マイナー言語研究書の旬を作りましょう 2
2020年2月25日(火)

マイナー言語研究書の旬を作りましょう 2

ひつじメール通信(2月20日)にて配信しましたものを元にしています。

『まちの本屋』から触発されまして、旬についての話題を続けます。

学術書の出版において、旬というのは、ある学術書を受け入れる準備ができるようにするということですが、考えることはいろいろとあります。

先端的な内容である場合に、これまで誰もその内容について言及していないから、新しいわけですから、準備は存在しないということになります。しかしながら、いきなりどこにも発表していない研究者が、書籍で登場するということは、学術書の場合にはありません。文芸書のようなジャンルであれば、文芸雑誌に投稿された作品を世に問うということはあります。これは、文芸作品というものが、いきなりの登場ということがあるということと、ブランド力があって、かつ優れた文芸出版社であれば、そこから出版されていることが、作品として一定以上の品質であることを保証することができます。作品自体の力で、広がっていくことができる可能性があります。出版でいきなりデビューということもありますが、現代ではネットで作家が自力で告知活動を行って、それから作品が公開されるということも行われていますし、作家自体が自前でのプロモーションと出版社からの出版を連動することもあります。

通常、研究成果を書籍にまとめる前に、学会で発表されたり、学術雑誌に投稿して掲載されるということがありますので、その時にその方の研究が注目されるということがあります。そのようなことが、受け入れられる下地作り、準備にもなると思います。学会での発表と出版を別々の活動と考えるよりも、連動していると考えた方が本来でしょう。そのような準備があって、学術的な著書が出るということが、望ましいですが、発表をされていて、学術雑誌にのっていても、読者がその発表を聞いていなかったり、掲載論文を読んでいないということもあります。関心の領域が、関わっていませんとそういう研究があるということを知ることもありませんので、準備ということが難しいということになります。

そう考えますと著書を出版するということが、それまで、知らなかった人への喚起になることが、重要ということになります。出版社から、出版されたので読んでみようとか、目録や宣伝文から、自分の関心に関わっているのではないかと思いを寄せてもらうことができるとかのことです。まとまった分量のある著書を刊行するということは、誰でもできることではありません、並大抵のことではありませんので、そこまでして刊行されたということは、大きなことであり、エネルギーの籠もったことと思います。労力をかけて、力を込めて刊行するわけですから、書籍出版による喚起力が生まれてほしいところですが、生まれるかどうか。本が出ることによって書評や書評紙、ネットでどなたかが言及して下さることが、重要です。その点で商業的学術誌というのが、重要でありました。月刊言語などの商業的な雑誌が無くなってしまったことが残念です。学会誌などとは別に開かれた学術ジャーナリズムは、とても貴重です。

刊行する以前に、なかなか下拵えができない場合に、刊行するということが、広めていくための大きなきっかけであり、重要なファクターになるのです。本の刊行自体が旬を作ります。そうであるなら、せっかくのチャンスである刊行自体を上手に告知していかないといけないことになります。刊行した時期を逃しますとチャンスはないといえます。

とても、優れている研究者の方で、その研究がかなり知られているという場合もあります。正当派で、多数派にも支持されている場合。そういう場合には、書籍の出版をすることによって、研究を広めることの必要がないと思われるということもあります。そのような場合に、なかなか出版にいたらないでしょう。何か広めたいという気持ち。すでに広く受け入れられている研究内容とは違った研究を進めていて、それを従来の体制に対抗して打ち出したい、出版によって、これまでの定説に対して議論を起こしたいという考えがありますと、出版が重要になります。全員が、定説を守っている側であれば、新しく何かを世に問う必要はないことになります。

刊行された後に、書籍を読んで、読んだ方に引用していただいたり、反論を含めて議論されることが、その学術書の読者を作っていくことと思ってきましたが、書籍が刊行されたその時が、大事な旬であるのなら、刊行される前から、はじめることがあるということです。出版社としては、原稿を拝見して、刊行を進めようと考えた段階から、下地作りは開始するべきということだと思います。刊行後、一生懸命に宣伝・広報することはもちろん重要ですが、刊行の準備を進めるところから、旬を作るために出版社の仕事ははじまるということです。そして、そのためには著者にも、できるだけ、読者を開拓するためにやっていただくことがあります。内容に合わせて、旬の準備の仕方は違っているでしょう。その本その本ごとに最適な方法を考えて、実行しなければならないと考えます。それはいろいろなことがあります。そのことを改めて、認識しました。具体的には、さらに考えていきたいと思います。

最後に、申し上げます。ひつじ書房は1990年の2月21日に創立しました。30年前です。この日にスタートしたのですが、社としては、有限会社として法人登記を行った6月19日を創業記念日と考えて、います。21日は、国際母語デーの日でもあります。今年は、ひつじ書房がスタートして30周年の年です。これからの30年を考えつつ、今年を過ごしたいと思います。何らかのお祝いのイベントは、行うつもりですが、まだ、未定です。

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執筆要綱・執筆要項こちらをご覧下さい。



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