中高生のための本の読み方|第12回(最終回) 「大人になる」ってどういうこと?|大橋崇行

大学入試の季節

私立大学で教員をしていると、秋は入試が始まる季節です。

1月の大学入試センター試験に始まる学力試験の他にも、AO入試、公募制推薦入試、指定校推薦入試といろいろな入試の形式があり、この時期にはもう次の年の新入生を受け入れる準備を進めていくことになります。

特にAO入試や推薦入試では、面接試験がほぼ必ず入ってきます。面接試験で何を重視するかは、大学によって、あるいは面接する教員によって少しずつ違いがあります。ただ、面接をしていて思うのは、ここ数年の受験生はとてもしっかりと受け答えできる人が増えているということです。

私が卒業した大学では、当時、推薦入試だけでなく一般入試でも面接試験がありました。それ以降、何度も面接を受けてきましたが、特に若い頃は、今の高校生のみなさんよりもずっとしどろもどろだったように思います。

ところが、今の高校生は、将来どういう仕事に就きたいのか、大学で何を勉強したいのかを調べてきて、面接で答えられる人が多くなりました。もちろん、インターネットの普及で調べることが簡単になっていることもあると思います。一方で、しっかりしているなあと驚くことも多くあります。

高校3年生の段階で就きたい職業を決めているというのは、もちろん医学部や歯学部、薬学部、教育学部のようにそれを求められる学部もあるのですが、とても難しいことだと思います。大学で勉強してみたら実際には合わなかったということもありますので、その点は入学後にいろいろな人とよく相談をしながら、柔軟に考えられるようにしてほしいと思います。

また、面接が苦手な人でも、質問されたことに的確に答えることができていれば、面接だけで不合格になることはまずありえないと思います。受験生の人は少しくらい言葉に詰まってもかまわないので、面接をしている教員が何を聞いているのか、それに対して何を答えれば良いのかを落ち着いて考えるようにしましょう。

一方で、入試が始まっているということは、そろそろ大学合格を決める人が出てくるということでもあります。大学は高校までとはいろいろな意味で違うところですし、来年から始まる新しい環境が不安だという人もいるかもしません。

そういう人に手に取って頂きたいのが、小林実(監修)『大学生活マネジメント・ブック』(旺文社、2015)です。

この本では、大学での授業や教員との関係、アルバイト、クラブ・サークル活動、留学、学生生活に必要なお金、さらには就職活動についてまで、大学生活の全体にかかわることがとてもコンパクトな形にまとめられています。

大学1年生の「基礎ゼミ」「基礎演習」「初年次ゼミ」などの授業(大学によって名前は違いますが、今はほとんどのところで必修になっている授業です)で使うために書かれた本なので、入学したあとで教科書として買うことになる人もいるかもしれませんが、今のうちに自分で手に取ってみたり、高校の学校図書館に1冊入れて頂いたりすると、高校生にも大学生活がイメージしやすくなるのではないかと思います。

この本で最初に強調されているのが、「高校までは、「人(先生)から教わる」立場だったものが、大学では「自ら学ぶ」という能動的立場に変わる」ということです。

スケジュールや時間割をすべて自分で管理しなくてはいけないことはもちろん、何かトラブルや困ったことが起きた場合にも、最終的にはそれを自分で解決しなくてはいけません。そのときに自分なりに状況をとらえ、考え、判断することが、大学生活を通じて「大人になる」ということなのだと思います。

 

「大人になる」ってどういうこと?

けれども、この「大人になる」ということは、大学生活に限って求められているわけではありません。中学生のとき、高校生のときと、それぞれの段階に応じていろいろな場面で直面することだと思います。

一方で、それではこういうふうに書いている私自身が本当に大人になったのかと言われると、自信を持ってそう言える気はしません。

たしかに十代から二十代にかけての頃に比べれば、物事に対する考え方が少しずつ変わっています。何か問題が起きたときに対応する方法も、より多くの選択肢の中から考えられるようになりました。けれども、十代や二十代のときの自分とやはりどこかでつながる部分もあります。

結婚していたり、子どもがいたりするとまた違うのかもしれません。それでも、研究や教育、小説を書く仕事をしていると、私だけでなく周囲にいる人たちも、子どものように何か一つのことにめり込んで調べものをしたり、学生と一緒になって遊んだりすることもあります。その意味で、研究者や作家、教育の仕事に就いている人は、ある意味で子どもっぽい部分が必要なのかもしれません。

それでは、「大人になる」というのは、どういうことなのでしょうか?

どうすれば私たちは、「大人になる」ことができるのでしょうか?

