学術出版の困難 20040727

学術出版の困難

「学術書の刊行の仕方」予定目次をご覧下さい。 学術書の出版のあり方について、きちんと考え、発信し続けていきたいと思っています。

学術出版は「酵素」か「触媒」である。

学術専門書出版というものは、いわゆる商業出版とも自費出版とも違っています。ひとことでいうとNPO的出版です。公共性を目指していますが、国民の税金に基づく政府の予算で、出されるわけではありません。公共性を目指していますが、読者という人々に購読してもらうことによって、なりたたせていくものです。

これは介護サービスのNPOのようなものと考えると分かりやすいでしょう。公共的な事業を、直接の受益者からサービスを買ってもらうことと、寄付金・助成金・補助金などによって、成り立たせていきます。経営的にはNPO的といってよいでしょう。

どのような公共性かということですが、弊社を例に挙げますと、まずその刊行物の内容が公共的です。人々のコミュニケーションの基礎的な研究である「言語研究・言語教育研究」という内容であること、もう一つが、研究の公共化・ネットワーク化です。税金を使ったり(国立大学の場合)してつくられた研究の成果が、ひとつのジャンルの研究者のコミュニティの内部に閉じこもってしまうのを、多くの人がアクセスできるようになります。たとえば、分かりやすい例で言うと、200万円かけて、欧米に視察に行ったとします。その人一人の知識になりますが、それが公共化されなければ、その人の中に閉じこもったままです。あるいは、年間、数百万の給料をもらっている研究者が研究を続けていたとしても、その研究が公開されなければ、社会的な価値を生み出しません。もし、それが仮に1000人に共有化された場合、社会的な価値は1000倍、あるいは数万倍にもなる可能性が生まれます。そのコストは、1冊の本を出すと言うことを考えれば、500万円程度のものです。つまり、出版の経費を付加することで、何万倍にもなりうるのです。これは「酵素」とか「触媒」というような機能だと思います。

知識はそのように無限大に近く拡大しうる可能性があり、また、その可能性に比して、さらにもともとの知識の取得に比して、圧倒的に少ないコストで、拡大化できるというものが出版の機能だろうと思います。しかし、その機能は社会的に認識されていません。そこに学術出版の困難があると思います。そのような社会的な機能を伝えていくことで、困難を乗り越えたいというのが、私の考えです。


アメリカの学術出版協会
こちらでも発言しました。『情報処理』Vol.41 No.11
『情報処理』Vol.41 No.11(内容が読めます)
ちょっと困ったシンポジウムでした。
私のコメント