まもなく刊行! 『「打ちことば」の研究』
私の趣味の話で恐縮ですが、音楽のサブスクリプションサービスを毎日のように使っています。最新のヒット曲だけじゃなくて、昔よく聴いていた曲を久しぶりに聴きたくなったときも、検索すればすぐに聴けるので大変ありがたいです。
ついこの間も久々にYUIの「CHE.R.RY」(2007)を聴いていました。私が小学生の時の大ヒット曲です。携帯電話会社のCMのタイアップ曲で、テレビをつけると毎日流れていたような気がします。
CMのタイアップ曲ということで、歌詞も携帯メールがテーマのラブソング。1番Bメロの「返事はすぐにしちゃダメだって、誰かに聞いたことあるけど、駆け引きなんてできないの」という歌詞、まさに携帯メールならではのコミュニケーションですよね。
携帯メールから「既読表示機能」があるLINEが主流に代わった今では、返事をすぐにしないと「既読無視」などと思われて、駆け引きどころかトラブルになりかねません。もしかしてスマホネイティブの今の子どもたちにはこの歌詞の意味がいまいち伝わらないのでしょうか。
なんでこんな話をしているかというと、7月に刊行予定の近刊『「打ちことば」の研究 モバイルメディアコミュニケーションから再考する日本語』(落合哉人著)がまさにこの携帯メールとLINEのコミュニケーション、そして言語使用の差を扱っているからです。
本書はタイトルの通り「打ちことば」をテーマにした研究書です。携帯メールやチャット、SNSなど、インターネットへの接続を介して交わされる「話すように書く」ことばは「打ちことば」と日本語学では呼ばれています。その特徴については様々指摘されてきましたが、そもそも「打ちことば」を「打ちことば」たらしめるものは何かという根本的な問いは今まであまりされてきませんでした。
例えば、「打ちことば」と言っても上述の「既読表示機能」の有無のように、携帯メールとLINEでは、機能や表示形式の影響で言語使用の仕方(一文の長さ、話題の展開の仕方など)は随分と異なりますが、現状の研究では「打ちことば」一括りに扱われることが多いです。こうした様々なメディア・モードで共通して現れる「打ちことば」の特徴はあるのでしょうか。また、「書きことばとも話しことばとも違う」とされている「打ちことば」ですが、具体的に語や節単位で差は現れるのか、計量的、体系的な研究は少ないのです。
本書はこういった観点から「打ちことば」を根本から見つめ直し、語、節、文を産出する言語使用の側面から「打ちことば」を捉えた際に、話しことばや書きことばとは異なる形で、携帯メール、LINEなど複数のメディア・モードであらわれる「打ちことば」に共通する特徴=「打ちことば」を「打ちことば」たらしめるものを見いだせるかどうかを実証的に検討します。
本書では主に携帯メール、LINE、対面会話、インターネット通話といった4種類の談話資料の量的な比較・分析を行いますが、そもそもこうしたメディア・モードが異なる場合の談話資料の量的比較はどのように行うべきかなどメディア言語研究における方法論の提案も行っています。また「打ちことば」だけを見つめるのではなく、話しことばや書きことばとの比較を行うことで、この三者の関係はどのようなものなのか、境界はどこにあるのかをも問い直すこととなります。「打ちことば」研究をさらに深化させるだけでなく、「打ちことば」研究以外にもインパクトを与える一冊となっています。
ただいま編集作業が佳境に入っています。来月には刊行いたしますので、ぜひお手に取っていただけると幸いです。
|