方言で芝居をやること|第9回|かつてあった日本の街 2。|山田百次

札幌で樺太のお芝居をやるにあたり、4月前半に3泊4日のサハリン取材を終えたあと、一本の舞台に出演をしながら樺太のお芝居のことを書いていたのですが、暗中模索の日々でした。

 

この話の基となる手記を書いてくれた方は、当時5,6歳の、子供の時の思い出です。子供を主役にした演劇を作るのはちょっと難しいので、大人が出てくる物語を書かなければなりません。

 

サハリンでの取材は、サハリンの気候風土と日本人が生活していた形跡。それと現在のロシア人の暮らしぶりはだいぶ分りました。

 

しかし肝心の、樺太の当時の大人たちの事情や暮らしぶりは分りません。

その後、手記を書いてくれた方は自分の父のことを語ってくれました。

 

サハリンのお芝居を書くと言ったら、某放送局のディレクターさんが、何年も前に樺太のドキュメンタリーを撮ったことがあるといって資料を送ってくれました。札幌市内にある古本屋を教えてくれました。

 

この古本屋がまた凄かったんです。狭い店内に大量の本が所狭しと平積みされているのですが「樺太の資料を探している」と話したら、平積みされている本のまん中ほどにサッと指をいれ「これと、これと、これもあるよ」と言ってすぐ出してくれるのです。そんな店主にまず驚きました。その時ちょうど、自分はアイヌだと名のる女性が、その古本屋に遊びにきていました。自分のこと、アイヌのことを色々と語ってくれました。アイヌの風習で今まで聞いたこともないものを聞くことができました。またその風習を指す意味の言葉はネットにもあがってないのです。これはちょっと書くのは控えておきます。資料を調べるのも大事だけど、やはり人と出会い、その人の話を聞くのが一番ですね。

 

こうした方々の協力のおかげである程度の資料が手に入り、当時の暮らしぶりをイメージすることができて戯曲を執筆することが可能になりました。本当に感謝しかありません。

 

さて、札幌では本番の一ヶ月前から稽古に参加しました。

タイトルは『フレップの花、咲く頃に』といいます。終戦後、日本人夫婦が暮らす家にソ連人の女性が上がり込んできて、ともに生活をする所から始まります。

 

フレップというのはアイヌの言葉で赤い実を指します。おもにコケモモのことなんですが、赤い実はなんでもフレップなので、色んな種類のものがあるようです。樺太はフレップが、本当にそこら中に実っていたようです。子供のおやつだったり、ジャムやお酒にもしていたようです。

 

お話は、フレップの花が咲く頃に出会った日本人夫婦とソ連の女性。日本人夫婦と仲がいい日本人女性。その女性に恋をする朝鮮人男性。そしてバザールで出会ったアイヌ人女性が登場します。この6人が、終戦後ソ連占領下の樺太で助け合いながら、時には争ったりしながら、やがて夫婦が引揚げるまでの一年を描いています。

 

評判はとても良かったようで、すぐに再演をする方向に決まったようでホッとしました。

 

いま、日本人が生活していた形跡はどんどん消えています。

ホルムスク(旧真岡)に当時の日本人が住んだ家屋が何軒かあるということで、取材時に行ってみたんですが更地になっていました。その時は本当に愕然としました。

 

サハリンでは日本の建物が残ってはいますが保護しているわけではなく、必要があるから使っていますが、別の建物を建てる場合には取り壊す程度のものでしかありません。

なので、日本人がいたという記憶はいまどんどん失われつつあります。

 

そしてサハリンの鉄道も今までは日本の規格の線路で、日本の車両が走っていたようです。

ですが今年から、鉄道の規格をロシアの規格に変える工事が始まったそうです。

そんな感じで、日本人が住んでいたという記憶は風化していきます。

 

当時の樺太を知る人たち。樺太から引揚げてきた人たちの年齢は、今はもう70代後半から上です。あと10年、いや5年ほどでその当時のことを知る人たちはいなくなってしまいます。残された時間は本当にわずかです。

 

お芝居を観て、当時のことを思い出し「樺太が一番よかった」「樺太に帰りたい」と、みんながみんな口をそろえて言うのです。寒さは北海道の比ではないくらいに厳しいはずなのにです。よほど美しく豊かな土地だったのでしょう。

 

僕が取材で行った時期はまだ雪がたくさん残っていたので、その辺は分りませんでした。サハリンの4月半ばの夜はマイナス2℃とか3℃でした。おまけに雪が汚れていて美しくはありません。雪解けの季節が泥やホコリだらけなのは日本もロシアも一緒ですね。

 

苦労して日本に引揚げてきて、その後も日本の地でそうとう辛い経験をして生きてきた人たちに、お芝居をみせることができ、喜んでもらえて本当に良かったです。樺太から引揚げてきた人たちは北海道だけにいるわけではありません。東北にも関東にも日本各地にいるはずです。そんな人たちにこの作品『フレップの花、咲く頃に』を見せることができたらと思っています。

 

 

山田百次 次回出演

オフィスコットーネプロデュース

『山の声』

作:大竹野正典 演出:綿貫凜

2018/10/26~28@Space早稲田

 

 

 

 

 

 

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