日経ネット時評に掲載されたものです。ぜひともこちら(日経ネット時評)をご覧ください。
(4/22)日比谷図書館をビジネス支援図書館にしよう(松本 功) 筆者写真 東京のど真ん中、東京のシンボルといえるのは、日比谷公園ではないだろうか。その中に図書館があり、先頃、耐震工事が終わってサービスを再開した。日比谷図書館は長い歴史を持っている図書館であり、東京都中央図書館が広尾にできるまで、東京都の中央館であった。また、最初に児童書の案内をはじめるなど、図書館における新しい事業を行うセンターでもある。もちろん、場所がら、ビジネスマンの利用も多く、雑誌新聞紙室などは、いつも調べものをする人々でごった返している。

■ビジネス支援機能が充実しているNY図書館


 アメリカのニューヨークにはニューヨーク・パブリックライブラリー(http://www.nypl.org/)があり、芸術家・研究者の支援を行っているが、何といっても、ビジネスの支援の機能が充実していることで知られている。高度な科学・経済金融情報を提供する端末をそろえたシブル(Science, Industry and Business Library)という図書館や、昨年からは、マイクロビジネスの支援のセンター(New York Small Business Resource Center)もできている。

 そこでは、サラリーマンや起業準備中の人々に対して、商標とか特許についての問い合わせから、法律的な問い合わせ、情報源についての問い合わせ、有料の商用データベースをも駆使して、専門家への紹介を含めたサービスを行っているという。岩波新書で『メディアリテラシー』を書いたジャーナリストの菅谷明子さんによれば、そもそも、ゼロックスも、その図書館で特許事務をしていた弁理士が、手書きでの複製では追いつかないから、資料を複製する技術を求め、図書館の雑誌から、複製についての科学技術を見つけ、それを実用化するところから、ビジネスが生まれたということである。イーサーネットもパソコンもレーザープリンターも、ゼロックスの研究所から生まれたことを考えるとニューヨーク・パブリックライブラリーがなければ、デジタルパブリッシングもインターネットも生まれなかったということになる。

■トライ&エラーによる国家ビジョン作り


 日本に欠けているのは、知識を蓄積して、公開することを市民社会のインフラとして作り上げることなのではないだろうか。(さらにいうと市民が情報を探し当てるための助っ人・ナビゲーターを養成すること)その情報の価値は、その情報を見つけた人の発想と行動によってきまる。数字と図形が書いてあるにすぎない単なる紙切れが、誰かの目に触れることによって、事業を生み出し、恐るべき価値を生み出していくのだ。もちろん、事業に失敗する場合も多いだろう。だが、失敗するためには、そもそも、情報が公開されていなければ失敗すらできない。決められたレールがあるなら、失敗する必要もないが、これからはどんどんトライしてエラーして、その中からタネを育てていくのであるのなら、情報は公開されていなければならない。そのようなインフラを、日本の国家的なビジョンとして作り出すべきではないか。

 実は、ニューヨーク・パブリックライブラリーは、NPOによる運営である。市も資金を出しているが、ニューヨーク・パブリックライブラリーの価値を認めて、寄付する資産をもった個人や企業によって、経営を支えられている。そうすることで、柔軟な発想で図書館を作れるし、さらにまた成果をあげるという責任感も生まれていく。

■民間の知恵と資金結集でインフラ作り


 日本でも、事業を生み出していくことを支援できるような図書館が求められている。私は、そのためにビジネス支援図書館推進協議会を作ったり、昨年は、協議会で浦安市立図書館のモデル事業を行った。浦安もよいが、ビジネス支援のためには、日比谷は最も適した場所ではないだろうか。東京都では、ビジネス支援図書館を作ることを施策としたが、残念ながら、都立図書館が候補からはずされているので日比谷図書館以外の図書館で実施されることになっているもようで、現在、選定中である。さらに日比谷図書館自体を、なくしてしまうという意向もあると聞く。

 もし、日比谷がビジネス支援によい場所なのであれば、もう、行政に頼らず、企業人や個人の力を結集して、新しい機能をもった図書館を作ることができないだろうか。民間の知恵と資金を結集して、次の世代の日本を作るようなインフラを作ることができたら、これは未来に生きる情報資源になるのではないだろうか。日比谷近郊の、経営者から勤めている人も含めてビジネスコミュニティの人々に、訴えたい。

 (この原稿を書き上げて、掲載されるまでの間に、東京都の委託で東京商工会議所で中小企業の経営や新規創業を支援する「ビジネス支援図書館事業」を開始することがアナウンスされた。)

<東京商工会議所のアナウンス>

http://www.tokyo-cci.or.jp/koho/seisakujyouhou/tosyo.html