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2021.3.29(月)

刊行 『日本語学習者による多義語コロケーションの習得』


今回も自分が編集を担当した書籍の紹介をしたいと思います。今回は『日本語学習者による多義語コロケーションの習得』(大神智春著)です。

本書では韓国語母語話者や中国語母語話者といった海外の方が日本語学習において、多義語やコロケーションを習得する際にどのような中間言語を作り出しているかを分析することで、日本語学習者が多義語の語彙を習得するプロセスを明らかにしています。
中間言語とは第二言語を学習する際に目標言語(本書における日本語)と違った体系を持つ言語の母語話者が、学習過程で自分の中で形成する言語体系のことです。例えば、本書では中国語母語話者による「勝利をとる」という日本語の誤用が例示されていますが、これは中国語では「抓住勝利(勝利を得る)」の「抓住」が辞典などで「とる」と訳されていることに起因するからだと考えられますが、このような誤用を単なる誤りではなく習得の中間段階と捉える概念が中間言語です。この中間言語を明らかにすることで習得プロセスを明らかにし、さらには研究の知見を活かして、コロケーション習得にはどのような教材が望ましいかなど、日本語教育への提言も行っています。

また、外国人と日本語の多義語については、永田高志先生がウェブマガジン「未草」で連載中の「「やさしい日本語」は在留外国人にとって「やさしい」のか?」の第三回「「やさしい日本語」の多義語」でも話題にしています。本書とは違った角度から論じていますので、合わせて読んでいただけると新しい発見があるかもしれません。


『日本語学習者による多義語コロケーションの習得』詳細ページ
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1067-3.htm

『「やさしい日本語」は在留外国人にとって「やさしい」のか?|第3回 「やさしい日本語」の多義語|永田高志』
https://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/2021/02/10/yn-3/




2021.3.29(月)

オンラインでの最終講義


何度かスタッフ日誌で「オンライン〇〇」のことについて話題にしてきましたが、多少不便なことはあれど、様々なイベントを家から参加できる「オンライン〇〇」が増えることは出不精な自分にとって基本的にありがたいことだと捉えていました。
しかし先日、はじめてオンラインになってしまってとても残念だった出来事がありました。それはお世話になった教授の退官記念の最終講義です。

自分の修論の副査を担当してくださった先生で、学部時代からゼミなどで様々な指導をしてくださり、とてもお世話になった方でした。そのため本来であれば最終講義の際にお礼をお伝えしたいところでした。しかし、オンラインだと直接顔を合わせることもできず、感謝の言葉を伝えることは叶いませんでした。
最終講義の後、自分の卒業後もゼミに残った友人と(これまたオンラインで)話したのですが、この一年間のゼミはオンラインでのゼミ運営をどうするかなどの試行錯誤に追われて、今までのような指導が受けられず、「先生との最後の一年がこんなことになるなんて本当に残念」と言っていました。
1年前の今ごろは既に最終講義がオンラインになっていることが多かったと記憶しています。自分も直接の関わりがない先生方の最終講義を講演感覚でオンラインで聞いて「便利な時代だな」などと思っていましたが、自分と関わりのある方となると話が変わってくるのだと気づかされました。




2021.3.29(月)

刊行! 『明治・大正期国語科の成立と修身科との関わり 文学教材は何を伝えたのか』


今年に入ってからひつじ書房は怒涛の勢いで新刊を刊行していますが、自分もこの2月と3月だけで担当した書籍を5冊刊行しました。今回は先月刊行したもののまだ紹介できていない新刊の紹介をしたいと思います。今回紹介するのは『明治・大正期国語科の成立と修身科との関わり 文学教材は何を伝えたのか』(山本康治著)です。

本書で研究の対象となる明治・大正期の教育は「忠君愛国」的な価値観(家族国家観)を子どもに身に着けさせるために修身科(戦前の道徳・愛国教育を担った科目)を頂点とした教育体系が展開されていました。その中で童話などといった「文学教材」は、修身科では「教訓・訓戒」を教えるための題材として、国語科では児童に「想像力」をはぐくむための教材として扱われていました。このように同じ文学教材でも修身科と国語科では児童に教え込もうとしているものが違っており、その一方で実はこの二つの教科は文学教材を通じて密接に関係している部分もありました。本書ではこの二つの科目と文学教材の扱われ方を、豊富な史料を基に明らかにしています。
さらに、本書では上記のような史的研究だけでなく、補論として現代の国語教育における「文学教材」の扱われ方についても考察が行われています。単に歴史を過去のものとするのではなく、「文学を教えることの意義」という現代にも通じる問題として考察し、現代の国語教育への提言も行っています。

