断絶のコミュニケーション 高田博行・山下仁編 断絶のコミュニケーション 高田博行・山下仁編
2019年3月刊行

シリーズドイツ語が拓く地平 1

断絶のコミュニケーション

高田博行・山下仁編

ブックデザイン 杉下城司

A5判並製 272頁 定価3,800円+税

ISBN 978-4-89476-961-8

ひつじ書房
Perspectives of the German Language 1
Disrupted Communication
Edited by Takada Hiroyuki, Yamashita Hitoshi


ドイツ語という言語を切り口に、社会、歴史、文化の問題を論じるシリーズ第1巻。第1部「ナチズムと言語」では、言語学史、メディア学、芸術論の観点からナチズムを分析。現代に至るナチズムの言説を再検討する。第2部「現代社会と言語」では、報道文や移民の言語、ヘイトスピーチ、また現代社会でそもそもコミュニケーションは可能かという問題に切り込む。
執筆者:大宮勘一郎、川島隆、佐藤卓己、高田博行、田中克彦、田中翔太、田中愼、田野大輔、野呂香代子、初見基、山下仁




【目次】

シリーズ ドイツ語が拓く地平 刊行によせて

第1部 ナチズムと言語
 第1部 はじめに

第1章 ドイツ語の「武装解除」はできるか?
 田中克彦

1. 1945年における言語学の状況と“WORD”の創刊
2. ドイツの言語思想を告発した巻頭論文
3. ロマニスト・クレンペラーとLTI論
4. 母語への自覚と純化運動の発生
5. 純化運動の例外となったヒトラー
6. ソンメルフェルトに対するワイスゲルバーの反論
7. シャルル・バイイの、言語にあらわれた民族文体論
8. むすび

第2章 国民社会主義のメディア研究に向けた視座
 佐藤卓己

1. 「国民社会主義」と「メディア」―翻訳の陥穽
1.1 国民社会主義か国家社会主義か
1.2 メディアは「広告媒体」
2. 「ファシスト的公共性」の射程
2.1 「ブルジョア的公共性」論の限界
2.2 脱文筆的公共性のニューメディア
3. メディア学の「ナチ遺産」
3.1 協力と継続と沈黙と
3.2 メディア学の総力戦パラダイム

第3章 二重の美化―『意志の勝利』のプロパガンダ性をめぐって
 田野大輔

1. はじめに
2. 総統の委託
3. 芸術性の追求
4. 二重の美化
5. ファシズムの美学
6. おわりに
コラム ナチ党大会の実態

第4章 戦後ナチ批判言説のはじまり―「集団の罪」の追及と反撥
 初見基

1. はじめに
2. 国外亡命者からの批判
2.1 Franz Werfel(1890-1945)
2.2 Sigrid Undset(1882-1949)
2.3 Thomas Mann(1875-1955)
2.4 Erich Kahler(1885-1970)
2.5 Hannah Arendt(1906-1975)
3. スイス知識人からの発言
3.1 Karl Barth(1886-1968)
3.2 Carl Gustav Jung(1875-1961)
4. おわりに
コラム 罪の追及から「過去の克服」そして「想起文化」へ

第5章 ドイツ再統一と政治的言説の変容―国民の「不一致的統合」とある学問的スキャンダル
 大宮勘一郎

1. はじめに
2. ドイツ再統一ともう一つの「国民」言説
3. 国民統合言説の両義性 包摂という排除
4. 「ドイツ―ドイツ・シェパード」スキャンダル
5. おわりに
コラム 学問言語とその〈限界〉

第6章 透かし彫りのナチ語彙―AfD党幹部ビョルン・ヘッケの言説をめぐって
 高田博行

1. 拡散する「粗悪な」政治的言説
2. 名称と意味をめぐる闘争
3. データ:ヘッケの演説とFacebook
4. ヘッケ演説の概要
5. 「標榜語」としてのナチ語彙
6. 回避されるナチ語彙
7. 反転したナチ語彙
8. テクストの透かし彫り―「イペルテクスト性」
9. 生物学的・病理学的メタファー
コラム ヒトラー演説における「女性」


