2004年3月13日(土)の日誌 人生のためのインターンシップという考え

2004年3月13日(土)

人生のためのインターンシップという考え

今年度、インターン生として来てくれていた藤岡くんと黒木さんが、昨日で、インターン生を卒業した。こちら(3月のところをご覧下さい)

藤岡君は1冊、黒木さんは2冊の本を作ってくれた。二人ともインターン生としてのレポートを書いてくれるようにお願いしているので、実際の経験に基づく、報告が出てくると思うので、内容についてはその後でコメントしよう。

昨日は、第一回「本づくり発表会」(インターン生編)ということで二人に話をしてもらった。「本づくり発表会」は、社員+マチネスタッフ編を4月に計画している。「本づくり発表会」については別の機会に説明しよう。


第一回「本づくり発表会」(インターン生編)

その中で、藤岡君が、出版関係でインターンをしているところは皆無なので、そのことをもっと訴えたらよいのではないか、という提案をしてくれた。ただ、通常、インターンと呼ばれているものは、就職活動の前に行うもので、3年生の前半に多いと言うことであり、4年生になってから行うことは珍しいと言うことであった。私は元カリスマインターン生小室さんの印象があったからか、そのカリスマインターン生が経験したETICの案内にそう書いてあったのか、記憶がはっきりしないのだけれど、就職が決まってから長期的に行うインターンというものも多いのかと誤解していたところがある。

私は、アルバイトとインターンの違いは、命令されて仕事をするのか、自分のリスクをとって仕事をするのかという点にあると思う。アルバイトでも、自分の責任で仕事をしてもらいたいと願っているが、インターンの場合は、狭い局面であっても仕事を任せたいと思っている。となると3年生という就職活動前の学生は社会的に仕事をするということを十分には理解していないだろうから、なかなか難しいことになる。とまあ悩んでしまったのだが、でも、それなりにアイディアは湧いてきた。

人生のためのインターンという考えも必要だろう。就職が決まったから、4年生は遊んですごそうではなく、その就職先に対して、その会社が良い会社であろうとそうでなかろうと、もう一つ違う軸を経験しておくことはけっして損にはならないと思う。本当は良い会社であるのに気がつかなかったりということはあるし、3年以内に3割が転職してしまうという時代に、経験は無駄にはならないだろう。その点でも、二人に感謝するし、もっと多くの学生がそのような視点に立ってほしいと思うのだ。たぶん、二人は4月からの就職先でも優秀な社員になるだろう。カリスマインターン生の小室淑恵さんのすごいところは、就職のためにインターンをしたということではなく、人生の設計のためにインターンをしたということだろう。そういう人はまだ少ない。小室淑恵さんの資生堂でのプロジェクト

さて、インターンには二つのコースがあることになる。

「就職が決まった人」と「就職が決まる前の人」というコースがあり、もし、ひつじの仕事の内容で考えるとすると以下のようになるのではないだろうか。

■就職が決まった人

●出版社で働く予定の人へ

出版業界の全体を知りたい人

●出版社で働く訳ではない人

○一度は、出版社で働いてみたい
○出版社が持っているスキルを知りたい

■就職が決まる前

○出版社の仕事が知りたい

出版社の仕事は、本を作って売るという基本的な能力の上で、企画を立ててて、その企画を本の完成に向けて実現の方向に進めるというものである。

(規模の大きい会社は、それぞれ分業しているし、専門化もしているが、この原則は忘れてはならないものだと思う)

本を作って、売ると言うことは、実際に物体としての本を作るための原稿を手に入れ、それを実際の本になるように加工し、さらに実際の本にするということである。さらに、それを実際に売ることで、読者と予想したニーズとのギャップに常にさらされながら、軌道修正を行いつつ、めざす方向へ前進していくということである。