このテーマはそれぞれの人によっていろいろ考え方があり、そう簡単に答えが出ない問題だと思います。

その中で、「大人になる」という問題について重要な部分に触れている本が、菅野仁『友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える』(ちくまプリマー新書、2008年)です。

発売から10年も経った本ですが、作家でお笑い芸人の又吉直樹さんがテレビ番組で紹介してから再注目されるようになり、図書館に置いてあることも多いと思います。

この本の内容は、現代社会での「人と人とのつながり」について、正面から考え直してみようという試みです。

私たちは知らず知らずのうちに、「人と人とのつながり」はこうであるべきだ(はずだ)という思い込みに囚われているのではないか。これが、議論のスタートになります。

たとえば、LINEで「友だち」からメッセージが届いたとき(本文では、「メール」になっていますが、現代に置き換えて読むとわかりやすいと思います)。「既読」がついたかどうか、相手が返信してくれるかどうか、とても不安になりますね。けれども返事が来た瞬間、今度はこちらがすぐに既読をつけたり、返信したりしなければいけないという不安が生じます。つまり、LINEをやりとりしているあいだは、お互いどうしが、常に不安な状態でいなければいけないことになります。

 本当は幸せになるための「友だち」や「親しさ」のはずなのに、その存在が逆に自分を息苦しくしたり、相手も息苦しくなったりするような、妙な関係が生まれてしまうことがあるのです。

 菅野さんはこのように指摘し、「「不安」の相互性」から生じるものを、「同調圧力」と位置づけています。

この他にも、「クラスはみんな仲良く」しなければいけない、「みんな同じ」でなければいけない(同質的共同性)など、学校生活や現代の日本社会の中にはさまざまな「圧力」があり、なんとなく守らなければいけない「ルール」としてその力は働いていると指摘します。こうした「人と人とのつながり」について、菅野さんは、これらが昔ながらの日本の「ムラ社会」から続くものであり、こうでなければならないという「思い込み」が、私たちの生活を難しくしていると考えているのです。

都市化が進んだ現代では、すでにこうした昔ながらの「つながり」のあり方が、通用しなくなっています。そのため、「異なるものが同時に存在する」社会であることを認め、こうした「ルール」から外れてしまう「気の合わない人と一緒にいる作法(並存性)」を考えていくことが必要になってくるというのが、本のいちばん中心となる論旨です。

この本ではこの他にも、「ルール」と「自由」との関係、「家族」や「恋愛」をどう考えるかなど、「人と人とのつながり」についていろいろな角度から考えています。

それらの議論を通じて、菅野さんは「大人になるということ」を、「人間関係の引き受け方の成熟度」だと規定します。これは、他者とうまく折り合いをつけながら、自分とは異なる「他者」と同じ社会に生きていく方法と言えるでしょうか。

また、「大人になる」というテーマだけでなく、より大きな「人間関係」というテーマについて、とてもおもしろい視点で考えられています。中高生のみなさんにとっては、いろいろなことを考えるきっかけになる本だと思います。

 

子どもであることを認める

菅野さんとは違った角度から、「大人になる」ことについて考えているのが、よしもとばなな『おとなになるってどんなこと?』(ちくまプリマー新書、2015年)です。

この本は、「おとなになるってどんなこと?」の他、「勉強しなくちゃダメ?」「友だちって何?」「普通ってどういうこと?」「死んだらどうなるんだろう?」「年をとるのはいいこと?」「生きることに意味があるの?」「がんばるって何?」という八つのテーマを、著者であるよしもとばななさんが、自身の体験を通して考えているものです。

タイトルにもなっている「第一問 おとなになるってどんなこと?」では、「大人になんかならなくっていい、ただ自分になっていってください」という、タイトルそのものを否定するような前提が「まえがき」に書かれています。一見、「おとなになる」というテーマと矛盾しているようにも見えますが、その言葉の意味は実際に読み進めていくことでわかります。

具体的には、よしもとばななさんが中学生の頃に母親の親友から英語をならっていたときのエピソードや、父親で詩人・評論家の吉本隆明が亡くなったときのエピソードを通じて、「自分の中にいる泣き叫んでいる子どもを認めてあげること」、「子どもの自分をちゃんと抱えながら、大人を生きるということ」が、「大人になる」ことだという考えにたどりつきます。

どんなに大人になっても実は子どもの頃から変わらない部分があり、そういう子ども時代から作られた部分があることを受け入れて、その感覚を大切にすることが、「大人になる」ことなのではないか。これが、よしもとばななさんの考え方です。

