2025年11月11日(火)


言語教育で世の中の動きに対抗的な動きを作れるか

(こちらは9月10日に発信したメール通信の「房主より」を元にしています。)

国際交流基金の「2024年度 海外日本語教育機関調査」の結果概要の発表の会が四谷でありましたので、私と副編集長森脇とで行ってきました。

以下に結果概要資料が公開されています。

https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/information.html

143の国・地域で日本語教育の実施を確認機関数: 19,344 機関教師数: 80,898 人学習者数:4,000,750 人

機関数、教師数、学習者数ともに過去最多!

ということです。

そうであれば、日本国内国外の日本語教師の質的にも人数的にもさらなる充実が求められるところだと思います。日本語教師になろうという人が増えてくれることを願いたいところです。

日本語学習者数は400万人を超えたということですが、細かく見ますと学校機関外で学んでいる人が増えているということと高等教育機関では学習者は減っているということでした。高等教育機関では学習者は減っているということについて、新聞記者の方から理由について尋ねる質問がありました。その答えによると欧米圏での教育でSTEM(科学・技術・工学・数学)教育への比重が高まっていることとそれにつれて外国語教育の比重が減っているということでした。日本語教育が減っているというのではなく、大学教育における言語教育が減っている、外国語教育が減る中で日本語教育も減っているということでした。もう少し委細をききたかったところです。

外国語教育、そして言語教育についやす資源が減ってしまうということは、大学教育自体の趣旨を変えてしまうということです。学術政策としても問題がありますが、言語教育の世界で対抗的な動きを作り出さないとと思います。アカデミックな世界での言語教育さらには言語研究にも関わることです。言語政策とも関わるところです。アカデミックな世界での言語教育さらには言語研究をきちんと守っていかなければならないと思います。

ひつじ書房としては、学校教育を作り出したコメニウスの評伝的研究書を刊行します。松岡弘先生に執筆していただいています。ラテン語教育、そしてドイツとチェコの子どもたちを言語の交換留学させるというその時代の試み(「現在のチェコ共和国の右側半分はモラヴィアと呼ばれるが、ここでも民族による学校の分離が進んだものの、ドイツ語を教授言語とする学校の方へ子弟を送り込もうとする親が少なくなかった。その背景には、この地域にはKinder-Wechsel(子供の交換)という習慣があって、チェコ人の家庭とドイツ人の家庭の間で、期間を限って第2言語を習得させるため子供を交換しあう長年の習慣があった、と。」p.340)。コメニウスについてあらためて読む価値があると思います。

言語教育の軽視が困った状況を引き起こしているということで、シドニー工科大学の尾辻恵美先生から、メールをいただきました。外国語教育の重要な国際学部が廃止されようとしているということなのです。

「UTS(シドニー工科大学)インターナショナル・スタディーズのプログラムを守るためにご支援ください!」

とのことです。転載します。


「私の大学(シドニー工科大学)で大きな問題が起きています。私の所属するインターナショナルスタディーズの同僚と私は、皆さまの支援を切に願ってます。以下に示すように、いくつかの形でサポートができます。署名リンクはこちらです → https://actionnetwork.org/petitions/unpause-the-pause/

ぜひネットワークに広く共有してください。お願いします。皆さまの支援は、UTSだけでなく、オーストラリアの大学教育、そして世界の教育の将来にとって大切で不可欠なものだと思っています。

署名をする際、ご自分の名前を書いた後、その下にあるnot in AU を押すと国のリストが出てきます。自分の住んでる国を選んでください。その下はOther community supporterを選んでください。最後にMy University に自分の大学がない人はNA(not applicable -該当するものがないーオーストラリア外の人はほとんどがこれだと思います。ここはそれほど大切ではないとのことです)を選んでください。


UTS(シドニー工科大学)インターナショナル・スタディーズのプログラムを守るためにご支援ください!

UTSは2026年秋から100以上のコースの新規学生受け入れを「一時停止」すると発表しました。その中には、30年以上の歴史を持ち、30以上の学位と組み合わせが可能な国際学部(Bachelor of International Studies, BIS)も含まれています。

この学位は、言語力・異文化理解・批判的思考・リーダーシップなど、グローバル社会で必要とされる力を育て、卒業生は国内外で幅広く活躍しています。現在1000名以上が在籍し、毎年300名以上の新入生を迎える人気・実績あるプログラムです。

しかし、受け入れ停止は地域社会・教育界・グローバル社会に大きな損失をもたらします。私たちはUTSインターナショナルスタディーズを守るために協力を求めています。

支援の方法

署名に参加する&拡散する https://actionnetwork.org/petitions/unpause-the-pause/

あなたの支援はUTSだけでなく、オーストラリアの高等教育、そして世界の教育の未来を守るために不可欠です。どうかご協力ください。


尾辻恵美先生は今年の春に刊行した次の本の著者です。

『境界と周縁 社会言語学の新しい地平』(三宅和子・新井保裕編)

https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1273-8.htm

年末に木村護郎クリストフ先生との共著で『ことばをどう捉えるか--言語の自明性を問い直す』を刊行します。

コメニウスについては、本日、刊行しました。

『言語教育とコメニウス』松岡弘著定価10,000円+税 A5判上製カバー装 432頁 ISBN978-4-8234-1100-7

https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1100-7.htm


執筆要綱・執筆要項こちらをご覧下さい。



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