出版という仕事が、面白いのは、執筆するということであれば、執筆者にかなわないし、本を物理的に作るだけであれば、印刷所や製本屋さんにかなわない。本を売ると言うことについて言えば、書店さんにかなわない。しかしながら、一番、リスクを負っているのは出版かもしれません。来るかどうか不明の原稿を待ち続け、売れるか判らない原稿を印刷所に入れ、印刷代を支払い、原稿料をたいていの場合は支払います。売れなければ、投入した自分の時間は、経済的には意味のないものになるのです。これが受注生産のビジネスと違うところ。

出版における専門性は、個別のジャンルの専門性ではなく、つながっているものだ。専門性があるとしたら、専門家としてではなく、統合家としてであり、ここではペイイットフォワードではないが、価値が100パーセント判定される前に「先物買い」をすることがもっとも重要なことかもしれない。

就職が決まった学生さんの場合、販売の基礎データを入力してもらったり、販売の補助をしてもらった上で、本を作る作業をしていただくことになる。夏休み前に来てもらえれば、本を1冊か2冊作って、本を作った後のプロモーションまでひととおり、仕事をして卒業という流れを経験していただくことができる。

就職が決まる前の場合のプログラム

では、就職が決まる前の場合はどのようにすればよいのだろうか。たとえば、3ヶ月では本を作る経験を実際に経験することは難しいと思います。ユニットとして、ひとくくりの仕事を任せることができるのはどういう場合だろうか。

プログラム案1 ナレッジナビゲーション提案書

3ヶ月程度でいちおうの成果のでるものと考えるとなかなか難しいというのが、実感だが、昨晩、寝ながら、考えたのは、書店さんに調査して、書店さんへの提案書の資料を作ってもらい、私がアドバイスして、実際の棚づくりと営業の提案書を作るというもの。

この活動は、3ヶ月程度で終結できるというだけではなく、ひつじの今までとこれからの活動を連携させることができる。たとえば、「市民知を巡る仮想の本棚」というテーマを作るという提案を行うとする。市民知を巡る本というのは、書店のあちこちの棚に分散している。8階建ての書店があるとして、それは、それぞれのたなに分散しておかれていて、可視的には連携されていないのがほとんど。(これは書店が機能不全になっているのではなく、たぶん、現実の世界の現状をそのまま反映しているということ)インターン生は、たとえば、市民知というキーワードを自分なりにとらえて、小さなデジカメで書店でそれに関連しているコーナーを撮影する。撮影した棚を記録し、事務所(自宅でも、大学でも良い)で、その書名を確認し、書誌データをデータベース化する。その上で、画像込みの一覧表を作り、それを検討する。検討するのは他の書店を回った別のインターンでもかまわない。さらに、それを私なり、社員なりと協議する。抜けているところ、発見があるところがあると思うので、そこで、追加調査をする。これを何回か繰り返した後で、書店さん向けの提案書を作る。(このアイディアは、ここ2週間の間に、立教大学21世紀社会デザイン科の川中さんと石井さん、説明堂の石川さん、静岡の平野さんのブックササイズの考え、佳境に入っている言語学出版総目録の項目検討の作業から、啓発されたものです)

それを見てもらって、プレゼンテーションを行っても良い、検討した上で、提案書を作り直す。その過程で、来店者向けのパンフレットを作っても良い。さらにそれをその書店のホームページから、ダウンロードできるようにしてもよいのではないだろうか。

最初の打ち合わせとオリエンテーションがあれば、後は小さなデジカとパソコンがあれば、かなりのところまでできる。きちんと提案書ができるという成果も作ることができる。

この仕事は、就職活動に役に立つようなスキルを身につけることができるし、さらには、一生涯役に立つ、出版社の持っている情報の発信側と受け手に立った視線を知ることができるだろう。プロジェクトの目的と内容が、単なる出版業界の慣習を習得させるというようなことではないので、出版社に就職しなくても役に立つ経験になるはずだ。

とまあ、こんなことを考えました。もし、関心がある方は、toiawase@hituzi.co.jpまでメールを下さい。

「本の出し方」「学術書の刊行の仕方」スタッフ募集について日誌の目次

日誌の目次へ
ホームページに戻る


ご意見、ご感想をお寄せ下さい。

房主
isao@hituzi.co.jp