この他のテーマについても、この本ではそれぞれのテーマについて、読者も著者と一緒に向き合い、考えながら読むことができるようになっています。

また、特に巻末に収められているインタビューでは、夢を持つこと、将来なりたい自分を探すことについて、とても重要な視点が書かれています。

学校生活の中には、どうしてこんなことをしなければいけないんだろう? と、思うことがときどきあると思います。そうした疑問を感じたときにも、ぜひ手に取って頂きたい1冊です。

 

読書を広げる

今月は、同じ「大人になる」というテーマで書かれた新書からもう1冊。清水真砂子『大人になるっておもしろい?』(岩波ジュニア新書、2015年)をご紹介したいと思います。

この本でも、「大人になる」ということをめぐって、「『かわいい』を疑ってみない?」「ひとりでいるっていけないこと?」「ルールとモラルがぶつかったら」など、13のテーマで書かれています。

一方で、よしもとばななさんの本との違いは、著者の体験をもとにしているというだけでなく、児童文学者でもある著者が読んださまざまな本に書かれているをもとにして、考えが進められている点です。

たとえば「第9信 生意気っていけないこと?」では、ドーデー作・きしだえりこ訳『スガンさんのやぎ』(偕成社、1966年)や、ローズマリ・サトクリフ・猪熊葉子訳『思い出の青い岡 サトクリフ自伝』(岩波書店、1985年)の内容を通じて、若い人たちに「生意気」であってほしいというテーマについて考えています。

大人の言うことに逆らったり、疑問を呈したりすると、大人たちから「生意気」だと思われます。けれども清水さんは、むしろそうして「生意気」になり、自分の考えをぶつけるために背伸びをし、大風呂敷を広げてでも大人たちに反論して、自分の意見を伝えることが必要だといいます。

一方で若い人たちは、なかなか「生意気」になることができません。自分の考えを述べることは、間違えたり、過ちをおかすこともあるかもしれず、それは誰にとってもとても怖ろしいことだからです。

そんな若い人たちに、清水さんはローズマリ・サトクリフの言葉を頼りに、正面から、けれどもとても温かく向き合っています。

どういうことばがあれば、彼らの背を押してやれるかを考えるうちに(―だって、「間違えたって大丈夫」くらいでは、人は動けません。誰だってこわいのですから―)間違うことを、さらには―ここまで言うのはそれこそちょっとこわいのですが、でも、―過ちをおかすこともまた、人が生きていくための権利ととらえなくては、と考えるようになったのです。でも、「傷つく権利」には考えが及んでいませんでした。

 こうして、ローズマリ・サトクリフの言葉から得た、若い人には「傷つく権利」があるという考え方に立てば、若い人たちが我慢することなく、もっと自由にものを考え、表現することができると言います。また、こうして「生意気」であるために「傷つく」ことがあったときに初めて、自分の力の至らないところに気づき、謙虚になることができる。そのためには、むしろ「傷つく」ことを積極的に認めていかなくてはいけないというのが、清水さんの考え方です。

この他の章でも、著者の清水さんはさまざまな本を読むことを頼りに、考えを深めています。それはときに絵本であったり、小説であったり、あるいは映画であることもあります。こうして一つのテーマに関係するさまざまな作品に触れることが、そのテーマについて考えていく上で、もっとも重要であることを教えてくれているように思います。

 

おわりに

さて、1年間にわたってお付き合い頂いたこのエッセイですが、今回でいったんおしまいになります。

未知のことがらについていきなり興味を持ったり、本を読んだりするのは、中学生・高校生にとってとてもハードルの高いことです。一方で、これは中高生でも大学生でも一緒なのですが、興味のあることについて書かれた本であれば、いつもはなかなか本を読まない人でも、驚くほど熱心にそれを読むことは少なくありません。

そのためこの連載では、毎月いろいろなテーマを掲げて、そこから芋づる式に読書がつながっていくように本をご紹介してきました。

何か一つでも琴線に触れるテーマあったら、マンガからでも、小説からでも良いので、ぜひ手に取って頂きたいと思います。

その上で、もしその本を面白いと思ったら、同じテーマで紹介している別の本も手に取ってみて下さい。すでにそのテーマについて前提となる知識にある程度触れているので、少し難しい本でも、理解しやすくなっていると思います。

そして……実はこの連載には、もう少し続きがあります。

これまでの記事に、書き下ろしを加えて、1冊の本にまとめることになりました。

学校図書館、公共図書館などで、YA(ヤングアダルト)向けの読書案内として使えるように再構成する予定です。またぜひお付き合い頂けましたら幸いです。

それでは、1年間ありがとうございました。

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