2019年の振り返り
2019年12月30日(月)

2019年の振り返り

2019年を振り返ります。最初に申し上げるのは私が、今年、担当して作った本です。10冊です。著者の方々に感謝申し上げます。力不足で2019年に刊行できませんでした書籍については、著者の方々、読者の方々にお詫び申し上げます。できた本も一人で作ることができたわけでなく、海老澤にだいぶ手伝ってもらって作りました書籍もあります。『リフレクティブ・プラクティス入門』と『ホーン『否定の博物誌』の論理』の2冊がそうです。ほかの本でも手伝ってもらっています。私に縁の深かった本は『日本語 下手談義』と『語彙論と文法論と』の2冊で、『日本語 下手談義』は、私自身が、杉本先生に結婚式の仲人をしていただきましたご縁で、ご自身の90歳を記念した本を刊行しました。『語彙論と文法論と』は、村木新次郎先生の最後の本になりました。日本語文法研究において、「語彙論」の扱いが弱いことに問題提起をする本です。残念なことにお亡くなりになる日に間に合いませんでした。村木先生は、ひつじ書房創業の前から、ひつじ書房にご助力いただいていました。村木先生のお力添えが無ければ、ひつじ書房は出発できなかったことでしょう。感謝申し上げますとともにご冥福をお祈りいたします。

  • 1 Native Speakerにちょっと気になる日本人の英語 山根キャサリン 著
  • 2 意味変化の規則性 エリザベス・C.トラウゴット、リチャード・B.ダッシャー 著 日野資成 訳
  • 3 リフレクティブ・プラクティス入門 玉井健・渡辺敦子・浅岡千利世 著
  • 4 「ゲノム編集作物」を話し合う 三上直之・立川雅司 著
  • 5 越境する東アジアの文化を問う 千野拓政 編
  • 6 Critical Reading through Collaborative Learning 舘岡洋子 監修 津田ひろみ、小松千明、大須賀直子、Alison Stewart 著
  • 7 民主的シティズンシップの育て方 名嶋義直 編
  • 8 語彙論と文法論と 村木新次郎 著
  • 9 日本語 下手談義 杉本つとむ 著
  • 10 ホーン『否定の博物誌』の論理 加藤泰彦 著

    ここ数年、ポスト記述文法ということを考えています。いろいろなところで、何度も繰り返しているので、同じ話かと言われるかも知れません。日本語学(英語学も含む)における「記述文法」を乗り越えないといけないのではないか、ということです。研究の上でもそのような模索が行われていると思います。狭い意味での規範文法は、批判されるべきですが、文法を語る時の求心性(まとまりとして考えること)というものを簡単に批判できるのか、これまでの記述文法は、規範を批判することにおいて楽観的過ぎたのではないのかということを思います。その点から、規範ということをあらためて考えるべきで、よりよい言語の使い方のような議論も必要であろうと思われます。規範性を批判していれば、それで解決という素朴な考えへの再検討(規範性についての再検討)。文が文としてまとまった形であるという書き言葉の前提が話し言葉へも持ち込まれていたことの反省(書き言葉の密輸入への再検討)。だれでも、普遍的な人権から考えると全ての人に平等に発言する権利はあるという前提(理念)がありますが、そうなのかという(言語的参加の平等・均衡説への再検討)。言語は理解されるものだというコミュニケーション観に対して、葛藤を前提に考えるべきだという(記述主義の前提にあった調和しているはずだという言語観への再検討)。言語と関連する動作的なもの(ジェスチャー、視線、頷き、声の調子、誰が発話するか、順番)、関連するものは、これまで無視してきたものであり、どこまで記述の範囲に入れるのかというのは、無意識に決めてきたということがあります(記述範囲への反省)、真実を話すことをの前提から上手に話すということ、真偽だけではなく、上手下手というレトリック的な捉え方。などなど、記述文法主義の持っていた安定して、調和的な言語観への批判とその批判に基づいた言語研究が、行われてきていると思います。やるべきことは、非常に多いわけで、まだまだ、未開発な分野やテーマが少なくない。しかし、記述主義は、文学部での言語研究、外国語学部での言語研究を暗黙のうちに想定しており、その枠を越えるとしたら、文学部、外国語学部とかわる学科が必要になるでしょう。あるいは、文学部、外国語学部自体が、21世紀的なあり方に変わることができるのか。これはアカデミズム全体の構造の問題につながっていきます。それを考えないと21世紀の人文科学は存在できないということもできます。

    21世紀もはや20年に達しようとしているわけですが、言語観自体の変革が生まれようとしています。それに、ひつじ書房は連携し、応援していきたいと思っています。それに関わる研究書を2020年の前半に刊行していきたいと思っています。

    全般的なことでいうと梓会の「梓会出版文化賞」の授賞式が、1月にありました。ありがたいことです。『関西弁事典』が第53回造本装幀コンクールで日本図書館協会賞を受賞しましたを取りました。(→日本図書館協会賞)ありがとうございます。今年は、立派な賞をいただくことができた年でした。また、年の瀬に近付いてからは、「「いま何もしなければ」なくなってしまう琉球諸語の絵本を出版」のクラウドファウンディングの呼びかけを行いました。(→クラウドファウンディングサイト)ひつじ書房は、クラウドファウンディングで集まりました資金によって、印刷して、製本して、販売することをします。全国の書店、図書館に働きかけて、「絵本」を買ってもらったり、受け入れてもらったりするのを手伝うという関わりです。ビジネスも関わった「事業」だと思っています。島には書店がありませんので、どうやって、目に見えるかたちで存在するようにしていくか、手に触れて購入可能にしていくのかというのもの困難な課題です。相談の中では地元の美容院に置いて、売ってもらうとかも話しに出ていました。そもそも、書店というものがないところで、絵本というものを、存在させることができるのか。市場があって、流通があって、お金があれば買える商品というかたちになっていないものをどう共有するのか。共感とか同情とか、助けたいとか情緒的な力に期待するのですが、「美談」だけではは、自己満足になってしまいます。商品になりにくいからといって、無料で配るとするとそのコストは全て作り手に被さってしまいますし、買ったり読んだりすることによって、他人ごとから少し変わるということも期待したいとすると商品でもあり、商品でもない「半商品」というのが、よいように思います。ブームになれば、商品にすることもできるかもしれないのですが、ブームを起こせるのか、わかりません。新聞でも、出版元になるであろうひつじ書房に触れることがないのは、「半商品」というのが、いささか認識が難しいということがあるのだろうかと思います。おかげさまで最初の目標額は1月で越えることができました。深く感謝します。

    あたらしいことに取り組みつつ、新しい年を迎えます。来年は30周年です。言語の書籍の可能性をうったえていきたいと思います。やるべきことは多いなか、人手が足りない状態ですので、学部4年生、修士2年生、既卒の方で、ことばに関わる書籍を編集出版することに興味のある方からの応募をお待ちしております。新しい人とともに新しい時代を作っていきたいと思います。来年は、ひつじ書房のwebも改訂して、一新します。よい年をお迎え下さい。

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    執筆要綱・執筆要項こちらをご覧下さい。



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