古代エジプト語のヒエログリフ入門:ロゼッタストーン読解|第8回 ヒエログリフの表音文字:三子音文字|宮川創・吉野宏志・永井正勝|

今回は、いよいよ、表音文字編の最後である三子音文字を学びます。前回に学習した二子音文字は2つの子音を表す文字でした。それに対して、三子音文字は3つの子音を表す文字となります。

8.1 覚える文字

今回は次の三子音文字3つを新しく学びます。これらは頻繁に出てくる文字なので全て覚えておきましょう。


種類 三子音文字

転写 ꜥnḫ

慣読 an(e)kh (規則通りにはアネクだが、慣例上アンクと読まれる)

 

種類 三子音文字

転写 ḥtp

慣読 hetep(ヘテプ)

 

種類 三子音文字

転写 mꜣꜥ

慣読 maa (マーア)

また、この後の実例に必要なため次の二子音文字についても紹介します。この文字もよく見かけるので覚えておきましょう。

種類 二子音文字

転写 m

慣読 ma (マー)

 

8.2 実例で確認しよう!

今回は、王名2つと神名1つを使って三子音文字について説明します。まずは、おそらく最も有名なファラオのひとりであろう、少年王ツタンカーメン¹の名前²からです。

8.2.1 ツタンカーメン

 

転写 twt-ꜥnḫ-jmn

翻字 j-mn:n-t-w-t-ꜥnḫ

慣読 tutan(e)khamen (トゥト・アンク・アメン)

ツタンカーメンは新王国時代の第18王朝のファラオであり、アテン神を唯一神とする宗教への改革を断行したファラオ・アクエンアテンの息子です。若くして即位したので少年王の呼び名があります。彼の治世では、アテン神信仰が中止され、アメン・ラー神の権威が復活しましたが、彼自身は若くして命を落とすことになってしまいました。

ツタンカーメンのヒエログリフ表記を見ると、これまで出てこなかった見慣れない枠で囲まれていますが、これは王族の名を囲って示すカルトゥーシュ(cartouche)と呼ばれるものです。カルトゥーシュはフランス語で「薬莢(やっきょう)」の意味で、その形が似ていることから名付けられました。

この王名の文字を確認してみると最初(左端)から6文字はこれまでの知識で読むことができます。そして最後の文字が、今回出てきた三子音文字のꜥnḫとなります。さて、この表記を見て、何かお気づきでしょうか。文字を読むだけであれば簡単なのですが、そのまま左から右に読むと、アメン・トゥト・アンクとなってしまいます。慣読のようにトゥト・アンク・アメンとは読めません。

神名は尊いものであるため、読む順番が後ろでも先頭に書かれるという原則(honorific transposition)があるからです。トゥト、アンク、アメンのうち神名なのは、前回で紹介したアメンです。本来アメンが一番後ろにあったのですが、神名であるために文字上では最初に置かれています。トゥト・アンク・アメンという名前は、トゥト(似姿)、アンク(生ける)、アメン(アメン神)という3つの語から作られています。エジプト語は後ろから前に修飾していく語順を持つため、「アメン神の生ける似姿」³という意味になることが分かります。

図1 カイロ考古学博物館、ツタンカーメン王の黄金のマスク (写真:MykReeve, CC BY-SA 3.0)

8.2.2 アメンヘテプ4世

 

転写 jmn-ḥtp

翻字 j-mn:n-ḥtp:t*p

慣読 amenhetep (アメンヘテプ)

上の王名はアメンヘテプ王のものです。実はアメンヘテプという名のファラオは4人いるのですが、ここでは先に挙げたツタンカーメンとの関わりでアメンヘテプ4世について扱います。

第18王朝の王でツタンカーメンの父親だったのがアクエンアテンでしたが、アテン神への宗教改革を行う前の名前がアメンヘテプ4世でした。ちなみに「アクエンアテン」は、アク(有益なる者)・エン(〜に)・アテン(アテン神)という意味で、「アテン神にとって有益なる者」を意味します。それに対して「アメンヘテプ」は、アメン(アメン神)・ヘテプ(満足している)で「アメン神が満足している」を意味します。アメン神を廃して、アテン神を唯一神として宗教改革を断行したのですから、アメン神が入った自分の名前を変えるのは当然のことでしょう。

転写を見てもらうとわかりますが、ここでは2つの補字が書かれています。最初は、二子音文字mnの補字n、その次は三子音文字ḥtpの補字tpです。このように三子音文字も二子音文字のように音声補字を伴うことがあります。また、翻字のtpの間に「*」がありますが、これは、横長の字の下で2つの小さい字が隣り合っていることを表します。

図2 カイロのエジプト考古学博物館にあるアクエンアテンの像(写真:Hajor, CC BY-SA 1.0 Generic)

8.2.3 マアト神

 

転写 mꜥ.t
翻字 mꜣ:mꜣꜥ-ꜥ:t
慣読 maat(マアト)

最後に、少し複雑な例を紹介します。マアト神は真実を司る女神です。左上端の文字は二子音文字m、左下端の文字は三子音文字m、真ん中上の文字は一子音文字、真ん中下の文字は一子音文字t、右端の文字は決定符です。この例では、左上端の二子音文字mと中央上の文字が左下端の三子音文字mの音声捕字となっています。中央下の一子音文字tは女性名詞単数形語尾の.tです。

図3 壁画に描かれたマアト神(パブリック・ドメイン)

これにて、一子音文字、二子音文字、三子音文字と全ての種類の表音文字を学習しました。
いかがでしたでしょうか。次回は表語文字の学習に入ります。

 


1 ツタンカーメンについては河合(2012)で、学術的な見地に基づきながらも、一般向けにわかりやすく解説されてあります。
2 ファラオの名前には、ホルス名、二女神名(ネブティ名)、黄金のホルス名、誕生名、即位名などがありますが、今回は誕生名をご紹介します。
3 Leprohon (2013:106)
4 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Tutanchamun_Maske.jpg、最終閲覧日2019年3月19日。
5 Leprohon (2013:105)
6 Leprohon (2013:104)
7 https://en.wikipedia.org/wiki/File:Pharaoh_Akhenaten.jpg、最終閲覧日2019年3月19日。

参考文献

Leprohon, Ronald J. (2013) The Great Name: Ancient Egyptian Royal Titulary. Society of Biblical Literature: Writings from the Ancient World, 33. Atlanta: Society of Biblical Literature.
河合 望(2012)『ツタンカーメン少年王の謎』東京:集英社

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