また、3月に刊行された『明治期の幼稚園教育と童話 小学校教育・児童文学との関わりから』(北川公美子著)とは研究対象や問題意識など、本書と関連する部分が多くあるのでぜひ合わせて読んでいただきたいです。


『明治・大正期国語科の成立と修身科との関わり 文学教材は何を伝えたのか』詳細ページ https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1075-8.htm

『明治期の幼稚園教育と童話 小学校教育・児童文学との関わりから』詳細ページ https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1084-0.htm




2021.3.29(月)

仲正昌樹先生の「入門講義」シリーズと翻訳について


友人たちと読書会を続けているのですが、今はみんなでフーコー『性の歴史』を読み進めています。しかし内容がとても難解で読むのに苦労しています。そこで私は昨年末、作品社から刊行された仲正昌樹先生の『フーコー〈性の歴史〉入門講義』を隣に置いて読み進めています。これがあるのとないのとでは理解度が全く違います。本当に助けられています。
仲正先生の「入門講義」シリーズはフーコー以外にも様々な哲学者、思想家の著作を解説したものがあり、このシリーズには学生時代からとてもお世話になっていました。

私がこのシリーズが好きなのは、他の哲学の概説書と大きく異なる部分があるからです。それは「言葉と翻訳」への向き合い方です。
どんな思想の概説書でも重要な用語は詳しく解説していると思います。しかし「入門講義」シリーズでは、その用語が原語ではなんと言われているか、その語源はなにか、他の哲学者はどのような意味で用いているかなど、「言葉」にこだわった解説がされています。また、重要なキーワードだけでなく、引用中に出てくる言い回しなども原語を参照して、時には引用した文章がわかりにくくなってしまっているのが誤訳のせいであることまで指摘しています。
哲学者の思想について知るうえで、わかりやすい概説書は「入門講義」シリーズ以外にも多々ありますが、「言葉」や「翻訳」に真摯に向き合いながらの解説は、実際に思想家の著書を読み進めるうえではもっとも役立つものだと感じています。




2021.3.26(金)

刊行! 『現代日本語の「ハズダ」の研究』


今回も自分が編集を担当した書籍の紹介をしたいと思います。今回紹介するのは『現代日本語の「ハズダ」の研究』(朴天弘著)です。

従来の研究では「ハズダ」の意味について、用法ごとに細分化してカテゴライズしているのが現状でした。しかし、著者の朴先生はそのように意味や用法を細分化して分類しているだけでは「ハズダ」の本質は見えにくくなってしまう、と主張しています。そこで本書では、「ハズダ」にはどのような用法にも共通する、統一的な意味機能があることを明らかにしています。その統一的な用法というのが「知識確認」です。
「ハズダ」における「知識確認」とはどういうことなのでしょうか。例えば、親が出かけていることを知っているときに、友人に「今、家には誰もいないはずだ」と言ったとします。このとき、発話者は自分の中にある「親は出かけている」という知識を確認して発話しているのです。この「知識確認」という手続きが「ハズダ」の根幹であると先生は主張しています。その主張を証明するために本書では様々な「ハズダ」の用法を検証する他にも、似た意味を持つ「ニチガイナイ」との比較や、韓国語「-(u)l kesita」との比較対照研究を行っています。
内容自体もとても興味深いですが、自分が面白く感じたのは「ハズダ」が使われている例文の出典です。本書では多くの推理小説の文章から「ハズダ」が用いられている例を取り上げています。なぜ推理小説なのか、ちゃんと理由が述べられています。それは「推理小説は犯人を突き止める際に推理・推測をするから、必然的に「ハズダ」が多く用いられている」からなのです。これには「なるほど」と思わされました。

日常的によく使ってしまう「ハズダ」という語ですが、あらためて見つめ直すと様々な発見がある「ハズ」です。ぜひご一読ください。


『現代日本語の「ハズダ」の研究』詳細ページ
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1083-3.htm




2021.3.23(火)

怒濤の新刊ラッシュ!


