ひつじ書房 トランス・モダン・リテラチャー 「移動」と「自己」をめぐる芥川賞作家の現代小説分析 疋田雅昭著 ひつじ書房 トランス・モダン・リテラチャー 「移動」と「自己」をめぐる芥川賞作家の現代小説分析 疋田雅昭著
2021年5月刊行

未発選書 29

トランス・モダン・リテラチャー

「移動」と「自己」をめぐる芥川賞作家の現代小説分析

疋田雅昭著

定価5800円+税 四六判上製 582頁

ISBN978-4-8234-1094-9

装画 箕輪麻紀子

装丁 コードデザインスタジオ

ひつじ書房

Trans Modern Literature: Analysis of Contemporary Novels by Akutagawa Prize-Winning Authors Focusing on ʻTransfersʼ and ʻIdentityʼ
Hikita Masaaki




【内容】

「自己」が近代文学が拘り続けたテーマであることは言を俟たないが、現代文学は統一され安定した「自己」そのものへの不信から始まっている。ともに時空を「移動」し続ける存在としての読者とテクストが出会う結節点。そこから変容しながらも繰り返し立ち上がってくる主体こそが現代文学が語る「自己」にほかならない。本書は「自己」と「移動」に着目し芥川賞受賞作家のテクストから平成という時代の諸相を読み込む試みである。

【目次】


序 「次」の無限後退からの「移動」―「ポストモダン文学」と区別して

第Ⅰ部 「移動」する「身体」【断片・性・家族】

第一章 逃走あるいは溶解する境界―笙野頼子「なにもしてない」をめぐって 【無職】【結婚】【天皇制】
1 「現実」との闘争あるいは「現実」からの逃走
2 「ひきこもり」から考えるあるいは「ひきこもり」を考える
3 「テレビ」と「現場」あるいは「現実」と「虚構」
4 母親から娘へあるいは娘から母親へ
5 病気からの快方あるいは遊びからの解放
6 伊勢への帰郷あるいは反転する「移動」
7 円環する物語あるいは出口のないトランスモダン

第二章 「倒錯」と「顛倒」の連鎖―笙野頼子「二百回忌」をめぐって 【本家/分家】【異界/日常】【鉄道】
1 「移動」あるいは「分裂」する主体
2 「排除」あるいは「包摂」の論理
3 「顛倒」あるいは「象徴」の連鎖
4 「家族」あるいは「性」の顛倒

第三章 移動する時空あるいは残された断片―笙野頼子「タイムスリップ・コンビナート」をめぐって 【昭和/平成】【鉄道】【記憶/記録】
1 無意識との対話あるいは別種の論理
2 「想起」「隠喩」「接続」あるいは「スリップ」する世界
3 「海」という目的地あるいは二つの無意識
4 ハワイとオキナワと目玉あるいは錯乱する時間
5 東芝とチョコレート―溶け合う表象

第四章 欲望する主婦たちあるいは抑圧される子供たち―多和田葉子「犬婿入り」をめぐって 【民話/都市伝説】【汚れ/性】【新興住宅地/伝統的地域】
1 民話(神話)的文体
2 メディアとしての子供たち
3 「汚」と「性」
4 「電報」と「民話」の形成
5 神話の完成
6 生成そのものを相対化する

第五章 錯綜する境界線―多和田葉子「ペルソナ」論 【境界線】【差別】【ペルソナ】
1 正常/異常という境界線あるいは「転移」する感情
2 「転移」しない感情あるいは運ばない媒体
3 「性」という境界線あるいは姉弟という画一化
4 「見る」客体あるいは「見られる」主体
5 錯綜する境界線あるいは化粧する「ペルソナ」
6 化粧する「ペルソナ」あるいは浮遊するシニフィアン

第Ⅱ部 「移動」する日常 転勤・通勤・上京 【転勤・通勤・上京】

第六章 労働的不安の諸相―小山田浩子「工場」論 【動物/人間】【内部/外部】【労働】
1 幻想化する「労働」
2 ゲシュタルト崩壊する対他意識―佳子の場合
3 内部と外部という排中律の無効化―古笛の場合
4 古笛と牛山―食の両義性
5 牛山の兄―記号のゲシュタルト崩壊
6 断片と統合―排中律の融解
7 排中律の消滅―動物と人間

