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2025年12月30日(火)
日本語能力を測る試験について、「新たな試験の導入を検討する」は行われるのだろうか
(こちらは12月10日に発信したメール通信の「房主より」を元にして加筆しています。) 『外国人受け入れへの日本語教育の新しい取り組み』の「第10章 認定日本語教育機関制度と就労者に対する日本語教育」の中で杉山充先生が指摘しているように育成就労制度が動き出すと日本語能力を測る新たな試験が求められることになるということで、その試験で一定の成績を取ることが、就労の継続に必要になってくるということになる。仕事を続けて行き、日本に滞在し続けていくには、そういう試験を受けて、評価を得る必要があることになる。 新しい試験については「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 最終報告書を踏まえた政府の対応について」には、「育成就労において必要となる日本語能力を測る試験について、A1相当からA2相当までの範囲内で設定される水準の試験を含む新たな試験の導入や、外国人の十分な受験機会を確保する方策を検討する」と書かれています。 日本語の能力については、次のように書かれています。 「(2)人材育成の評価方法 ○ 育成就労制度では、外国人が就労開始前までに日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格すること又は相当する日本語講習を認定日本語教育機関等において受講することを要件とする。 ○ 外国人の技能修得状況等を評価するため、受入れ機関は、育成就労制度による受入れ後1年経過時までに技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等。ただし、既に試験に合格している場合を除く。)を外国人に受験させる。」 (技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 最終報告書を踏まえた政府の対応について p.3 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/pdf/taiosaku_r060209kaitei_honbun.pdf) 就労開始までに「日本語能力A1相当」で、受け入れ後1年経過時に「技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験」というのは、「A1相当」から「A1相当以上」というのは、A1相当を確実にするという意味なのか、A1をクリアしたA2相当になることが必須ということなのか、というのは分かりませんが、日本語能力が少しは向上することを必須と考えているということなのでしょう。 現状では、一般的な日本語能力を測る試験は、日本語能力試験ということになります。ビジネスや実用に向いた試験ということですと「BJTビジネス日本語能力テスト」や「TOPJ実用日本語運用能力試験」と「J.TEST実用日本語検定」が、ありまして就労の際の仕事に際しての日本語の能力について、これらの既存のテストで測ることができるものなのでしょうか。既存のものとしては、国際交流基金日本語基礎テスト(Japan Foundation Test for Basic Japanese, 略称:JFT-Basic)というものがありますが、新しい試験として生まれ変わるということになるのでしょうか。新試験が検討されるといわれているわけですが、新試験というのが、実現可能なのか、就労の継続に際しては使える試験なのか、新しい試験として認定されることになるのかということについては、分かりません。国際交流基金と日本国際教育支援協会が行っている「日本語能力試験」と国際交流基金のJFT-Basicはいわば公的な試験なわけですが、求められている新しい試験に変容することになるのでしょうか。 杉山先生が指摘されているのは、従来の日本語能力を測る試験は、筆記試験(日本語能力試験には聴解はある)だけで、話したり、会話したりするということを問うことのできる試験が望ましいということでした。話したり、会話したりする試験項目がないと受験する人は、筆記試験の勉強ばかりすることになってしまいます。実際の仕事と日本語研修の中で、人とやり取りをすることで学ぶのではなく、実際のやり取りについての試験が含まれない筆記試験対策が重要視されてしまうことになります。新しい試験ができるのなら、そうならないような試験が望ましいですが、話す能力をテストする試験が公的に開発されているのでしょうか。開発されているということは聞かないように思います。いや、どこかで開発されているのですが、私が、日本語教育の世界について情報通でありませんのでそれを知らないだけなのでしょうか。 実際に口頭試験を行うように試験の開発はされているのでしょうか。もし、まだ開発が行われていないとするとどうなってしまうのか。公的な組織が、予算をとって協力者を募って、話すことを問えるような試験を開発するというようなことが重要だと思います。すみません、もし、情報をお持ちの方は教えていただけないでしょうか。 と書きました後で、田尻先生の未草の原稿をいただきまして、その中で言及されています「特定技能制度及び育成就労制度の基本方針及び分野別運用方針に関する有識者会議」(第10回) https://www.moj.go.jp/isa/03_00162.html の中の 「バス・タクシー運転者に係る日本語能力要件(案)について」資料2-4 (https://www.moj.go.jp/isa/content/001450287.pdf) を見ましたところ -------- 1.日本語教育の専門家による意見 外国人バス運転者については、特定技能の在留資格取得前の特定活動期間において、バス事業者が実施する新任運転者研修を受講し、交通ルールや安全確保に必要な知識を習得することが義務付けられていますが、この研修には書面で母国語訳された教材を用いることで十分な教育効果が得られるものと考えられ、A2.2(N4)の単独運行でも重大な問題は生じないと考えております。 -------- という専門家による意見というのがありまして、「書面で母国語訳された教材を用いることで」日本語能力の向上ということは重要視しなくてよいという意見が採り上げられています。これは、バス・タクシー運転者についての話しです。日本語能力と安全な運転技術という研究があるのか、聞いたことがないと思います。専門家としか書かれておらず、実際のところ、どなたなのか分からず意見の責任が不明瞭です。 しかし、これを見ると育成就労について、無制限に継続できるわけではないということの説明に日本語能力を測るということに言及したものの、実際にどのように測るかについては、測るための仕組みや制度や試験を作るのにはコストがかかるのでだんだんとトーンダウンしようとしているということなのかもしれません。この推測が当たっているとすると言語政策として話す言語能力や会話する言語能力について、試験する必要というのもそんなにないという方向に行くのが見えるような気がします。本音は、無制限に継続できるわけではないということが言いたいだけで、そのような能力を測る必要が切実にあるということでなければ、資金と労力を使って、新しい試験をつくる必要もそんなにないという方に持って行こうとしているということでしょうか。 そうだとすると日本語能力試験で在住資格を決めるには賛成できないので、なし崩し的に筆記試験だけいいと考えるという考え方もありえますが、私は、そうではなく、日本語能力試験で在住資格を決めるのに対しては批判的でありつつも、日本語能力試験は話すこと、対話することも試験できるようにするべきで、その方向は日本語教育に関わる誰かが音頭をとって、外国人の受け入れには日本語教育の整備というコストがかかるということを強く主張して、政策化するべきではないでしょうか。リベラルな主張をする方々は、国が主導して、国が整備するということをいうのを好まないかもしれないですが、東アジアの中でどういう国になることが望ましいかも、避けずに議論することが必要ではないのでしょうか。アカデミズムの世界で言語政策の研究は行われていますが、国の言語政策が作られつつある今、方向性をみなで議論して進めていくところなのではないでしょうか。その具体化、実装化に関わることが、共生社会を作るということの実際になるのではないでしょうか。そのことが、なんと音声・会話の試験を作るということとも関わってくることになります。 発端は、音声・会話の試験を作るための研究ができないかという問題意識でしたが、東アジアにおける日本の国家政策、言語政策というような大きな話になってしまいました。 執筆要綱・執筆要項こちらをご覧下さい。 「本の出し方」・「学術書の刊行の仕方」・「研究書」・スタッフ募集について・日誌の目次・番外編 ホットケーキ巡礼の旅 日誌の目次へ
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