例年、年度末は新刊が多く、また、来年度の採用品の受注も始まりますので、営業事務を担当しているわたくしは忙しくしている時期ではあるのですが、今年の2月3月は本当にネコの手も借りたい気持ちでした。

まず、新刊が例年にも増して多かったのです。
1月からの3ヵ月で30冊!!
ひつじ書房は1年に50冊程度の新刊を刊行していますので、その半分以上がこの3ヶ月に集中したことになります。昨年はコロナ禍で6月から8月下旬まで新刊が無く、ここ数年で見ると刊行点数が特に少なくなってしまい、刊行ペースが落ちていたことも理由にあると思います。

新刊が出れば、それに伴うさまざまな書籍情報の登録作業があり、倉庫への搬入、書店への手配の準備などが必要となります。
3月も下旬になって、やっとそれらも落ち着いて少しホッとしているところです。
これからはたくさんの新刊をご紹介するべく、新刊・近刊案内などの作成に取りかかりたいと思います。

昨年の今頃は緊急事態宣言が発令される前で、得体の知れないウイルスに日本中が混乱している頃でした。まだまだこれまでの日常とはほど遠い世界ではありますが、「ニューノーマル」を受け入れつつ、こつこつ頑張ってまいります。







2021.3.19(金)

刊行! 『全国調査による言語行動の方言学』


小さい頃から関東圏に住んでいた自分にとって「方言」はあまり意識しないものでした(高校生くらいになるまで関東方言というものが存在するとは思ってもいませんでした)。そんな私でも自分が発する言葉の地域性について、ある書籍の編集に携わってから意識するようになりました。それが今週刊行された新刊、『全国調査による言語行動の方言学』(小林隆編)です。

タイトルにある「言語行動」とは、ある行動に伴って言葉を発する(もしくは発しない)ことを行為として捉える概念です。たとえば友人に荷物を持ってもらう際に「荷物を持ってくれない?」と言うと思いますが、その際に「悪いんだけど、」のように恐縮の言葉を付け加えるような言語行動があらわれます。
そして本書では地域(=方言)ごとにこの言語行動に差異があることを指摘しています。例えば、先ほどの「荷物を持ってもらう」というシチュエーションでは、前述のような「恐縮」を表明するような人は全国的に見られるのに対して、西日本よりも東日本では「この荷物は重くて大変だ、」のように状況を説明するような言語行動が多くみられると指摘されています。このような言語行動の地域差を、全国調査の結果を分析することで明らかにしたのが本書です。
調査する言語行動のシチュエーションも「渡されたおつりが間違っているとき」「孫が徒競走で1位を逃したとき」など様々で、とても興味深いです。

冒頭に述べた通り、私は自分の言葉が持つ地域性というものに対する意識が希薄でしたが、この書籍の編集に携わってから、コンビニで物を買うときや誰かの成功を祝うときなど、何気なく発している言葉が地域的な特徴を含んでいることに気づかされました。皆さんもぜひ本書を読んで、当たり前に発している言葉が持つ地域性に興味を持っていただければと思います。


『全国調査による言語行動の方言学』詳細ページ
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1071-0.htm




2021.3.10(水)

ただいま準備中 『認知言語学と談話機能言語学の有機的接点』座談会


昨年12月に、『認知言語学と談話機能言語学の有機的接点--用法基盤モデルに基づく新展開』(中山俊秀・大谷直輝編)を刊行しました。

刊行を受けてなにかイベントをできないかということで、編者・執筆者の先生方に、本書の内容について説明/議論していただくオンライン座談会を開催しました。動画を公開予定で、現在準備中です。

座談会は2回に分けて、Zoomで行いました。
第1回は、「言語知識はどのように習得されるか」、第2回は「言語知識はどのように運用されるか+言語知識はどのような形をしているか」をテーマに、それぞれ本書で扱っている章の解説と議論を行っています。

オンライン会議はこの一年で急速に一般化したと思います。一年前は動画でのイベントは考えもしませんでした。もともとYouTubeなどの動画メディアとあまり縁のない生活をしていましたので、動画編集をする機会がやってくるとは思いもしませんでした。
私自身は紙・文字ベースで情報を得ることに慣れているので、動画は非常にまどろっこしいと感じてしまいます。アプリの説明などでも「動画で解説!」などと書かれていると「テキストベースにしてくれい!」と返してしまいます。
ただ、オンラインで開催されている各学会や動画公開をしているイベントの状況を見るに、遠隔からの参加が容易であることや、好きな時間に見ることができるという利点は、たいへん大きなものであるとは感じていますので、うまく使い分けることができればと思います。
また当日の雰囲気を伝えることができるのも、動画の強みです。今回の座談会に関してもまさにそれで、みなさんの白熱した議論の空気を感じていただければと思います。(文字ベース派としても利便性を考えて、目次を付けています!)

動画は近日中に公開予定です。どうぞよろしくお願いいたします。







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