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(5/24)市民のためのビジネス支援の図書館を!(松本 功)
松本 功 ひつじ書房代表取締役
筆者写真 このコラムの読者は、公共図書館を利用されているだろうか。勤めている人にしろ、自営をしている方にしろ、大きな会社を経営している方にしろ、利用できる時間にはあいていないし、仕事に使える本もないので使っていないという方が多いのではないだろうか。一方、ベストセラーは何百冊と購入されて、予約で一杯になり、半年待ちになっている場合もあり、勤めている人が利用していないわけではないだろう。通勤電車の中で、図書館で借りた本を読んでいる人も多いし、使われていないということもないのだろう。

■期待できない「まともな回答」


 ベストセラーを借りるという人がかなりの人数いる一方で、忙しくて図書館を利用できない人も少なくない。自分の仕事やビジネスに役に立つデータや、何かひらめきを与えてくれるようなホットな情報あるいは古典を求めていても、そのようなものはないと思っている人もいる。私の経験では、小説や児童書は、所蔵されているが、ちょっとした本がない。雑誌室はいつもこんでいるが、読まれているのは、一般的な雑誌の最新号であったりする。公共団体の予算削減の折、マイナーな雑誌はどんどん講読されなくなっており、講読中止の張り紙があちこちに貼ってある。図書館の場所が、情報のセンターというよりも小遣い節約のための場所といった雰囲気で、極端な言い方をするとセコイ雰囲気と創造性の欠乏感を感じることさえもあって、いたたまれない気持ちになることがある。私が住んでいる区では、本を調べようにも質問してもまともな回答が返ってくることはほとんど期待できないので、そこにある本を黙って読むしかできないところになっている。

 時間つぶしの材料を探している人は予約待ちまでして利用して、自分の課題に取り組もうとしている人は、利用しない。こんな二極分化が起きているのではないだろうか。ここで共通するイメージは、図書館は暇つぶしに使う場所だということだ。自分の余った時間−−通勤時間とか−−を消費するため、それも無料で貸してくれる場所というイメージ。何かを調べようという人からは、ためいきしかでない場所になっていて、時間を消費したい人には、消極的な満足の場所になっている。

■ビジネスサポートの窓口がある米国


 でも、図書館というものをそういう情報の消費の場所にしてしまっていいのだろうか。もったいないのではないか。図書館は、21世紀に知的なインフラのキーになるはずだし、デジタルデバイドの解消に大きな役割を演じると 信じているわたしには、残念だ。

 浦安市立中央図書館の常世田さんによると、NHKの3チャンネルでやっていた番組で、ニューヨークのハドソン川で、昼休みの時間に、橋からパラセーリングで飛び降りるという遊びを紹介していたことがあったそうだが、これをビジネスとしてやってみようと思った人が、始める際に、ニューヨーク公共図書館に行って、法律的に問題がないか、さまざまなことを聞いたという。ニューヨークでは、ビジネスを起こそうと思ったとき、図書館はそういう相談を受けたり、調べる場所になっている。さらに、ジャーナリストの菅谷明子さんによると、アメリカの図書館では、起業講座をやっていて、会社を作る講座を受講でき、関心を持った人には、ビジネスサポートのNPOの窓口が図書館の中にあり、相談をすることができるという。日本の図書館の講演会は「鴎外の文学」とか、文学講演会のイメージが強いが、ビジネスの起こし方のセミナーがあるということは驚きである。

 アメリカの図書館協会が、市民にアンケートをとった結果、ビジネスサポートをやってほしいという要望が大きく、要望に応えるために図書館ではさまざまなビジネスサポートが行われている。個人で契約するには高価なビジネスデータベースを、無料か安価で利用できるようにしている公共図書館も多い。

■ビジネスを生み出す場所か、情報消費の場所か


 ここで、重要なのは、図書館が情報やビジネスを作り出す場所なのかそれとも情報を消費する場所なのかということだ。日本の図書館が、消費するだけの場所であれば、不景気の中、予算を減らされても仕方がないだろう。ビジネスを生み出す場所であれば、雇用や税金を生み出すためのインフラということになり、不景気であればこそ、予算を増額しなければならない。大企業は、大学や研究機関から情報を手に入れることできるだろうが、普通の市民が、何かをしようと思ったときに情報を支援してくれる場所があるということは、社会自身の活性化の基礎になるのではないだろうか。ハドソン川のパラセーリングのように、新しい面白いビジネスが生まれてくる可能性がある。こうなれば、ベンチャー支援でもあるし、今は大きな組織に属している人でも、自分で起こしてみようという気持ちを強めてくれるのではないだろうか。

 ここで、宣伝になってしまうが、7月2日13時から「ビジネス支援図書館への挑戦」というシンポジウムを東京電機大学の丹羽講堂(神田)で行う。図書館をビジネス支援と結びつける日本で初めての催しになるだろう。

 詳細は、http://fleamarket.shohyo.co.jp/business-l/をご覧下さい。


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