編か編著か

2015年10月15日(木)

秋田語から見ると 小島さんの講演

ひつじメール通信とほぼ同文です。

9月は出張が多かったのですが、後半には秋田に出張しました。小島剛一さんのラズ語の辞書刊行の賛同者を集める講演会のためです。ひつじ書房では、小島さんの『再構築した日本語文法』という本を刊行しています。小島さんは、博士号を持つ言語学者ですが、アカデミックな機関に属しているわけではないという意味では、野の言語学者といえます。

小島剛一さんのことを知りましたのは、ずいぶん、昔のことです。『トルコのもう一つの顔』は、1991年の刊行ですが、私の部屋の本棚にありました。年末の部屋掃除、部屋を片付ける時に、掃除が一段落すると本棚の隅に並んでいるこの本を見つけて、読み出すととまらずに、読み通してしまい、掃除が完了しないで、夕ご飯の時間になるということがしばしばでした。小島剛一さんのことというよりも、この『トルコのもう一つの顔』を書いた方という認識でした。

その後だいぶたって、ひつじ書房に入ったばかりで、当時新人だった板東に言語学の関係で何がおすすめですか、と聞かれて、この本をすすめました。その後、驚いたことに彼女が友人にこの本をすすめまして、その友人が小島さんとコンタクトをとったのです。私は、本の中の人で、トルコ政府に追われるという立場から、個人的な情報を公開していなかったこともあり、実際に存在している人物でいらっしゃるのか、それとももう社会に存在していないのか、実際にご本人に連絡をとるという発想がありませんでしたので、板東が、平日に休みをとった日だったかにいきなり京都の鴨川から電話をしてきて、小島さんと代わりますね、と言われた時には、驚きました。その日の後に事務所に寄られまして、その時に日本語文法の書籍を出そうという話になったと記憶しています。

今回の講演で興味深いということがいくつもありました。講演の表題になっている、 Je suis Charlieの日本語訳の誤訳の問題もありますが、秋田での講演では秋田弁(小島さんは秋田諸語と呼んでいます)のことを取り上げていました。秋田をはじめ北東北には母音が24種類あるというのです。北東北出身の言語学者は多いように思いますので、そのことを強調してもよかったと思いますが、あまりそういう発言はしてこなかったと思います。たぶん、日本語あるいは標準日本語の側から、東北弁を見ているのでしょう。小島さんは、そうではなく、秋田の側から、標準語・共通語を見ています。秋田の側というよりも、少数言語話者の側から言語を見ているということです。小島さんの話では、秋田語には鼻母音があるので、鼻母音を持つ言語を学ぶときに学びやすいとおっしゃいました。しかし、フランス語の鼻母音を教えるときに、秋田の高校の先生が、秋田語の鼻母音を使って、フランス語を教えられるでしょうか。小島さんでなければ、ほとんど無理でしょう。

ということで、中央語からではなく、その土地の言語から見るという小島さんの姿勢に、私は感銘を受けました。

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