本がなぜ売れないのか?
答えは簡単。本が面白くないからです。

では、なぜ面白くないのでしょうか?
これも答えは簡単。作り手が時間をかけてじっくり本を作る余裕がなくなったからです。
世の中は今「日本語本ブーム」だそうです。小社では昔から日本語の文法の本を多数出版しておりますが、この「日本語本ブーム」の恩恵を受けている印象は全くありません。ただ、書店を見ていると、日本語に関する本が次々に洪水のように押し寄せてきています。その中に今まで日本語の本など1度も出版したことのないような出版社のものがなんと多いことか。英語本が売れるとわかったら、実用書出版社などが進出してきて、今では従来の語学書版元のシェアをジリジリと奪っています。彼らのマーケティング力は従来の語学版元よりも優れています。しかし、英語本の売行きに翳りがでたら、一番逃げ足が速いのも彼らでしょう。「日本語本ブーム」もいつまで続くやら。日本語本の洪水を書店で眺めながら、ブームを素直に喜ぶことができません。

オリジナリティのある本の出版が減り、今、売れている本を少し目新しくいだけの本を短期間に多数刊行する。そんな傾向が加速しつつあります。おかげで本の賞味期限がどんどん短くなっているような印象を受けます。そうなれば更に作り手に時間の余裕が無くなります。正に、負の連鎖です。今の出版界を一言で表すと「粗製濫造の拡大」ということになるでしょう。行きつく先は、加速するスピードに追いつけず、賞味期間切れの本ばかりが本屋に並び、読者にそっぽを向かれるということでしょうか。

さて、それではじっくり時間をかけて本を作り、長い期間販売していこうという出版社がないのかというと、細々ながらもそのような本を作っている出版社もあるわけで、実際良い本も出版されているのです。ところが、粗製濫造本の洪水に押され、大きく育つことができないというジレンマに陥っています。バッファローの大移動時にはライオンもしばしば押しつぶされ、圧死するといいます。今の出版界の中にあって、そのような本はあたかもサバンナを頼りなくさすらう子ライオンといった趣です。
書店を尋ねても書店員の方に不機嫌な方が増えています。毎日、変りばえのしない本が大量に入荷するのですから不機嫌になるのもわかります。本の中身を吟味しているゆとりなどないので、中に良い本が混じっていてもそれを見分けることが中々できない。今はこのような現状でないでしょうか。

最後に少々我田引水。言語学出版社フォーラムの幹事会社、出校出版社は、時間をかけじっくりと本を作っていく姿勢の会社が多く、現在では珍しい部類に入る出版社の集まりです。小社の編集部長などは他社が出しているような本は出したくないという変わり者ですが、この本フォーラムの他社の方も同じような考え方の持ち主が多いようです。

じっくり時間をかけ、大切に作った本を長い間かけて売っていく。最近、そのような出版形態を取り戻すことが我々の活動の目的ではないかと考えるようになりました。



くろしお出版  岡野秀夫





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