先日、大学生協東京事業連合書籍担当者の主催で、人文書勉強会が行われた。当フォーラムの青木代表幹事の呼びかけで、私も参加した。
 講師は野崎出版考房 野崎保志氏。講演の中で、週ごとに発表される取次、有力書店などの売上ランキングは、ベスト10、せいぜいベスト20。 少なくともベスト100くらいのランキングを発表できないかというような指摘があった。
 質疑応答で、すかさず青木氏が質問。我々の出す本のランキングは、アマゾンのランキングなどでは1万番とかそれ以下の本が多い。ベスト100 を基準に品揃えをされては、とんでもないことになると反論した。野崎氏は、1.自分はできればジャンル別で出して欲しいと主張している。 ジャンル別にすれば、専門書なども100位の中に入ってくるものもあるはず。2.もちろん100位以下のランキングがわかるにこしたことはないが、 現在の状況を考えると100位まで公表すれば1歩前進である、と再反論した。
 さて、野崎―青木論争に関して、それぞれの主張に一理あると思う。にもかかわらず、何故、そのような見解の相違が生じてしまったのだろう。 いきなり飛躍したような例になるが、株式投資という題材に、この件を考えてみたい。
株式投資には、短期投資と長期投資がある。投機も含む短期投資は、主に株式市場や個別銘柄の需給関係や、株価の推移、短期的な収益の変化、 というような点に注目する。これに対して、長期投資は、今後数年に渡る世界経済の動向、産業構造の変化、個別企業の潜在的な経営力や技術力 、また成長力に注目して投資する。
 株式市場は、短期投資と長期投資の2つの要素が必要だ。これら2つの要素がミックスされるとこによって、株式市場に厚みができ、市場が活発 になるからだ。素人考えではあるが、現在の東京株式市場は長期投資という点で厚みがないように思う。バブル崩壊後10年以上経っても、今だ株価 が本格回復しないのはそのためではないだろうか。
 さて、書籍流通においても、各週ごとのランキングで、短期的なトレンドを追い、品揃えに生かすことはとても重要だ。しかし、同時に新刊の時 の動きはそれほどではなくとも、読者の口コミなどで、何年もかけて重版を重ね、累計販売冊数を伸ばしている本もある。そのような本も同時に 販売していくことが、品揃えの充実につながるのではないか。
 野崎―青木論争を私なりに総括すると、
1. 野崎氏が指摘するように、週間ランキングという短期のトレンドを見るのにもその材料はまだ不十分である。
2. まして、青木氏が指摘したように、息が長い専門書の売れ筋の把握という点に関しては、現在、何の判断材料も存在しない、と言っても 過言はない。

 言語学出版社フォーラムの活動として重要なことの1つに、2.に対する判断材料を書店・生協の方々に提供することがあるのではないか。もちろん、 これは言うは易く、行なうは難いことだ。しかし、我々がやらなければ、やる人は他にいないと思う。今年の私の課題にしたいと思う。  


くろしお出版  岡野秀夫





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