないような状況が起こることです。第1回もヒアリングに時間がかかり、私を含めて4人の委員しか発言できませんでした。当日欠席者も多かったので、後日メールでの意見聴取となりました。
この第1回の会議の資料は、日本語教育学会のホームページには11月26日、文化庁のホームページには27日に掲載されました。ただ、まだ議事録なども公開されていないことや、今後「基本方針素案」のとりまとめまでは2回の会議が開かれることから、現時点での会議の内容には触れることができません。ただ、大事な着眼点は指摘しておきます。再度繰り返しますが、この「関係者会議」は、基本法として示された「推進法」を基にして個別法を作るための日本語教育推進会議に意見具申ができる会議です。そこでは、当日配布された資料7の「日本語教育の推進に関する国の基本方針」(骨子素案)が、もっとも大事な資料です。ここに書かれている内容について、関係者は将来の方向性を示すことや、具体的な取り組みの提案をしなければなりません。残念ながら、日本語教育学会のホームページに載っている「報告」では、日本語教育学会の発表内容が主として扱われていて、骨子素案には触れていません。この骨子素案は、会議の出席者には前もって送られてきているものなので、会議の当日は骨子素案に対する意見を言わなければいけませんでした。もし、会議の後での日本語教育学会としてメールでの意見聴取に応じているのならば、その意見を公開してほしいと思います。田尻の意見は、議事録などに反映するものだと思っています。日本語教育関係者は、全員、この会議の今後の動きに注意してほしいと考えます。まさに、将来の日本語教育の在り方が決まる会議なのです。

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