第七章 日常的不安の諸相―小山田浩子「穴」論 【動物/人間】【都会/田舎】【実在/実存】
1 「枠」としての「鏡」
2 「媒介」としての「爪」「歯」
3 「亡霊」と「人間」を「媒介」するもの
4 対象aとしての「穴」

第八章 視線の交錯あるいは視線の占有―青山七恵「窓の灯」をめぐって 【覗き】【徘徊】【ラカン・眼差し】
1 客体としての「姉さん」あるいは生まれ変わる物語
2 客体としての「向かいの人」あるいは主客反転の物語
3 見ないで感じる「主体」あるいは「主体」を消す物語
4 特権的な位置の代替あるいはそれを奪う物語
5 弾き出された客体あるいは主体獲得の物語

第九章 「記憶」と「思い出」の狭間に―青山七恵「ひとり日和」をめぐって 【盗み】【ラカン・鏡像】【眼差し】
1 「見る」女たちあるいは「移動」しない主体
2 消されるべき時間
3 母と新宿
4 消されるべき人
5 消されるべき駅名

第Ⅲ部 「移動」する「私」 【記号文化・家族・経済】

第一〇章 言葉の「闘争」と言葉からの「逃走」―中上健次「十九歳の地図」をめぐって 【浪人生】【電話】【新聞奨学生】
1 危ういバランス
2 テクストの時代性
3 「紺野」という存在
4 ‌言葉の闘争/逃走‌

第一一章 記号文化に外部はあり得たのか―藤原智美「運転士」論 【記号文化】【フロイト】【メタファー】
1 「記号」的世界の中の「運転士」
2 「時間厳守」という意識と無意識
3 「夢」の「女」あるいは「比喩」の「連想」
4 「女」と「審級」をめぐる物語
5 「記号」の逆説

第一二章 「見えないもの」が見せてくれるもの―長嶋有「猛スピードで母は」論 【記号文化】【欠損家族】【可視/不可視】
1 時代の刻印としての物語
2 母と家族の物語
3 慎と慎一の物語
4 慎と須藤君との物語
5 霧の物語

第一三章 宛先のない「告白」が誤配される時―絲山秋子「沖で待つ」をめぐって 【労働】【記憶/記録】【転勤】
1 宛先のない「告白」あるいは構造的なテクスト
2 断絶としての「起点」あるいは現実と接続するテクスト
3 語られる素朴な「連帯」あるいは周到なテクスト
4 機能としてのキャラクターあるいは「同期」を語るテクスト
5 記録される「記憶」あるいは「記憶」するテクスト
6 記憶される「記録」あるいは宛先のない「テクスト」

第一四章 政治と読むことあるいは人物に寄り添うということ―楊逸「ワンちゃん」をめぐって 【経済格差】【国際結婚】【中国/日本】
1 「移動」する名前
2 重なり合う時空
3 「移動」する主体
4 ずれ続ける「主体」
5 「移動」する「赤」

第一五章 他者の居ないセカイあるいは永遠に円環する物語―松浦寿輝「花腐し」をめぐって 【江戸/東京】【バブル以後】【反復】
1 濡れる男あるいは大久保というトポス
2 腐る男あるいは反復する物語
3 反転する二人あるいは浸食する伊関
4 境界の移動あるいは反転する鏡
5 憎しみの連鎖あるいは連鎖する無関心
6 誘惑するアスカあるいはキノコの誘惑
7 再帰する祥子あるいは不吉な吉兆

結 「あとがき」に代えてあるいは「現象」としての「文学」―「文学」から学べること

 索引

【著者紹介】

疋田雅昭(ひきた まさあき)
〈略歴〉1970年生まれ。立教大学文学研究科博士課程後期課程修了。博士(文学)。長野県短期大学助教、准教授を経て、現在東京学芸大学教育学部准教授。
〈主な著書〉『接続する中也』(笠間書院、2007)、『スポーツする文学――1920-30年代の文化詩学』(共編著、青弓社、2009)、『コレクション・モダン都市文化80 出版メディア』(編著、ゆまに書房、2012)、『コレクション・戦後詩誌16-20 戦後詩の推進者』(編著、ゆまに書房、2019)ほか。


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