第2部 現代社会と言語
 第2部 はじめに

第7章 ドイツの「フクシマ」報道と新聞読者の反応―または社会を分断する言葉の流通
 川島隆

1. はじめに―「パニック報道」?
2. ドイツの原発報道の歴史
2.1 原子力をめぐる言説の付置
2.2 ドイツの新聞各紙の傾向
2.3 福島原発事故の影響と「ジャーマン・アングスト」言説
3. 新聞各紙の投書欄に見る「社会の分断」の超克の可能性
3.1 『南ドイツ新聞』の投書欄
3.2 『ヴェルト』の投書欄
3.3 『フランクフルター・アルゲマイネ』の投書欄
4. おわりにー社会を分断する言葉
コラム 「フクシマ」をめぐる報道写真(と見出しの言葉)

第8章 トルコ系移民のドイツ語―ドイツ社会における実態と認知をめぐって
 田中翔太

1. はじめに
2. ドイツにおけるトルコ系移民
2.1 外国人労働者として
2.2 ドイツ社会への統合
2.3 トルコ系移民の話すドイツ語とそのイメージ
3. トルコ系移民第三世代が話すドイツ語
3.1 トルコ系移民の言語使用に関する調査
3.2 家族に対する言語使用
3.3 家族以外の人物に対する言語使用
4. トルコ系移民が話すドイツ語とドイツ社会
4.1 現代社会が抱くトルコ系移民のドイツ語に関するイメージ
4.2 概念の多様化
4.3 ドイツ人が与える評価
5. まとめ
コラム ヨーロッパの移民をめぐる言語状況

第9章 難民・移民をめぐるコミュニケーション―「対抗する談話」構築のための予備的考察
 野呂香代子

1. はじめに―対抗する談話とは何か
2. 右翼ポピュリスト政党の談話
2.1 難民・移民
2.2 右翼ポピュリスト政党
2.3 AfDの選挙綱領
3. 政治教育
4. まとめ
コラム 政治教育の実践

第10章 ヘイトスピーチに関する社会言語学的考察
 山下仁

1. はじめに
2. 社会言語学以外の取り組み
3. ドイツにおける言語学の立場からの議論
4. ヨルク・バベロフスキーの暴力論
5. マーサ・ヌスバウムの感情論
5.1 感情と信念
5.2 怒りと嫌悪感について
5.3 羞恥心について
6. まとめ
コラム 構造的差別

第11章 そもそもコミュニケーションは成り立っているのか?―「言語の檻」を超えるしくみ
 田中愼

1. コミュニケーションの断絶?
2. 世界の認識可能性と言語化の問題―「コミュニケーションの断絶」への道
3. 「言語の檻」?―言語相対論
4. 表象のしくみ(世界を言語化する)―記号化の2段階
4.1 記号作用1(語彙レベル、世界を分類するプロセス)
4.2 記号作用2(文法レベル、対象を同定するプロセス)
4.3 記号の三角形
5. ドイツ語におけるコミュニケーションのしくみ 定形とV2語順
6. 「逸脱」のしくみ―言語の規制による社会の操作の可能性
6.1 不適切な言語使用による社会の操作―Unwort des Jahres
6.2 言語の規制の試み―ジョージ・オーウェルのニュースピーク
コラム ドイツ国歌の改正論議


執筆者紹介


【編者】
高田博行(たかだ ひろゆき)
学習院大学文学部教授
[主な著書]Grammatik und Sprachwirklichkeit von 1640–1700. Zur Rolle deuscher Grammatiker im schriftsprachlichen Ausgleichsprozeß(Niemeyer, 1998; Reprint: De Gruyter, 2011)、『ヒトラー演説―熱狂の真実』(中央公論新社、2014)など。

山下仁(やました ひとし)
大阪大学言語文化研究科教授
[主な著書]『 講座ドイツ言語学3 ドイツ語の社会語用論』[共編](ひつじ書房、 2014)、『ことばの「やさしさ」とは何か―批判的社会言語学からのアプロー チ』[共編](三元社、2015)など。

シリーズ ドイツ語が拓く地平 責任編集
高田博行 山下仁 田中愼 大宮勘一郎 井出万秀 川島隆
ご注文は、最寄りの書店さんでお願いします。
お店に在庫が無くても、お取り寄せができます。
書店が最寄りにない場合は、オンライン書店でご注文ください。

 

 



お急ぎの場合は、小社あてにご注文いただくこともできます。
郵便番号、ご住所、お名前、お電話番号をメールか、FAXでお知らせください。
新刊案内へ
ひつじ書房ホームページトップへ